「仕訳の練習1…売上」

 

2019年(令和元年)9月4日(最終更新2021年7月11日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・売上、売掛金の仕訳パターン

 

 売上の計上を考えてみます。まずはじめに、売上代金を現金や預金で入金した場合です。

 売上は収益であり、本来の場所は貸方(右側)です。売上が増加したので、本来の場所である貸方(右側)に計上します。

 一方、現金や預金は資産であり、本来の場所は借方(左側)です。したがって、現金や預金が増加したときは、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 

 よって、現金売上の仕訳は、次のようになります。

(借)現      金 ××× (貸)売   上 ×××

 

 もし、現金でなく預金で入金すれば、仕訳の借方(左側)は、普通預金や当座預金となります。

(借)普通預金 ××× (貸)売   上 ××× 

 

 掛け売りの場合には、現金や預金ではなく、売掛金となります。売掛金も資産なので、本来の場所は借方(左側)です。したがって、売掛金が増加したときは、本来の場所である借方(左側)に記入します。

(借)売 掛 金 ××× (貸)売   上 ×××

 

 売掛金が、現金で入金になった場合には、売掛金の減少です。資産である売掛金の本来の場所は借方(左側)です。売掛金が減少したので、本来の場所の反対側である貸方(右側)に記入します。

(借)現   金 ×××  (貸)売 掛 金 ×××

 

 売掛金が現金でなく預金で入金になれば、仕訳の借方(左側)は、普通預金や当座預金となります。

(借)普通預金 ×××  (貸)売 掛 金 ×××

 

 売掛金が手形で入金すれば、仕訳の借方(左側)は、受取手形となります。受取手形は資産なので、本来の場所は借方(左側)です。したがって、受取手形が増加したので、本来の場所である借方(左側)に記入します。

(借)受取手形 ×××  (貸)売 掛 金 ×××

 

・売上の計上

 

(設例)

 得意先と商品60,000円を販売する契約を結んだ。

 

 契約だけでは、資産・負債・資本・収益・費用の増減がないので、簿記上の取引とはならず、仕訳は行いません。

 

(設例)

 商品80,000円を販売し、代金は現金で受け取った。

 

 現金が増加していますが、現金は資産です。資産の本来の場所は借方(左側)です。現金が増加したので、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 次に、商品を販売した場合には、通常、売上という勘定科目を用います。売上は収益なので、本来の場所は貸方(右側)です。売上が増加したので、本来の場所である貸方(右側)に記入します。

 以上を総合して、仕訳は、次のようになります。

(借)現 金 80,000   (貸)売    上 80,000

 

(設例)

 商品 90,000円を販売し、代金は1ヶ月後に集金することとした。

 

 販売代金が未収ですが、これは得意先に対する売上債権を示し、売掛金という勘定科目を用います。したがって、売掛金の増加です。売掛金は資産なので、本来の場所は借方(左側)です。売掛金が増加したので、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 次に、売上という勘定科目を用います。売上は収益であり、収益の増加なので、本来の場所である貸方(右側)に記入します。

 したがって、仕訳は次のようになります。

(借)売掛金 90,000   (貸)売    上 90,000

 

(設例)

 商品300,000円を販売し、代金は、現金で100,000円受け取り、残額200,000円は手形で受け取った。

 

 現金100,000円が増加したので、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 受取手形200,000円も増加しています。受取手形は資産であり、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 一方、売上300,000円が増加しているので、本来の場所である貸方(右側)に記入します。

 以上をまとめると、次のようになります。

(借)現 金   100,000    (貸)売    上 300,000

    受取手形  200,000

 

(設例)

 掛け売上のうち、30,000円を値引きした。

 

 得意先に対する債権である売掛金が減少します。売掛金は資産であり、本来の場所は借方(左側)です。売掛金が減少したので、本来の場所の反対側である貸方(右側)に記入します。

 一方、値引きしたということは、売上の減少です。売上は、収益であり、本来の場所は貸方(右側)です。売上が減少したので、本来の場所の反対側である借方(左側)に記入します。なお、借方の売上の代わりに、「売上値引」という勘定科目を用いる場合もあります。

