「別表四(留保)・別表五(利益積立金)の関係と「申告調整の仕訳」」

 

2021年(令和3年)9月3日(最終更新2022年6月12日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・別表四

 

 実務では、所得の計算は、次のような様式の法人税申告書別表四「所得の金額に関する明細書」で行います。別表四は、その事業年度の1年間の所得を表します。そのため、別表四は「税務上の損益計算書」とも呼ばれます。下記の図の網掛けにした部分は、別表五(一)Ⅰと対応することを示しています。

 

       

  

       

  

社外流出

当期利益

 

 

 

加算

益金算入

 

 

 

 

損金不算入

 

 

 

減算

益金不算入

 

 

 

 

損金算入

 

 

 

所得金額

 

 

 

 

 

 別表四には、留保欄と社外流出欄とがあります。別表四に記入された項目は必ず、留保欄または社外流出欄に記入されます。

別表四の総額 = 留保 + 社外流出

 

 

・別表五

 

 一方、「税務上の貸借対照表」と呼ばれるものがあります。法人税申告書別表五(一)Ⅰ「利益積立金額の計算に関する明細書」です。「利益積立金」とは、税務上の利益剰余金をいいます。別表五(一)Ⅰの様式を示すと、次のとおりです。下記の図の網掛けにした部分は、別表四と対応することを示しています。

 

 

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

利益準備金

 

 

 

 

 

 

 

 

 

繰越損益金

 

 

 

 

納税充当金

 

 

 

 

未納法人税(※)

未納道府県民税

未納市町村民税

合計額

 

 

 

 

 ※現在の正式名称は、「未納法人税及び未納地方法人税」ですが、地方法人税は省略しました。

 

 別表五(一)Ⅰは、前期までの利益積立金に当期の利益積立金の増減を加えて、期末の利益積立金を算出する表です。

 別表四の留保は、当期の利益積立金の増減を意味します。したがって、別表四の留保欄の金額は、別表五(一)Ⅰの増減欄の金額と一致します。別表四の網かけの部分と別表五(一)Ⅰの網かけの部分が一致するということです。別表四の所得の加算項目で留保とされるものは、別表五(一)Ⅰの利益積立金の当期の増加(または△の減少)と一致します。別表四の所得の減算項目で留保とされるものは、別表五(一)Ⅰの利益積立金の当期の減少(または△の増加)と一致します。

 

別表四・加算留保 = 別表五(一)Ⅰ・増加(または△の減少)

別表四・減算留保 = 別表五(一)Ⅰ・減少(または△の増加)

 

 したがって、別表四の社外流出とは、利益積立金の増減(いいかえると、税務上の資産・負債の増減)とは関係のないものということになります。たとえば、交際費・寄附金・役員給与などの損金不算入部分です。これらは、税務上、損金不算入になったからといって、支払い済みの現金預金が税務上増えるわけではありません。

 

 別表五(一)Ⅰの当期の増加で、未納の税金(未納法人税等+未納道府県民税+未納市町村民税)が△印で控除するようになっています。これは、これらの税金の納付義務の成立を意味しています。期末の利益積立金としては、それらの税金を差し引いて考えるわけです。期末の未納税金は、利益積立金のマイナスというわけです。

 ただし、これらは抽象的・観念的な租税債務であり、具体的な会計処理とは結びつかないので、未納の税金の当期の増加は、別表四の留保とは無関係になります。一方、未納の税金の当期の減少は支払いを伴い、それらの支払いは損金不算入なので、別表四の加算・留保と対応します。

 

 別表五(一)Ⅰで特徴的なのは、「納税充当金」です。これは、貸借対照表の「未払法人税等」のことです。会計上は負債ですが、税務上は利益積立金とみます。それは、未払法人税等が正確に計算されているとは限らないからです(正確に計算したつもりでも、税務調査などで変わることもあります。)したがって、「納税充当金(未払法人税等)」は、いったん利益積立金に含め、改めて、抽象的・観念的に正確な租税債務を、別表五(一)Ⅰ最下部の「未納法人税」などでマイナスするという構造になっています。

 

 ところで、「利益積立金」は、大部分が会計上の利益剰余金、すなわち過去から当期までの利益の留保額と同じです。ただし、会計上は利益剰余金であっても、税務上は利益積立金でないものがあるので、それをマイナスします。逆に、会計上は利益剰余金でなくても、税務上は利益積立金とされるものがあるので、それをプラスします。したがって、税務上の利益積立金は、次のような式で表されます。これらを表現したものが、別表五(一)Ⅰということになります。

