「概念フレームワーク」

 

2020年(令和2年)10月8日(最終更新2021年7月11日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・概念フレームワークの内容、役割

 

 2006年(平成18年)に、企業会計基準委員会より、「討議資料 財務会計の概念フレームワーク」が公表されました。概念フレームワークは、文字どおり枠組みですが、その内容・役割には、次のようなものがあります。

① 企業会計の基礎にある前提や概念を体系化したもの。

② 将来の基準設定の基本的な指針の提示。

③ 海外の基準設定主体とのコミュニケーションの円滑化の促進。

 

 概念フレームワークは抽象的なものなので、難解です。また、外国文献の直訳もあるので、日本語としてわかりにくい部分があります。個別財務諸表だけでなく、連結財務諸表も範囲に含めて、定義しています。したがって、概念フレームワークは、ある程度学習が進んでから、勉強した方がよいと思います。

 

・財務報告の目的

 

 ここでは、証券市場におけるディスクロージャー制度(上場企業)を念頭においています。そうすると、財務報告の目的は投資家への情報提供であり、副次的な利用は企業関係者間の利害調整となります。

 

① 情報提供機能

 

 財務報告の目的は、投資家の意思決定に役立てるため、投資のポジション(※)とその成果を開示することです。

※:「財政状態」は、多義的(いろいろな意味)に用いられているため、新たに抽象的な用語として、「投資のポジション」を用いたものです。

 

② 利害調整機能

 

 財務報告において提供される会計情報は、株主への配当制限、債権者の債権保全・担保、国・地方公共団体への税務申告・納税、公的な各種規制などにも、副次的に利用されます。

 

・会計情報の質的特性

 

 財務報告の目的は、投資家による企業成果の予測や企業評価のために、将来キャッシュフローの予測に役立つ情報を提供することです。この目的を達成するために、会計情報に求められるもっとも基本的な特性は、その目的にとっての有用性(役立つということ)です。これを、意思決定有用性といいます。すなわち、会計情報には、投資家が企業の不確実な成果を予測するのに有用であることが期待されています。

 

 意思決定有用性は、①意思決定との関連性(意思決定目的に関連する情報であること)と、②信頼性(一定の水準で信頼できる情報であること)の2つの下位の特性により支えられています。

 さらに、一般的制約である特性として、③内的整合性と④比較可能性が、基礎から支えています。内的整合性と比較可能性は、会計情報が有用であるために必要な最低限の基礎的な条件です。これらは、意思決定との関連性と信頼性の階層関係の中ではなく、階層全体を支える一般的制約となる特性として位置付けられます。

 

① 意思決定との関連性…意思決定有用性を支える特性 1

 意思決定との関連性とは、会計情報が将来の投資の成果の予測に関連する内容を含んでおり、投資家の意思決定に企業価値の推定を通じて積極的な影響を与えて貢献することをいいます。

 意思決定との関連性を支える2つの特性は、次のとおりです。

①-1 情報価値の存在

 情報価値とは、予測や行動が、その情報の入手によって改善されることをいいます。

①-2 情報ニーズの充足

 会計基準の設定局面において、新たな基準に基づく会計情報の情報価値は、不確かな場合も多くあります。そのケースでは、投資家による情報ニーズの存在が、情報価値を期待させます。そのような期待に基づいて、会計基準の設定・改廃が行われることもあります。

 

② 信頼性…意思決定有用性を支える特性 2

 信頼性は、中立性・検証可能性・表現の忠実性などに支えられています。

②-1 中立性

 一部の関係者の利害だけを偏重することのない財務報告が求められます。

②-2 検証可能性

 将来事象を見積る測定者の主観に左右されない、事実に基づく財務報告が求められます。

②-3 表現の忠実性

 事実と会計上の分類項目との明確な対応関係が求められます。

 

③ 内的整合性…一般的制約となる特性 1

 内的整合性とは、ある個別の会計基準が、会計基準全体を支える基本的な考え方と矛盾しないことをいいます。

 

④ 比較可能性…一般的制約となる特性 2

 比較可能性とは、同一企業の会計情報を時系列比較する場合、または、同一時点の会計情報を企業間比較する場合、会計情報がそれらの比較に障害とならないよう作成されていることをいいます。

