「「税務上の仕訳」と「申告調整の仕訳」」

 

2021年(令和3年)9月3日(最終更新2021年9月27日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・「税務上の仕訳」「申告調整の仕訳」と簿記(仕訳)の原理

 

 会計と税務とが異なるときは、税務ではこうあるべきだという「税務上の仕訳」を考えます。そして、「会計上の仕訳」を「税務上の仕訳」に変更するための修正仕訳を考えます。その修正仕訳を、拙稿では「申告調整の仕訳」と呼びます。「会計上の仕訳」と「申告調整の仕訳」とを合わせると、「税務上の仕訳」になるようにするわけです。いいかえると、申告調整の仕訳は、「会計上の仕訳」と「税務上の仕訳」から逆算で求めるということになります。

「会計上の仕訳」+「申告調整の仕訳」=「税務上の仕訳」

「会計上の仕訳」→「申告調整の仕訳」←「税務上の仕訳」

 

 「税務上の仕訳」は、実際に行うわけではなく、税務ではこのように考えるという概念上のものです。実際に行うのは、「会計上の仕訳」だけです。

 「申告調整の仕訳」も実際に仕訳を行うわけではなく、その内容を法人税申告書別表五で表現します。簡単な申告調整では必要ありませんが、複雑な申告調整(たとえば、純資産関係)は、この「税務上の仕訳」と「申告調整の仕訳」で考えると、わかりやすくなります。

 

 なお、税務上、従来は、資本金と資本積立金とを分けていました。しかし、2006年(平成18年)の改正において、資本金と資本積立金とを区別しないで、「資本金等の額」として一括して扱うことになりました。税務上は、特に分ける必要性がないからだと思われます。

 

 別表五には、「会計上の仕訳」と「申告調整の仕訳」が表されます。別表五(一)Ⅰには、会計上の利益剰余金のほかに、「申告調整の仕訳」で生じた利益積立金を記入します。別表五(一)Ⅱには、資本金・資本剰余金のほかに、「申告調整の仕訳」で生じた資本金等を記入します。その結果として、「税務上の仕訳」が別表五に表現されていることになります。

 

 申告調整の仕訳の解釈は、簿記(仕訳)の原理に従います。利益積立金や資本金等は、本来の場所が貸方の項目です。したがって、申告調整の仕訳で、利益積立金や資本金等が、本来の場所の反対側である借方に計上された場合は減少を意味し、本来の場所である貸方に計上された場合は増加を意味します。その減少・増加を、別表五に記入するわけです。

申告調整の仕訳の借方に利益積立金・資本金等➡別表五の「減」(または、△の「増」)

申告調整の仕訳の貸方に利益積立金・資本金等➡別表五の「増」(または、△の「減」)

 

 申告調整の仕訳の借方に利益積立金が生じた場合、すなわち利益積立金の減少の場合には、別表五(一)Ⅰには、当期の増減の「減」(または、△の「増」)に記入します。

申告調整の仕訳

(借)利益積立金 ××× (貸)〇〇〇 ×××

 

 申告調整の仕訳の貸方に利益積立金が生じた場合、すなわち利益積立金の増加の場合には、別表五(一)Ⅰには、当期の増減の「増」(または、△の「減」)に記入します。

申告調整の仕訳

(借)〇〇〇 ××× (貸)利益積立金 ××× 

 

 申告調整の仕訳の借方に資本金等が生じた場合、すなわち資本金等の減少の場合には、別表五(一)Ⅱには、当期の増減の「減」(または、△の「増」)に記入します。

申告調整の仕訳

(借)資本金等 ××× (貸)〇〇〇 ×××

 

 申告調整の仕訳の貸方に資本金等が生じた場合、すなわち資本金等の増加の場合には、別表五(一)Ⅱには、当期の増減の「増」(または、△の「減」)に記入します。

申告調整の仕訳

(借)〇〇〇 ××× (貸)資本金等 ×××

 

 

・別表五「当期の増減」記入法

 

