「損益計算書の表示」

 

2020年(令和2年)5月2日(最終更新2021年7月13日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・損益計算書の区分

 

 損益計算書は、上から下へという順序になっています。これを報告式といいます。そして、収益と費用をいくつかの区分に分け、区分ごとに収益と費用を対応表示させる区分式を採っています。したがって、区分式損益計算書では、各段階で、さまざまな利益が表示されます。

 会社法上の損益計算書は、まず、売上高から売上原価を差し引いて、売上総利益を算出します。次に、売上総利益から販売費及び一般管理費(しばしば「販管費」と略します。)を差し引いて、営業利益を算出します。営業利益に続けて、営業外収益と営業外費用を加減して、経常利益を算出します。経常利益は、通称、「けいつね」と呼ばれることもあります。

 経常利益に特別利益・特別損失を加減して、税引前当期純利益を算出します。特別損益には、臨時損益が計上されます。なお、特別損益であっても、金額の重要性のない場合には、経常損益に表示することができます。

 次に、税引前当期純利益から「法人税、住民税及び事業税」を控除し、法人税等調整額を加減し、当期純利益を算出します(法人税等調整額は、税効果会計を採用している場合だけです。中小企業は、ほとんど税効果会計を採用していません。)。

 会計上は、営業利益までを営業損益通算、その次の経常利益までを経常損益計算、最後の当期純利益までを純損益計算と呼びます。

 

・コラム「前期損益修正」

 

 特別損益には、従来、臨時損益と並んで、前期損益修正が記載されていました。しかし、2009年(平成21年)の「変更誤謬会計基準」により、前期損益修正の計上はできなくなりました。基準が適用される上場企業などでは、前期損益修正は姿を消しました。

 前期損益修正の例として挙げられていた、引当金の過不足修正額を考えてみます。

① その過不足額が、計上時の見積り誤りに起因する場合

 過去の誤謬に該当するため、期首繰越利益剰余金に加減する修正再表示を行うことになります。

② その過不足額が、当期の状況の変化に起因する場合

 当期の販売費及び一般管理費、営業外損益にに記載します。ほとんどの場合、こちらに該当すると思われます。

 

 

・当期業績主義と包括主義

 

 損益計算書に何を記載すべきかについて、当期業績主義と包括主義という2つの考え方があります。

 

① 当期業績主義

 

 当期業績主義は、損益計算書には、臨時損益を除いた、その企業の正常な収益力を表す経常的な損益のみを記載すべきであるとする考え方です。損益計算書の利益は、1会計期間の業績の尺度を示すべきものとされます。

 

 当期業績主義の根拠は、次のとおりです。

①-1 損益計算書のうちに臨時損益が含まれていると、財務諸表の読者に、経営成績の判断にあたり誤解を生じさせるおそれがあります。

①-2 臨時損益が含まれていると、損益計算書の期間比較を困難にします。

 

・包括主義

 

 包括主義は、損益計算書には、臨時損益を含めた、その企業の1会計期間におけるすべての損益を記載すべきであるとする考え方です。損益計算書は、その会計期間の分配可能利益を表示すべきものとされます。

 

 包括主義の根拠は、次のとおりです。

②-1 損益計算書から臨時損益を除去するにあたっては、主観的な判断が入る余地があります。

②-2 すべての収益費用を損益計算書に記載し、数期間の利益を平均すれば、ある年度の異常項目も平均化されるので、比較的正しい収益力が測定できます。

 

 制度会計上の損益計算書は、包括主義によっています。しかし、区分式の損益計算書を採用しているため、当期業績主義の利益(経常利益がそれに該当)も表示されます。

 

 

 ※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第3章 決算書の表示 4 損益計算書の表示 5 当期業績主義と包括主義」

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。