「小切手・手形の意義と会計処理(仕訳)」

 

2020年(令和2年)1月4日(最終更新2023年11月19日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・当座預金の意義

 

 現在、代金の決済方法として、だいぶ少なくなってきましたが、まだ小切手や手形も使われています。小切手や手形を発行する(振り出す)ためには、金融機関に当座預金を開設しておくことが必要です。当座預金がないと、小切手・手形を発行することができません。当座預金は、取引状況などからみて、金融機関の信用が得られれば、開設することができます。

 当座預金は無利息にもかかわらず、会社が当座預金を開設するのは、小切手や手形を決済するためです。普通預金では、それらを決済できません。小切手や手形の金額が引き落としになるのは、当座預金に限られるわけです。

 

 小切手や手形を発行する(振り出す)ことを、通称、「小切手・手形を切る」といいます。小切手や手形の代金を当座預金で支払うことを、通称、「小切手・手形を落とす、小切手・手形が落ちる」といいます。「不渡り」とは、当座預金の残高不足で、小切手や手形の引き落としができないことをいいます。

 

・小切手の意義

 

 小切手は、商取引における利便性のため、現金の代用として考え出されたものです(数え間違いや運搬の煩雑さを避けるため)。小切手は、所持人から呈示を受けたら、直ちに支払わなければならない「一覧払い」です。

 受け取った小切手を取立てに出すための支払呈示期間は、振出日を含め11日間です(この間、金融機関の休業日があっても延長されません。)。11日目が休業日のときに限り、翌営業日まで伸びます。ただし、実際には、呈示期間を過ぎてしまっても、振出人からの支払委託の取り消しがない限り(金融機関が振出人に連絡して、支払いを拒否されなければ)、金融機関は支払いをしてくれます。

 呈示とは、小切手・手形を振出人に見せて、引き換えに代金を支払うよう請求することをいいますが、実務上は、金融機関に取り立てを依頼します。

 

 小切手の振出日が、将来の日付になっていることがあります。これを、「先日付(さきひづけ)小切手」といいます。先日付小切手は、法律的には、普通の小切手と同じ扱いです(一覧払い)。すなわち、金融機関に取り立てに出せば、振出人の当座預金に残高がある限り、支払いを受けることができます。ただし、先日付小切手は、小切手に記された振出日が到来しないうちは取立てに出さないという振出人と受取人の約束(信頼)を重んじて、振出日まで待つのが商慣習です。当事者間では、先日付小切手は、きわめて短期の手形という認識です。

 

 自社は通常、小切手を発行する必要はないので当座預金を開設していないが、単発的に小切手で支払いたいというときのために、金融機関が作成する預金小切手(通称、「預手(よて)」)があります(もちろん、当座預金が開設してあっても、預手の作成を金融機関に依頼することは可能です。)。預手は、すでに現金や預金を金融機関に支払い、その代わりに金融機関が振り出してくれる小切手であり、不渡りの心配がないため、たいへん信用力の高いものです。預手は、不動産取引の決済のときによく用いられます

 

・小切手の様式と特徴

  小切手帳(小切手用紙)は、自社の取引金融機関で、当座預金開設後に購入します(1冊50枚単位の綴り)。文具店では売っていませんし、自社で独自に作成することもできません。小切手は、点線のところで切り離し、支払先に渡します。点線の左側の小切手控は、通称、「小切手のミミ(耳)」といいます。小切手本体を人間の顔に見立て、その端にあるという意味で「耳」というのでしょう。

 

 小切手帳は1冊使い終わると、50枚の控だけが残るので、監査や税務調査の証拠用に保管しておきます。書き損じて破棄した小切手は、捨ててしまわないで、控にホッチキスで止めておくとよいでしょう(または、書き損じた小切手の番号を切り取り、控に貼っておく方法もあります。)。使用しなかったということの証明のためです。

 

 小切手を発行するとき、振出人(発行会社)が記入するのは、金額・振出日・振出人欄です。金融機関名などはすでに印刷されています。金額欄に「1、2、3… 」 というアラビア数字(算用数字)を用いる場合には、チェックライターを用いる必要があります(最初に¥、最後に※または☆を記入します。)。手書きでアラビア数字を書いても、金融機関で受け付けてくれません。手書きの場合には、漢数字「壱、弐、参… 」を用い、文字の間を詰めます(最初に金、最後に円也を記入)。なお、 金額を訂正した小切手は無効になるので、新しい小切手用紙に書き直す必要があります。金額以外の記載事項を訂正したときは、その箇所に金融機関届出印を押します(実務上は、金額以外でも書き損じたときは、新しく作り直した方がよいでしょう。)。振出人欄には、会社名・代表者の肩書・代表者名の3つを書き(実務上は、ゴム印)、届出印を押します。

 

 振出人(発行会社)は、通常、小切手の左上または右上の箇所に、二重線の間に「BANK」(または「銀行渡り」)と書いてから(実務上は、ゴム印)、相手に渡します。これを、「線引(せんびき)小切手横線(おうせん)小切手)」といい、紛失や盗難の危険性に対処するものです。

 

