「自己株式(自社株)の会計と申告書設例」

 

2021年(令和3年)9月11日(最終更新2022年11月20日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・会計上の自己株式(自社株)

 

 会計上、2001年(平成13年)まで、自己株式は流動資産とされていました。換金性があり、また、旧商法では長期的に保有することは認められず、相当の時期に処分する必要があったからです。現在では、取得した自己株式は、取得価額をもって純資産の部から控除します。その理由は、保有についての制限がなくなったこともあり、本来の資本の払戻しという性格を重視したためです。国際的な会計基準においても、純資産の部の控除項目とされています。

 

 具体的には、期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に、自己株式として一括して控除する形式で表示します。これは、自己株式を取得したのみでは、発行済株式総数が減少するわけではありません。取得後の処分があり得るので、自己株式の保有は、処分(または消却)までの暫定的な状態であると考えているためです。

 

 処分とは、主に、自己株式の発行会社が保有している自己株式を売却(譲渡)することです。他に、新株発行の代わりに保有している自己株式を交付することも、処分に含まれます。

 自己株式の消却とは、会社の保有する特定の自己株式を消滅させることをいいます。株主名簿から抹消し、株券発行会社の場合には株券を破棄します。ただし、自己株式は処分で用いることができるので、消却するメリットはなく、実際には、消却はあまり行われません。会社法では、「株式の消却」は「自己株式の消却」のみが認められています。株主が株式を保有している状態での消却は認められていません。自己株式の消却により、会社も株主も、新たな課税が生ずることはありません。

 

 

 自己株式の処分は、新株発行と同様の経済的実態を有し、株主との間の資本取引と考えられます。

 

 したがって、自己株式処分差益は、株主からの払込資本と同様とみて、処分価額(払込価額)がその他資本剰余金に計上されます。会社法上、自己株式処分差益は、資本準備金には該当しません。「差益」とはなっていますが、損益計算書の収益ではありません。

(借)現金預金 ×××  (貸)自己株式        ×××

                               自己株式処分差益×××

 

 自己株式処分差損は、払込資本の払戻しと同様の性格を有するので、その他資本剰余金から減額します。「差損」とはなっていますが、損益計算書の費用ではありません。

(借)現金預金          ×××   (貸)自己株式×××

      自己株式処分差損×××

 

  自己株式を消却する場合は、処分のときと同様、自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します。「自己株式消却額」も、損益計算書の費用ではありません。

(借)自己株式消却額×××    (貸)自己株式×××

 

 その他資本剰余金の残高を超えた自己株式処分差損・自己株式消却額が生じた場合には、その他資本剰余金がマイナスとなります。企業会計基準では、その他資本剰余金は、株主からの払込資本のうち資本金・資本準備金に含まれないものを表すため、本来、マイナスのその他資本剰余金という概念は想定されないとしています。したがって、企業会計基準では、その他資本剰余金がマイナス残高となる場合には、利益剰余金で補填するしかないとしています。

 具体的には、期末において、その他資本剰余金(自己株式処分差損・自己株式消却額)がマイナス残高となる場合には、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)と相殺して、その他資本剰余金を0とします。処分時に借方に計上された自己株式処分差損を貸方に計上して消去します。そして、本来、貸方項目である繰越利益剰余金を借方に計上することによって、繰越利益剰余金を減少させます。

(借)繰越利益剰余金×××  (貸)自己株式処分差損×××

 

 なお、企業会計基準では、このような処理は資本と利益の混同にはあたらないとしています。筆者は、この場合は、利益剰余金マイナス残高のその他資本剰余金による補填と同様、資本と利益の区別の原則の例外と捉えた方がよいと考えています。

 

 自己株式の取得・処分・消却に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用とします。新株発行費用の場合、株主資本から減額しない処理が採用されているので、その処理との整合性を保つためです。自己株式の付随費用は、税務上も、損金算入が認められます。

 

 

・税務上の自己株式(自社株)

 

  自己株式の発行会社は、相対(あいたい)取引(※)の場合、自己株式の取得をもって資本金等の払戻しとし、利益の分配の額は利益積立金の減少とし、両者を分けて考えます。会計上は分けて考えないので、会計上と税務上の相違が生じます。

※相対(あいたい)取引:証券市場を通さないで、売り手と買い手とで行う個別的な取引。

 

 税務上、減少させる利益積立金の額は、次のような按分計算によります。資本金等の額からの払戻しとみなされる額を超えた額は、利益積立金からの払戻しとしてみなし配当課税の対象になります。株主側では、資本金等の額からの払戻額が譲渡対価となり、帳簿価額(譲渡原価)との差額は譲渡損益となります。 

   税務上、自己株式処分損益は資本金等の増加・減少とされます。自己株式を消却した場合には、税務上の仕訳はありません。自己株式の取得の時点で資本の払戻しが行われたという処理をしているためです。

 

 消費税法上、相対取引の場合、自己株式の取得・処分・消却は、いずれも課税対象外(不課税)取引となります。

 

