「退職金の計算」

 

2020年(令和2年)7月20日(最終更新2023年12月17日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・退職金の特徴

 

 退職金は、一生の間に何回ももらうものではなく、また、老後の生活資金などになることも考慮して、給与(給料・賞与)よりも税金が安くなっています。

 退職金からは、所得税と住民税(都道府県民税と市町村民税)が天引きされます。社会保険と労働保険は、差し引かれません。

以下、勤続5年超の場合、税額などを算出するときの手順を述べます。

 

・退職所得控除額と課税退職所得金額

 

 退職金は、そのまま課税されるのではなく、勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引くことができます。退職金の額が退職所得控除額以下の場合には、税金はかからないわけです。

 退職所得控除額は、次のように、勤続年数が20年以下か20年以上かによって、変わってきます。20年までは、1年につき40万円ですが、20年を超えると1年につき70万円です。20年超でも、20年までの分は40万円で計算し、20年超の部分だけ70万円で計算します(累進税率と同じ方式です。)。

 なお、勤続年数を見るとき、1年未満の端数は切り上げます。

 

① 勤続年数20年以下:400,000円×勤続年数

          (800,000円未満の場合は、800,000円)

② 勤続年数20年超 :700,000円×(勤続年数-20年)+8,000,000円

 

 実際には、計算しなくても、「給料・賞与の源泉徴収税額表」の後ろの方のペ-ジに、勤続年数に応じた退職所得控除額の早見表が載っています。

 次に、退職金から退職所得控除を差し引いた後の額を1/2します。これを、課税退職所得金額といいます。1/2する点が、とても優遇されています(1/2するのは、原則、勤続5年超が条件)。

 

・所得税の計算

 

 退職金から退職所得控除額を差し引いて1/2した課税退職所得金額に、速算表を当てはめて、所得税を計算します。この速算表も、源泉徴収税額表の後ろの方のペ-ジに載っています。

 

 

課税退職所得(A

所得税率(B

控除額(C

1,950,000円以下

5

   -

1,950,000円超 3,300,000円以下

  10

97,500

3,300,000円超 6,950,000円以下

  20

427,500

6,950,000円超 9,000,000円以下

  23

636,000

9,000,000円超 18,000,000円以下

  33

1,536,000

18,000,000円超 40,000,000円以下

  40

2,796,000

40,000,000円超

  45

4,796,000

((A)×(B)-(C))×102.1%=税額(1円未満の端数は切り捨て)

 

 なお、以上のような計算をするためには、条件があります。退職者は、「退職所得の受給に関する申告書」に、勤続期間などを記入して、会社に提出する必要があります。記入した申告書は、税務署には提出しないで、会社に保管しておきます。この申告書の提出がないと、退職所得控除額を差し引かないもとの退職金の額の20%が、所得税となります。

 

・住民税の計算

 

 退職金から退職所得控除を差し引いて1/2した課税退職所得金額に、都道府県民税と市町村民税の税率をそれぞれ掛けて、住民税を算出します(それぞれ、100円未満の端数は切り捨て)。都道府県民税の税率は4%で、市町村民税(東京23区は区民税)の税率は6%です。

 なお、納付は、都道府県民税と市町村民税とを合計して、市町村に行います(納付書には、合算額を記載)。

 通常の給与に対する住民税の課税は1年遅れですが、退職金に対する住民税の課税は支払時です。退職して、会社との縁が切れてしまうので、住民税は後に延ばさず、退職時に徴収するという考えです。

 また、給与の住民税は普通徴収によっている場合でも、退職金の住民税は特別徴収によります。金額も大きくなるので、支払時に天引きして、課税もれがないようにという考えです。

 

・設例による計算

 

(設例)

 〇〇県〇〇市に住んでいる役員が退職。退職金50,000,000円、勤続年数 46年2ヶ月

 この場合、次の金額と仕訳はどうなりますか。

① 退職所得控除と課税退職所得

② 所得税

③ 住民税

④ 仕訳

 

① 退職所得控除と課税退職所得

 勤続年数は、1年未満の端数切上げで、47年となります。

700,000円×(47年-20年)+400,000円×20年=26,900,000円…退職所得控除

(50,000,000円-26,900,000円)×1/2=11,550,000円…課税退職所得

 

② 所得税の計算

(11,550,000円×0.33-1,536,000円)×1.021=2,323,285円…所得税

 

③ 住民税の計算

11,550,000円×0.04=462,000円…県民税

11,550,000円×0.06=693,000円…市民税

                     

④ 仕訳

(借)退職金 50,000,000  (貸)普通預金    46,521,715

                 所得税預り金    2,323,285

               住民税預り金    1,155,000

 

 退職金の計算手順をまとめると、次のとおりです。

① 勤続年数 → 早見表または計算で、退職所得控除を算出

 (退職金-退職所得控除) ×1/2 = 課税退職所得

② 課税退職所得 → 速算表で、所得税を算出

③ 課税退職所得 × 4% = 県民税

      課税退職所得 × 6% = 市民税

④ 退職金-所得税-住民税 = 手取額

 

 

 ※本稿は、次の拙著・拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一著 『新人経理マン・経理ウーマンのための初級経理レッスン』税務研究会出版局1999年(平成11年) 「レッスン2-18 退職金」

寺田誠一稿『聞くに聞けない会社経理のキホン 第12回 退職と起業』月刊スタッフアドバイザー2005年(平成17年)9月号

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。