「計数の変動の各種ケース」

 

2020年(令和2年)5月5日(最終更新2021年9月27日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・資本金・準備金・剰余金間の移動

 

 会社法においては、株主総会の決議により、剰余金の配当と同様、期中期末いつでも計数を変動することができます。計数の変動とは、株主資本の内部における資本金・準備金・会社法上の剰余金の金額(数字)の移動(振替え)をいいます。

 

① 準備金の資本金組入れ

 資本準備金を資本金に組入れることができます。

(借)資本準備金××× (貸)資 本 金×××

 

② 資本金の準備金組入れ

 資本金を取崩して、資本準備金とすることができます。ただし、資本と利益の区別の原則から、資本金を取崩して、利益準備金とすることはできません。

(借)資 本 金××× (貸)資本準備金×××

 

③ 剰余金の資本金組入れ

 その他資本剰余金を資本金に組入れることができます。

(借)その他資本剰余金××× (貸)資 本 金×××

 

④ 資本金の取崩し

 資本金を取崩して、その他資本剰余金とすることができます。ただし、資本と利益の区別の原則から、資本金を取崩して、その他利益剰余金とすることはできません。

(借)資 本 金××× (貸)その他資本剰余金×××

 なお、会社成立後の資本金の取崩しについて制限は設けられていないため、資本金0円までの取崩しも可能と解されています。

 

⑤ 準備金の取崩し

 資本準備金を取崩して、その他資本剰余金とすることができます。また、利益準備金を取崩して、その他利益剰余金とすることもできます。ただし、資本と利益の区別の原則から、資本準備金を取崩してその他利益剰余金とすること、利益準備金を取崩してその他資本剰余金とすることはできません。

(借)資本準備金××× (貸)その他資本剰余金×××

(借)利益準備金××× (貸)その他利益剰余金×××

 なお、会社成立後の準備金の取崩しについて制限は設けられていないため、準備金0円までの取崩しも可能と解されています。

 

⑥  剰余金の準備金組入れ

 その他資本剰余金を資本準備金に組入れることができます。また、その他利益剰余金を利益準備金に組入れることもできます。ただし、資本と利益の区別の原則から、その他資本剰余金から利益準備金への組入れ、その他利益剰余金から資本準備金への組入れはできません。

(借)その他資本剰余金××× (貸)資本準備金××× 

(借)その他利益剰余金××× (貸)利益準備金×××

 

 

・その他の移動

 

⑦ その他利益剰余金の内部の移動(振替え)

 その他利益剰余金の内部における繰越利益剰余金と任意積立金の各項目との間の移動(振替え)も、計数の変動として、株主総会の決議によりいつでも可能です。

(借)繰越利益剰余金××× (貸)別途積立金×××

(借)別途積立金××× (貸)繰越利益剰余金×××

 

⑧ 移動ができない場合

 資本準備金と利益準備金との間の移動(振替え)はできません。また、その他資本剰余金とその他利益剰余金との間の移動(振替え)もできません。資本と利益の区別の原則の適用です。

 

 

・資本と利益の区別の原則の例外

 

① 利益準備金・その他利益剰余金の資本金組入れ

 2009年(平成21年)の会社計算規則の改正により、利益準備金・その他利益剰余金の資本金組入れが認められるようになりました。留保利益が多額で資本金が少額という会社から、そのような増資を認めてほしいという実務的な理由があったようです。この改正は、理論的なものではなく、妥当ではありません。

(借)利益準備金××× (貸)資 本 金×××

(借)その他利益剰余金××× (貸)資 本 金×××

 

② その他利益剰余金マイナスの補填(ほてん)

 業績が悪化し、その他利益剰余金がマイナスとなる場合があります。一般にこれを、「欠損金」や「資本の欠損」といいます(会社法上の欠損金の正式の定義は、分配可能額がマイナスになった場合の、マイナスを取った額)

 このような場合、その他資本剰余金・資本準備金・資本金が存在すればそれを取崩して、その他利益剰余金のマイナスを補填することが認められます。

(借)その他資本剰余金××× (貸)繰越利益剰余金×××

 

③ その他資本剰余金マイナスの補填

 自己株式の処分や消却により、その他資本剰余金が期末においてマイナスとなることがあります。その他資本剰余金は、株主からの払込資本のうち資本金・資本準備金に含まれないものを表すため、本来、マイナスのその他資本剰余金という概念は想定されないとされています。したがって、そのような場合、その他利益剰余金を取り崩して、その他資本剰余金を0とします。

(借)繰越利益剰余金××× (貸)その他資本剰余金×××

 

 

・コラム「従来の有償減資についての考え方」

 

 会社法は、旧商法と異なり、減資(資本金の減少)と財産の払戻し(剰余金の配当等)とを切離して分離して考えています。

 そのため、従来の有償減資(純資産の減少する実質上の減資)を行うには、次のように、2段階の手続が必要となります。

① 資本金の減少(資本準備金またはその他資本剰余金となります。)

(借)資 本 金××× (貸)その他資本剰余金×××

② 剰余金の配当等(剰余金の配当または自己株式の処分・消却)

(借)その他資本剰余金××× (貸)現金預金×××

 

 

※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第12章 資本(純資産) 5 計数の変動」 

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。