「中小企業会計指針…金銭債権、貸倒損失・貸倒引当金、有価証券」

 

2021年(令和3年)5月3日(最終更新2021年6月4日)

寺田 誠一

 

・各論の解説にあたり

 

 「指針」で示されている項目に沿って、各論の解説を行っていきたいと思います。なお、「指針」の項目は、網羅的なものではありません。特に中小企業において重要と思われるものを、ピックアップしたものです。

 したがって、「指針」に記載のない項目の会計処理にあたっては、「指針」総論の「作成方針」の考え方に基づきます。すなわち、次のような場合には、法人税法の定める処理を会計処理として採用できるとしています。

① 会計基準がなく、かつ、法人税法で定める処理に拠った結果が、経済実態をおおむね適正に表していると認められる場合

② 会計基準は存在するものの、法人税法で定める処理に拠った場合と重要な差異がないと見込まれる場合

 

 「指針」の各論では、項目ごとに、次の3つが記載されています。

① 要点➢印(②の本文を、まとめて簡潔に記述したもの)

② 本文

③ 関連条文

 

 そこで、本稿(その後の各論も)では、項目ごとに、「指針」の要点(➢印)をそのまま記載し、その後に本文を織り込んだ解説を加えるという構成をとりました。関連条文は省略しました。

 したがって、本稿は、「指針」の原文を参照しながらお読みいただければ幸いです(原文は、インターネットで見ることができます。)。

 

 各項目の内容は、中小企業において簡便的に認められる特例だけが記載されているわけではありません。中小企業の理解などを考え、まず、「企業会計基準」の内容を要約して示し、その後、中小企業に認められる特例を記載するという書き方をしています。むしろ、内容的には前者の方が多く、後者の特例は「指針」の一部にすぎません。

 また、本稿においては、中小企業の実情を考え、法人税法の取扱いと同じ点や異なる点の解説を重視しました。「指針」では、法人税法上の処理を認めている箇所が多いのですが、一部、法人税法では損金算入が認められていなくても、「指針」では経費処理を要請している箇所があります。その場合には、法人税申告書における申告調整が必要となります。

 

 

金銭債権

 

要点

➢ 金銭債権とは、金銭の給付を目的とする債権をいい、これには、預金、受取手形、売掛金、貸付金等が含まれる。

➢ 金銭債権には、その取得価額を付す

➢ 金銭債権の取得価額が債権金額と異なる場合は、取得価額と債権金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額とする。

➢ デリバティブ取引がある場合、その正味の債権は、時価を貸借対照表価額とし、評価差額は、当期の損益として処理する。

 

・内容

 

 金銭債権とは、金銭の給付を目的とする債権をいいます。預金・受取手形・売掛金・貸付金・未収入金などです。債権のなかには、金銭債権でないものもあります。たとえば、前渡金(前払金)です。これは、原材料・商品製品などの提供を目的とする債権です。

 

 取得価額と債権金額とが異なるとき、その差額が金利の調整である場合には、決済時までの期間にわたり毎期一定の方法で取得価額に加減するいわゆる償却原価法を適用することとしています(金利の調整以外の原因としては、債務者の信用リスクが考えられます)。

 ただし、「指針」では、取得価額と債権金額との差額に重要性が乏しい場合には、償却原価法を適用せずに、決済時において一時の損益とすることも認めています。なお、法人税法では、差額を算定することが困難である場合には償却原価法を採らなくてよいという規定になっているので、少し違いがあります。そもそも、このような取得価額と債権金額とが異なるというケースは、中小企業の実務ではまれです。

 

(設例)

 売掛金100の代金として、2年後満期の手形・額面120を取得。2年後、普通預金に入金。償却原価法(定額法)を適用。

 

取得時

(借)受取手形 100 (貸)売掛金 100

1年後の決算

(借)受取手形  10 (貸)受取利息 10

満期時

(借) )受取手形 10 (貸)受取利息  10

(借)普通預金 120 (貸)受取手形 120

 市場価格のある金銭債権については、時価または適正な価格を付することができます。評価差額は当期の損益として処理することができます。ただし、中小企業では、時価のある金銭債権は、ほとんどないと思われます。

 

