「期中現金主義・期末発生主義と現金預金出納帳入力」

 

2020年4月5日(最終更新2021年8月19日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・「期中現金主義・期末発生主義」…売掛金の例

 

 個人事業や中小企業においては、期中現金主義・期末発生主義(洗い替え処理)が採られていることがあります。

 

 設例で説明します。

 

(設例)

期首残高  売掛金  300,000円

期中取引  ア 売掛金の回収200,000円(振込手数料500円を差し引かれ、199,500円普通預金に入金)

      イ 掛け売り500,000円

      ウ 売掛金の回収800,000円(振込手数料500円を差し引かれ、799,500円普通預金に入金)

      エ 掛け売り600,000円

 

 このとき、① 発生主義による仕訳、② 期中現金主義・期末発生主義による仕訳を考えてみます。

 

① 発生主義による仕訳

 

 簿記検定や教科書のいわゆる通常の(原則的な)発生主義による仕訳は、次のとおりです。

(借)普通預金  199,500   (貸)売掛金  200,000

     支払手数料    500

(借)売掛金     500,000    (貸)売 上  500,000

(借)普通預金  799,500   (貸)売掛金  800,000

     支払手数料    500

(借)売掛金     600,000    (貸)売 上  600,000

 

② 期中現金主義・期末発生主義による仕訳

 

 個人事業や中小企業においては、期中現金主義・期末発生主義が採られることがあります(もちろん、通常の発生主義が採られていることも多いですが。)。

 この方法は、売上でいえば、期中は現金や預金の入金時に売上を計上し、期末において、決算整理仕訳で、売掛金の処理を行います(期中は、売掛金の額は変動しません。)。すなわち、期首の売掛金を戻し、改めて、期末の売掛金を集計してその残高を計上する洗い替え処理を行います。

 期中現金主義・期末発生主義は、期中においては単純に入金額を売上にすればよく、売掛金の集計は年1回期末だけ行えばよい簡便な方法です。毎月の売上がほぼ等しい、すなわち毎月の売掛金残高にそれほど大きい差がない場合などには適しています。

 

(借)普通預金   199,500   (貸)売 上  200,000

     支払手数料     500

(借)普通預金   799,500   (貸)売 上   800,000

     支払手数料     500

(借)売 上      300,000   (貸)売掛金  300,000

(借)売掛金     400,000    (貸)売 上    400,000

 

 売掛金の期末残高は、300,000円-200,000円+500,000円-800,000円+600,000円=400,000円となります。この額を、期末に(決算で)売掛金に計上します。

 この方法で計上した売上の額は200,000円+800,000円-300,000円+400,000円=1,100,000円となり、発生主義で計上した売上の額500,000円+600,000円=1,100,000円と等しくなります。

 期中現金主義・期末発生主義は、決算整理仕訳を行った後では、発生主義と等しくなります。

 

 

・「期中現金主義・期末発生主義」…買掛金の例

 

 売掛金と同じですが、買掛金の例も考えてみます。

 

(設例)

期首残高  買掛金  700,000円

期中取引  ア 買掛金の支払350,000円(振込手数料500円を差し引き、普通預金より仕入先へ振り込み、振込手数料は金融

        機関へ支払い。)

      イ 掛け買い550,000円

      ウ 買掛金の支払500,000円(振込手数料500円を差し引き、普通預金より仕入先へ振り込み、振込手数料は金融

        機関へ支払い。)

      エ 掛け買い450,000円

 

① 発生主義による仕訳

 

 振込手数料は、先方(相手先)負担なので、次のようになります。

(借)買掛金  350,000   (貸)普通預金 350,000

(借)仕 入    550,000     (貸)買掛金    550,000

(借)買掛金  500,000   (貸)普通預金 500,000

(借)仕 入    450,000     (貸)買掛金    450,000

 

② 期中現金主義・期末発生主義による仕訳

 

(借)仕 入   350,000  (貸)普通預金 350,000

(借)仕 入   500,000  (貸)普通預金 500,000

(借)買掛金   700,000    (貸)仕 入    700,000

(借)仕 入   850,000  (貸)買掛金    850,000

 

 買掛金の期末残高は、700,000円-350000円+550,000円-500,000円+450,000円=850,000円となります。この額を期末に(決算で)、買掛金に計上します。

 この方法で計上した仕入の額は、350,000円+500,000円-700,000円+850,000円=1,000,000円となり、発生主義で計上した仕入の額550,000円+450,000円=1,000,000円と等しくなります。

 繰り返しになりますが、期中現金主義・期末発生主義は、決算整理仕訳を行った後では、発生主義と等しくなります。

 

 

・「現金出納帳・預金出納帳入力方式」

 

  パソコン会計の特徴の1つは、仕訳で入力するだけでなく、現金出納帳(すいとうちょう)や預金出納帳からも入力できるということです。この方式ならば、簿記をよく知らなくても入力が可能です。個人事業や中小企業では、この入力方法が採られることがあります。

 

(設例)

1月10日 売上代金200,000円を現金で受け取る。

2月20日 交際費10,000円を現金で支出する。

3月31日 普通預金より300,000を払い出し、現金とした。

この場合、現金出納帳の記入はどのようになりますか。

 

                     現金出納帳

 

日付

相手科目

摘要

借方(入金)

貸方(出金)

残高

 

 

 

 

 

 

110

売上

 

200,000

 

 

 

 

 

 

 

 

220

交際費

 

 

10,000

 

 

 

 

 

 

 

