「企業会計のしくみ…発生主義会計」

 

2020年(令和2年)10月8日(最終更新2021年7月13日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・貨幣性資産と費用性資産

 

 資産は、貨幣性資産と費用性資産に分けることができます。

① 貨幣性資産

 貨幣性資産は、現金預金およびいずれ現金預金になる性格の資産であり、キャッシュの回収過程にあるものです。たとえば、現金預金・受取手形・売掛金・貸付金・有価証券などです。貨幣性資産は、原則として、回収額・回収可能額・時価など、収入額を基準に評価されます。

② 費用性資産

 費用性資産は、いずれ費用になる性格の資産であり、キャッシュの投下過程にあるものです。たとえば、棚卸資産・有形無形固定資産・繰延資産などです。費用性資産は、原則として、取得原価により、つまり支出額を基準に評価されます。費用性資産についても、価値が低下した場合には、時価で評価される場合があります。

 この費用性資産を、原則、取得原価で評価するという点に焦点をあて、現在の会計を取得原価主義会計と呼ぶ場合もあります。

  

 

・費用の認識基準

 

 費用性資産については、発生費用と期間費用の2つの段階に分けて考えることができます。

 

 2つの段階は、製造業の場合に典型的に表れます。材料を倉庫から100払い出して製造工程に投入し(この段階で材料費という費用が発生)、それ以外に労務費80、経費70を加えて製造を行い、製品が完成したとします。この完成した製品のうち200が売却され、50は期末に製品在庫として残ったとします。すると、損益計算書に計上される費用すなわち期間費用は、売却された部分200です。これを図で示すと、次のとおりです。

 さて、発生費用を認識する基準が、発生主義といわれるものです。つまり、費用の発生主義とは、財貨・役務の消費により費用を計上する基準です。しかし、発生主義により認識された費用が、そのまま損益計算書に計上されるわけではありません。

 適正な期間損益計算を行うために、収益に対応する部分だけが、損益計算書の費用として計上されます。すなわち、発生主義により認識された費用のうち収益に対応する部分が切り離されて期間費用とされます。この切り離す基準が、費用収益対応の原則です。

・ コラム「各種の用語について」

 

 まず、収益・費用の認識と測定です。認識とは、いつ収益・費用として把握するかというタイミングの問題です。測定とは、認識された収益・費用の金額をいくらにするかという問題です。もっとも、認識と測定は、実際には同時に行われるので、両者をまとめて計上という語も用いられます。

 費用を、狭義に、収益の獲得に役立ったものだけに限定する用い方もあります。その場合には、収益の獲得に貢献しなかった費用を、損失といいます。

 また、収益・費用をグロス(総額)の概念で捉えるのに対し、利益・損失をネット(純額・差額)の概念で捉える場合もあります。

 なお、期間費用だけを費用といい、発生費用を原価という使い方もあります。しかし、販売済みの商品製品の期間費用を売上原価と呼びます。費用性資産から発生費用への転換を費用配分と呼ぶこともあります。したがって、費用と原価は、それほど厳密に使い分けされているわけではありません。

 

・費用収益対応の原則

 

 期間費用の認識の段階で作用する費用収益対応の原則は、費用と収益とを努力とその成果という関係が成り立つように計算する原則をいいます。一般には、まず何らかの合理的な基準で収益を決定し、次にそれに対応する費用を決定するという順序で計算が行われます。

 

 費用収益対応の原則には、次の2種類のものがあります。

① 個別的対応

 個別的対応とは、財貨または役務という物量を媒介として、収益と費用とが金額的に対応しているものをいいます。具体的には、売上高と売上原価との対応です。

② 期間的対応

 期間的対応とは、同一の会計期間に計上された収益と費用の対応をいいます。これは、損益計算書に計上された費用は、同一期間の収益と、抽象的に努力と成果の関係があるとみようというものです。実質的(金額的)に、対応関係があるわけではありません。

 

・コラム「費用配分の原則」

 

 費用配分の原則(または原価配分の原則)とは、費用性資産の取得原価を各会計期間に割り当てることをいいます。これは、発生費用の段階にも、期間費用の段階にも表れます。

 材料の消費により材料費を把握するのは材料の取得原価の配分です。また、売上原価の把握は、製品原価の配分です。したがって、費用配分の原則と発生主義・費用収益対応の原則とは、密接な関連があります。費用性資産については、発生主義・費用収益対応の原則により費用を認識するという説明もできるし、また、費用配分の原則により費用を認識するという説明もできます。

 なお、発生主義・費用収益対応の原則は、費用配分の原則と結びつかない場合もあります。引当金繰入額や販管費(減価償却費などを除きます。)などの計上は、発生主義・費用収益対応の原則の適用だが、費用配分の原則とは関係ありません。

 

・コラム「発生主義会計」

 

 発生主義と似ている語に、発生主義会計があります。発生主義会計とは、収入・支出にとらわれずに、財貨役務の提供、財貨役務の消費、時間の経過など何らかの合理的な基準に基づいて収益・費用を認識する会計をいいます。現金預金の収入・支出があったときに収益・費用を認識する現金主義会計と対比される語です。今日の会計は、発生主義会計であるということがいえます。

 