 

税務上の利益積立金=会計上の利益剰余金(留保利益)-税務上、利益積立金とみないもの+税務上、利益積立金とみなすもの

 

 「税務上の貸借対照表」には、もう1つ、別表五(一)Ⅰの下に、別表五(一)Ⅱ「資本金等の額の計算に関する明細書」があります。「資本金等」とは、税務上の資本金・資本積立金をいいます。

 

 税務上、従来は、資本金と資本積立金とを分けていました。しかし、2006年(平成18年)の改正において、資本金と資本積立金とを区別しないで、「資本金等の額」として一括して扱うことになりました。税務上は、株主の拠出額という性質は同じなので、特に分ける必要性がないからだと思われます。

 

 別表五(一)Ⅱの様式を示すと、次のとおりです。

 

     

期首資本金等

当期の増減

翌期首資本金等

   

    増

資本金

 

 

 

 

資本準備金

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合計額

 

 

 

 

 

 ところで、「資本金等」は、大部分が会計上の資本金・資本剰余金、すなわち株主の払い込んだもとでと同じです。ただし、会計上は資本金・資本剰余金であっても、税務上は資本金等でないものがあるので、それをマイナスします。逆に、会計上は資本金・資本剰余金でなくても、税務上は資本金等とされるものがあるので、それをプラスします。したがって、税務上の資本金等は、次のような式で表されます。これらを表現したものが、別表五(一)Ⅱです。

 

税務上の資本金等=会計上の資本金・資本剰余金-税務上、資本金等とみないもの+税務上、資本金等とみなすもの

 

 さて、別表五は、「税務上の貸借対照表」とは言っても、表しているのは利益積立金と資本金等です。つまり、貸方項目です。簿記の原理に従えば、貸方項目は、増加は貸方(右側)に、減少は借方(左側)に記入します。したがって、別表五の「当期の増減」は、「増」が右側に、「減」が左側に、それぞれ記入するようになっています。

 

 

・資本金等と利益積立金の峻別の理由

 

 税務が、資本金等と利益積立金とをはっきり分けている理由は、法人に対する2段階課税にあります。まず、各事業年度の所得に対する課税が行われます。次に、所得の累積である利益積立金を分配する場合には、配当課税が行われます。株主に配当金を支払う場合や、解散清算の場合に残余財産の分配を行う場合などです。

 

 配当課税が行われるのは、あくまで利益積立金の支払いの場合です。資本金等の支払の場合には、株主の払い込んだ元本の払戻しであり、課税は行われません。同じ社外への支払いであっても、資本金等か利益積立金かによって、配当課税が行われるか否かが決まってきます。そのため、税務では、設立から解散清算まで、資本金等と利益積立金を厳しく区別しているわけです。

 

 

・「税務上の仕訳」「申告調整の仕訳」と簿記(仕訳)の原理

 

 会計と税務とが異なるときは、税務ではこうあるべきだという「税務上の仕訳」を考えます。そして、「会計上の仕訳」を「税務上の仕訳」に変更するための修正仕訳を考えます。その修正仕訳を、拙稿では「申告調整の仕訳」と呼びます。「会計上の仕訳」と「申告調整の仕訳」とを合わせると、「税務上の仕訳」になるようにするわけです。いいかえると、申告調整の仕訳は、「会計上の仕訳」と「税務上の仕訳」から逆算で求めるということになります。

「会計上の仕訳」+「申告調整の仕訳」=「税務上の仕訳」

「会計上の仕訳」→「申告調整の仕訳」←「税務上の仕訳」

 

 「税務上の仕訳」は、実際に行うわけではなく、税務ではこのように考えるという概念上のものです。実際に行うのは、「会計上の仕訳」だけです。

 「申告調整の仕訳」も実際に仕訳を行うわけではなく、その内容を法人税申告書別表五で表現します。簡単な申告調整では必要ありませんが、複雑な申告調整(たとえば、純資産関係)は、この「税務上の仕訳」と「申告調整の仕訳」で考えると、わかりやすくなります。

  