 

・財務諸表の構成要素

 

 財務諸表の構成要素の中には、他から独立しているものもあれば、他に従属しているものもあります。

 構成要素の定義を確定する作業を用意にするため、かつ、資産負債アプローチという国際的な動向を尊重して、まず資産と負債を定義しています。そこから、純資産と包括利益の定義を導いています。

 それと同時に、純利益も重視しています。包括利益が純利益に代替し得るものとは考えていません。現時点までの実証研究の成果によると、投資家にとって包括利益情報が純利益情報を超えるだけの価値を有しているとはいえないからです。純利益情報は、長期にわたって投資家に広く利用されており、その有用性を支持する経験的な証拠も確認されています。それゆえ、純利益に従来どおりの独立した地位を与えることとしました。すなわち、純利益を定義し、そこから収益と費用の定義を導いています。

 また、株主資本を、純資産の内訳として定義しました。その結果、純資産には、株主資本に属さない部分が含まれることになります。

 

① 資産

 資産とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配(※1)している経済的資源(※2)をいいます。

※1:支配とは、所有権の有無に関係なく、報告主体が経済的資源を利用し、そこから生み出される便益を受けることができる状態をいいます。

※2:経済的資源とは、キャッシュの獲得に貢献する便益の源泉をいいます。実物材に限らず、金融資産やそれらの同等物も含みます。経済的資源は、市場での処分可能性を有する場合もあれば、有しない場合もあります。

 

② 負債

 負債とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源を放棄・引き渡す義務、またはその同等物をいいます。

 

③ 純資産

 純資産とは、資産と負債との差額をいいます。

 純資産=資産-負債

 

④ 株主資本

 株主資本とは、純資産のうち、報告主体の所有者である株主に帰属する部分をいいます。

 

⑤ 包括利益

 包括利益とは、特定期間における純資産の変動額をいいます。ただし、報告主体の所有者である株主、子会社の非支配株主などとの直接的な取引(増資など)は除きます。

 

⑥ 純利益

 純利益とは、特定期間における純資産の変動額のうち、その期間中にリスクから解放された投資の成果で、報告主体の所有者に帰属する部分をいいます。投資の成果のリスクからの解放のタイミングをどのようにとらえるかは、投資の実態や本質に応じて異なます。

 

 包括利益と純利益との関係は、次のとおりです。

純利益=包括利益-投資のリスクから解放されていない部分+過年度に計上された包括利益のうち期中に投資のリスクから解放された部分-非支配株主損益

 

⑦ 収益

 収益とは、純利益(または非支配株主損益)を増加させる項目をいいます。資産の増加、負債の減少に見合う額のうち、投資のリスクから解放された部分です。

 

⑧ 費用

 費用とは、純利益(または非支配株主損益)を減少させる項目をいいます。資産の減少、負債の増加に見合う額のうち、投資のリスクから解放された部分です。

 

・財務諸表における認識と測定

 

 認識と測定の定義は、次のとおりです。

① 認識

 財務諸表における認識とは、構成要素を財務諸表の本体に計上することをいいます。

② 測定

 財務諸表における測定とは、財務諸表に計上される諸項目に、貨幣額(金額)を割り当てることをいいます。

 

 認識される契機として、原則として、総務契約の少なくとも一方の履行が必要です。双方が未履行の場合には、認識しません。

 ただし、金融商品の一部(売買目的有価証券など)は、市場価格の変動そのものが、リスクから解放された投資の成果とみなされる場合には、未履行の段階で認識されることもあります。

 

 さらに、認識のためには、蓋然性(がいぜんせい)(※)が必要です。

※:一定程度の発生の可能性

 

 以下、資産や負債のさまざまな測定値を混在・並列させて述べます。財務報告の目的を達成するためには、投資の状況に応じて多様な測定値が求められるからです。

 また、現在用いられている主要な方法に加え、近い将来に用いられる可能性のある方法も含まれています。概念フレームワークには、現在の会計基準の基礎概念を体系化するとともに、将来の基準設定に対する指針を提示する役割が期待されているからです。

 

(1) 資産の測定の諸方法を示してみます。

 

