「リースの会計と税務(法人税・消費税)」

 

2020年(令和2年)3月27日(最終更新2022年3月30日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・リース取引の意義と種類

 

 リース取引とは、特定の物件の所有者である貸手(リース会社)が、その物件の借手(ユーザー)に対し、リース期間にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手はリース料を貸手に支払う取引をいいます。

 

 リースの種類には、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引とがあります。

① ファイナンス・リース取引

 ファイナンス・リース取引とは、ユーザーが中途解約できないリース引で、自己所有と同様にリース物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、リース物件の使用コストを実質的に負担するリース取引をいいます。

② オペレーティング・リース取引

 オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース以外のリース取引をいいます。代表的なものは、いわゆる「レンタル」です。

 オペレーティング・リースの場合には、多くの企業で使用可能な汎用性の高い物件を対象にしており、必要な期間だけの短期的なリースが可能です。

 

 ファイナンス・リースとは、解約不能とフルペイアウトの2つの要件を満たすリース取引をいいます。

① 解約不能(ノンキャンセラブル)

  ファイナンス・リースは、リース期間の中途において、契約を解除することができないリース取引またはこれに準ずるリース取引をいいます。「これに準ずるリース取引」とは、解約可能であるとしても、解約に際し相当の違約金を支払わなければならないなどの理由から、事実上解約不能と認められるリース取引をいいます。

② フルペイアウト

 ファイナンス・リースは、ユーザーがリース物件の使用に伴って生ずるコストを実質的に負担することとなるリース取引をいいます。リース会社は、物件の購入代金・金利・税金・保険料・利益などを全額回収できるように(「フルペイアウト」)、リース料の総額を設定するわけです。

 

  ファイナンス・リース取引には、次の2種類あります。

① 所有権移転ファイナンス・リース取引

所有権移転ファイナンス・リース取引とは、リース物件の所有権がユーザーに移転すると認められるファイナンス・リース取引をいいます。

② 所有権移転外ファイナンス・リース取引

 所有権移転外ファイナンス・リース取引とは、所有権移転ファイナンス・リース取引以外のファイナンス・リース取引をいいます。つまり、所有権がリース会社にそのまま留保されているリースです。わが国のファイナンス・リースは、ほとんどすべて、所有権移転外ファイナンス・リースです。

 

リース取引の種類

リース取引

ファイナンス・リース取引

所有権移転ファイナンス・リース取引

所有権移転外ファイナンス・リース取引

オペレーティング・リース取引

 

 

 

 

・リース取引の会計処理

 

① 従来のファイナンス・リース取引の会計処理

 ファイナンス・リース取引は、法形式上は賃貸借取引であっても、経済的には、固定資産を購入してその代金が長期分割払いの取引、または金融機関から借入れてその資金で固定資産を購入する取引と同様と考えられます。したがって、その経済的実質を優先し、ファイナンス・リース取引については、原則として、売買処理を採ります。

 

 ただし、わが国においては、所有権移転外ファイナンス・リース取引については、従前、所有権がリース会社に留保されていることを重視し、例外的に賃貸借処理が認められていました。したがって、所有権移転外ファイナンス・リース取引は原則、売買処理ですが、実際にはほとんどの企業が簡便な賃貸借処理を採っていました。原則的な売買処理ではなく、例外的な賃貸借処理が圧倒的に多いという変則的な状態でした。なお、所有権移転ファイナンス・リース取引は、売買処理が採用されています。

 

 賃貸借処理は、ユーザーの貸借対照表にリース資産・リース負債が計上されないので、これをオフバランス処理ともいいます。また、リース資産・リース負債を貸借対照表に計上する処理をオンバランス処理といいます。

 

② 改正後のファイナンス・リース取引の会計処理

 国際的な会計基準はオンバランス処理であり、国際的な整合性の観点からも、わが国が所有権移転外ファイナンス・リース取引についてオフバランス処理を採り続けていくことが難しくなりました。

