「中小企業会計指針…固定資産、繰延資産」

 

2021年(令和3年)6月3日

寺田 誠一

 

 項目ごとに、「指針」の要点(➢印)をそのまま記載し、その後に本文を織り込んだ解説を加えるという構成をとりました。

 

固定資産

 

要点

➢ 固定資産の減価償却は、経営状況により任意に行うことなく、定率法、定額法その他の方法に従い、耐用年数にわたり毎期継続して規則的な償却を行う。

➢ 圧縮記帳は、原則としてその他利益剰余金の区分における積立て及び取崩しにより行う。

➢ 予測できなかった著しい資産価値の下落があった際には、取得原価を減額しなければならない。なお、当該減損額は、減損損失として損益計算書の特別損失に計上する。

➢ ゴルフ会員権は取得原価で評価する。ただし、時価があるものについて時価が著しく下落した場合又は時価がないものについて発行会社の財政状態が著しく悪化した場合には、減損処理を行う。

 

 

・固定資産の取得価額と減価償却

 

 固定資産の取得価額は、購入代価などに付随費用(買入手数料、運送費、引取運賃、据付費、試運転など)を加えた額とします。なお、付随費用が少額な場合には、取得価額に算入しないことができます。

 また、少額な減価償却資産は、取得した事業年度において費用処理することができます。これは、会計上、明文規定はありませんが、重要性から当然認められることです。法人税法では、取得価額100千円未満(一定の中小企業では300千円未満)のものの損金算入を認めています。したがって、実務でもこれらの基準を採っている企業が多いと思われます。

 

 固定資産の減価償却は、計画的・規則的に毎期継続して行わなければなりません。耐用年数などは、本来、企業が合理的に決定すべきものです。しかし、わが国の実務では、法人税法の耐用年数によっていることがほとんどです。したがって、「指針」では、法人税法上の耐用年数を用いて計算した償却限度いっぱいの額を減価償却費として計上したときは、これを認めることとしています。

 この減価償却費に関する取扱いは、「指針」の大きなインパクトのある部分かもしれません。というのは、中小企業では、従来、利益を算出したいときは、法人税法上は問題ないので、償却限度未満の額を計上することがしばしば行われていたからです(減価償却費をまったく計上しないこともあります。)。「指針」に従えば、償却限度に満たない額を計上することは認められないこととなります。

 

 陳腐化などにより、使用可能期間が従来の耐用年数に比べて著しく短くなった場合には、会計上の見積りの変更とみて、未経過使用可能期間(使用可能期間のうちいまだ経過していない期間)にわたり減価償却を行います。税法上も、法定耐用年数に比べておおむね10%以上短くなった場合には、耐用年数の短縮が認められています。従来、陳腐化などの場合、過年度の償却不足とみて臨時償却(特別損失に計上)を行っていましたが、この制度は会計上も税務上も廃止されました。

 

 租税特別措置法による特別償却のうち一時償却額は、政策的な配慮によるものであり、正規の減価償却には該当しないものと考えられます。したがって、「指針」では原則として準備金方式によることとしていますが、重要性の乏しい場合に限って、正規の減価償却費に含めてよいとしています。

 なお、「指針」では、特別償却のうちの割増償却については述べていませんが、正規の減価償却費として処理することが不合理でない限り、これを認めるものとされています。

 

 有形固定資産の減価償却累計額の表示には、次の4種類があります。

① 科目別控除形式

② 一括控除形式

③ 科目別注記形式

④ 一括注記形式

 

 無形固定資産は、定額法などにより、減価償却累計額を直接控除した残高で表示します。

 

 

・圧縮記帳

 

 圧縮記帳は、税法上の特例(課税の繰り延べ)であり、当初一時の損金を計上するが、その代わり、その後の損金(減価償却費)を少なく計上することにより、資産の耐用年数にわたり順次課税していくものです。

 圧縮記帳の会計処理には、直接減額方式と積立金方式とがあります。取得原価を費用配分していく取得原価主義会計の見地からは、積立金方式の方が妥当とされています。したがって、「指針」では積立金方式を採っています。

 ただし、「指針」では国庫補助金・工事負担金等は直接減額方式も認めています。これは、企業会計原則が直接減額方式を認めているためです。

 「指針」では、また、交換・収用等、特定資産の買換えで交換に準ずると認められるものは、直接減額方式を認めています。このような場合は、資産の連続性を認識することができるためです。

