「圧縮記帳の税効果会計と申告書の設例」

 

2021年(令和3年)8月14日(最終更新2022年4月13日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・設例

 

 次のような設例を考えてみます。個別財務諸表を前提。金額の単位省略。

 

(設例1)

Ⅰ期,Ⅱ期ともに税引前当期純利益10,000。

圧縮記帳を積立金方式にて実施。

Ⅰ期の圧縮額4,000。

Ⅱ期の圧縮積立金の取崩額400。

法定実効税率30%。

事業税の翌期認容は無視する。

法人税等の中間納付はないものとする。

税効果会計は適用しない。

 

※認容:会計上、費用となっていないが、税務上、損金とすること。

※直接減額方式では、Ⅰ期は4,000の損金(圧縮損)が計上される。したがって、積立金方式では、直接減額方式と同じにするため、申告書別表四で4,000減算する。また、仮に、固定資産10,000とすると、直接減額方式では、取得価額6,000となる。Ⅱ期以降、耐用年数10年定額法とすると、損金(減価償却費)600となる。しかし、積立金方式では、Ⅱ期以降、減価償却費1,000が計上されるので、圧縮積立金を取り崩して益金算入400とする。

 

(設例2)

税効果会計を適用。

それ以外は(設例1)と同じ。

 

 そして、(設例1)~(設例2)について、次の5つのものを見ていくこととします。

① 損益計算書の表示

② 貸借対照表の表示

③ 法人税申告書別表四の表示

④ 法人税申告書別表五(一)の表示

⑤ 税効果会計の仕訳

 

 

・(設例1)Ⅰ期の表示(税効果会計適用なし)

 

 

Ⅰ期損益計算書

 

税引前当期純利益      10,000

法人税等               1,800

当期純利益             8,200

 

*:(10,0004,000)×0.3

 

Ⅰ期貸借対照表

 

未払法人税等    1,800

圧縮積立金    4,000

繰越利益剰余金  4,200

 

Ⅰ期別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

8,200

8,200

 

加算

法人税等

1,800

1,800

 

減算

圧縮積立金認定損

4,000

4,000

 

所得金額

6,000

6,000

 

 

 

Ⅰ期別表五(一)

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

  

  

圧縮積立金

 

 

4,000

4,000

圧縮積立金認定損

 

4,000

 

4,000

繰越損益金

 

4,000

8,200

4,200

納税充当金

 

 

1,800

1,800

 

 

 繰越利益剰余金4,000を減少させて圧縮積立金4,000を増加させる圧縮記帳に関する仕訳は、次のとおりです。この仕訳は、別表五(一)にそのまま記入されます(繰越利益剰余金の別表五(一)の名称は、「繰越損益金」)。

(借)繰越利益剰余金 4,000 (貸)圧縮積立金 4,000

 

 次に、会計と税務の調整仕訳を示してみます。

会計上の仕訳

仕訳なし

税務上の仕訳

(借)利益積立金 4,000 (貸)圧縮積立金4,000

申告調整の仕訳

(借)利益積立金 4,000 (貸)圧縮積立金4,000

 

  「会計上の仕訳」に「申告調整の仕訳」を加えて、「税務上の仕訳」になるように考えます。いわば、「申告調整の仕訳」は、「税務上の仕訳」から「会計上の仕訳」を差し引いて逆算で求めることになります。「税務上の仕訳」と「申告調整の仕訳」は、このように考えるというものであり、実際に仕訳として行うわけではありません。「申告調整の仕訳」は、その内容が別表五(一)に反映されます。

 

 会計上の仕訳は無いのですが、「税務上の仕訳」この場合「申告調整の仕訳」と同じですが、借方4,000の損金算入(減算)を示します。貸借対照表項目を用いるので、名称は利益積立金となります。「申告調整の仕訳」の借方に記入されているので、別表五(一)では借方の減少欄に記入します(別表五(一)の項目名は「圧縮積立金認定損」)。

 

 会計上は、利益剰余金の一種として圧縮積立金4,000が計上されます。一方、税務上は、直接減額方式と同様に考えるので(4,000は損金算入)、利益積立金としては残りません。具体的には、別表五(一)の圧縮積立金4,000と圧縮積立金認定損△4,000とで、合計するとプラスマイナス0となります。

 

・(設例1)Ⅱ期の表示(税効果会計適用なし)

 

Ⅱ期損益計算書

 

税引前当期純利益      10,000

法人税等               3,120

当期純利益             6,880

 

*:(10,000400)×0.3

 

Ⅱ期貸借対照表

 

未払法人税等     3,120

圧縮積立金       3,600

繰越利益剰余金  11,480

 

Ⅱ期別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

6,880

6,880

 

加算

法人税等

3,120

3,120

 

圧縮積立金取崩額

400

400

 

所得金額

10,400

10,400

 

 

  Ⅱ期別表五(一)

     

期首利益積立金

当期の増減

期首利益積立金

  

  

圧縮積立金

4,000

400

 

3,600

圧縮積立金認定損

4,000

 

