「中小企業会計指針…税金、税効果会計、純資産」

 

2021年(令和3年)6月9日(最終更新2021年7月1日)

寺田 誠一

 

税金費用・税金債務

 

要点

➢ 法人税、住民税及び事業税に関しては、現金基準ではなく、発生基準により、当期に負担すべき金額に相当する額を損益計算書に計上する。

➢ 法人税、住民税及び事業税を算定するための課税標準は、税引前の当期純利益に対し、税法特有の調整項目を加算・減算することによって算定される。

➢ 法人税、住民税及び事業税の未納付額は、相当額を流動負債に計上する。

➢ 消費税等については、原則として税抜方式を適用する。

 

 

・法人税等

 

 当期の利益をもとに課される法人税・住民税・事業税については、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」として表示します。現金基準による支払額ではなく、発生基準により、納付は翌期でも当期に負担すべき金額を計上します。計算に手数がかかる場合などは、概算による計上額でもよいと考えます。

 決算日における未納付の税額は、貸借対照表の流動負債に「未払法人税等」として計上します。また、還付額は、貸借対照表の流動資産に「未収還付法人税等」として計上します。

 更正、決定などによる追徴税額・還付税額は、次のような扱いとなります。すなわち、金額の重要性がある場合には、「法人税、住民税及び事業税」の次に、「法人税等追徴税額」などその内容を示す適切な名称で計上します。重要性の乏しい場合には、「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示することができます。

 受取配当金や受取利息に関する源泉所得税のうち、法人税法等の税額控除の適用を受ける金額は、法人税等の前払いになるので、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に含めて計上します。中小企業では、販売費及び一般管理費の租税公課に計上している例も見られるので、「指針」では注意を促したものです。

 

(設例)

① 法人税等の中間納付額 2,000

② 受取配当金500に対する国税(源泉所得税)100

③ 法人税等の期末未納付額 3,000

 

① (借)法人税等 2,000 (貸)現金預金 2,000

② (借)現金預金    400 (貸)受取配当金  500

     法人税等     100

③ (借)法人税等   3,000 (貸)未払法人税等 3,000

 

 

・消費税等

 

 消費税等(※)については、原則として税抜方式を適用し、決算日において、納付のときは未払金(還付のときは未収入金)に計上します。ただし、金額の重要性が高い場合には「未払消費税等(未収消費税等)」として別に表示します。

※「消費税等」というときの「消費税」は国税としての消費税を意味し、「等」とは地方税としての地方消費税を意味しています。

 

 なお、「指針」においては、消費税の会計処理は原則として税抜方式としていますが、税込方式を排除するものではないと考えます。中小企業においては、経理処理が簡便な税込方式を採用する場合もあると思われます。

 

 

税効果会計

 

要点

➢ 一時差異(会計上の簿価と税務上の簿価との差額)が生じた際に、将来その一時差異が解消されるときに課税所得が減少し、それに伴い税金費用が減少することにより純利益が増加する場合には繰延税金資産を計上する。また、一時差異が解消されるときに課税所得が増加し、それに伴い税金費用が増加することにより純利益が減少する場合には繰延税金負債を計上する。なお、一時差異に重要性が乏しい場合には繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことができる。

➢ 繰延税金資産については、回収可能性があると判断できる金額を計上する。回収可能性の判断は、収益力に基づく課税所得の十分性に基づいて、厳格かつ慎重に行わなければならない。

 

・税効果会計の意義

 

 税効果会計とは、一時差異がある場合、損益計算書に、当期の負担する納税額ではなく、税引前当期純利益と合理的に対応した法人税等を計上しようというものです。税効果会計は、税金の期間配分という会計上の手続です。税効果会計を適用しても、納税額が変わるわけではありません。

 会計上の収益・費用と税務上の益金・損金とでは、会計上と税務上の認識の時期が相違するものがあります。このようなものを期間差異といいます。また、その他有価証券を時価評価して評価差額を資本の部に計上した場合、税務上は時価評価しないので、その他有価証券の会計上と税務上の額に不一致が生じます。