 法人税法では、国庫補助金・工事負担金・収用・特定資産の買換えは、直接減額方式と積立金方式ともに認められますが、交換は直接減額方式しか認めていません。

 

 

・有形固定資産と無形固定資産の減損

 

 固定資産について予測することのできない減損が生じたときは、取得原価から相当の減額をしなければなりません。

 

 「指針」では、減損会計基準の簡便的な適用を規定しています。本来の減損会計基準では、資産のグルーピングを行って将来キャッシュフローを算定するのですが、中小企業では困難と考えました。したがって、「指針」では、使用状況の大幅な変更があった場合に、減損の可能性について検討することとしました。具体的には、固定資産としての機能を有していても、次の①②いずれかに該当し、かつ、時価が著しく下落している場合に、減損損失を認識するものとしました。

① 将来使用の見込みが客観的にないこと(例:相当期間の遊休状態)。

② 固定資産の用途を転用したが、採算が見込めないこと。

 

 なお、「時価の著しい下落」とは、50%基準でよいと思われます。また、時価まで減損損失を認識します。

 逆にいえば、現在使用しており、将来も使用する見込みの固定資産は、時価が著しく下落していても減損の必要はないと解釈できます。実際に中小企業が「指針」により減損を認識するのは、遊休状態の土地などが考えられます(ただし、法人税法上は損金算入が認められない場合が多いと思われます。)。

 

 

・ソフトウェア

 

 「指針」では、研究開発に該当するソフトウェアの制作費は、研究開発費として費用処理します。研究開発に該当しないソフトウェアの制作費は、次のように処理します。

① 社内利用のソフトウェア

 その利用により、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合には、取得に要した費用を無形固定資産として計上します。

② 市場販売目的のソフトウェアである製品マスターの制作費

 研究開発に該当する部分を除き、無形固定資産として計上します。

 

 研究開発費等会計基準によれば、無形固定資産に計上したソフトウェアは、見込販売数量に基づく償却方法その他合理的な方法により、償却するとされています。ただし、「指針」では、中小企業の実務に配慮して、法人税法の定める定額法の償却方法(耐用年数5年、複写して販売するための原本は3年)を採用することもできるとしました。

 なお、「指針」では、販売・使用見込みがなくなった場合には、未償却残高を費用として一時に償却する必要があるとしています。法人税法上も、一時の損金算入が認められます。

 

 

・ゴルフ会員権

 

 ゴルフ会員権は、取得原価で評価します。ただし、計上額の重要性が高い場合で、時価のあるゴルフ会員権は時価が著しく下落したとき、時価のないゴルフ会員権は発行会社の財政状態が著しく悪化したときには、それぞれ減損処理を行います。なお、時価があるゴルフ会員権の「時価の著しい下落」とは、50%基準でよいと考えられます。

 

 「指針」では、預託保証金方式によるゴルフ会員権の会計処理について、(帳簿価額-預託保証金)について直接評価損を計上し、(預託保証金-時価)について貸倒引当金を設定します。これは、公認会計士協会の「金融商品会計実務指針」の規定に基づくものです。ただし、「指針」では、計算の煩雑さを避けるため、預託保証金の回収が困難な場合には、貸倒引当金を設定せずに、一括して評価損を計上できるとしています。

 なお、法人税法上、ゴルフ会員権は、ゴルフ場が倒産しない限り、損金算入が認められません。

 

 

・敷金

 

 敷金は取得原価で計上します。建物等の賃貸借契約で返還されないことが明示されている部分は、税法固有の繰延資産に該当し、賃貸借機関にわたって償却します。

 原状回復義務の履行に伴い返還する部分は、その金額を合理的に見積ることができる場合には、減額して費用計上します。ただし、税務上は、損金算入が認められません。

 

 

繰延資産

 

要点

➢ 繰延資産とは、代価の支払が完了等し、役務提供を受けたものにつき、その効果が将来にわたって発現することが期待される費用で、資産として繰り延べたものをいう。

➢ 創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費、新株予約権発行費は、原則として費用処理する。なお、これらの項目については繰延資産として資産に計上することができる。

➢ 税法固有の繰延資産は、法人が支出した費用で、その支出の効果が支出の日以後1年以上に及ぶものをいい、会計処理を行う場合は、長期前払費用等として計上する。

 

 

・繰延資産の定義と範囲

 

