「組織再編会計」

 

2020年(令和2年)5月5日(最終更新2021年7月14日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・企業結合の意義と分類

 

 企業結合とは、ある企業(またはある企業を構成する事業)と他の企業(または他の企業を構成する事業)とが、1つの報告単位に統合されることをいいます。企業結合の形式としては、合併・会社分割・事業譲渡・株式交換・株式移転などの組織再編があります。

 企業結合が行われた場合、結合企業に適用すべき会計処理は、組織再編の形式にかかわらず、会計上の分類に基づき決定されます。企業結合の会計上の分類は、次の2つです(「取得」が原則で、「持分の結合」は例外です。)。

① 取得

 取得とは、ある企業が他の企業(または企業を構成する事業)に対する支配を獲得することをいいます。「支配」とは、ある企業(企業を構成する事業)の活動からの便益を受けるために、その企業(事業)の財務および経営方針を左右する能力を有していることをいいます。

② 持分の結合

 持分の結合とは、いずれの企業も他の企業を支配したとは認められない企業結合をいいます。

 

 

・企業結合の会計処理①…パーチェス法

 

 企業結合は、ごく少数を除いては、「取得」と考えられます。「取得」の場合には、次に述べるパーチェス法という会計処理が採用されます。

 「取得」の場合には、結合企業(吸収合併存続会社、吸収分割承継会社、新設分割設立会社、事業譲受会社など)は被結合企業(吸収合併消滅会社、吸収分割会社、新設分割会社、事業譲渡会社など)から受け入れる資産負債に、企業結合日の時価を付します。

 「取得」の場合、結合企業は、交付する株式などは時価で測定し、払込資本(資本金・資本剰余金・その他資本剰余金のいずれか)を増加させます。したがって、時価で受け入れた資産負債との差額として、「のれん」が計上されることがあります。「のれん」は無形固定資産とし、償却額は販売費及び一般管理費に表示されます。

 

 

・企業結合の会計処理②…持分プーリング法

 

 企業結合が、例外的に、「持分の結合」と判定された場合には、存続(新設)企業は、消滅企業の株主資本の各項目を引き継ぎ、消滅企業の適正な帳簿価額をそのまま計上します。

 

 「持分の結合」として、持分プーリング法が適用されるのは、次の2つの場合に限られます。

① 共同支配企業の形成

 共同支配企業(ジョイント・ベンチャー)とは、複数の独立した企業により共同で支配される企業をいいます。共同支配企業の形成とは、複数の独立した企業が契約などに基づき、共同支配企業を形成する企業結合をいいます。

② 共通支配下の取引

 共通支配下の取引とは、結合当事企業(結合当事事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的でない企業結合をいいます。具体的には、②-1親会社と子会社との企業結合、②-2子会社と子会社との企業結合などがあります。

 

 

・設例

 

 A社はB社を吸収合併。合併比率1:1。B社株主に交付したA社株式の時価3,500(全額資本金とする。)。B社固定資産の時価2,000。

 

(パーチェス法の仕訳) 

(借)流動資産6,000   (貸)諸 負 債  5,000

      固定資産2,000        資 本 金  3,500

      の れ ん   500

 固定資産は、時価2,000で計上します。時価純資産3,000と買収の対価3,500との差額500が「のれん」となります。

 

(持分プーリング法の仕訳)

(借)流動資産6,000   (貸)諸 負 債  5,000

     固定資産3,000         資 本 金  2,000

                   資本剰余金  1,500

                     利益剰余金   500

 B社貸借対照表を、そのまま簿価で引き継ぎます。

 

 

・事業分離会計

 

 事業分離とは、ある企業を構成する事業を、他の企業(新設される企業を含む。)に移転することをいいます。事業分離の例としては、会社分割・事業譲渡などの組織再編があります。

 会計上は、分離元企業(吸収分割会社、新設分割会社、事業譲渡会社など)にとって、移転した事業に対する投資が継続しているか、それとも清算されたのかにより、適用すべき会計処理が異なります。

 

①  移転事業に対する投資が清算された場合…移転損益法

 投資が清算されたと判定された場合には、分離元企業が分離先企業(吸収分割承継会社、新設分割設立会社、事業譲受会社など)から受け取った対価は時価で評価され、移転した事業の適正な帳簿価額との差額が移転損益として計上されます。結合の場合のパーチェス法に対応した方法です。

 分離元企業が受け取った対価が現金預金などの財産である場合には、通常、投資が清算されたものとみなされます。

(借)諸 負 債  ×××  (貸)諸 資 産×××

     現金預金  ×××       移転損益×××

 

②  移転事業に対する投資が継続している場合…非移転損益法

 投資が継続していると判定された場合には、分離元企業が分離先企業から受け取った対価は、移転した事業の適正な帳簿価額に基づいて算定することになるため、移転損益は生じません。結合の場合の持分プーリング法に対応した方法です。

 分離元企業が対価として関係会社株式(子会社株式・関連会社株式)のみを受け取る場合には、投資は継続しているものとみなされます。

(借)諸  負  債    ×××  (貸)諸資産×××

     関係会社株式×××  

 

 

※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第12章 資本(純資産) 4 組織再編会計」 

  

 

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