・コラム「収益費用アプローチ(動態論)と資産負債アプローチ(静態論)」

 

 会計においては、損益計算書の収益・費用と貸借対照表の資産・負債のどちらが中心的な概念であるかについて、対立する2つの考え方があります。

 収益・費用が重要であるとする考え方を、収益費用アプローチ(動態論)といいます。収益費用アプローチにおいては、収益と費用の差額として利益をとらえます。貸借対照表は、現金預金の収入支出と会計上の収益費用とのズレを収容したものという位置付けです。

収益-費用=利益

 

 この考え方によれば、貸借対照表(現金預金と利益は除く。)の借方は、収益・未収入、支出・未収入、支出・未費用の3つに、貸方は収入・未収益、収入・未支出、費用・未支出の3つに、それぞれ分かれます。

 

 収益・未収入は、貨幣性資産であり、収益にはなっているが、まだ現金預金の収入は生じていないものをいいます。受取手形、売掛金、未収入金、未収収益などです。

 支出・未収入貨幣性資産であり、現金預金の支出は生じたが、まだ回収(収入)されていないものをいいます。短期貸付金、長期貸付金、有価証券などです。

 支出・未費用は、費用性資産であり、支出は生じたが、まだ費用にはなっていないものをいいます。棚卸資産、有形無形固定資産、繰延資産、前渡金、前払費用などです。

 

 収入・未収益は、現金預金の収入は生じたが、まだ収益にはなっていないものをいいます。前受金、前受収益などです。

 収入・未支出は、収入は生じたが、まだ現金預金で支出されていないものをいいます。短期借入金、長期借入金などです。

 費用・未支出は、費用にはなっているが、まだ支出されていないものをいいます。未払金、未払費用、引当金などです。

 一方、資産・負債が重要であるとする考え方を、資産負債アプローチ(静態論)といいます。資産負債アプローチにおいては、資産は経済的資源に限られ、負債はその引き渡し義務に限られます。そして、資産と負債の差額である純資産の増減額として、利益をとらえます。

期末純資産-期首純資産=利益

 

 伝統的な会計においては、収益費用アプローチが採られていましたが、近年は国際的に資産負債アプローチが有力となっています。わが国においても、金融商品、棚卸資産の低価法、固定資産の減損、退職給付引当金、資産除去債務などに、資産負債アプローチの影響を見ることができます。

 

 

・コラム「企業会計原則」

 

 企業会計原則は、企業会計審議会が1949年(昭和24年)に定め、その後何回か改定された基準です。これは、企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものです。

 したがって、企業会計原則は、必ずしも法令によって強制されていなくとも、すべての企業が会計処理にあたり、従わなければならない基準です。企業会計原則は、公認会計士監査の判断基準ともなり、また、会社法や税法などが制定改廃される場合に尊重されなければならないとされています。

 

 

・コラム「企業会計審議会と企業会計基準委員会」

 

 企業会計審議会は、旧大蔵省(現在の財務省)の諮問機関です。会計学者・商法学者・企業の実務家・公認会計士・税理士などから構成されていました。

 企業会計審議会は、次のような各種の基準を公表してきました。

「企業会計原則」

「連続意見書」

「原価計算基準」

「連結財務諸表原則」

「中間財務諸表作成基準」

「外貨建取引等会計処理基準」

「リース取引に係る会計基準」

「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」

「研究開発費等に係る会計基準」

「退職給付に係る会計基準」

「税効果会計に係る会計基準」

「金融商品に係る会計基準」

 

 なお、近年、国際的に、企業会計の基準は、政府ではなく、民間で定めるべきという意見が強くなっています。そこで、2001年(平成13年)からは、民間組織である企業会計基準委員会が活動し、次のような新しい会計基準が公表されています。これらにより、企業会計審議会の各種の基準は、順次、新しく置き換えられています。

「自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準」

「1株当たり当期純利益に関する会計基準」

「役員賞与に関する会計基準」

「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」

「株主資本等変動計算書に関する会計基準」

「事業分離等に関する会計基準」

「ストックオプション等に関する会計基準」

「棚卸資産の評価に関する会計基準」

「金融商品に関する会計基準」

「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」

「関連当事者の開示に関する会計基準」

「四半期財務諸表に関する会計基準」

「リース取引に関する会計基準」

「持分法に関する会計基準」

「セグメント情報等の開示に関する会計基準」

「資産除去債務に関する会計基準」

「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」

「企業結合に関する会計基準」

「連結財務諸表に関する会計基準」

「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」

「包括利益の表示に関する会計基準」

「退職給付に関する会計基準」

「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」

「収益認識に関する会計基準」

「時価の算定に関する会計基準」

 

 

・コラム「企業会計基準の影響」

 

 近年の企業会計基準の制定は、国際会計基準(IFRSイファース)との収れん(コンバージェンス)を意識しています。そのため、わが国の伝統的な会計処理に影響を及ぼしています。次のような点です。

基  準

影  響

棚卸資産会計基準

後入先出法の廃止

変更誤謬会計基準

臨時償却の廃止

変更誤謬会計基準

前期損益修正の廃止

収益認識会計基準

売上割戻引当金・返品調整引当金の廃止

収益認識会計基準

回収基準の廃止

 

 

 ※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。