① 取得原価

 取得原価(原始取得原価)とは、資産取得の際に支払われた現金(または現金同等物)の金額、または、取得のために犠牲にされた財貨役務の公正な金額をいいます。

 原始取得原価の一部を費用に配分した結果の資産残高は、未償却原価と呼ばれます。未償却原価も、広義にとらえた取得原価の範囲に含まれます。

 

② 市場価格

 市場価格とは、特定の資産について、流通市場で成立している価格をいいます。

②-a 購買市場と売却市場とが区別されない場合

 購買市場と売却市場とが区別されない場合の市場価格は、資産を処分・清算したとき得られる資金の額、または、再取得するのに必要な資金の額を表します。たとえば、売買目的有価証券などです。

②-b 購買市場と売却市場とが区別される場合

②-b-1 再調達原価

 再調達原価とは、購買市場と売却市場とが区別される場合、購買市場で成立している価格をいいます。再調達原価は、保有する資産を測定時点で改めて調達するのに必要な資金を表します。

②-b-2 正味実現可能価額

 正味実現可能価額とは、購買市場と売却市場とが区別される場合、売却市場で成立している価格から見積販売経費を控除したものをいいます。正味実現可能価額は、保有する資産を測定時点で売却処分することによって回収できる資金の額を表します。

 

③ 割引価値

 割引価値とは、資産の利用から得られる将来キャッシュフローの見積額を、何らかの割引率で、測定時点まで割り引いた測定値をいいます。

③-a 将来キャッシュフローを継続的に見積り直すとともに、割引率も改訂する場合

③-a-1 利用価値(使用価値)

 利用価値(使用価値)とは、資産の利用から得られる将来キャッシュフローを測定時点で見積り、その時点の割引率で、測定時点まで割り引いた測定値をいいます。利用価値は、測定時点の市場価格とそれを超える無形ののれんの価値から成ります。

③-a-2 市場価格を推定するための割引価値(時価または公正な評価額)

 市場価格を推定するための割引価値とは、「市場で平均的に予想されているキャッシュフロー」と「市場の平均的な割引率」を測定時点で見積り、前者を後者で割り引いた測定値をいいます。

 市場価格が存在しない資産について、期末時点の価値を測定する必要がある場合には、この測定値が市場価格の代理の指標となります。

③-b 将来キャッシュフローのみを継続的に見積り直す場合

 将来キャッシュフローのみを継続的に見積り直した割引価値とは、資産の利用から得られる将来キャッシュフローを測定時点で見積り、その資産の取得時点の割引率で割り引いた測定値をいいます。

 たとえば、金銭債権です。金銭債権評価の利息法は、取得時点で回収が見込まれる将来キャッシュフローを原始取得原価に一致させる割引率を求め、この割引率で割り増して、毎期の簿価を計算します。

 

④ 入金予定額(決済金額または将来収入額)

 入金予定額とは、資産から期待される将来キャッシュフローを、単純に(割り引かずに)合計した金額をいいます。

 

⑤ 被投資企業の純資産額に基づく額

 被投資企業の純資産額に基づく額とは、純資産のうち投資企業の持分に対応する額をいいます。たとえば、連結財務諸表の持分法や、非上場株式の簿価切下げです。

 

(2) 負債の測定の諸方法を示してみます。

 

① 支払予定額(決済金額または将来支出額)

 支払予定額とは、負債の返済に要する将来キャッシュフローを、単純に(割り引かずに)合計した金額をいいます。一般に、支払予定額は、債務の契約上の元本額を指します。

 

② 現金受入額

 現金受入額とは、財貨・役務を提供する義務の見返りに受け取った現金(または現金同等物)をいいます。

 

③ 割引価値

③-a 将来キャッシュフローを継続的に見積り直すとともに、割引率も改訂する場合

③-a-1 リスクフリー・レートによる割引価値

 リスクフリー・レートによる割引価値は、測定時点で見積った将来のキャッシュ・アウトフローを、その時点のリスクフリー・レートで割り引いた測定値をいいます。

 リスクフリー・レートによる割引価値は、借り手である報告主体が、自身の債務不履行を考慮しないで見積った負債の価値をいいます。

③-a-2 リスクを調整した割引率による割引価値

 リスクを調整した割引率による割引価値とは、測定時点で見積った将来のキャッシュ・アウトフローを、その時点の報告主体の信用リスクを考慮した最新の割引率で割り引いた測定値をいいます。