 期間差異と時価による評価差額とを合わせて、一時差異といいます。すなわち、一時差異とは、会計上の資産・負債の簿価と税務上の資産・負債の簿価との差額をいいます。

 一時差異には、将来減算一時差異と将来加算一時差異の2種類があります。将来減算一時差異とは、将来、一時差異が解消するとき、その期の所得を減額し納税額を減らすという減税効果を持つものです。将来加算一時差異とは、将来、一時差異が解消するとき、その期の所得を増額し納税額を増やすという増税効果を持つものです。

 将来減算一時差異には、未払事業税、賞与引当金、退職給付引当金、有価証券・棚卸資産・固定資産の減損損失で損金不算入のものなど、数多くの種類があります。将来加算一時差異は、剰余金方式による圧縮記帳・特別償却、純資産の部に直接計上されるその他有価証券評価差額金(評価差益)などに限られます。

 法人税法上の繰り越された欠損金は、翌期以降10年間、所得よりの控除が認められています。将来の所得が減り減税効果が生ずるので、将来減算一時差異と同じ性格を持っています。したがって、一時差異と同様に取り扱います。

 一時差異の解消とは、税務上の損金算入が認められた場合やその他有価証券を売却した場合を意味します。

 税効果会計の計算は、一時差異に法定実効税率を乗じて、繰延税金資産または繰延税金負債の額を算出します。

将来減算一時差異×法定実効税率=繰延税金資産

将来加算一時差異×法定実効税率=繰延税金負債

 

・ 繰延税金資産の回収可能性

 

 繰延税金資産の計上による利益剰余金の増加については、会社法上配当制限の定めがないため、配当が可能となります。そのため、回収可能性を厳格かつ慎重に検討することが必要です。「回収」とは、将来、税金が減るという意味です。

 繰延税金資産は、将来の納付税金の減額という効果があるため、繰り延べられるものです。しかし、将来の減算される期に多額の税務上の繰越欠損金があるような場合には、税金の軽減効果はなく、繰越欠損金がただ増えるだけということがあり得ます。このような場合には、将来の減税効果がないので、繰延税金資産の計上は認められません。

 過年度に計上した繰延税金資産についても、その回収可能性を毎期見直し、将来の減税効果が見込まれなくなった場合には、過大となった繰延税金資産を取り崩す必要があります。

 「指針」では、中小企業における回収可能性の判断基準を、次の図のようにまとめています。

 

 税効果会計の適用を開始した年度は、通常、繰延税金資産を計上するので、税効果会計を適用しなかった場合に比べ、利益が大きく表示されます。また、中小企業においては、会計と税務をなるべく一致させようとするので一時差異はそれほど多くなく、また、繰越欠損金があり回収可能性についても疑問のある場合があります。

 そのため、「指針」では、一時差異に重要性が乏しい場合には、税効果会計を適用しないことができるとしています。また、回収可能性については、収益力に基づく所得が十分にあるかどうかを、厳格かつ慎重に判断しなければならないとしています。つまり、「指針」は、中小企業においては、税効果会計の適用に消極的・慎重な姿勢を示している点が特徴です。

 

・税効果会計の表示

 

 繰延税金資産は固定資産(投資その他の資産)に表示し、繰延税金負債は固定負債に表示します。なお、繰延税金資産と繰延税金負債は、相殺して表示します。

 損益計算書においては、繰延税金資産と繰延税金負債との差額の増減額は、「法人税等調整額」として「法人税、住民税及び事業税」の次に表示します。法人税法上は、法人税等調整額は損金にも益金にも該当しません。

 

 

純資産

 

要点

➢ 純資産の部は、株主資本、株主資本以外の各項目に区分する。

➢ 株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金に区分する。

➢ 資本剰余金は、資本準備金、その他資本剰余金に区分する。

➢ 利益剰余金は、利益準備金、その他利益剰余金に区分する。

➢ その他利益剰余金は、株主総会又は取締役会の決議に基づき設定される項目は、その内容を示す項目に区分し、それ以外は繰越利益剰余金に区分する。

➢ 株主資本以外の各項目は、評価・換算差額等、新株予約権に区分する。

➢ 期末に保有する自己株式は、株主資本の末尾において控除形式により表示する。

➢ 純資産の部の一会計期間における変動額のうち、主として、株主資本の各項目の変動自由を報告するために株主資本等変動計算書を作成する。

 

