「領収書」
2020年(令和2年)1月4日(最終更新2021年7月7日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
・領収書の意義
領収書(領収証)とは、代金の支払いが行われたとき、その証拠として代金の受取側が発行し、支払側に渡す書類をいいます。領収書により、支払いの事実を明らかにすることができ、二重払いを防止する役割を果たしています。領収書は、原則として、代金の支払いと同時に発行します。つまり、領収書と引き換えに、代金の支払いをします。
領収書の用紙については、特に決まりはなく、適当な紙に書いたメモでもよいわけです。ただし、ビジネスでは、一般に、文具店で購入した市販の領収書、自社で独自に印刷したオーダーメードの領収書、レジスターから打ち出した感熱紙の領収書などを用います。
・領収書の記載事項
領収書は、このように書かなければならないという決まりは特にありません。しかし、領収書は支払いの事実を証明するものなので、通常、次の5つの事項が記載されます。
①「いつ(日付)」
②「誰が(支払者・宛名)」
③「誰に(受領者)」
④「何の代金として(内容)」
⑤「いくら(金額)」
③の受領者の名前ですが、手書き・ゴム印・印刷いずれであってもかまいません。受領者の名前の上部に、通常、住所も記載します。また、受領者の名前の後に押印(捺印)していましたが、2020年(令和2年)以降は印鑑は押さないことが通例になると思われます。
④の内容の箇所に「品代(しなだい)」と書いてある領収書を見かけますが、品代では何を買ったのかわからないので、会社の経理上も、税務調査・会計監査上も、問題があります(請求書やレシートで内容がわかるときはよいのですが)。領収書をもらうときは、品代は避けて、具体的な内容を記載してもらうようにしてください。
また、②の宛名(あてな)に「上様(うえさま)」と書いてもらう場合や、宛名が書いていないブランクの場合があります。これは、次のような場合に生ずることですが、やはり、きちんと支払者の会社名を書いてもらうことが望まれます。
① 忙しいときや急いでいるとき
② 会社名が難しい字のとき
③ 金額が少額のとき
ただし、小売業・飲食業・タクシーなどでは、宛名を記入してもらうことは困難な場合が多いので、上様やブランクでもかまいません。これらの業種は、消費税法上も、宛名が要求されていません。
源泉所得税を差し引かれた場合の領収書の書き方には、2とおり考えられます。たとえば、総額10,000円、源泉所得税1,000円、手取額9,000円の場合、次のとおりです。内容が明らかであればどちらでもかまいませんが、一般的には①の書き方が多いと思われます。
①金額欄に10,000円と記載。ただし書に、源泉所得税1,000円、手取額9,000円と記載。
②金額欄に9,000円と記載。ただし書に、総額10,000円、うち源泉所得税1,000円と記載。
・レシート
小売店・飲食店などでは、レジスターなどから打ち出したレシートを発行する場合があります。レシートも領収書の一種です。ただし、レシートの欠点は、感熱紙なので、時間の経過とともに印字が見にくくなることです。
レシートをもらったとき、他に領収書も要求している方がいます。これには次のような理由が考えられます。
① レシートに宛名が入っていないので、他に、宛名の入った領収書をもらう必要があると考えているため。
② レシートの他に領収書ももらえば、より証拠力が高まるため。
③ 会社の経理の規定で、領収書が必要とされているため。
領収書をもらう理由が、②と③ならよいのですが、①でしたら誤解です。小売店や飲食店などで発行するレシートには宛名は書いてありませんが、それでも差し支えありません(前に述べたように、消費税法上も、小売店や飲食店などでは宛名は記載しなくてもよいという取扱いになっています。)。したがって、レシートをもらったとき、改めて領収書を発行してもらう必要は特にありません。
もし、領収書を発行してもらった場合、レシートの処理をどうするかについて2つ考えられます。
① レシートは店に返すかまたは破棄する。
② レシートと領収書と両方保管する。