 よって、「リース取引に関する会計基準」が改正され、上場企業やその関係会社などは2008年(平成20年)4月1日以後開始する事業年度(2007年4月1日以後開始する事業年度からの早期適用も可)から、所有権移転外ファイナンス・リース取引についても、原則として、売買処理が採られることになりました。

 なお、例外的に、企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引でリース契約1件あたりのリース料総額が3,000千円以下のリース取引などは、賃貸借処理が認められています。

 

 ただし、この所有権移転外ファイナンス・リース取引について、原則、賃貸借処理が認められず売買処理となったのは、リース会計基準が強制適用される上場企業とその関係会社などです。税務と「中小企業会計指針」・「中小企業会計要領」は、所有権移転外ファイナンス・リース取引についても賃貸借処理を認めています。したがって、非上場の中小企業は、所有権移転外ファイナンス・リース取引について、会計事務の簡便性から、売買処理を採らずに引き続き賃貸借処理を採っているところが多いと思われます(物件ごとに、売買処理と賃貸借処理とを選択することができます。)。

 

③ オペレーティング・リース取引の会計処理

 オペレーティング・リース取引については、賃貸借処理が採られています。

 

リースの会計処理

有権移転ファイナンス・

リース取引

売買処理

有権移転外ファイナンス・

リース取引

上場企業・その関係会社等

売買処理*

中堅・中小企業等

賃貸借処理

オペレーティング・

リース取引

賃貸借処理

 

*重要性の乏しいもの(13,000千円以下等)は、賃貸借処理も許容

 

・法人税法の取扱い

 

 リース会計基準の改正を受けて、所有権移転外ファイナンス・リース取引について、法人税法では、2008年(平成20年)4月1日以降新規契約締結分から次のような取扱いとなりました。

 法人税法では、すべての所有権移転外ファイナンス・リース取引を売買処理として扱います。すなわち、リース資産を取得し減価償却を行います。減価償却の方法は「リース期間定額法」によります。リース期間定額法とは、残存価額を0として、リース期間にわたり定額法で償却して行く方法です。リース期間定額法の償却限度額は、次の式で表されます。

(リース資産の取得価額-残価保証額)×その事業年度のリース期間の月数/リース期間の月数合計

 

 残価保証額とは、リース期間終了時にリース資産の処分価額が契約において定められている保証額に満たないとき、その差額をユーザーがリース会社に支払うこととされている場合における保証額のことをいいます。実際には、そのような残価保証額の設定をしているリースはほとんどないので、残価保証額は0となります。

 

 また、法人税法は、すべての所有権移転外ファイナンス・リース取引について、資産計上しないで、賃貸借処理することも認めています。この点が、会計基準との大きな相違点です。

 すなわち、法人税法では、賃借料(リース料)として損金経理した金額は、償却費として損金経理をした金額に含まれるとしています。通常、賃借料はリース期間にわたって定額で、賃借料の事業年度合計額はリース期間定額法による減価償却限度額と一致するので、申告調整は不要となります。また、賃借料処理した場合には、申告書に添付する減価償却に関する明細書も必要ありません。

 

 所有権移転ファイナンス・リース取引については、税務上、従来から売買処理が採られており、ユーザーが選定している償却方法(定率法、定額法など)により減価償却していくことになります。

 

 オペレーティング・リース取引については、税務上も賃貸借処理となっています。

 

・消費税法の取扱い

 

 各事業年度の消費税の計算は、ごく簡単に示すと、次のとおりです。

課税売上高×10/110-課税仕入高×10/110=消費税納付税額

 

 課税仕入れに関する消費税を控除することを、仕入税額控除といいます。リースの場合、仕入税額控除を受ける時期はいつかという問題があります。当初の引渡時に一括して控除を受けるか、それともリース料を支払うごとに分割して控除を受けるかという問題です。結論からいうと、現在では、どちらも認められています。しかし、売買処理を採った場合には、固定資産の購入と同じなので、一括控除しか認められません。賃貸借処理を採った場合には、一括控除と分割控除の両方が認められます。

 