400

3,600

繰越損益金

4,200

4,200

*400

*11,080

11,480

納税充当金

1,800

1,800

3,120

3,120

 *ここでは、わかりやすくするため、400を別表示しましたが、実際には合算して11,480で記入されます。なお、11,080=Ⅰ期繰越利益剰余金4,200+Ⅱ期当期純利益6,880

 

 圧縮記帳に関する仕訳は、次のとおりです。この仕訳は、税務も同じなので、別表五(一)にそのまま記入されます。

(借) 圧縮積立金 400 (貸) 繰越利益剰余金 400

 

 次に、会計と税務の調整仕訳を示してみます。

会計上の仕訳

仕訳なし

税務上の仕訳

(借)圧縮積立金 400 (貸)利益積立金 400

申告調整の仕訳

(借)圧縮積立金 400 (貸)利益積立金 400

 

 圧縮積立金は、400取り崩されているため、別表五(一)の減少欄で400計上し、残高は3,600となります。一方、上記の申告調整の仕訳のとおり、別表四で400加算し、別表五(一)「圧縮積立金認定損」の行では増加欄に400記入し、別表五(一)の残高は△3,600となります。別表五(一)では,圧縮積立金は両建てで表示されており、税務上の額は両者を合わせて0となります。

 

 

・(設例2)Ⅰ期の表示(税効果会計適用あり)

 

Ⅰ期損益計算書

 

税引前当期純利益                  10,000

法人税等               1,800*

法人税等調整額         1,200**   3,000   

当期純利益                         7,000

 

*:(10,0004,000)×0.3

**:4,000×0.3

 

Ⅰ期貸借対照表

 

繰延税金負債    1,200

未払法人税等    1,800

圧縮積立金   2,800

繰越利益剰余金 4,200

 

Ⅰ期別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

7,000

7,000

 

加算

法人税等

1,800

1,800

 

法人税等調整額

1,200

1.200

 

減算

圧縮積立金認定損

4,000

4,000

 

所得金額

6,000

6,000

 

 

Ⅰ期別表五(一)

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

  

  

圧縮積立金

 

 

2,800

2,800

繰延税金負債

 

 

1,200

1,200

圧縮積立金認定損

 

4,000

 

4,000

繰越損益金

 

2,800

7,000

4,200

納税充当金

 

 

1,800

1,800

 

 

 圧縮記帳に関する仕訳は、次のとおりです。この仕訳は、税務も同じなので、別表五(一)にそのまま記入されます。

(借)繰越利益剰余金 2,800 (貸)圧縮積立金 2,800

 

 次に、会計と税務の調整仕訳を示してみます。

会計上の仕訳

仕訳なし

税務上の仕訳

(借)利益積立金 4,000 (貸)圧縮積立金4,000

申告調整の仕訳

(借)利益積立金 4,000 (貸)圧縮積立金4,000

 

 税効果に関する仕訳は、次のとおりです。

会計上の仕訳

(借)法人税等調整額  1,200  (貸)繰延税金負債  1,200

税務上の仕訳

仕訳なし

申告調整の仕訳

(借)繰延税金負債 1,200

   (貸)法人税等調整額(利益積立金) 1,200

 

 設例の圧縮積立金は、Ⅰ期で4,000計上されますが、その後の年度で400ずつ取り崩され、税務上加算されます。将来、所得が増額する効果があるので、将来加算一時差異に該当します。

  Ⅰ期においては、税務上、減算があるので、会計上の法人税等は少ない額で計上されています。そこで、会計上、未払い税金(繰延税金負債)を計上して(会計上、将来の増税という税効果を認識して)、税金に関する費用を増やそうというのが、税効果会計の仕訳です。具体的には、将来加算一時差異の額4,000に法定実効税率30%をかけて1,200と算出します。

 

 税効果会計を適用しない場合のⅠ期の設例では、圧縮積立金の積立ては4,000でした。税効果会計を適用した場合には、2,800となります。なぜ、金額が違うのかは、次のとおりです。4,000に30%をかけた額1,200が法人税等調整額(利益のマイナス)として計上されているので、繰越利益剰余金がその額だけ減少します。したがって、繰越利益剰余金の減少として積み立てる圧縮積立金は、4,000に70%をかけた2,800となるわけです。繰越利益剰余金4,200は、税効果会計を適用しない場合のⅠ期の繰越利益剰余金と同じです。

 

 圧縮積立金4,000が、税効果会計を適用する場合には、圧縮積立金2,800と繰延税金負債1,200に分かれると考えることもできます。

 

・(設例2)Ⅱ期の表示(税効果会計適用あり)

 

 

Ⅱ期損益計算書

 

税引前当期純利益                  10,000

法人税等              3,120*

法人税等調整額          120**   3,000   

当期純利益                         7,000

 

*:(10,000400)×0.3

**:400×0.3

 

Ⅱ期貸借対照表

 

繰延税金負債     1,080

未払法人税等    3,120

圧縮積立金    2,520

繰越利益剰余金 11,480

 

Ⅱ期別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

7,000

7,000

 

加算

法人税等

3,120

3,120

 

圧縮積立金取崩額

400

400

 