領収書に購入した商品の内容などが記載されていれば、①の返却・破棄でもよいでしょう。しかし、領収書に品代しか記載されていない場合には、レシートと両方保存するのがよいでしょう。
・交際費と領収書
交際費は損金不算入になる部分があるので、会社としてはなるべく交際費にしない方が有利(節税)となります。そこで注目されるのが、飲食費です。取引先との飲食費は、全体の金額÷参加人数が5,000円以下でしたら、交際費としないことができます。勘定科目としては、「少額交際費」や「会議費」とすることが考えられます。
同じ日に一次会と二次会で別の飲食店に行った場合には、それぞれで計算することができます。1人当たり5,000円以下は、税抜経理方式を採っている場合には消費税抜きで、税込経理方式を採っている場合には消費税込みで、それぞれ判定します。
交際費の範囲から1人当たり5,000円以下の飲食費を除外するためには、次の事項を記載した書類を保存することが必要となっています。
①年月日
②取引先の氏名・名称、その関係
③参加者の人数
④飲食店の名称と住所
これらの事項を記載した「保存書類」については、形式や様式は特に定められていませんので、会社の自由です。自社で独自の交際費精算書を作り、それに記載することも考えられます。
いちばん簡単なのは、飲食店の発行した領収書(またはレシート)を利用する方法です。領収書・レシートには、①の年月日と④の飲食店の名称と住所が記載されています。③の人数も記載されていることが多いでしょう(特にレシートには)。もし、記載されていない場合には、領収書・レシートに人数をメモします。そして、②取引先の氏名だけは記載されていないので、領収書・レシートにメモで書き加えます。「(株)鈴木商会 営業課長・山田太郎様、営業課・佐藤二郎様、得意先」というようにです。 なお、③の人数は相手先と自社とを分けて書く必要はなく、合計の人数でかまいません。また、自社の出席者の名前は要件ではありませんが、書いた方がベターです。
法人税法上、交際費(1人当たり5,000円以下の飲食費を除く。)は、飲食交際費の50%が損金算入で、他は損金不算入です。ただし、資本金1億円以下の会社は、飲食交際費の50%と、交際費のうち8,000千円までの定額のいずれか選択した額が損金算入とされます。
(設例)
×1年4月1日~×2年3月31日事業年度(資本金1億円以下)において、交際費の額が次のとおりであった場合、損金不算入の額はいくらですか。
① 交際費7,000千円(うち飲食交際費4,000千円)
② 交際費15,000千円(うち飲食交際費10,000千円)
③ 交際費30,000千円(うち飲食交際費22,000千円)
① 8,000千円以下なので、交際費7,000千円が全額損金算入となります。したがって、損金不算入額はありません。
② 飲食交際費10,000千円×0.5=5,000千円なので、損金算入額は定額8,000千円を選択します。よって、15,000千円-8,000千円=7,000千円が損金不算入額となります。
③ 飲食交際費22,000千円×0.5=11,000千円で、定額8,000千円より多いので、損金算入額は11,000千円を選択します。よって、30,000千円-11,000千円=19,000千円が損金不算入額となります。
飲食交際費については、さきほどの1人当たり5,000円以下の飲食費と同様、次の事項を記載した書類(領収書へのメモを含む)が必要です。1人当たり5,000円以下の飲食費との違いは、参加者の人数の記載が要求されていない点です。
① 年月日
② 取引先の氏名・名称、その関係
③ 飲食店の名称と住所
・領収書がない場合
(設例)
① 営業課の社員が泊りがけの出張をするので、現金70,000円を渡した。
② 出張から帰り、社内で定められた交通費精算書に記入し、次のとおり精算した(ホテル代と交通費については領収書があるが、日当については領収書なし。)。
宿泊ホテル代25,200円 交通費26,000円 日当9,000円 現金戻り9,800円
① 仮払処理します。
(借)仮 払 金 70,000 (貸)現 金 70,000
