「繰延税金資産(負債)の意義と表示」

 

2021年(令和3年)8月9日(最終更新2021年8月25日)

寺田誠一(公認会計士・税理士)

  

 

・繰延税金資産と繰延税金負債の意義

 

 税法限度額を超えた評価損・減価償却費などを計上した場合、その費用は損金不算入となるので、差異の生じた年度では別表四で加算します。所得の方が利益よりも大きいので税額も大きくなり、会計上の観点から見れば税金の前払い(課税庁に対する債権)となります。したがって、損益計算書の法人税等が多すぎるので、法人税等をマイナスして、貸借対照表に前払い税金を持って行きます。

 貸借対照表の前払い税金は、「繰延税金資産」という勘定科目を用います。また、損益計算書の法人税等をマイナスする勘定科目は、「法人税等調整額」を用います。

(借)繰延税金資産 ×××  (貸)法人税等調整額 ×××

 

 一方、将来、差異の解消する年度では、別表四で減算するので、所得の方が利益よりも小さくなります。したがって、会計上の観点からは損益計算書の法人税等が少な過ぎるので、そこに繰り越してきた前払い税金(繰延税金資産)を取り崩して借方に法人税等調整額を計上し、法人税等を増額します。

(借)法人税等調整額 ××× (貸)繰延税金資産 ×××

 

 実務上は、繰延税金資産の回収可能性のチェックが、毎期、必要です。「回収」とは、将来、税金が減るという意味です。

 繰延税金資産は、将来の納付税金の減額という効果があるため、繰り延べられるものです。しかし、将来の減算される期に多額の税務上の繰越欠損金があるような場合には、税金の軽減効果はなく、繰越欠損金がただ増えるだけということがあり得ます。このような場合には、将来の減額という税効果がないので、将来減算一時差異が存在していても、税効果会計の適用すなわち繰延税金資産の計上は認められません。

 すなわち、繰延税金資産は、将来減算一時差異が解消されるときに課税所得を減少させ、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内で計上しなければなりません。特に、中小企業においては、将来の収益が不確実な場合があるので、慎重な検討が必要です。

 この繰延税金資産の回収可能性のチェックは、毎期、見直しを行う必要があります。

 

 将来加算一時差異は、差異の生じた年度では別表四で減算します。したがって、所得の方が利益よりも小さいため税額が少なくなるので、会計上、未払い税金を損益計算書の法人税等に追加計上します。

 貸借対照表の未払い税金の勘定科目は、「繰延税金負債」とします。また、損益計算書の法人税等に追加計上する勘定科目は、繰延税金資産のときと同じ「法人税等調整額」を用います。

(借)法人税等調整額 ××× (貸)繰延税金負債 ×××

 

 将来、差異の解消する年度では、別表四で加算するので、所得の方が利益よりも大きくなります。会計上、そのままでは損益計算書の法人税等が多すぎるので、未払い税金(繰延税金負債)を取り崩して貸方に法人税等調整額を計上し、法人税等からマイナスします。

(借)繰延税金負債 ×××  (貸)法人税等調整額 ××× 

 

 実務上は、一時差異等は期首にも期末にも存在しています。したがって、まず、期首の繰延税金資産・繰延税金負債の額を取り崩します(相手勘定は法人税等調整額)。そして、改めて、期末の繰延税金資産・繰延税金負債の額を計上します(相手勘定は同じく法人税等調整額)。そして、洗い替え処理をします。個々の資産負債ごとではなく、資産合計・負債合計で洗い替え処理を行ってかまいません。損益計算書には、これらの仕訳における法人税等調整額の純額が記載されます。

期首:(借)法人税等調整額 ×××  (貸)繰延税金資産   ×××

     繰延税金負債    ×××       法人税等調整額  ×××

期末:(借)繰延税金資産    ×××  (貸)法人税等調整額  ×××

     法人税等調整額  ×××        繰延税金負債     ×××

 

 実務的には、期末の将来減算一時差異等は、法人税申告書別表五(一)の利益積立金期末残高を合計して求めます(決算を締める前に、仮締めで別表五(一)を作ります。)

 ただし、例外的に、別表五(一)以外の資料を用いる場合が2つあります。

① 繰越欠損金

 繰越欠損金は、別表七より求めます。

② 未払事業税

 未払事業税を計上する場合、その金額は別表五(一)には明示されないので、仮締めの法人事業税申告書より把握する必要があります。)。

 

 繰延税金資産または繰延税金負債は、次の計算で算出されます。

一時差異等×法定実効税率=繰延税金資産(または繰延税金負債)

 つまり、一時差異等は所得ベースの金額であり、繰延税金資産・繰延税金負債は税額ベースの金額です。

 

 

・従来の貸借対照表の表示

 

 繰延税金資産・繰延税金負債は、関連する資産・負債と同時に取崩される点に注目して、次のように表示されました。すなわち、流動資産・流動負債に関連して生じた繰延税金資産・繰延税金負債は、流動資産・流動負債に表示します。一方、固定資産・固定負債に関連して生じた繰延税金資産・繰延税金負債は、固定資産(投資その他の資産)・固定負債に表示します。

 たとえば、売掛金の貸倒損失、棚卸資産の評価損などに関する繰延税金資産は、流動資産とします。固定資産の評価損・減価償却などに関する繰延税金資産は、固定資産とします。

 繰越欠損金など特定の資産・負債に関連しないものは、1年基準により、翌期に解消される見込みのものは流動資産・流動負債とし、そうでないものは固定資産・固定負債とします。

 

  流動資産の繰延税金資産と流動負債の繰延税金負債、固定資産の繰延税金資産と固定負債の繰延税金負債は、それぞれ相殺して表示します。ただし、流動資産の繰延税金資産と固定負債の繰延税金負債、固定資産の繰延税金資産と流動負債の繰延税金負債は、相殺しません。

 

・現在の貸借対照表の表示

 

 2018年(平成30年)2月16日の企業会計基準委員会より公表された企業会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準の一部改正」により、表示方法が改正されました。繰延税金資産はすべて固定資産(投資その他の資産)に表示し、繰延税金負債はすべて固定負債に表示します。

 

 同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、相殺(そうさい)して表示します。したがって、外国以外の国内の税金は、すべて相殺して、固定資産(投資その他の資産)または固定負債とします。

 

 改正の理由は、基準28号に述べられていますが、それらをまとめると、次のとおりです。

① 繰延税金資産は、換金性のある資産ではない。

② 税金の納付は決算日後なので、1年以内に解消される一時差異等でも、1年以内にキャッシュフローは生じない。

③ すべて固定とすると、流動・固定の区別が必要なくなるため、財務諸表作成者の事務負担が軽減される。

④ 国際的な会計基準では、固定とされている。

 

 従来の表示方法と現在の表示方法、どちらもそれなりの根拠がありますが、国際的な会計基準に合わせたということだと思います。

 

 

※本稿は、次の拙稿・拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第11回 税効果会計』月刊スタッフアドバイザー 2010年(平成22年)2月号

寺田誠一稿『税理士と実務家のための会計シリーズ第10回 税効果会計』週刊税務通信2004年(平成16年)8月30日号

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第6回 「税効果会計」の理路整然 パート3』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)1月号

寺田誠一著『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年(平成18年) 第4章 税効果会計と決算書

 

 

※一時差異等については、「税効果会計の意義と一時差異等」参照。

※法定実効税率の式の導き方については、「法定実効税率の式の算出方法(求め方)」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。