 線引でない小切手は、金融機関の窓口で現金にすることができます(小切手用紙に記載されている支払金融機関に直接呈示することが必要)。しかし、線引小切手は、すぐには(小切手と引き換えには)現金化できず、預金口座に入金になります。これにより、入金までに時間がかかりますし、入金後も誰の口座に入金したかがわかります。紛失・盗難のときには、すぐ金融機関に連絡して、小切手の支払いをストップしてもらうことが必要です(支払委託の取消し)。

 

 なお、線引小切手でも、小切手の裏面に振出人の会社名・代表者の肩書・代表者名を記し、金融機関届出印を押印した「裏判(うらばん)」があれば、支払金融機関に持ち込んで呈示することにより、すぐに現金化できます。自社の当座預金から現金を引き出すときには、通常、この方法によります(小切手用紙は、購入したらすぐに二重線のゴム印を押し、線引にして保管することが多いので)。

 

・小切手の支払側と受取側の設例

 

(支払側)

 

(設例)

 決算日近くに、買掛金の支払いのため、小切手100,000円を仕入先に渡した。決算日現在、当座預金からはこの100,000円は引き落とされていない。

 

(借)買掛金 100,000  (貸)当座預金 100,000

 

 小切手を渡したとき、当座預金の減少の仕訳を行います(小切手の振出しの仕訳の貸方は、必ず当座預金となります。)。まだその日では自社の当座預金は減っていませんが、数日後には減少することは明らかだからです。一種の保守主義の適用と考えられます。

 

(設例)

 決算日近くに、買掛金の支払いのため、先日付小切手130,000円を仕入先に渡した。決算日現在、当座預金からはこの130,000円は引き落とされていない。

 

(借)買掛金  130,000  (貸)当座預金 130,000

(借)当座預金 130,000  (貸)支払手形 130,000

 

 先日付小切手の場合には、当事者間における短期の手形という認識を尊重し、貸借対照表の表示としては「支払手形」とします。したがって、決算においては、当座預金から支払手形に振り替える決算整理仕訳を行い、当座預金は減少していないという処理にします。

 実務上は、重要性の原則を適用して(重要性がないので)、支払手形に振り替えず、当座預金の減少のままにしておくこともあります。

 

(受取側)

 

(設例)

 得意先より売掛金の代金として小切手200,000円を入手し、自社の金庫に保管した。その後、金融機関に取り立てに出し、普通預金に入金した。

 

(借)現  金  200,000 (貸)売掛金  200,000

(借)普通預金  200,000 (貸)現  金 200,000

 

 小切手を会社で保有しているときは、現金扱いとします(先日付小切手も同じ処理でよいでしょう。)。その後、金融機関に持ち込んだときに現金から預金に振り替えます。小切手を入金するときは、振出しとは異なり、当座預金だけでなく普通預金でも可能です。

 

(設例)

 得意先より売掛金の代金として先日付小切手240,000円を入手し、自社の金庫に保管した。その後、そのままの状態で決算を迎えた。

 

(借)現  金 240,000 (貸)売掛金  240,000

(借)受取手形 240,000 (貸)現  金 240,000

 

 決算日現在、先日付小切手が自社に残っているときには、貸借対照表の表示としては受取手形に含めます。したがって、現金から受取手形に振り替える決算整理仕訳を行います。

 実務上は、重要性の原則を適用して(重要性がないので)、受取手形に振り替えず、売掛金の減少のままにしておくこともあります。

 

(設例)

 得意先より売掛金の代金として小切手300,000円を入手し、直ちに金融機関に取立てに出し普通預金に入金した。

 

(借)普通預金 300,000 (貸)売掛金 300,000

 

 小切手をもらいすぐに預金に入れたときは、経理処理を簡便にするため現金を通さないで、直接、預金への入金処理としてよいでしょう。

 

・手形の意義と様式

 

 手形は、法律的には、約束手形と為替(かわせ)手形の2種類があります。しかし、為替手形は実務的にはあまり用いられないので、以下、約束手形を前提に述べて行きます。なお、会計では、約束手形という勘定科目はありません。受け取った場合には「受取手形」、振り出した場合には「支払手形」を用います。

 

 手形が小切手ともっとも異なる点は、一覧払いでなく、支払期日は数ヶ月先だということです。手形は振り出したとき資金がなくても、支払期日において当座預金にその残高があればよいわけです。ただし、手形を振り出すということは、期日に支払いを約束したことであり、買掛金より強い性格を持っています。もし、期日に支払いができなく不渡りを2回出すと、銀行取引停止処分(2年間、当座預金取引と借入が不可能)となります。振出人は、その後のビジネスを行うことが、実質的に難しくなります。

 

 手形は、振出日から満期日まで、数ヶ月あるのが普通です。これを「手形サイト」といいます(60日サイト、3ヶ月サイトなど)。サイトが長いほど不渡りになるリスクは高まるので、手形の受取人はなるべくサイトを短くしたいと思います。逆に、手形の振出人は、サイトが長い方が資金繰りが楽になるので、なるべく長くしたいと考えるのが普通です。

 