 割引手形、裏書譲渡手形などは、金融資産の支配が他に移転するため金銭債権の譲渡に該当し、手形の割引時や裏書譲渡時に手形譲渡損が計上されます。

 従前、手形の割引料は金利と考えられていました。金融商品会計基準により、金融資産の消滅の要件が示され、手形の割引はそれに該当するため、支払利息から譲渡損に会計処理が変更になりました。

 

・貸借対照表上の表示

 

 流動資産・負債と固定資産・負債の分類基準には、原則として、正常営業循環基準と1年基準とがあります。正常営業循環基準とは、その企業の正常な営業循環過程の内にある資産・負債は流動とする基準です。正常営業循環過程とは、現金預金→原材料(買掛債務)→仕掛品→製品→売上(売上債権)→現金預金というサイクルをいいます。

 1年基準とは、決算日の翌日から1年以内に回収・支払・費用化されるものは流動資産・負債とし、1年を超えるものは固定資産・負債とする基準です。

 正常営業循環基準と1年基準とでは、正常営業循環基準の方が優先適用されます。すなわち、正常営業循環過程の内にあるものは流動資産・負債とされ、正常営業循環過程の外にあるものについて1年基準が適用されます。

 具体的には、受取手形・売掛金など正常営業循環過程の内にある通常の取引によって生じた金銭債権は、流動資産とされます。また、破産債権などは、正常営業循環過程からはずれたものとみなして1年基準を適用し、1年以内に弁済されないことが明らかなものは固定資産とします。

 貸付金・未収入金・立替金など正常営業循環過程の外にある営業外の金銭債権については、1年基準が適用されます。

 

 関係会社(子会社・関連会社・親会社)に対する金銭債権は、その重要性から、次の3種類のいずれかの方法により表示します。

① 項目別区分

② 項目別注記

③ 一括注記

 

 受取手形割引額と受取手形譲渡額という手形遡及義務については、注記を要求されない場合においても、注記することが望ましいとしています。

 

・デリバティブ

                                                                                                                                                                  

 デリバティブ(金融派生商品)取引とは、先物取引、オプション取引、先渡取引、スワップ取引などをいいます。デリバティブは、当初の元本額に対する資金の投資が不要であり、原則として決済時に売りと買いの相殺による差額決済がなされる点に特徴があります。少額の資金で大きな利益または損失が生じる可能性があるものです。

 デリバティブ取引は、取引によって生じる正味の債権または債務の時価の変動によって利益または損失を被るものなので、時価をもって計上します。時価の変動は、企業の財務活動の成果と考えられることから、当期の損益として処理します。

 デリバティブ取引は、多くの場合、ヘッジ対象資産の相場変動による損失を回避するためのヘッジ手段として用いられています。ヘッジ手段であるデリバティブ取引が時価評価により損益が認識され、ヘッジ対象資産が時価評価されないと、両者の損益が期間的に合理的に対応しなくなります。そして、ヘッジ対象の損失の可能性がヘッジ手段でカバーされているという経済的実態が、決算書に反映されないことになります。

 そのため、ヘッジ対象資産に譲渡等の事実がなく、損失発生のヘッジに有効である限り、時価評価したデリバティブ取引の損益をヘッジ対象資産の損益が認識されるまで繰り延べることとしています。

 デリバティブとヘッジ会計は、中小企業においては実例が少ないと考えられるので、指針では簡単に述べるに留めています。

 

貸倒損失・貸倒引当金

 

要点

➢ 受取手形や売掛金等の債権が法的に消滅した場合のほか、回収不能な債権がある場合は、その金額を貸倒損失として計上しなければならない。

➢ 貸倒引当金は、以下のように扱う。

(1) 金銭債権について、取立不能のおそれがある場合には、取立不能見込額を貸倒引当金として計上しなければならない。

(2) 取立不能見込額については、債権の区分に応じて算定する。財政状態に重大な問題が生じている債務者に対する金銭債権については、個別の債権ごとに評価する。

(3) 財政状態に重大な問題が生じていない債務者に対する金銭債権に対する取立不能見込額は、それらの債権を一括して又は債権の種類ごとに、過去の貸倒実績率等合理的な基準により算定する。