② 日当については領収書がありませんが、役職などによってランクづけされた社内の規定に従って支払われている場合には、問題ありません。
(借)旅費交通費 60,200 (貸)仮 払 金 70,000
現 金 9,800
なお、この設例のように現金を用意する場合、経理課の手持ち現金は最小限にしていることが多いので、早めに経理課に言っておくことが必要です(特に多額になる場合)。また、この設例では宿泊代は実費としていますが、宿泊代についても、日当と同様、社内で決めた一定額とすることも考えられます。
(設例)
取引先の社長が死亡したので、葬儀において香典5,000円を支払った。
香典の場合、当然のことながら、領収書はありませんが、社内で定められた支払証明書などにより支払っている場合は問題ありません。この場合、葬儀案内や会葬御礼などの関連する文書をできるだけ添付保存しておくべきです。香典以外で領収書のない場合も同様です。
(借)交 際 費 5,000 (貸)現 金 5,000
なお、前に述べた5,000円基準は社外の方との飲食代に限ってのことであり、冠婚葬祭・ゴルフ・カラオケなどにはそのような基準はなく、5,000円以下であっても交際費となります。
・領収書の保存方法
代金を支払い代わりに受け取った領収書の保存方法については、次のような方法があります。
① 仕訳伝票の裏に貼る。
② スクラップブック等に貼る。
③ 日付順に綴る。
④ ファイル等に入れる。
①は、仕訳伝票の裏面にのりかホッチキスで止めていく方法です。②は、日付順にスクラップブックやノートにのりで貼っていく方法です。③は、パンチで穴を開け、黒ひもなどで綴っていく方法です。④は、ファイル・ホルダーなどを用意し、その中に順次領収書をしまっていく方法です。③と④は、通常、1ヶ月単位で1綴りとします。後日、税務調査や会計監査のときに、領収書を探し出すことができれば、どの方法でもかまいません。領収書の保存方法は、事務処理の合理化・効率化を考えて決めることが大事です。
請求書は領収書と一緒に保存してもよいし、請求書だけ別に保存する方法もあります。請求書を別保存する場合には、日付順(支払順)ではなく、相手先(支払先)ごとにすることも考えられます。
代金を受け取り領収書を渡した場合、領収書の控が残ります。領収書の形式により、控も2種類存在します。②の複写式の方が証拠力が強いので、望ましいことはいうまでもありません。
① ミシン目で切り離した後の控が残るもの(小切手や手形の用紙と同じ形式)
② 複写で控が残るもの
書き損じた領収書(または番号を切り取った部分)は、小切手や手形と同様、他に流用していないことの証明として、控にホッチキスで付けておきます。
領収書や領収書控などの証拠書類は、税法上、保存期間が7年間となっています。したがって、7年間は社内や倉庫で保管しなければなりません(近年、電子データやスキャナ保存する方法も認められています。)。
・振込金受取書(ご利用明細票)
A社がB社に金融機関から振り込みで代金を支払った場合、通常、B社はA社宛てに領収書を発行しないことが多くなっています(もちろん、振り込みの場合でも、B社は領収書を発行することもありますが)。それは、金融機関からA社宛てに振込金受取書を発行するからです。
振込金受取書は金融機関が発行するものであり、B社が発行するものではありませんから、領収書とは異なります。しかし、それにより、金融機関がA社から振込金を受け取り、それをB社の預金口座に振り込んだという事実が証明されます。したがって、改めてB社が領収書を発行するということをしないで、振込金受取書をもって代用するということが、実務上慣行になっています。
※本稿は、次の拙稿を加筆修正したものです。
寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第3回 領収書』月刊スタッフアドバイザー 2009年(平成21年)6月号
※領収書に貼付する収入印紙については、「収入印紙」参照。
※消費税の記載については、「帳簿・請求書等の記載事項」参照。
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。