 約束手形は、横長で小切手より1周り大きいサイズです(手形帳は、小切手帳と同様、1冊50枚綴りであり、自社の取引金融機関で購入します。)。振出人(発行会社)が記入するのは、金額・支払期日(満期日)・受取人・振出日・振出地・振出人欄です。支払金融機関などは、すでに印刷済みです。点線の左側の発行控は、通称、「手形のミミ(耳)」といいます。 

  

・受取手形の3とおりの処理

 

 受け取った手形を、その後どのように処理するかについては、次の3とおりの方法があります。

① 満期日まで待って資金化(手形の取り立て)

② 満期日まで待たず、早期に金融機関で資金化(手形の割引)

③ 支払手形の代わりに使用(手形の裏書譲渡)

 

① 手形の取立て

 

 資金繰りに余裕があれば、そのまま持っており、取り立てにより満期日に入金します。手形を取り立てに出す場合には、呈示期間内に行うことが必要です。呈示期間とは、満期日とそれに続く2取引日です。満期日と2取引日は、金融機関の営業日だけを数えるので、休業日があるときはその分だけ次の日に伸びます。実務的には、期日に遅れないように、早めに金融機関に取立てを依頼しておきます。

 もし、手形の呈示期間を過ぎてしまったら、金融機関では受け付けてくれませんので、直接、振出人から支払ってもらうしかありません(この点は、小切手との相違点です。)。

 

(設例)

 約束手形550,000円を金融機関に取立てに出し、満期日に普通預金に入金になった。

 

 受取手形の減少と、普通預金の増加を認識します。

(借)普通預金 550,000 (貸)受取手形550,000

 

 振出人が期日に資金を用意できない場合、支払いを延期してもらうことがあります。この場合、前の手形を返還し、期日を延期した新しい手形を入手します。これを、「手形のジャンプ」といいます。

 

(設例)

 約束手形650,000円を発行会社に返却し、代わりに、前の手形の満期日を振出日とした新しい約束手形650,000円を入手した。

 

 借方と貸方が同じなので、仕訳はしなくてもよいのですが、書き換えたということを明らかにするため、次の仕訳を行った方がよいでしょう。借方は新しい手形の増加を意味し、貸方は前の手形の減少を意味します。

(借)受取手形 650,000 (貸)受取手形 650,000

 

② 手形の割引

 

 資金繰り上必要な場合には、満期日まで待たず、手形を金融機関で割り引くことがあります(金融機関以外に、手形割引を引き受ける手形割引業者も存在します。)。この場合、割引料を金融機関に支払います。割り引いたときに、法律上、金融資産(手形債権)の消滅を認識するので、会計上、割引料は「手形譲渡損(手形売却損)」とします。

 

 手形は、本来、満期日に振出人がその当座預金より支払うものです。割引の性格は、割引日から満期日までの数ヶ月間、金融機関が資金を立て替えて受取人に貸していると考えることもできます。金融機関は、融資した資金を満期日に振出人より回収するわけです。したがって、金融機関は、割引料については、割引日より満期日までの利息(金利)として計算しています。

 

(設例)

 約束手形2,00,000円を金融機関で割り引き、割引料10,000円が差し引かれ普通預金に入金になった。

 

 この場合、次のような処理となります。

(借)普通預金  1,990,000 (貸)受取手形  2,00,000

   手形譲渡損    10,000    

 

 

③ 手形の裏書譲渡

 

 手形の裏書譲渡(うらがきじょうと)(「手形の裏書」、「手形の譲渡」ともいいます。)とは、支払先に支払手形を振り出す代わりに、適当な金額と期日の受取手形が手もとにあれば、それを支払いに回すことをいいます。裏書譲渡された手形のことを、「回し手形」ということもあります。

 

 裏書譲渡の場合、具体的には、手形の裏面に、住所・会社名・代表者の肩書・代表者名を書きます(実務上は、ゴム印)。そして、印鑑(金融機関届出印でなくてもよい)を押し、譲渡先に渡します。被裏書人の欄に譲渡先の名前を書いてから渡してもよいし、この欄には何も書かないで譲渡してもかまいません。

 

 手形を裏書譲渡された被裏書人は、さらに他社に譲渡することもできます。ただし、被裏書人が次の裏書人になっているという裏書の連続性が必要です。被裏書人欄がブランクの場合は、次の裏書人と同一とみて裏書は連続していると考えます。

 裏書譲渡した裏書人は、全員が、もし振出人が期日に支払うことができなく手形が不渡りになった場合に、代わりに支払う義務を負います。ただし、実務上、裏書譲渡はちょうどよい金額と期日の手形がある場合に限られるので、通常、裏書が長く続くことはあまり考えられません。

 

(設例)

 約束手形750,000円を、買掛金の支払いのため、仕入先に裏書譲渡した。

 

 買掛金の減少と受取手形の減少とを、ともに認識します。

 

(借)買掛金 750,000 (貸)受取手形 750,000

 

 

※本稿は、次の拙稿を加筆修正したものです。

寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第2回 小切手と手形』月刊スタッフアドバイザー 2009年5月号

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。