「特殊な販売形態における収益認識」

 

2020年(令和2年)10月8日

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・委託販売

 

 委託販売とは、受託者が委託者より預かった商品などを第三者に販売し、それに対して委託者が受託者に手数料を支払う販売形態です。

 この場合、受託者が委託品を販売した日をもって委託者の売上収益を認識します。具体的には、受託者よりの仕切精算書(売上計算書)の到達により、委託者は販売の事実を把握します。したがって、委託者の決算手続中に計算書が到達することなどにより、決算日までに販売された事実が明らかになったものについては、これを委託者の当期の収益に計上しなければなりません。これは、通常の販売基準の適用です。

 ただし、簡便法として、計算書が販売のつど送付されている場合には、その計算書が到達した日をもって委託者の収益を認識することもできます。この方法では、決算日までに販売されたものについても、その計算書の委託者への到達が決算日以後になった場合には、委託者は翌期の収益として認識することになります。

 

・試用販売

 

 試用販売とは、あらかじめ商品などを得意先に使用してもらい、気に入らない場合には返還してもよいという条件で行われる販売形態です。

 試用販売については、得意先が買取りの意思を表示することにより、売上収益を認識します。したがって、買取りの意思表示がない試用期間中においては、収益は認識しません。これも、実質的には、通常の販売基準の適用です。

 また、契約または商慣習により、所定の試用期間経過後に返品または返品の意思表示がなくとも、買取りにつき黙示の意思表示があったものとみなされる場合には、試用期間満了時に収益を認識しなければなりません。

 

・予約販売

 

 予約販売とは、あらかじめ予約金を受け取って、将来、財貨役務の提供を約束する販売形態です。

 予約販売については、予約金受取額のうち、決算日までに商品の引渡しまたは役務の提供が完了した分だけを当期の売上収益として認識します。そして、予約金のうち残額は前受金として貸借対照表の負債の部に計上します。これも、通常の販売基準の適用です。

 

・割賦販売

 

 割賦販売とは、販売代金を一定期間にわたり分割して受け取る販売形態であり、通常は月次均等額による月賦販売という形をとります。

 割賦販売については、原則は、商品等を引渡した日をもって売上収益を認識します。すなわち、通常の販売基準です。

 しかし、割賦販売は、通常の販売と異なり、代金回収の期間が長期にわたり、かつ、分割払いであることから、代金回収上の危険性が高くなります。よって、貸倒引当金および代金請求・集金・アフターサービス費などの引当金の計上について特別の配慮を要しますが、その算定にあたっては、不確実性と煩雑さとを伴う場合が多くあります。したがって、収益の認識を慎重に行うため、割賦金の回収期限到来の日をもって収益を認識する回収期限到来基準、または入金の日をもって収益を認識する回収基準が認められていました。

 しかし、あまりに収益の計上が遅くなるということで、新しい収益認識基準では、回収期限到来基準と回収基準は、いずれも認められなくなりました。認められるのは、販売基準だけとなりました。

 

・工事契約(長期請負工事)

 長期請負工事とは、請負契約にもとづく建設土木工事などで、完成引渡しまで期間が長期(通常、1年以上)にわたるものをいいます。

 長期請負工事については、収益の認識について、次の2つの方法があります。

① 工事進行基準

 工事進行基準とは、収益の認識を工事の進行度(完成度)に応じて行う方法です。

 工事進行基準が認められている理由は、次のとおりです。

①-1 長期にわたる工事期間中、収益(および対応する費用)が計上されず、完成年度に一度に計上されることは、期間的に著しく不均衡であり、努力と成果との対応が適切でないこと。

①-2 注文生産であるので、販売が確実であり、契約価額(収益金額)もあらかじめ決まっていること。

①-3 前受金などとして、工事期間中においても、貨幣性資産の流入があること。

 工事進行基準の計算は、通常、次のように行われます。しかし、場合によっては、完成度の尺度として、工事原価ではなく、技術的な進捗度を用いることも考えられます。

完成度=当期までの実際工事原価累計÷見積総工事原価

当期の収益計上額=契約価額×完成度-前期までの収益計上額

 

② 工事完成基準

 工事完成基準は、工事の完成引渡しの日に収益を認識する方法です。これは、通常の販売基準の適用です。

 

 新収益認識基準では、工事契約については、原則として、工事進行基準によることになります。例外的に、ごく短期間の工事契約について、工事完成基準が認められます。

 

 

※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第7章 売上債権と売上高 2 特殊な販売形態における収益認識」

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。