③-b 将来キャッシュフローのみを継続的に見積り直す場合

 将来キャッシュフローのみを継続的に見積り直した割引価値とは、測定時点で見積った将来のキャッシュ・アウトフローを、負債が生じた時点の割引率で割り引いた測定値をいいます。

③-c 将来キャッシュフローを見積り直さず、割引率も改訂しない場合

 将来キャッシュフローを見積り直さず、割引率も改訂しない場合の割引価値とは、負債が生じた時点で見積った将来のキャッシュ・アウトフローを、その時点の割引率で割り引いた測定値をいいます。

 

(3) 収益の測定の諸方法を示してみます。

 

① 交換に着目した収益の測定

 交換に着目した収益の測定とは、財貨・役務を第三者に引き渡すことで獲得した対価によって、収益をとらえる方法をいいます。

 

② 市場価格の変動に着目した収益の測定

 市場価格の変動に着目した収益の測定とは、資産・負債の市場価格の有利な変動によって、収益をとらえる方法をいいます。

 

③ 契約の部分的な履行に着目した収益の測定

 契約の部分的な履行に着目した収益の測定とは、財貨・役務を継続的に提供する契約が存在する場合、契約の部分的な履行に着目して、収益をとらえる方法をいいます。

 たとえば、金銭消費貸借の場合、時の経過によって、契約が部分的に履行したとみなされます。

 

④ 被投資企業の活動成果に着目した収益の測定

 被投資企業の活動成果に着目した収益の測定とは、投資企業が、被投資企業の成果の獲得に応じて、投資勘定を増加させて、収益をとらえる方法をいいます。被投資企業との間に一体性を見出せる場合は、被投資企業の事業活動は、投資企業の事業活動の延長戦上にあると位置付けられます

 

(4) 費用の測定の諸方法を示してみます。

 

① 交換に着目した費用の測定

 交換に着目した費用の測定とは、財貨・役務を第三者に引き渡すことで犠牲にした対価によって、費用をとらえる方法をいいます。

 

② 市場価格の変動に着目した費用の測定

 市場価格の変動に着目した費用の測定とは、資産・負債の市場価格の不利な変動によって、費用をとらえる方法をいいます。

 

③ 契約の部分的な履行に着目した費用の測定

 契約の部分的な履行に着目した費用の測定とは、財貨・役務の継続的に提供を受ける契約が存在する場合、契約の部分的な履行に着目して、費用をとらえる方法をいいます。

 

④ 利用の事実に着目した費用の測定

 利用の事実に着目した費用の測定とは、資産を実際に利用することによって生じた消費や価値の減耗に基づいて、費用をとらえる方法をいいます。

 これは、一般に、事業活動に拘束された資産に適用される方法です。この場合の費用は、減少した資産の測定値(原始取得原価など)によって測定されます。利用に伴う資産の数量的な減少を把握するのが困難な場合には、費用配分が妥当です。

 

 

・コラム「投資のリスクからの解放」

 

 「実現」という用語はいろいろな意味に用いられており(多義的)、その1つの意味で収益の認識を説明することはできません。そこで、概念フレームワークでは、包括的に説明する用語として、「投資のリスクからの解放」という表現を用いることにしました。

 「投資のリスクからの解放」とは、投資にあたり、期待された成果が事実として確定することをいいます。

 

・コラム「事業投資と金融投資」

 

 「投資のリスクからの解放」を、もう少し具体的に見て行きます。

 事業投資については、事業のリスクに拘束されない独立の資産を獲得したとみなすことができるときに、投資のリスクから解放される、すなわち収益を計上すると考えられます。

 一方、金融投資については、次のように考えられます。いつでも換金可能で、換金の機会が事業活動による制約・拘束を受けない資産・負債については、市場価格の変動が、リスクから解放された投資の成果となります。

 たとえば、上場している子会社株式・関連会社株式・その他有価証券は、現金(または現金同等物)への転換が容易なので「実現可能」と解釈できます。しかし、これらの有価証券の売却処分には事業上の制約が課せられており、時価評価差額は、リスクから解放された投資の成果とはいえません。

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。