減算

法人税等調整額

120

120

 

所得金額

10,400

10,400

 

 

 

Ⅱ期別表五(一)

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

  

圧縮積立金

2.800

280

 

2,520

繰延税金負債

1,200

120

 

1,080

圧縮積立金認定損

4,000

 

400

3,600

繰越損益金

4,200

4,200

280

11,200

11,480

納税充当金

1,800

1,800

3,120

3,120

 

 圧縮記帳に関する仕訳は、次のとおりです。この仕訳は、税務も同じなので、別表五(一)にそのまま記入されます。

(借) 圧縮積立金 280 (貸) 繰越利益剰余金 280

 

 次に、会計と税務の調整仕訳を示してみます。

会計上の仕訳

仕訳なし

税務上の仕訳

(借)圧縮積立金 400 (貸)利益積立金 400

申告調整の仕訳

(借)圧縮積立金 400 (貸)利益積立金 400

 

 税効果に関する仕訳は、次のとおりです。

会計上の仕訳

(借)繰延税金負債  120  (貸)法人税等調整額  120

税務上の仕訳

仕訳なし

申告調整の仕訳

(借)法人税等調整額(利益積立金)120  (貸)繰延税金負債 120

 

 Ⅱ期においては、税務上加算があるので、会計上は多く計上されている法人税等を、未払い税金を取り崩して減らします。金額は、一時差異解消額400×30%=120となります。また、圧縮積立金を400×70%=280取り崩します。

 

 別表五(一)で、圧縮積立金を280減らし、繰越損益金を280増やして、会計上の仕訳を表現します。また、税務上の別表四の加算が400で、申告調整の仕訳の貸方に利益積立金400が計上されているので、別表五(一)の増加欄に記入します(「圧縮積立金認定損」の行)。

 

・設例1~設例2のまとめ

 

 

 

当期純利益

=当期利益

法人税等

=未払法人税等

=納税充当金

繰越利益剰余金期末残

=繰越損益金期末残

別表四の所得金額

圧縮積立金

=別表五()の圧縮積立金

繰延税金負債

­=別表五()の繰延税金負債

設例1

Ⅰ期

8,200

1,800

4,200

6,000

4,000

Ⅱ期

6,880

3,120

11,480

10,400

3,600

設例2

Ⅰ期

7,000

1,800

4,200

6,000

2,800

1,200

Ⅱ期

7,000

3,120

11,480

10,400

2,520

1,080

 

  

 まず、損益計算書から見ていきます。税引前当期純利益と税金費用との関係は、税効果会計を適用していない設例1のⅠ期・Ⅱ期では30%になっていません。税効果会計を適用している設例2のⅠ期・Ⅱ期では、30%となっています。

 

 設例1のⅠ期の当期純利益は8,200で、設例2のⅠ期の当期純利益は7,000で、Ⅱ期の方が1,200少なくなっています。一方、設例1のⅡ期の当期純利益は6,880で、設例2のⅡ期の当期純利益は7,000で、Ⅱ期の方が120多くなっています。つまり、減価償却が終わる10年が過ぎると、通算の当期純利益は同じになります。税効果会計を適用する場合としない場合とで、途中の期では利益は異なりますが、通算すれば同じとなります。

 

 次に、貸借対照表ですが、利益剰余金は、設例1と設例2ともに、Ⅰ期は、4,200、Ⅱ期は11,480で 同じになります。圧縮積立金は設例1と設例2とで異なりますが、繰延税金負債を考慮すると同じになります。Ⅰ期の圧縮積立金は、設例1は4,000ですが、設例2では圧縮積立金2,800と繰延税金負債1,200に分かれていると見ることができます。Ⅱ期の圧縮積立金は、設例1は3,600ですが、設例2では圧縮積立金2,520と繰延税金負債1,080に分かれていると見ることができます。

 

 税務は、設例1と設例2とで、Ⅰ期の所得は6,000、税額(法人税等=未払法人税等=納税充当金)は1,800、Ⅱ期の所得は10,400、税額は3,120で、みな同一金額となっています。

 

 税務上は、税効果会計を適用してもしなくても、すべて同じ結果となります。税務は、公平性を保つため、会計処理に左右されないということです。税務の論理が、しっかり貫かれていると思います。

 

 

※本稿は、次の拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一稿『税理士と実務家のための会計シリーズ第10回 税効果会計』週刊税務通信2004年(平成16年)8月30日号

寺田誠一稿『新人経理マン・経理ウーマンのための「税効果会計」レッスン③…将来加算一時差異のケース』週刊経営財務 1999年(平成11年)9月20日号

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第9回 「圧縮記帳」の異口同音』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)4月号

 

 

※圧縮記帳の意義については、「固定資産売除却・買換・圧縮記帳の会計処理(仕訳)」参照。

※法定実効税率の式の導き方については、「法定実効税率の式の算出方法(求め方)」参照。

※将来減算一時差異の設例については、「将来減算一時差異の税効果会計と申告書設例」参照。

※その他有価証券の設例については、「その他有価証券の税効果会計と申告書設例」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。