 別表五には、「会計上の仕訳」と「申告調整の仕訳」が表されます。別表五(一)Ⅰには、会計上の利益剰余金のほかに、「申告調整の仕訳」で生じた利益積立金を記入します。別表五(一)Ⅱには、資本金・資本剰余金のほかに、「申告調整の仕訳」で生じた資本金等を記入します。その結果として、「税務上の仕訳」が別表五に表現されていることになります。

 

 申告調整の仕訳の解釈は、簿記(仕訳)の原理に従います。利益積立金や資本金等は、本来の場所が貸方の項目です。したがって、申告調整の仕訳で、利益積立金や資本金等が、本来の場所である貸方に計上された場合は増加を意味し、本来の場所の反対側である借方に計上された場合は減少を意味します。その増加・減少を、別表五に記入するわけです。

申告調整の仕訳の貸方に利益積立金・資本金等➡別表五の「増」(または、△の「減」)

申告調整の仕訳の借方に利益積立金・資本金等➡別表五の「減」(または、△の「増」)

 

 また、申告調整の仕訳で損益項目(別表四で留保とされるものに限ります。)が計上された場合、別表五だけでなく、原則として、別表四にも記入されます。すなわち、別表四で留保とされる損益項目は、原則として、別表四と別表五の両方に記入されます。その記入も、簿記の原理に従います。

 

 損益項目が申告調整の仕訳で貸方に計上された場合には、所得の増加であり、別表四で加算されます(簿記の仕訳で、損益項目が貸方に計上されれば、利益の増加であるのと同じです。)。損益項目が申告調整の仕訳で借方に計上された場合には、所得の減少であり、別表四で減算されます(簿記の仕訳で、損益項目が借方に計上されれば、利益の減少であるのと同じです。)。

 

 会計上の当期純利益は、貸借対照表では繰越利益剰余金に反映されます(繰越利益剰余金の内に含まれます。)。税務上は、別表五の繰越損益金に反映されます(会計上の繰越利益剰余金=税務上の繰越損益金です。)。

 一方、申告調整の仕訳で計上される留保の損益項目は、当期純利益には反映されていないので、そのままでは別表五には反映されません。そこで、別表四で加算減算すると同時に、別表五で新たな利益積立金として計上します。

 

 

・別表五「当期の増減」記入法

 

 増加の場合には「増」に記入し、減少の場合には「減」に記入するのが、簡単です(簡便法)。一方、当期の増減の「増」の欄には増減を問わず生じた発生額を、「減」の欄には増減を問わず消滅額(解消額)を記入すべきという有力説があります。増加の場合には、どちらの説でも同じです。「増」に記入します。

 違うのは、マイナスの利益積立金・資本金等が生じた場合です。この場合、有力説では、△印を付けて「増」に記載します(簡便法では、減少なので、△を付けずに「減」に記入します。)。マイナスの利益積立金・資本金等が消滅(解消)した場合には、△印を付けて、「減」に記入します(簡便法では、増加になるので、△を付けずに「増」に記入します。)。

 

 有力説は、次の①と②の記入方法と整合性・統一性があります。理論的には、有力説が正しいと考えます。

 

①  別表五(一)最下部の未納法人税以下の3行は、未納額の発生は△印で「増」の欄に、消滅は△印で「減」の欄に記入します。これらは、△が印刷されその記入方法が指定されています。

 

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

未納法人税

△消滅

△発生

未納道府県民税

△消滅

△発生

未納市町村民税

△消滅

△発生

 

 ② 別表五(一)の繰越損益金の行は、一般的に、前期末残を「減」の欄に、当期末残を「増」の欄に記入する方法が採られています。損失の場合には△印が付きますが、記入方法は同じです。つまり、前期末残の消滅を「減」に、当期末残の発生を「増」に記入するととらえることができます。

 たとえば、前期の繰越利益剰余金が300で、当期の繰越利益剰余金が500の場合の記入は、次のように表示されるのが通常です。

  

      

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

   

 

 

 

 

 

繰越損益金

300 

300 

500 

500 

 

 

 ただし、わかりやすさを優先し、単純に、「増」の欄には増加額を、「減」の欄には減少額を記入する方法を採ってもよいと思います。別表五は、エクセルのような計算集計表なので、結論が同じならば簡単な方がよいとも考えられます。つまり、実務上は、どちらの方法でもかまいません。

 

 

「減」に記載

「増」に記載

簡便法

減少額

増加額

有力説

消滅額(解消額)

発生額

 

 

・設例

  