 消費税だけ考えるならば、一括控除の方が分割控除よりも仕入税額控除を受ける時期が早いので有利です。ただし、賃貸借処理を採って分割控除を選んだ方が、会計処理は簡便です。

 

 なお、2008年(平成20年)4月1日以降新規のリース契約からは、消費税については一括控除しか認められないという解釈がなされていました。賃貸借処理の場合には分割控除も認められるという取扱いが公表されたのは、2008年(平成20年)11月になってからです。4月から11月の間、中小企業においては、法人税法が賃貸借処理を認めているにもかかわらず、消費税法が一括控除しか認めていないという理由で、売買処理を採った新規物件があります。賃貸借処理で一括控除するためには、税込経理方式ではだめで税抜経理方式を採る必要があり、さらに当初消費税だけを計上する特殊な会計処理をする必要があるからです(後述の設例参照)。2008年(平成20年)4月決算法人~8月決算法人は、心ならずも売買処理で申告したケースがあったと思われます(売買処理で申告した物件は、後で賃貸借処理に変更することはできません。)。過去の話ですが、分割控除を認めたこの取扱いは、もっと早く発表してほしかったと思います。

 

 

会計処理と消費税の関係

有権移転外

ファイナンス・

リース取引

売買処理

税込経理方式

一括控除

税抜経理方式

賃貸借処理

税抜経理方式

税込経理方式

分割控除

税抜経理方式

 

 

 

・設例による各種会計処理

 

(設例)

 リース物件のリース料総額(消費税抜) 6,000,000円(月100,000円×60か月)  リース資産価額(税抜)6,000,000円

 このとき、次の各場合、引渡時と月次の仕訳はどうなりますか(支払いは普通預金からとし、減価償却は月次で行うものとする。)。税抜経理は、仮払消費税を明示する別記方式で表示のこと。

① 売買処理(税込経理)

② 売買処理(税抜経理)

③ 賃貸借処理(税抜経理…一括控除)

④ 賃貸借処理(税込経理…分割控除)

⑤ 賃貸借処理(税抜経理…分割控除)

 

 

 

① 売買処理(税込経理)

 

(引渡時)

(借)リース資産 6,300,000(貸)リース債務 6,300,000

 

(月次)

(借)リース債務 105,000  (貸)普通預金  105,000

(借)減価償却費 105,000  (貸)リース資産 105,000

 

② 売買処理(税抜経理)

 

(引渡時)

(借)リース資産 6,000,000 (貸)リース債務 6,300,000

    仮払消費税     300,000

 

(月次)

(借)リース債務 105,000  (貸)普通預金  105,000

(借)減価償却費 100,000  (貸)リース資産 100,000

 

③ 賃貸借処理(税抜経理…一括控除)

 

(引渡時)

(借)仮払消費税  300,000  (貸)リース債務 300,000

 

(月次)

(借)賃借料   100,000   (貸)普通預金 105,000

    リース債務      5,000

 

 リース取引開始時に一括して入税額控除を受けるためには、引渡時に仮払消費税を計上する必要があります。したがって、賃貸借処理であっても、消費税だけを計上します。なお、賃貸借処理で税込経理の場合には、引渡時に仕訳がないので課税仕入れに該当するものがなく、一括しての仕入税額控除は受けられません。

 

④ 賃貸借処理(税込経理…分割控除)

 

(引渡時)

仕訳なし

 

(月次)

(借)賃借料  105,000 (貸)普通預金 105,000

 

⑤ 賃貸借処理(税抜経理…分割控除)

 

(引渡時)

仕訳なし

 

(月次)

(借)賃借料  100,000 (貸)普通預金 105,000

    仮払消費税   5,000

 

(付記)

 国際会計基準(IFRS)では、2019年(平成31年)1月1日以後開始する事業年度から、オペレーティング・リースも含め、リース取引全般について、売買処理が採られることとなりました。いずれ、わが国の会計基準にも影響が生じてくるかもしれません。

 

 

※本稿は、次の拙稿を、法令改正に合わせて加筆修正したものです。

寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第6回 リース取引』月刊スタッフアドバイザー 2009年(平成21年)9月号

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。