「個別償却と総合償却の設例…連続意見書第三の解釈」

 

2020年(令和2年)9月5日(最終更新2023年9月14日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・償却単位

 

 減価償却の計算方法の次に、そのような計算をどの単位で行うかという問題があります。減価償却計算における償却単位には、個別償却と総合償却という2とおりの方法があります。

 

 個別償却とは、個々の固定資産ごとに減価償却計算および記帳を行う方法です。したがって、個々の資産の未償却残高は明らかです。通常は、この方法が採られています。

 総合償却とは、複数の固定資産を一括して1つの償却単位として、減価償却計算および記帳を行う方法です。この場合、償却単位を構成する個々の資産の未償却残高は明らかではありません。実務上、総合償却は用いられていません。

 

 総合償却は、さらに2つに分けられます。

① 狭義の総合償却

 耐用年数の異なる多数の異種資産

② グループ償却(組別償却)…次のようなグループに分けて総合償却

②-1 耐用年数の等しい同種資産

②-2 耐用年数は異なるが、物質的性質や用途において共通性を有する資産        

 

・平均耐用年数

 

 耐用年数の異なる資産について総合償却を行う場合には、平均耐用年数を用いる必要があります。平均耐用年数は、償却単位を構成する各資産の要償却額(取得原価-残存価額)の合計額を、各資産の定額法による年間償却費の合計額で割って算出されます。

平均耐用年数=各資産の要償却費の合計額÷各資産の定額法による年間償却費の合計額

 

 

・除却時の処理

 

 個別償却では、耐用年数の到来する以前に固定資産が除去されるときは、未償却残高が除却損となります。一方、耐用年数を超えて使用されるときは、耐用年数終了時に未償却残高が無くなります。それゆえ、それ以後の使用に対して減価償却費を計上する余地はありません。

 

 総合償却では、個々の資産の未償却残高は明らかではありません。平均耐用年数の到来以前に除却された資産については、間接法の場合、取得原価から残存価額を差し引いた要償却額合計を減価償却累計額勘定より取り崩します(残存価額の見積もりが適切であるならば、除却損益は生じません。)。

(借)減価償却累計額 ××× (貸)固定資産 ×××

    貯蔵品       ×××

 

 総合償却では、平均耐用年数到来前の除却(売却も含みます。)においては、個別償却に比べて、除却した資産の減価償却累計額を多く取り崩す(借方に計上する)ことになります。すると、個別償却に比べて、残った他の資産の減価償却累計額(貸方)が小さくなるので、差引の未償却残高は大きくなります。

固定資産-減価償却累計額(個別償却に比べて小)=未償却残高(個別償却に比べて大)

 

 総合償却では、平均耐用年数の到来以後においても、通常、資産の残存する限り、未償却残高が存在します。したがって、総合償却では、減価償却費の計上は、通常、資産がなくなるまで継続して行うことができます(連続意見書第3 有形固定資産の減価償却について 10 個別償却と総合償却)。

 

 

・設例による解説

 

(設例)

 ×1期期首に次の固定資産を取得したとき、個別償却と総合償却の仕訳は、それぞれどのようになりますか(定額法、残存価額0、金額の単位省略)。

資産の種類・金額

耐用年数

年間償却費

除却時期

 資産A  40

2

20

×4期末に除却

 資産B  90

3

30

×4期末に除却

 資産C 140

4

35

×2期末に除却

270

 

85

 

資産Cは耐用年数前に除却、資産AとBは耐用年数後も存続。

平均耐用年数:270÷85≒3年

 

① 個別償却(間接法)

 

×1期:(借)固定資産   270   (貸)現金預金    270

      (借)減価償却費  85 (貸)減価償却累計額 85

 

×2期:(借)減価償却費  85 (貸)減価償却累計額 85

    (借)減価償却累計額70 (貸)固定資産    140※

     固定資産除却損70

※資産Cの除却の仕訳を行います。

 