 簡単な設例を示してみます。

 

(設例)

 売掛金100,000円を貸倒損失に計上。税務上は、損金不算入。別表四と五(一)、税務上の仕訳、申告調整の仕訳は、どのようになりますか。

 

 

       

  

       

  

社外流出

当期利益

 

 

 

加算

 貸倒損失否認

100,000 

100,000 

 

減算

 

 

 

 

所得金額

 

 

 

 

 

 

 

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

 

 

 

 

 

売掛金

 

 

  100,000

100,000

 

 

 

 

 

 

 会計上の仕訳

(借)貸倒損失 100,000 (貸)売掛金 100,000

税務上の仕訳

仕訳なし

申告調整の仕訳

(借)売掛金100,000  (貸)貸倒損失否認(利益積立金)100,000

 

 会計上、貸倒損失100,000円を計上しましたが、税務上はそれを無しとします。そのため、申告調整の仕訳で会計上の仕訳の逆仕訳を行います。貸方は、留保なので、損益項目の貸倒損失否認と貸借対照表項目の利益積立金の両方が記載されます。

 申告調整の仕訳で、貸方に貸倒損失否認という損益項目が計上されているので、所得の増加であり、別表四で加算します。 

 同時に、申告調整の仕訳の貸方に利益積立金100,000円が計上されているので、利益積立金の増加であり、別表五(一)で「増」の欄に記入します。

 別表五(一)では、当期の利益は繰越損益金に計上され、利益積立金に含まれます(会計上の仕訳は個々の仕訳が計上されるわけではなく、結果としての利益が繰越損益金に計上されます。)。それに加えて、売掛金100,000円も利益積立金に含まれるということを示しています。

  

 

・社外流出

 

 別表四で社外流出となるものについて考えてみます。交際費・寄附金・役員給与などの損金不算入額です。これらは、費用(経費)が否認されるだけで、現金預金で支出したこと自体が否認されるわけではありません。

 

(設例)

 交際費8,500,000円を現金で支払った。うち、500,000円は税務上、否認され損金には算入されないものである。

 

   区       

 総  

    処       

 留  

 社外流出

当期利益

 

 

 

加算

交際費損金不算入額

500,000

 

500,000

減算

 

 

 

 

所得金額

 

 

 

 

 会計上の仕訳

(借)交際費 8,500,000  (貸)現 金 8,500,000

税務上の仕訳

(借)交際費       8,000,000 (貸)現 金8,500,000

   交際費(損金不算入)500,000

申告調整の仕訳

(借)交際費(損金不算入)500,000  (貸)交際費500,000

 

 交際費500,000円が貸方に計上されるから、所得の増加であり、別表四で加算されます。

 

 このように、社外流出の場合には、「申告調整の仕訳」で考えると、難しくなります。単純に、損金不算入額を別表四に加算(社外流出欄)すれば済みます。

 

 

・まとめ

 

 簡単な留保の申告調整は、「申告調整の仕訳」で考えると、かえって複雑になります。また、社外流出や法人税等の申告調整は、「申告調整の仕訳」で考えることが困難です。「申告調整の仕訳」で考えることが適しているのは、純資産(資本)関係です。

 

 

※本稿は、次の拙稿をもとに、全面的に加筆修正したものです。

寺田誠一稿『仕訳・図表・事例で理解する純資産の部の会計と税務』月刊スタッフアドバイザー 2006年(平成18年)10月号

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第1回 「会計」と「税務」の多重構造を理解する!』月刊スタッフアドバイザー 2011年(平成23年)8月号

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第11回 「資本金・資本剰余金・利益剰余金」の疑問点』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)6月号

 

 

※別表五「当期の増減」記入の有力説についての参考文献

植田肇著『法人税申告調整の実務』清文社。

 

 

※簿記の原理については、「簿記のルール」参照。

※損益計算書の「法人税等」と貸借対照表の「未払法人税等」の関係については、「「法人税等」と「未払法人税等」の計上手順と設例」参照。

※法人税等については、「未払法人税等を未計上・計上・概算計上の申告書設例」「未収還付法人税等を未計上・計上・概算計上の申告書設例」「未収還付源泉所得税を未計上・計上の申告書設例」参照。

※「申告調整の仕訳」の具体的な適用については、「配当、増資、計数の変動の申告書設例」「無償増減資等の申告書設例」「自己株式の会計と申告書設例」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。