「減価償却の会計・財務・税務」

 

2021年(令和3年)1月24日(最終更新2021年7月6日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・減価償却の意義、目的、計算方法

 

 減価償却とは、固定資産の使用または時の経過などによる価値の減少を認識するために、固定資産の減価を耐用年数の期間にわたり配分し費用化する手続をいいます。文字どおり、減価(価値の減少)により、償却(費用化)して行くということです。たとえば、1,000,000円の車を購入し、それが5年間使用できるものならば、1,000,000円を取得時の一時の費用(税法上の用語でいえば損金)とはしないで、5年間にわたり次第に費用(損金)として行くのが、減価償却です。減価償却は、会計の大きな特徴点の1つです。

 

 減価償却の目的は、適正な費用配分を行うことにより、毎期の損益計算を正しく行うことです。そのため、減価償却は所定の減価償却方法に従い、計画的・規則的に実施する必要があります。利益に及ぼす影響を顧慮して減価償却費を任意に増減することは、適正な期間損益計算をゆがめることになるので、望ましくありません。

 

 減価償却の代表的な計算方法には、定額法と定率法があります。定額法は、固定資産の耐用期間中、毎期均等額の減価償却費を計上する方法です。毎期の減価償却費が同額になる点に特徴があります。

 定率法は、原則として、固定資産の耐用期間中、毎期の期首末償却残高に一定率を乗じた減価償却費を計上する方法です。固定資産の耐用期間の初期に多額の償却費が計上されるので(つまり費用化のスピードが速いので)、定額法よりも保守主義的な方法です。また、能率が落ち修繕維持費が多くかかるようになる後の期には減価償却費が少なく計上されるので、その固定資産に関する費用全体として毎期平準化されるという説明もされます。

 

・法人事業と個人事業の異同点

 

 わが国の減価償却の実務は、多くの場合、税法に従って行われています。法人企業においては、減価償却計算方法の届出を税務署に提出していない場合には、定率法を採用したものとみなされます。つまり、法人企業においては定率法が原則的な方法となっています。それに対して、個人事業の場合には、減価償却計算方法の届出を税務署に提出していない場合には、定額法を採用したものとみなされます。つまり、個人事業においては定額法が原則的な方法となっています。

 

 また、法人税法上の毎期の減価償却は、償却限度額を上限とした任意償却(償却限度額以下ならば金額は自由)です。したがって、中小企業の実務において、利益を多く計上したい(または損失を少なく計上したい)ときは、法人税法上の償却限度額以下の金額(ゼロも可能)を計上することがあります。法人税法では、償却不足額を将来に繰り越す(将来、減価償却費として計上する)ことが可能です。一方、個人事業は、損金経理が要件となっておらず、強制償却であり、償却不足を将来に繰り越すことはできません。

 

 法人企業と個人事業とで税法上の取扱いが異なるのは、昔、手計算の時代、個人は経理能力に乏しいので、簡単な計算で済むようにした名残(なごり)だと思われます。

 会計上は、適正な期間損益計算が目的なので、償却限度額以下の金額を計上することが望ましくないのはいうまでもありません。損失(赤字)であっても、規則的な減価償却費の額を計上することが妥当です。

 

 なお、青色申告適用で常時使用する従業員数500人以下の中小企業(資本金1億円以下の法人や、個人事業者)においては、少額減価償却資産の特例があります。すなわち、取得価額30万円未満の減価償却資産を取得したときは、年間300万円を限度として、固定資産に計上しないで一時の損金とすることが認められています(本来の固定資産計上に関する税法の基準は、10万円)。

 

・減価償却の財務効果

 

 減価償却は、「固定資産の流動化」、「自己金融」という財務的効果をもたらします。すなわち、収益は、通常、キャッシュを伴うのに対し、減価償却費はキャッシュの支出を伴わない費用なので、減価償却費に相当するキャッシュが企業内に留保される結果となります。

 ただし、減価償却費を除いたところの費用が収益より多い場合、すなわち償却前で損失(赤字)の場合には、留保すべきキャッシュがないので、このような財務的効果はありません。この場合には、減価償却費を計上しても、損失が増えるだけで、キャッシュは残らないという結果になります。

 

(設例)

 次の各場合のキャッシュの増減はいくらですか。収益と費用は、減価償却費以外はキャッシュの収入・支出を伴うものとします。

①収益1,000,000円、費用800,000円(うち減価償却費100,000円)

②収益1,000,000円、費用1,300,000円(うち減価償却費100,000円)

 

①の場合(利益の場合)

 収益1,000,000円から費用800,000円を差し引き、200,000円の利益です。利益の200,000円と減価償却費100,000円を加えて、キャッシュの増加は300,000円となります。

 または、直接、キャッシュの増減をとらえると、収入1,000,000円から支出700,000円を差し引いて、キャッシュの増加300,000円となります。

 

 この場合、貸借対照表は、他の資産負債の増減がなければ、現金預金が300,000円増加、固定資産が100,000円減少し、繰越利益剰余金が200,000円増加します。

 

②の場合(損失の場合)

 収益1,000,000円から費用1,300,000円を差し引き、300,000円の損失です。ただし、このうち減価償却費100,000円は計算上の費用であり、キャッシュの支出を伴わないので、キャッシュの減少は200,000円となります。いいかえると、キャッシュの減少200,000円は、減価償却費計上前の損失200,000円と一致します。