(4) 法人税法における貸倒引当金の繰入限度額相当額が取立不能見込額を明らかに下回っている場合を除き、その繰入限度額相当額を貸倒引当金に計上することができる。

➢ 貸倒引当金の計上は、差額補充法によることを原則とし、法人税法上の洗替法による繰入額を明らかにした場合には、法人税法に規定する洗替法による処理として取り扱うことができる。

 

・貸倒損失

 

 「法的に債権が消滅した場合」と「回収不能な債権がある場合」には、貸倒損失を計上しなければなりません。

 「法的に債権が消滅した場合」とは、会社更生法による更生計画または民事再生法による再生計画の認可が決定されたことにより、債権の一部が切り捨てられることとなった場合などをいいます。

 「回収不能な債権がある場合」とは、債務者の財政状態および支払能力から見て債権の全額が回収できないことが明らかである場合をいいます。

 なお、これらの取扱いは、法人税法の規定を取り入れたものです。

 

 貸倒損失の損益計算書上の表示は、受取手形・売掛金など営業上の取引に基づいて発生した債権に対するものは販売費、貸付金など営業外の債権は営業外費用、臨時巨額のものは特別損失とします。

 

・貸倒引当金の算定方法

 

 金銭債権について取立不能のおそれがある場合には、取立不能見込額を貸倒引当金として計上しなければなりません。「取立不能のおそれがある場合」とは、債務者の財政状態、取立の費用、手続の困難さなどを総合して判断します。

 「指針」では、原則、金融商品会計基準に従い、取立不能見込額の算定にあたっては、債権を一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等の3つに区分し、それぞれの算定方法を示しています。

 

 ところで、法人税法では、金銭債権を一括評価金銭債権と個別評価金銭債権の2つに区分し、それぞれの繰入限度額を定めています。そこで、「指針」では、法人税法の貸倒引当金繰入限度額が明らかに取立不能見込額に満たない場合を除き、繰入限度額相当額をもって貸倒引当金とすることができるとしています。この点が、貸倒引当金に関する「指針」の特徴です。多くの中小企業は、この簡便的な取り扱いの方を採用するものと思われます。

 

・貸倒引当金の表示

 

 貸倒引当金の貸借対照表上の表示には、次のような方法があります。

① 科目別控除形式

② 一括控除形式

③ 科目別注記形式

④ 一括注記形式

 

 貸倒引当金の損益計算書上の表示は、貸倒損失と同じです。なお、指針では、貸倒引当金の設定は、毎期の取立不能見込額の見直し(修正)と考え、損益計算書においていわゆる差額補充方式を採ることを明らかにしています。

 

 法人税法では、貸倒引当金は、翌期に戻し入れて益金算入することとされています。しかし、確定申告書に添付する明細書に洗替法による繰入額であることを明らかにしているときは、戻入額と繰入額とを相殺した差額補充法も認められます。したがって、「指針」では差額補充法を採っています。

 

 また、法人税法では、回収不能な金銭債権の貸倒処理のためには損金経理が必要ですが、その意味は帳簿に貸倒損失を記載すればよいとされています。したがって、貸倒損失を記載した後に、その貸倒損失と貸倒引当金戻入額とを相殺して損益計算書に表示することは、法人税法上も認められます。

 

(設例)

 貸倒引当金は法人税法上の繰入限度額相当額を計上(前期500、当期600)。当期に売掛金の貸倒損失100が発生。

 

(借)貸倒損失    100 (貸)売掛金     100

(借)貸倒引当金   500 (貸)貸倒引当金戻入額500

(借)貸倒引当金戻入額100 (貸)貸倒損失    100

(借)貸倒引当金繰入額600 (貸)貸倒引当金   600

(借)貸倒引当金戻入額400 (貸)貸倒引当金繰入額400

 貸倒損失100を貸倒引当金戻入額と相殺し、また、残った貸倒引当金戻入額400を貸倒引当金繰入額と相殺します。

 

貸借対照表

 貸倒引当金  △600

 

損益計算書

 販売費及び一般管理費

  貸倒引当金繰入額 100

 

 

 

有価証券

 