 増加の場合には「増」に記入し、減少の場合には「減」に記入するのが、簡単です(簡便法)。一方、当期の増減の「増」の欄には増減を問わず生じた発生額を、「減」の欄には増減を問わず消滅額(解消額)を記入すべきという有力説があります。増加の場合には、どちらの説でも同じです。「増」に記入します。

 違うのは、マイナスの利益積立金・資本金等が生じた場合です。この場合、有力説では、△印を付けて「増」に記載します(簡便法では、減少なので、△を付けずに「減」に記入します。)。マイナスの利益積立金・資本金等が消滅(解消)した場合には、△印を付けて、「減」に記入します(簡便法では、増加になるので、△を付けずに「増」に記入します。)。

 

 有力説は、次の①と②の記入方法と整合性・統一性があります。理論的には、有力説が正しいと考えています。

 

①  別表五(一)最下部の未納法人税以下の3行は、未納額の発生は△印で「増」の欄に、消滅は△印で「減」の欄に記入します。これらは、△が印刷されその記入方法が指定されています。

 

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

未納法人税

△消滅

△発生

未納道府県民税

△消滅

△発生

未納市町村民税

△消滅

△発生

 

 

② 別表五(一)の繰越損益金の行は、一般的に、前期末残を「減」の欄に、当期末残を「増」の欄に記入する方法が採られています。損失の場合には△印が付きますが、記入方法は同じです。つまり、前期末残の消滅を「減」に、当期末残の発生を「増」に記入するととらえることができます。

 

 

 ただし、わかりやすさを優先し、単純に、「増」の欄には増加額を、「減」の欄には減少額を記入する方法を採ってもよいと思います。別表五は、エクセルのような計算集計表なので、結論が同じならば簡単な方がよいとも考えられます。つまり、実務上は、どちらの方法でもかまいません。

 

 

「減」に記載

「増」に記載

簡便法

減少額

増加額

有力説

消滅額(解消額)

発生額

 

 

・設例

  

 簡単な設例を示してみます。

 

(設例)

 売掛金100,000円を貸倒損失に計上。税務上は、損金不算入。別表四と五(一)、税務上の仕訳、申告調整の仕訳は、どのようになりますか。

 

別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

 

 

 

加算

貸倒損失否認

100,000

100,000

 

減算

 

 

 

 

所得金額

 

 

 

  

別表五(一)Ⅰ

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

  

  

 

 

 

 

 

売掛金

 

 

100,000

100,000

 

 

 

 

 

 

 

会計上の仕訳

(借)貸倒損失 100,000 (貸)売掛金 100,000

税務上の仕訳

仕訳なし

申告調整の仕訳

(借)売掛金 100,000 (貸)利益積立金 100,000

 

 会計上、貸倒損失100,000円を計上しましたが、税務上はそれを無しとします。そのため、申告調整の仕訳で会計上の仕訳の逆仕訳を行います。貸方は貸借対照表項目を用い、また、税務上の用語とするので、「利益積立金」となります。

 申告調整の仕訳で貸方に利益積立金100,000円が計上されているので、利益積立金の増加であり、別表五(一)で「増」の欄に記入します。

 別表五(一)では、当期の利益は繰越損益金に計上され、利益積立金に含まれます(会計上の仕訳は個々の仕訳が計上されるわけではなく、結果としての利益が繰越損益金に計上されます。)。それに加えて、売掛金100,000円も利益積立金に含まれるということを示しています。

 

 

※本稿は、次の拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一稿『仕訳・図表・事例で理解する純資産の部の会計と税務』月刊スタッフアドバイザー 2006年(平成18年)10月号

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第11回 「資本金・資本剰余金・利益剰余金」の疑問点』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)6月号

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第1回 「会計」と「税務」の多重構造を理解する!』月刊スタッフアドバイザー 2011年(平成23年)8月号

 

 

※参考文献

別表五「当期の増減」記入の有力説について

植田肇著『法人税申告調整の実務』清文社

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。