 以上と異なり、証券取引所の市場取引で自己株式を取得した場合には、交付金銭等のすべてを資本金等の払戻しとします。利益積立金の減少とみなし配当は生じません。市場取引の場合には、売り手である株主は、相手が発行会社であるということを知り得ないためです。

 

 

・ 設例1…相対取引の取得の場合

 

(設例1)

 相対取引で自己株式を1,000取得(うち税務上の資本金等700、利益積立金300)。みなし配当の源泉所得税60。入出金は普通預金とし、金額の単位省略(以下の設例も同じ)。

 

 株主資本等変動計算書、法人税申告書別表四、五(一)Ⅰ、五(一)Ⅱは、どのようになりますか。

 

株主資本等変動計算書

 

株主資本

 

資本剰余金

自己株式

株主資本合計

その他資本剰余金

当期首残高

 

 

 

 

当期変動額

 

 

 

 

 自己株式の取得

 

 

1,000

1,000

当期末残高

 

 

△1,000

 

 

 別表四

        

   

        

   

社外流出

当期利益

 

 

 

加算

 みなし配当

300 

 

配当300 

減算

 自己株式認容

300 

300 

 

所得金額

 

 

 

 

別表五(一)Ⅰ

      

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

   

資本金等

 

 

△300 

300

 

別表五(一)Ⅱ

     

期首資本金等

当期の増減

翌期首資本金等

   

    増

自己株式

 

 

△1,000 

1,000

利益積立金

 

 

300

300

 

会計上の仕訳

(借)自己株式   1,000     (貸)普通預金    940

                                    預 り 金      60

税務上の仕訳

(借)資本金等      700    (貸)普通預金    940

    利益積立金   300         預 り 金       60

申告調整の仕訳

(借)利益積立金   300     (貸)資本金等   300

 

 会計上の仕訳は、自己株式の借方に1,000計上し、株主資本の減少を表します。一方、税務上の仕訳の借方は、その構成に従い、資本金等700の減少と利益積立金300の減少とします。会計上の仕訳の自己株式は、税務上、資本金等を意味します。したがって、資本金等から振り替えて、借方に利益積立金を300計上する申告調整の仕訳が必要になります(「会計上の仕訳」に「申告調整の仕訳」を加えて、「税務上の仕訳」になるようにするので。)。

 

 申告調整の仕訳で借方に利益積立金300があるので、利益積立金の減少であり、発生なので、別表五(一)Ⅰの増に△300で記入します(または、△なしで、減に300記入でもかまいません。)。同様に、別表五(一)Ⅱ増の自己株式△1,000は、会計上の仕訳の借方1,000を表します(または、△なしで、減に1,000記入でもかまいません。)。それに対して、別表五(一)Ⅱ増の利益積立金は、申告調整の仕訳の貸方300を表します。

 

 別表五(一)Ⅰの残高△300は、税務上の仕訳の利益積立金の減少300を表しています。別表五(一)Ⅱ残高の△1,000+300=△700は、税務上の仕訳の資本金等の減少700を表しています。

 

 自己株式の取得は損益に関係しないので、別表四には記入がないはずです。ただし、別表五(一)Ⅰの利益積立金の増に△300記入されるので、それと対応させるため、別表四の減算・留保に300記入します。一方、別表四の加算・社外流出に300記入します。これにより、別表四の総額としては、加算300と減算300で差引0となります。

 

 自己株式を譲渡した株主側は、300の受取配当となります。そして、株式の帳簿価額が450であったならば、譲渡対価700-譲渡原価450=250の譲渡益(※)となります。株式の帳簿価額が850であったならば、譲渡原価850-譲渡対価700=150の譲渡損(※)となります。みなし配当の額は変わらないが、譲渡対価と帳簿価額(譲渡原価)の大小により、譲渡益になったり譲渡損になったりします。

※「完全支配関係」がある場合には、譲渡益や譲渡損の箇所は、資本金等となります。

  

 

 

・設例2…処分差益の場合 

 

(設例2)

 設例1の自己株式を1,400で売却した。

 

 株主資本等変動計算書、法人税申告書別表五(一)Ⅰ、五(一)Ⅱは、どのようになりますか。

 

株主資本等変動計算書

 

株主資本

 

資本剰余金

自己株式

株主資本合計

その他資本剰余金

当期首残高

 

×××

1,000

 

当期変動額

 

 

 

 

 自己株式の処分

 

400

1,000

1,400

当期末残高

 

×××

0

 

 

別表五(一)Ⅰ

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

資本金等

300

 

 

300

 

別表五(一)Ⅱ

     

期首資本金等

当期の増減

翌期首資本金等

    減

    増

自己株式

1,000

△1,000 

 

0

自己株式処分差益

 

△400 

 

400

利益積立金

300

 

 

300

 

会計上の仕訳

(借)普通預金 1,400  (貸)自己株式        1,000

                              自己株式処分差益 400

税務上の仕訳

(借)普通預金  1,400  (貸)資本金等    1,000

              資本金等   400

申告調整の仕訳

仕訳なし

 