要点

➢ 有価証券(株式、債券、投資信託等)は、保有目的の観点から、以下の4つに分類し、原則として、それぞれの分類に応じた評価を行う。

(1) 売買目的有価証券

(2) 満期保有目的の債券

(3) 子会社株式及び関連会社株式

(4) その他有価証券

➢ 有価証券は、「売買目的有価証券」に該当する場合を除き、取得原価をもって貸借対照表価額とすることができる。ただし、「その他有価証券」に該当する市場価格のある株式を多額に保有している場合には、当該有価証券は時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額(税効果考慮後の額(第62項参照))は純資産の部に計上する。

➢ 市場価格のある有価証券を取得原価で貸借対照表に計上する場合であっても、時価が著しく下落したときは、将来回復の見込みがある場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は特別損失に計上する。

 

・有価証券の分類と会計処理

 

 「指針」の有価証券の分類と会計処理については、金融商品会計基準によっています。すなわち、有価証券は、①売買目的有価証券、②満期保有目的の債券、③子会社株式・関連会社株式、④その他有価証券の4つに分類し、それぞれ会計処理が定められています。

 

 有価証券に関する「指針」の特徴点は、次の2つです。

 

① 売買目的有価証券の内容

 日本公認会計士協会の金融商品会計実務指針によれば、売買目的有価証券に該当するのは、①-1定款上、有価証券の売買を業としており、かつ、トレーディング目的の専門部署がある場合、または、①-2有価証券の売買を頻繁に繰り返している場合です。

 法人税法では①-1は同じですが、①-2は少し違う要件となっています。法人税法では、企業の所有目的を重視して、短期売買目的であるならば、頻繁(ひんぱん)に売買していなくても、売買目的有価証券とすることができます。ただし、短期売買目的で取得した有価証券であることがわかるような他と区分した勘定科目(たとえば、「売買目的有価証券」)で帳簿に記載することが条件です。「指針」では、売買目的有価証券の要件を、法人税法どおりとしてもよいとしています。

 

② 市場価格のあるその他有価証券

 「指針」のもう1つの特徴点は、市場価格のあるその他有価証券についてです。金融商品会計基準では時価評価としていますが、法人税法では原価評価となっています。その調整として、「指針」では、市場価格のあるその他有価証券を保有していても、それが多額でない場合には原価評価することもできるとしています。中小企業では、多額に保有することはまずないので、この規定を適用し、原価で評価することが多いと思われます。

 

 有価証券の取得原価には、支払手数料などの付随費用を含めます。ただし、時価評価のときの時価には、付随費用を含みません。

 有価証券の評価方法は、移動平均法または総平均法によります。

 

・有価証券の減損

 

 有価証券の減損処理は、会社法上、強制適用となっています。

 

 市場価格のある有価証券については、時価が著しく下落したときは、回復の見込みがある場合を除き(=回復の見込みがない場合と回復の見込みが不明の場合)、評価減しなければなりません。「著しく下落したとき」とは時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合をいいます。この場合には、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められません。

 

 市場価格のない有価証券については、実質価額が著しく低下したときには、実質価額まで相当の減額をしなければなりません。「著しく低下したとき」とは株式の実質価額(時価評価した1株当たり純資産額で、超過収益力考慮可)が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合をいいます。ただし、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、相当の減額をしないこともできます。

 法人税法では、「著しい下落(低下)」とは、50%相当額を下回り、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれない場合です。また、「実質価額」は簿価による1株当たり純資産額であり、実質価額と比較するのは取得時の純資産額です。

 

 このように、有価証券の減損処理については、会計の基準と法人税法とで微妙に異なります。したがって、指針では、法人税法によった場合と比べて重要な差異がないと見込まれるときには、法人税法の取扱いに従うことを認めています。

 

・有価証券の表示

 

 有価証券の貸借対照表上の表示は、所有目的と1年基準により、売買目的有価証券と1年内に満期の到来する債券は流動資産とし、それ以外は固定資産(投資その他の資産)とします。

 

 ※本稿は、次の拙稿を加筆修正したものです。

寺田誠一稿『税法との比較で理解する中小企業会計指針①』月刊スタッフアドバイザー 2005年10月号

 

 

※貸倒引当金の詳しい実務については、「貸倒引当金の会計と税務…洗替法と差額補充法」参照。

※このウエブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。