「免税事業者」

 

2020年(令和2年)7月25日(最終更新2021年8月19日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・免税事業者の要件①…基準期間

 

 消費税が課税される法人や個人を「課税事業者」といいます。課税事業者は、基準期間の課税売上高が1千万円超の場合です。一方、小規模な事業者は消費税の納税事務が煩雑ということで、消費税の計算・納付義務が免除となっています。基準期間の課税売上高が1千万円以下の場合には、消費税を納める義務がありません。これを、「免税事業者」といいます。毎事業年度、このチェックを行い、課税事業者か免税事業者かを判定することになります。

 

 当事業年度の開始時点(期首)では、次のような理由から、課税事業者か免税事業者かが判明していることが必要です。

① 課税事業者は、取引ごとに、課税・非課税の区別や消費税率の違い(10%・8%)を意識して記帳しなければなりません。免税事業者は、そのような違いを考慮する必要はありません。

② 課税事業者は税抜経理方式と税込経理方式とを選択できますが、免税事業者は税込経理方式が強制されます。

 

 基準期間とは、前々事業年度をいいます。前事業年度ではないのは、次のような理由によります。前期が基準では、前期の決算がまとまるのは当期に入って1~2か月経ってからなので、当期の開始時点で、前期が課税事業者なのか免税事業者なのかが明らかになっていない場合があるからです。

 

 個人事業開業や法人設立の第1期と第2期には、前々年度が存在しません。したがって、基準期間の課税売上高が0円となり、従前、無条件に免税事業者となり消費税を納める義務がありませんでした。

 

 

・免税事業者の要件①…特定期間

 

 2013年(平成25年)1月1日以後開始の事業年度からは、消費税改正により、前々事業年度の課税売上高が1千万円以下であっても、特定期間の課税売上高(または6か月間の給与支払額)が1千万円を超える場合には、免税事業者とならず課税事業者となります。特定期間とは、個人事業者は前年1月1日~6月30日の期間、法人は原則として前事業年度開始の日から6か月間をいいます。急成長している事業者が2事業年度も免税事業者でいる必要はないという理由です。

 この取り扱いにより、新規個人事業や新設法人の場合、第1期は従前どおり無条件に免税事業者ですが、第2期は課税事業者となる可能性が出てきました。第1期の前半6か月間の課税売上高(または給与支払額)が1千万円以下の場合には第2期は免税事業者となりますが、1千万円超の場合には第2期は課税事業者となります。

 その場合でも、前年度前半が基準なので、当年度の開始時点では課税事業者か免税事業者かは明らかになっています。

 

 6か月間の給与支払額は、役員・従業員(パートやアルバイトも含む。)の給料や賞与です。源泉所得税の課税対象となる部分なので、通勤定期代は含まれません。また、支払ベースなので、未払いの給与は含まれません。

 6か月間の課税売上高が1千万円を超えていても、6か月間の給与支払額が1千万円以下であるならば、免税事業者となることができます。通常、課税売上高よりも給与の金額が少ないので、給与支払額で判定した方が有利です。なお、売上も給与もあくまで6か月間(個人事業は1月~6月)で見るのであり、2倍して年換算するのではありません。

 

 まとめると、ある年度が免税事業者となるためには、①だけでなく、さらに②の条件が必要となります。両方の条件を満たしたときに、免税事業者となります。どちらか一方しか満たさないときや両方満たさないときは、課税事業者となります。

① 前々事業年度の課税売上高≦1千万円

② 前事業年度の前半6か月間(個人事業は1月~6月)の課税売上高(または給与支払額)≦1千万円

 

 

・設例

 

(設例)

 新設法人であるL社の第1期前半6か月間の課税売上高10,500,000円、給与支払額6,500,000円であったとき、第2期は免税事業者となれますか。

 

 L社の第2期は、前々事業年度は存在しないので、前記①の条件は満たします。前事業年度(第1期)前半6か月間の課税売上高は1千万円を超えていますが、給与支払額が1千万円以下なので、前記②の条件も満たします。①と②の条件をともに満たすので、第2期は免税事業者となることができます。

 

 

・法人、法人成りの留意点

 

 基準期間が1年でない法人は、原則、課税売上高×12/基準期間の月数(月数の端数は1か月に切り上げ)により、基準期間の課税売上高を年換算します。一方、基準期間が1年でない個人事業者は、課税売上高を年換算する必要はありません。そのままの金額です。

 

 資本金1千万円以上の新設法人の第1期と第2期は、免税事業者とはならず課税事業者となります。課税売上高1千万円以下であっても、そのような資本金の企業は、納税義務を免除する必要はないと考えたからです。

 

 法人成りとは、個人事業者が法人になることです。たとえば、「日本商事 代表 山田 太郎」が、「株式会社 日本商事」となります。そして、通常、個人事業者が、「代表取締役社長 山田 太郎」となります。

 個人事業者が法人成りした場合には、個人事業と法人とは実質的には同一であっても、法律的には別個の存在です。したがって、法人となった後の第1期と第2期には、前々年度が存在しません。したがって、従前、法人成りしたときの第1期と第2期は、無条件に免税事業者となりました(現在は、前述のように、特定期間の縛りがあります。)。

 法人成りの場合、個人事業で使っていた資産を法人で引き継ぐことがあります(通常、簿価で)。その場合の売却収入は、個人事業の課税売上高となります。

 

 

・その他留意点

 

 基準期間において免税事業者であった場合、基準期間の課税売上高は、税込みの金額でみます。正確には、免税事業者の場合、消費税の納税義務がないので、受け取った消費税は、消費税ではなく売上の増額と考えます。また、支払った消費税は、消費税ではなく、仕入や経費の増額と考えます。

 免税事業者は、消費税を区分経理する必要がないので、経理処理としては税込経理方式を採らなければなりません。

 

 免税事業者は、原則として、その事業年度の開始前に、課税事業者選択届出書を税務署に提出することにより、課税事業者となることもできます。課税売上げより課税仕入れの方が大きく、国から消費税の還付を受ける場合には、課税事業者であることが必要です。なお、課税事業者を選択した場合には、2年間は免税事業者に戻ることができません。

 

 免税事業者も顧客から消費税を受け取っていますから、それを国へ納めなくてよいということになると、免税事業者はもうかってしまいます。益税(えきぜい)という問題です。この益税の問題があるので、2004年(平成16年)4月1日以後開始事業年度より、免税事業者の範囲が当初の3千万円以下から1千万円以下に縮小されました。

 ただし、免税事業者も、課税仕入れにかかる消費税を支払っていますし、また、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いた利益には法人税(個人事業者であれば所得税)が課税されます。したがって、益税といっても、通常は、それほど大きな額にはならないと思われます。

 

 

※本稿は、次の拙稿を加筆修正したものです。

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第14回 「消費税改正」の重点解説』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)9月号

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。