331

普通預金

 

300,000

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上記のように、会計ソフトの現金出納帳に入力すると、パソコン会計上は、次のような仕訳を行ったことになります。

(借)現 金 200,000   (貸)売 上   200,000

(借)交際費   10,000     (貸)現 金     10,000

(借)現 金 300,000     (貸)普通預   300,000

 

 ここで注意すべきは、3番目の普通預金から現金を引き出したという取引です。この取引は、現金出納帳で入力すれば自動的に預金出納帳に記入されます。次のとおりです。

 

                                 預金出納帳

 

日付

相手科目

摘要

借方(入金)

貸方(出金)

残高

 

 

 

 

 

 

331

現金

 

 

300,000

 

 

 

 

 

 

 

 

 逆に、預金出納帳で現金に関連する取引を入力すると、自動的に現金出納帳に反映されます。

 したがって、会計ソフトの現金出納帳・預金出納帳から入力するときは、二重入力の心配はないと思われます。

 

 なお、手書きの現金出納帳・預金出納帳を見ながら、パソコンに仕訳を入力する場合には、注意が必要です。現金から預金へという取引、逆に、預金から現金へという取引は、同じ取引が現金出納帳と預金出納帳の両方に記帳されています。現金出納帳と預金出納帳をそのまま単純に入力したのでは、二重に入力してしまうおそれがあります。同じ取引は、1回だけの入力にする必要があります。上記の例でいえば、次の仕訳は、1回だけの入力にする必要があるということです。

 (借)現 金 300,000    (貸)普通預金 300,000

 

 

・「現金出納帳・預金出納帳入力方式」と複合仕訳

 

(設例)

 10月15日 売掛金500,000円のうち、協力会費10,000円、振込手数料500円を差し引かれ、489,500円普通預金に入金になった。

 現金出納帳・預金出納帳入力方式を採っている場合、普通預金出納帳の記入はどのようになりますか。

 

 

                 普通預金出納帳

 

日付

相手科目

摘要

借方(入金)

貸方(出金)

残高

 

 

 

 

 

 

1015

売掛金

 

500,000

 

 

 

諸会費

 

 

10,000

 

 

支払手数料

 

 

500

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通預金出納帳より入力するので、入金額489,500円だけでなく、取引全体を表す必要があります。そのため、いったん売掛金500,000円が普通預金に入金になり、それから諸会費10,000円と支払手数料500円を普通預金より支払ったと仮定して記入する方法を採ります。

 仕訳で表すと、次のとおりです。

(借)普通預金     500,000      (貸)売掛金  500,000

(借)諸会費            10,000  (貸)普通預金   10,000

(借)支払手数料           500  (貸)普通預金   500

 

 

(設例)

 8月25日 給与300,000円のうち、源泉所得税9,000円、社内旅行積立5,000円を差し引き、手取り額286,000円を現金で支払った。

 現金出納帳・預金出納帳入力方式を採っている場合、現金出納帳の記入はどのようになりますか。

 

                                 現金出納帳

日付

相手科目

摘要

借方(入金)

貸方(出金)

残高

 

 

 

 

 

 

825

給与

 

 

300,000

 

 

預り金

 

9,000

 

 

 

預り金

 

5,000

 

 

 

 

 

 

 

 


 現金出納帳より入力するので、出金額286,000円だけでなく、取引全体を表す必要があります。そのため、いったん給与総額300,000円を普通預金より出金し、それから源泉所得税の預り金9,000円と社内旅行積立の預り金5,000円を普通預金に入金したと仮定します。

 仕訳で表すと、次のとおりです。

(借)給 与   300,000     (貸)現 金 300,000

(借)現 金  9,000  (貸)預り金       9,000

(借)現 金  5,000  (貸)預り金   5,000

 

 

・「期中現金主義・期末発生主義」と「現金出納帳・預金出納帳入力方式」との組み合わせ

 

 この両者の組み合わせは、とても相性がよいということがいえます。現金出納帳・預金出納帳入力方式は、現金や預金の増減だけを入力します。現金や預金の入出金がないと、入力しません。つまり、現金預金の入金のとき売上の計上をし、現金預金の出金のとき仕入・経費の計上をするというわかりやすい処理を行うことができます。

 

 そして、年1回、期末に(決算で)、次のような発生主義の仕訳を、洗い替え方式で入力すればよいわけです。このような、売掛金、買掛金、未払経費などの取り崩しと計上は、現金預金を伴わないので、現金出納帳・預金出納帳では入力できません。通常(正規)の仕訳で入力することになります。

(借)売 上   ×××       (貸)売掛金  ×××…前期分

(借)売掛金   ×××       (貸)売 上  ×××…当期分

(借)買掛金   ×××       (貸)仕 入  ×××…前期分

(借)仕 入   ×××       (貸)買掛金  ×××…当期分

(借)未払金   ×××       (貸)経 費  ×××…前期分

(借)経 費   ×××       (貸)未払金  ×××…当期分

 

 もちろん、期中現金主義・期末発生主義は、通常の仕訳で行うこともできます。期中現金主義・期末発生主義は、通常の仕訳方式と現金出納帳・預金出納帳入力方式の両方と結びつきます。

 ※本稿は、次の拙稿の一部を加筆修正したものです。

寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第7回 簿記検定と実務の違い』月刊スタッフアドバイザー 2009年10月号

 

 

※複合仕訳の単一仕訳への分解については、「複合仕訳の単一仕訳への分解」参照。

※このウエブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。