「資産除去債務の各種処理(多様性)」

 

2020年(令和2年)9月1日(最終更新2022年3月21日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・資産除去債務の意義と処理

 

 資産除去債務とは、有形固定資産の除去(有害物質の除去を含む。)について、法令または契約により、要求されている法律上の義務(それに準ずる不可避的な義務を含む。)をいいます。

 この資産除去債務は、2008年(平成20年)の「資産除去債務に関する会計基準」により処理されます。資産負債の両建処理を採用した点が特徴です。

 すなわち、資産除去債務は、それが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュフローを見積り、割引後の金額(割引現在価値)で負債に計上します。支払いが1年超なので、固定負債に表示します。支払いが1年内となった場合には、流動負債とします

 同時に、同額を、有形固定資産の帳簿価額に計上します。そして、減価償却を通じて、残存耐用年数にわたり、各期に費用配分します。

 

・資産除去債務の設例

 

(設例)

 ×1期期首に建物5,000,000円を取得し(普通預金より支払い)、使用を開始した。使用後の除去に法的義務があり、500,000円の支出が見込まれる。定額法、耐用年数5年、残存価額0、割引率1%とする。×1期期首と×1期期末の仕訳はどうなりますか。

 

(×1期期首)

(借)建  物 5,471,023 (貸)普通預金   5,000,000

                資産除去債務     471,023*

*:500,000円÷(10.01)5471,023

 

(×1期期末)

(借)減価償却費 1,094,204 (貸)建  物    1,094,204*1

(借)利息費用            4,710 (貸)資産除去債務   4,710*2

*1:5,471,023円÷5年=1,094,204円…減価償却費

 

 資産除去債務の割引現在価値が、時の経過により利息分だけ増加しているので、それを利息費用(資産除去債務の調整額)として認識します。この費用は、損益計算書において、減価償却費と同じ区分に計上します。たとえば、減価償却費が「販売費及び一般管理費」に計上されている場合には、利息費用も「販売費及び一般管理費」に計上します。

*2:471,023円×0.01=4,710円…利息費用

 

 ×1期期末の資産除去債務の残高475,733円は、次の計算結果と一致します。

500,000円÷(10.01)4475,733

  

 資産が除去される場合、負債に計上された資産除去債務の額と、実際の支払額との間に差額が生じることがあります。この差額も、利息費用と同様、減価償却費と同じ区分に計上します。

 

 

・コラム「資産除去債務の各種処理」

 

 資産除去債務には、さまざまな処理方法が考えられます。具体的には、下記の仕訳の借方を、費用または資産にどのような金額で計上するか、貸方(負債)を、どのような科目と金額で計上するかということです。

(借)資産除去費用    ××× (貸)資産除去債務   ×××

 

 借方の資産除去費用については、主に、次の3とおりの処理が考えられます。

(借-1)費用計上

(借-2)資産計上(固定資産)*    

(借-3)資産計上(単独科目)

 *:「資産除去債務会計基準」が採用した方法

 

 貸方の資産除去債務については、主に、次の3とおりの処理が考えられます。

(貸-1)分割計上(引当金)

(貸-2)総額計上(引当金)

(貸-3)総額計上(単独科目)*    

*:「資産除去債務会計基準」が採用した方法

 

 (借-1)費用計上と(貸-1)分割計上(引当金)との組み合わせは、各期に分割した損失性の引当金繰入額を計上する方法です。従来の各種引当金処理との整合性はあります。ただし、全体としての債務の総額が明示されなく、資産負債アプローチに合致しないという難点があります。

 

 (借-3)資産計上(単独科目)は、将来提供される除去サービスの前払い(広義の長期前払費用)としての性格を有するという考え方です。「資産除去債務会計基準」では、資産除去費用は①法律上の権利ではなく、財産的価値もないこと、②独立して収益獲得に貢献するものではないことから、この方法を採用しなかったと述べています。

 

 (借-2)資産計上(固定資産)は、「資産除去債務会計基準」では、有形固定資産の稼働にとって不可欠なものであるため、取得に関する付随費用と同様に処理することにしたと説明しています。

 しかし、収益費用アプローチでは、費用性資産は過去の支出額を取得原価としています。資産除去費用は、将来の支出額であり、資産概念としては異質です。また、資産負債アプローチでも、資産は経済的資源であり、単なる将来の損失である資産除去費用を資産とすることには疑問があります。

 

 (貸-2)総額計上(引当金)と(貸-3)総額計上(単独科目)は、借方の(借-2) (借-3)の資産計上と結びつきます。「資産除去債務会計基準」が、(貸-2)総額計上(引当金)を採らなかったのは、引当金の相手科目は引当金繰入額(費用)であり、相手科目が資産となる例は今までなかったからでしょう。

 

 どの方法も、一長一短があり、難しいところです。

 

 借方側と貸方側の考えられる結びつきを、図で示しておきます。

 

 

(参考文献)

五十嵐邦正著『会計制度の論点』森山書店2020年 「補論2 Ⅰ 資産除去債務の処理を考える」

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。