×3期:(借)減価償却費  30 (貸)減価償却累計額 30※

※資産Aの減価償却は×2期で終わっているので、×3期の減価償却は資産Bだけです。

 

×4期:(借)減価償却累計額40 (貸)固定資産    40※

    (借)減価償却累計額90 (貸)固定資産    90※

※ 資産AとBの除却の仕訳を行います。

 

 ×1期から×4期までを通算すると、固定資産と減価償却累計額は0となり、費用(減価償却費と固定資産除却損の合計)は270となり、固定資産の取得原価270がすべて費用化されたことがわかります。

 

② 個別償却(直接法)

 

×1期:(借)固定資産   270 (貸)現金預金 270

      (借)減価償却費  85 (貸)固定資産 85

 

×2期:(借)減価償却費  85 (貸)固定資産 85

    (借)固定資産除却損70 (貸)固定資産 70

 

×3期:(借)減価償却費  30 (貸)固定資産 30

 

×4期:仕訳なし 

 

 ×1期から×4期までを通算すると、固定資産は0、費用(減価償却費と固定資産除却損の合計)は270となり、固定資産の取得原価270がすべて費用化されたのは、間接法と同じです。

 

③ 総合償却(間接法)・・・個々の資産の未償却残高は明らかでないという前提

 

×1期:(借)固定資産 270 (貸)現金預金    270

    (借)減価償却費  90 (貸)減価償却累計額 90※1

※1:取得原価270÷平均耐用年数3年=90

 

×2期:(借)減価償却費     90 (貸)減価償却累計額 90

    (借)減価償却累計額140 (貸)固定資産    140※2

※2:除却した資産Cの要償却額(取得原価140-残存価額0)を取り崩します。

 

×3期:(借)減価償却費 43 (貸)減価償却累計額 43※3

※3:残った資産AとBの取得原価合計を、平均耐用年数で割って、減価償却費を算出します。

(取得原価270-除却資産140)÷3年≒43

 

×4期:(借)減価償却費   47 (貸)減価償却累計額47※4

    (借)減価償却累計額130 (貸)固定資産     130※5

※4:取得原価(270-140)-減価償却累計額(90+90-140+43)=47

※5:資産Aの取得原価40+資産Bの取得原価90=130

 

 ×1期から×4期までを通算すると、固定資産と減価償却累計額は0となり、減価償却費は270となり、固定資産の取得原価270がすべて費用化されたことがわかります。要償却額を取り崩すので、固定資産除却損という科目は生じません。

 

④ 総合償却(直接法)・・・個々の資産の未償却残高は明らかでないという前提

 

×1期:(借)固定資産 270 (貸)現金預金 270

    (借)減価償却費 90 (貸)固定資産  90

 

×2期:(借)減価償却費 90 (貸)固定資産 90

 

×3期:(借)減価償却費 43 (貸)固定資産 43

 

×4期:(借)減価償却費 47 (貸)固定資産 47

 

 ×1期から×4期までを通算すると、固定資産は0、減価償却費は270となり、固定資産除却損が生じないことも、総合償却(間接法)と同じです。

  

 なお、この設例の総合償却は、資産AとBが平均耐用年数3年を超えて、×4期末に除却という例です。ただし、資産AとBが×4期末も存在していた場合には、×4期の減価償却費は×3期と同じ43となります。すると、×4期末の未償却残高は4(間接法では、固定資産130、減価償却累計額126。直接法では、固定資産4)となります(×5期の減価償却費は4しか計上できません。)。

 

 つまり、平均耐用年数経過後も資産が残存する限り償却できるといっても、限度があります。実際の除却時期が平均耐用年数と相当異なる(後になる)という場合には、総合償却の適用は困難ということになります。

 

 

※参考文献

五十嵐邦正著『基礎財務会計』森山書店 (Ⅲ貸借対照表 §5 固定資産の箇所)

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。