・資本金と資本剰余金

 

 資本金は、発行済み株式の発行価額の総額をいいます。ただし、発行価額の1/2以下の額は、資本金としないことができます(資本準備金となります。)。

 自己資本のうち資本金以外の部分を剰余金といいます。剰余金は、資本金と同じく、株主の払い込んだ企業活動を行う上での元本の性格を持つ資本剰余金と、元本を運用して得た果実の性格を持つ利益剰余金に分かれます。

 資本剰余金は、株主の払い込んだ元本のうち資本金以外の部分をいいます。資本剰余金は、会社法により資本準備金とそれ以外のその他資本剰余金とに分かれます。その他資本剰余金には、資本金及び資本準備金減少差益、自己株式処分差益があります。

 

・利益剰余金

 

 利益剰余金とは、企業の獲得した利益のうち、社外に分配せず企業内に留保したものをいいます。すなわち、利益を源泉とする剰余金です。利益剰余金は、次のように区分されます。

① 利益準備金

 資本準備金の額と合わせて、資本金の1/4に達するまで、その他利益剰余金からの配当額の1/10を、利益準備金として積み立てなければなりません。

 利益準備金の減少により生じた剰余金は、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)に計上します。

②-1 任意積立金

 任意積立金とは、利益準備金のように法律によってその設定が強制されるものではなく、会社が独自の判断で積み立てる利益の社内留保額です。

 任意積立金には、次の種類があります。

 ア 目的を限定しないもの

    別途積立金

 イ 目的を限定したもの

修繕積立金など

 ウ 税法上の特例を利用するために設けるもの

    圧縮積立金、特別償却準備金など

②-2 繰越利益剰余金

 繰越利益剰余金とは、その他利益剰余金のうち任意積立金以外の部分です。

 

・自己株式

 

① 自己株式の取得と保有

 

 自己株式の取得は、実質的に資本の払戻しとしての性格を有しているため、取得原価をもって純資産の部(株主資本の末尾)で控除して表示します。自己株式の取得に関する付随費用は、営業外費用とします。

 法人税法においては、相対(あいたい)取引で自己株式を取得したときは、払込資本のマイナスの部分と利益の分配の部分に分けて考えるので、会計と税務とで差異が生ずる場合があります。

 

② 自己株式の処分

 自己株式の処分(売却)は、新株発行と同様の経済的実態を有しています。したがって、自己株式処分差益は、株主からの払込資本と同じと考えられます。よって、その他資本剰余金として表示されます。

(借)現金預金     ×××  (貸)自己株式     ×××

                   自己株式処分差益×××

 

 次の仕訳のように自己株式処分差損が生じる場合は、その他資本剰余金から減額し、減額しきれない場合はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します。

(借)現金預金     ×××  (貸)自己株式 ×××

     自己株式処分差損×××

 

 法人税法では自己株式の処分によって生ずる差損は払込資本のマイナスと見るので(利益のマイナスと見ることはないので)、会計上と税務上とで差異が生ずる場合があります。

 

③ 自己株式の消却

 

 自己株式の消却とは、自己株式を無くすこと、消滅させることをいいます。すると、発行済株式数が減るので、1株当たりの価値は高まります。

 自己株式の消却手続が完了したとき、次の仕訳を行いますが、借方はその他資本剰余金とし、控除しきれない場合にはその他利益剰余金とします。

(借)○○○ ×××  (貸)自己株式 ×××

 

 法人税法では自己株式の消却によって生じる損は払込資本のマイナスと見るので(利益のマイナスと見ることはないので)、自己株式の処分と同様、会計上と税務上とで差異が生じる場合があります。

 

 なお、「純資産」については、「指針」が中小企業における会計基準の特例を述べている箇所はありません。一般的な会計基準のとおりです。

 

 

※本稿は、次の拙稿を大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一稿『税法との比較で理解する中小企業会計指針②』月刊スタッフアドバイザー 2005年11月号

 

 

※このウエブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。