 繰延資産とは、すでに代価の支払が完了し、または支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用を資産として繰り延べたものをいいます。この定義は、企業会計原則に基づいています。

 

 繰延資産の種類とその内容は、次のとおりです。

① 創立費

 発起人に支払う報酬、会社の負担すべき設立費用

② 開業費

 開業準備のために支出した費用

③ 開発費

 次の目的のために特別に支出した金額

 ア、新技術または新経営組織の採用

 イ、資源の開発

 ウ、市場の開拓

④ 株式交付費

 新株の発行または自己株式の処分のために支出した費用

⑤ 社債発行費

 社債の発行のために支出した費用

⑥ 新株予約権発行費

 新株予約権の発行のために支出した費用

 

 なお、次に掲げる費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものは、法人税法上、支出時の損金とは認められず、資産として繰り延べなければなりません。これを、「税法固有の繰延資産」といいます。

① 自己が便益を受ける公共的施設・共同的施設の設置・改良のために支出する費用

② 資産を賃借・使用するために支出する権利金、立退料、その他の費用

③ 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用

④ 製品などの広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用

⑤ ①から⑤までに掲げる費用のほか、自己が便益を受けるために支出する費用

 

 なお、「指針」は、新製品・新技術の研究のために特別に支出した金額(これは、旧試験研究費の内容で、現在では研究開発費に含まれます。)については、繰延資産とせずに費用処理するとしています。

 また、「指針」は、新技術の採用のうち研究開発目的のものなども、費用処理するとしています。これらは、開発費にも、研究研究費にも、該当するものです。

 「指針」の処理は、研究開発費等会計基準においては、研究開発費は将来の収益獲得が不明確であるので費用処理するとしていることとの整合性を保つためです。

 

 

・繰延資産の償却

 

 繰延資産については、支出の効果が不明確なので、保守主義の見地から、指針では「要点」において、繰延資産とはしないで費用処理することを原則としています。法人税法上も、損金算入が認められます。

 

 資産として計上した場合には、次のように、月割計算を行います。

 

種 類

償却期間

創立費

会社成立後5年内

開業費

開業後5年内

開発費

支出後5年内

株式交付費

発行後3年内

社債発行費

社債償還期間内

新株予約権発行費

発行後3年内

 

 

 さて、法人税法上、繰延資産については任意償却となっています。また、税法固有の繰延資産については、法人税法により、それぞれ償却期間が定められ、月割計算が定められています。

 中小企業の実務においては法人税法の規定に従っていることが多いため、税法固有の繰延資産について、「指針」では、法人税法上、償却限度額の規定があることに留意するものとしています。これらは、指針において、間接的に、法人税法の処理を認めたものです。

 「指針」では、税法固有の繰延資産について、金額の少額なものは、繰延資産とせずに発生時において費用処理するものとしています。法人税法上、これらについては、支出額が200千円未満のものは、支出時の損金とすることができるので、その規定を受けたものです。

 

 

・繰延資産の一時償却

 

 繰延資産について支出の効果が期待されなくなった場合には、一時に償却しなければなりません。

 「指針」では、次の場合にも、一時に償却しなければならないとしています。これらは、法人税法の規定を、「指針」でも取り入れたものです。

① 他の者の有する固定資産を利用するために支出した費用で繰延資産としたものについて、次の事実が生じた場合

ア、固定資産が災害により著しく損傷したこと

イ、固定資産が1年以上にわたり遊休状態にあること

ウ、固定資産が本来の用途に使用することができないため、他の用途に使用されたこと

エ、固定資産の所在する場所の状況が著しく変化したこと

② 上記に準ずる特別の事実が生じた場合

 

 

・繰延資産の表示

 

 貸借対照表に繰延資産の部を設け、直接控除形式で控除残高を、各繰延資産の金額として表示します。税法固有の繰延資産は、投資その他の資産に長期前払費用などの適切な科目で表示します。

 損益計算書においては、繰延資産の償却額が営業収益との対応関係がある場合には販売費及び一般管理費に、対応関係がない場合には営業外費用に、それぞれ表示します。

 繰延資産の一時償却額は、臨時的なものなので、原則として、特別損失に表示します。

 

 

 ※本稿は、次の拙稿を大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一稿『税法との比較で理解する中小企業会計指針①』月刊スタッフアドバイザー 2005年10月号

 

 

※このウエブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。