「株主資本等変動計算書・キャッシュフロー計算書の表示」

 

2020年(令和2年)5月2日(最終更新2021年7月13日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・株主資本等変動計算書の区分

 

 株主資本等変動計算書は、貸借対照表の純資産の部の1会計期間における変動額のうち、主として、株主に帰属する部分である株主資本の各項目の変動理由を報告するために作成するものです。

 株主資本の各項目は、前期末残高、当期変動額、当期末残高に区分し、当期変動額は変動事由ごとにその金額を表示します。

 株主資本以外の各項目(評価・換算差額等と新株予約権)は、前期末残高、当期変動額、当期末残高に区分し、当期変動額は純額で記載します。

  

 株主資本等変動計算書に表示される各項目の前期末残高と当期末残高は、前期と当期の貸借対照表の各項目と一致します。

 また、株主資本等変動計算書に表示される繰越利益剰余金の変動事由である当期純利益は、損益計算書の末尾の当期純利益と一致します。

 

(設例)

 貸借対照表の各項目が次のとおりであったとき、株主資本等変動計算書の表示はどうなりますか(評価・換算差額等と新株予約権は省略)。

        期首   期末

資本金     100   100

利益準備金    10    10

繰越利益剰余金 200   230(差額の30は当期純利益)

 

 

株主資本

純資産合計

資本金

資本剰余金

利益剰余金

自己株式

株主資本合計

資本準備金

資本剰余金合計

利益準備金

その他利益剰余金

利益剰余金合計

別途積立金

繰越利益剰余金

当期首残高

100

 

 

10

 

200

210

 

310

310

当期変動額

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当期純利益

 

 

 

 

 

30

30

 

30

30

当期変動額合計

 

 

 

 

 

30

30

 

30

30

当期末残高

100

 

 

10

 

230

240

 

340

340

 

 

 *この設例では、0の項目も欄を残しましたが、実際には、0の項目の列は削除します。

 

 

・コラム「利益処分案の廃止」

 

 旧商法においては、配当、役員賞与、積立金の設定などは、決算日後3か月以内に開かれる定時株主総会において決議されていたため、それらの内容を表示する利益処分案が作成されていました。

 会社法においては、それらは、決算の確定手続とは無関係に随時行うことができるため、利益処分案は制度上廃止されました(ただし、配当を行う場合には、従来どおり、定時株主総会で決議されることが多いと思われます。しかし、中小企業では、損金にならないので、配当を行うことはまれです。)。

 

 配当、積立金、増資、減資、自己株式などがあった場合、前期と当期の貸借対照表だけでは、純資産の部の各項目のつながりがわからなくなります。そのため、それらの変動の明細を明らかにする株主資本等変動計算書が作成されることになりました(当期純利益だけなら、株主資本等変動計算書がなくてもわかるのですが。)。

 そして、利益処分の前後で使い分けられてきた「当期未処分利益」と「繰越利益」という項目に代え、「繰越利益剰余金」という名称を用いることになりました。

 

 また、従来、未処分利益は、損益計算書の末尾において、当期純利益に前期繰越利益などを加減して算出されていました。これらの内容は、株主資本等変動計算書において表示されることになるため、損益計算書の末尾は当期純利益で終わることになりました。

 

 

・キャッシュフロー計算書の区分

 

 キャッシュフロー計算書は、キャッシュの増減を示す決算書です。キャッシュ(現金及び現金同等物)は、現金預金とほぼ同じです。キャッシュフロー計算書は、損益計算書と同じで、上から下へ、区分式で、記載されます。

 

 キャッシュフロー計算書は、3つの区分に分かれます。営業活動と投資活動と財務活動です。営業活動には、売上・仕入・販管費などのキャッシュフローが記載されます。

 営業活動の区分は、2とおりの表示方法が認められています。直接法と間接法です。

① 直接法は、収入と支出を主要な取引ごとに集計したものです。

② 間接法は、税引前当期純利益からスタートし、損益とキャッシュとのズレを調整したものです。

 

 投資活動には、固定資産・有価証券・貸付金などの投資・回収のキャッシュフローが記載されます。財務活動には、借入金や資本などの調達・返済が記載されます。

 

 当期の営業活動・投資活動・財務活動の3つのキャッシュフロー合計を、現金及び現金同等物の増加額に記載します。そして、それに、現金及び現金同等物期首残高を加えることにより、現金及び現金同等物期末残高が算出されます。

 

 間接法では、税引前当期純利益からスタートしますが、これは損益計算書の税引前当期純利益と一致します。 キャッシュフロー計算書の最後は現金及び現金同等物ですが、これは貸借対照表の現金預金とほぼ一致します(一致しない場合については、後述のコラムを参照。)。

 

・コラム「現金及び現金同等物」

 

 正式のキャッシュフロー計算書では、現金とは、手元の現金と、当座預金・普通預金などの要求払預金などをいいます。

 そして、現金同等物とは、容易に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わない短期投資をいいます。具体的には、3か月以内の期日の定期預金などです。

 

 制度会計上、上場企業などにおける貸借対照表の現金預金は、1年基準で計上されます。そして、キャッシュフロー計算書のキャッシュは、現金及び現金同等物で計上されます。したがって、両者に少し差が生じる可能性があります。

 

 しかし、中小企業などにおいては、キャッシュフロー計算書のキャッシュ=貸借対照表の現金預金として作成するのが簡単でよいと思います。

 

 

※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第3章 決算書の表示 6 株主資本等変動計算書の表示 7 キャッシュフロー計算書の表示」

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。