 仕訳は、次のようになります。

(借)売 上 30,000  (貸)売掛金 30,000

 

(設例)

 売価50,000円の商品が返品されたが、代金はすでに入金した後だったので、現金で返金した。

 

 掛け売上の商品の値引きや返品の場合には、売掛金をマイナスすればよいわけですが、売掛金がすでに入金されていたため、現金で返金したという事例です。

 現金を返金したので、現金が減少します。現金が減少したので、本来の場所の反対側である貸方(右側)に記入します。

 一方、商品が返品されたということは、売上の減少です。売上は収益であり、本来の場所は貸方(右側)です。売上が減少したので、本来の場所の反対側である借方(左側)に記入します。「売上返品」という勘定科目を設ける場合もあります。

 以上まとめて、次のとおりです。

 (借)売 上 50,000  (貸)現 金 50,000

 

(設例)

 商品の販売契約を結び、手付金(前金)として、現金100,000円を受け取った。

 

 現金の増加なので、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 一方、販売前の手付金(前金)については、前受金という勘定科目を用います。前受金は負債であり、本来の場所は貸方(右側)です。前受金が増加したので、本来の場所である貸方(右側)に記入します。

 以上を総合して、仕訳は次のようになります。

(借)現 金 100,000   (貸)前受金 100,000

 

(設例)

 商品500,000円の販売を行い、代金については、すでに手付金(前金)として受領済の100,000円を差し引き、残金400,000円は掛けとした。

 

 まず、前受金100,000円が減少(消滅)します。前受金は負債であり、減少したので、本来の場所の反対側である借方(左側)に記入します。

 また、売掛金400,000円が増加しているので、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 一方、売上500,000円が増加しているので、本来の場所である貸方(右側)に記入します。

 以上をまとめて、仕訳は次のようになります。

(借)前受金 100,000  (貸)売 上 500,000

   売掛金  400,000

 

 

・売掛金の入金

 

(設例)

 得意先に対する売掛金 90,000円を、現金で回収した。

 

 資産である現金が増加したので、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 一方、資産である売掛金が減少したので、本来の場所の反対側である貸方(右側)に記入します。

 以上をまとめると、仕訳は次のとおりです。

(借)現    金 90,000  (貸)売掛金 90,000

 

(設例)売掛金70,000円が、振込手数料500円差し引かれ、69,500円普通預金に振り込まれた。

 

 資産である普通預金65,500円が増加したので、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 また、振込手数料500円は、当社が負担しているので、当社の費用となります。費用の本来の場所は借方(左側)であり、費用の増加なので、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 一方、資産である売掛金が減少したので、本来の場所の反対側である貸方(右側)に記入します。

 以上をまとめて、仕訳は次のとおりです。

(借)普通預金 69,500  (貸) 売掛金 70,000

   支払手数料   500

 

(設例)売掛金500,000円のうち、200,000円は普通預金に振り込まれ、残額300,000円は手形で受け取った。

 

 資産である普通預金200,000が増加したので、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 資産である受取手形300,000円も増加したので、本来の場所である借方(左側)に記入します。

 一方、資産である売掛金500,000円が減少したので、本来の場所の反対側である貸方(右側)に記入します。

 以上をまとめて、仕訳は次のとおりです。

(借)普通預金 200,000  (貸) 売掛金 500,000

   受取手形  300,000

 

 

※本稿は、次の拙著・拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一著『事典 はじめてでもわかる簿記』中央経済社1997年 「第5章 売上の仕訳のしかた」

寺田誠一著 『新人経理マン・経理ウーマンのための初級経理レッスン』税務研究会出版局1999年 「レッスン1-6 売上に関する仕訳」

寺田誠一稿『聞くに聞けない会社経理のキホン 第1回 経理課の役割と簿記の基本』月刊スタッフアドバイザー 2004年10月号

 

 

※振込手数料の各種ケースについては、「振込手数料の会計処理(仕訳)とインボイス対応」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。