「減損会計の手順」

 

2020年(令和2年)9月10日(最終更新2021年7月14日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・減損会計の意義

 

  2002年( 平成14年)、「固定資産の減損に係る会計基準」が公表され、わが国の減損会計が具体化しました。

 固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により、投資額の回収が見込めなくなった状態です。減損処理とは、そのような場合に、一定の条件のもとで、回収可能性を反映させるように、帳簿価額を減額する会計処理です。

 これは、棚卸資産の評価減や固定資産の臨時損失などと同様、事業用資産の過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り述べないために行われる会計処理です。すなわち、取得原価基準のもとで行われる帳簿価額の臨時的な減額です。

 

 

・減損損失の認識と測定

 

 減損会計は、固定資産を対象とします。そして、対象資産すべてについて減損の有無を調査することは、実務上、過大な負担となるので、以下のような手順で行います。

 

① 減損の兆候

 

 資産または資産グループ※1に減損の兆候(減損が生じている可能性を示す事象)がある場合には、減損損失を認識するかどうかの判定を行います。減損の兆候とは、たとえば、資産または資産グループについて、次のような事象が生じている場合です。

①-1 営業活動から生ずる損益またはキャッシュフローが、継続して、赤字であること。

①-2 回収可能価額※2を著しく低下させるような変化が生じること(たとえば、事業の廃止または再編成、転用、遊休状態など)。

①-3 経営環境の著しい悪化。

①-4 市場価格の著しい下落。

 

※1:資産または資産グループとは、他の資産または資産グループのキャッシュフロ-からおおむね独立したキャッシュフロ-を生み出す、最小の単位をいいます。

※2:回収可能価額とは、資産または資産グループの正味売却価額※3と使用価値※4のいずれか高い方の金額をいいます。

※3:正味売却価額とは、資産または資産グループの時価から処分費用見込額を控除して算定される金額をいいます。

※4:使用価値とは、資産または資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフロ-の現在価値をいいます。

 

② 減損損失の認識

 

 減損の兆候がある資産または資産グループについての減損損失を認識するかどうかの判定は、資産または資産グループから得られる割引前将来キャッシュフロ-の総額と帳簿価額を比較することによって行います。資産または資産グループから得られる割引前将来キャッシュフロ-の総額が帳簿価額を下回る場合には、減損損失を認識します。

割引前将来キャッシュフロ-の総額 < 帳簿価額

 

③ 減損損失の測定

 

 減損損失を認識すべきであると判定された資産または資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、その減少額を減損損失として当期の損失とします。

帳簿価額(簿価)-回収可能価額=減損損失

 

 

・減損処理後の会計処理

 

 減損処理を行った資産については、減損損失を控除した帳簿価額に基づいて、減価償却を行います。

 減損損失の戻し入れは行いません。その理由は、次のとおりです。

① 減損の存在が相当程度確実な場合に限って、減損損失を認識測定していること。

② 戻し入れは、事務的負担を増大させるおそれがあること。

 

 

・財務諸表の表示

 

 貸借対照表における表示は、原則として、減損処理前の取得原価から減損損失を直接控除して、減損処理後の金額をその後の取得原価とします。

 ただし、減損損失累計額を取得原価から間接控除する形式で表示することもできます。この場合、減損損失累計額を減価償却累計額に合算して表示することができます。

 損益計算書においては、原則として、特別損失に表示します。

 

 

※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第9章 固定資産と減価償却 9 減損会計」 

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。