 税務では、自己株式の処分額をすべて、資本金等とみます(新株発行と同じなので。)。したがって、会計上の仕訳の貸方の自己株式1,000と自己株式処分差益400は、税務上の仕訳ではいずれも資本金等の増加となります。会計上の仕訳と税務上の仕訳が一致するので、申告調整の仕訳はありません。自己株式を売却して処分差益が計上される場合には、申告調整の仕訳はなしとなります。

 申告調整の仕訳がないので、別表五(一)Ⅱの記入はすべて会計上の仕訳です。そして、別表五(一)Ⅰでは、利益積立金は会計上の利益剰余金よりも300少ないことを表します。別表五(一)Ⅱでは、資本金等は会計上の資本金・資本剰余金よりも300多いことを表します。これら300の差異は、翌期以降も永久に残ります。

 

 別表五(一)Ⅱは、解消なので、減に△1,000と△400を記入していますが、△印を付けないで増に1,000と400を記入してもかまいません。

 

 

・設例3…処分差損の場合

 

(設例3)

 設例1の自己株式を800で売却した。自己株式処分差損はその他資本剰余金より減額。

 

 株主資本等変動計算書、法人税申告書別表五(一)Ⅰ、五(一)Ⅱは、どのようになりますか。

 

株主資本等変動計算書

 

             株主資本

 

資本剰余金

自己株式

株主資本合計

その他資本剰余金

当期首残高

 

×××

1,000

 

当期変動額

 

 

 

 

 自己株式の処分

 

200

1,000

800

当期末残高

 

×××

0

 

 

別表五(一)Ⅰ

     

期首利益積立金

     当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

資本金等

300

 

 

300

 

別表五(一)Ⅱ

     

期首資本金等

     当期の増減

翌期首資本金等

    減

    増

自己株式

1,000

△1,000

 

0

自己株式処分差損

 

200

 

200

利益積立金

300

 

 

300

 

会計上の仕訳

(借)普通預金           800   (貸)自己株式 1,000

    自己株式処分差損 200   

税務上の仕訳

(借)普通預金    800  (貸)資本金等 1,000

      資本金等  200

申告調整の仕訳

仕訳なし

 

 会計上の仕訳の借方に計上されている自己株式処分差損200は、その他資本剰余金の減少を表します。また、税務上の仕訳では、自己株式1,000、自己株式処分差損200いずれも、資本金等となります。そのため、会計上の仕訳と税務上の仕訳は一致し、申告調整の仕訳はなしとなります。申告調整の仕訳がないので、別表五(一)Ⅱの記入(減△1,000と減200)は、すべて会計上の仕訳です。

 

 別表五(一)Ⅱでは、解消なので、減に△1,000を記入していますが、△印を付けないで増に1,000を記入してもかまいません。

 

・設例4…消却の場合

 

(設例4)

 設例1の自己株式を消却した。消却額はその他資本剰余金より減額。

 

 株主資本等変動計算書、法人税申告書別表五(一)Ⅰ、五(一)Ⅱは、どのようになりますか。

 

株主資本等変動計算書

 

             株主資本

 

資本剰余金

自己株式

株主資本合計

その他資本剰余金

当期首残高

 

×××

1,000

 

当期変動額

 

 

 

 

 自己株式の処分

 

1,000

1,000

0

当期末残高

 

×××

0

 

 

別表五(一)Ⅰ

     

期首利益積立金

     当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

資本金等

300

 

 

300

 

別表五(一)Ⅱ

     

期首資本金等

     当期の増減

翌期首資本金等

    減

    増

自己株式

1,000

△1,000 

 

0

自己株式消却額

 

1,000

 

1,000

利益積立金

300

 

 

300

 

会計上の仕訳

(借)自己株式消却額 1,000  (貸)自己株式 1,000

税務上の仕訳

(借) 資本金等       1,000  (貸)資本金等 1,000

申告調整の仕訳

仕訳なし

 

 会計上の仕訳の借方に計上されている自己株式消却額1,000は、その他資本剰余金の減少を表します。また、税務上の仕訳では、自己株式1,000と自己株式消却額1,000はいずれも資本金等となります。そのため、会計上の仕訳と税務上の仕訳は一致し、申告調整の仕訳はなしとなります。

 

 別表五(一)Ⅱの減の記入(△1,000と1,000)は、すべて会計上の仕訳です。別表五(一)Ⅰの残高△300と別表五(一) Ⅱの△1,000と300は、翌期以降も永久に残ります。

 

 別表五(一)Ⅱの自己株式は、解消なので、減に△1,000を記入していますが、△印を付けないで増に1,000を記入してもかまいません。

 

 

本稿は、次の拙稿をもとに、加筆修正したものです。

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第13回 「自己株式」の七変化』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)8月号

寺田誠一稿『仕訳・図表・事例で理解する純資産の部の会計と税務』月刊スタッフアドバイザー 2006年(平成18年)10月号

寺田誠一稿『税理士と実務家のための会計シリーズ第3回 自己株式』週刊税務通信2003年(平成15年)8月25日号

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。

 

 

※参考文献

太田達也著『自己株式の実務完全解説』税務研究会出版局

齋藤雅俊著『純資産の部の変動 税務実務ハンドブック』税研情報センター

齋藤雅俊著『住民税均等割額判定基準の改正と実務対応』税研情報センター