 または、直接、キャッシュの増減をとらえると、収入1,000,000円から支出1,200,000円を差し引いて、キャッシュの減少200,000円となります。

 

 この場合、貸借対照表は、他の資産負債の増減がなければ、現金預金が200,000円減少、固定資産が100,000円減少し、繰越利益剰余金が300,000円減少します。

 

 

・2007年(平成19年)度税制改正

 

 わが国経済の持続的成長を実現するためには、企業の新規設備への投資を促進し、生産手段の新陳代謝を加速して、国際競争力の強化を図る必要があります。このような観点から、平成19年度税制改正で、減価償却制度を国際的に見て遜色のないものとなるよう、抜本的に見直すこととされました。

 具体的には、以下のような改正が行われました。

 

① 残存価額の廃止と250%定率法

 

 2007年(平成19年)4月1日以後に取得をする減価償却資産について、残存価額(取得価額の10%)が廃止されました。

 したがって、定額法や定率法の計算においては、残存価額を考慮しません。定率法においては、残存価額を0とすると定率法の償却率が算出できないため、250%定率法(定額法償却率(1÷耐用年数)×2.5倍の償却率)とされました。

 250%定率法の各耐用年数における償却率は、改正前の旧定率法償却率を少しだけ上回ります。200%定率法とすると、改正前の償却率を下回り、償却のスピードが遅くなってしまいます。300%定率法とすると、改正前の償却率を大きく上回り、償却が過度に進みすぎてしまいます。250%がちょうどよい率といえます。

 このような説明がされていたのに、2012年(平成24年)4月1日以後取得からは、償却のスピードが速すぎるということで、250%定率法ではなく、200%定率法(定額法償却率×2.0倍の償却率)に変更されました。朝令暮改であり、感心しないところです。

 

② 償却可能限度額の廃止

 

 税務では、未償却残高が10%の残存価額にまで達しても、なお引き続き減価償却を行うことができました。税務における減価償却の限度は取得価額の95%まで(未償却残高が5%になるまで)で、これを償却可能限度額といいます。いいかえると、取得価額の5%は、固定資産を売却・除却しない限り、たとえ固定資産を使用していても損金とはなりませんでした(企業は固定資産を大事に扱っているため、耐用年数を過ぎても使用可能なことがよくあります。)。

 2007年(平成19年)4月1日以後に取得をする減価償却資産については、償却可能限度額を廃止し、耐用年数経過時に1円(備忘価額)まで償却できることとなりました。

 

 定率法を採用している場合には、定率法により計算した減価償却費が一定の金額を下回るときに、償却方法を定率法から定額法に切り替えて減価償却費を計算することとなります。これは250%定率法や200%定率法をずっと採用していると、耐用年数経過時で償却が完了しないからです。

 この場合の一定の金額とは、耐用年数から経過年数を控除した残りの期間内に、そのときの帳簿価額を均等償却すると仮定して計算した金額です。この一定の金額を「償却保証額」といいます。実際には、償却保証額は、取得価額に「保証率」を乗じて求めることになっています。

 また、定額法への切り替え後の計算は、「改定取得価額」に「改定償却率」を乗じて計算します。改定取得価額は、定率法による償却額が償却保証額を下回ることになる最初の事業年度の期首帳簿価額なので、償却が終わるまで同じ額となります。

 

 以上は、2007年(平成19年)4月1日以後に取得をする減価償却資産についての取扱いです。2007年(平成19年)3月31日以前に取得をした減価償却資産については、従来どおり償却を続けて行き、償却可能限度額(取得価額の95%)まで達した年度の翌事業年度以後、備忘価額1円になるまで5年間(60カ月)で均等償却できることとなりました。

 

 定率法の場合には複雑な計算となりますが、実務では、パソコンの減価償却ソフトに計算させることになります。

 

 従来、残存価額や償却可能限度額が存在していたのは、スクラップバリューで売却できるという考え方があったためだと思われます。しかし、現在では、逆に廃棄物の処理にコストがかかるケースも多くなってきました。したがって、残存価額や償却可能限度額を廃止したことは、実態に合わせたものと考えられます。

 

 改正により、2007年(平成19年)4月1日以後に取得する減価償却資産については、備忘価額1円を残し、取得価額全額が耐用年数内に費用(損金)となります。それ以前に取得した減価償却資産についても、時間はかかりますがいずれは同様に、備忘価額1円を残し、取得価額全額が損金となります。

 

 売却や除却まで考えればトータルでは費用(損金)となる額は同じですが、改正により減価償却計算において5%部分を残さないため、費用(損金)となるスピードが早まりました。したがって、赤字企業を除いては、早期にキャッシュが会社内に留保されます。これらのキャッシュを、新規設備投資などに有効に活用することが望まれます。

 

・減価償却の設例

 

 減価償却費の金額(償却限度額)を求める設例を、いくつか示してみます。

 

(設例1)

器具備品 取得価額10,000,000円

×1年4月1日取得(3月決算) 定額法 耐用年数5年 償却率0.200

 

×2年3月期~×5年3月期

償却限度額:取得価額10,000,000円×償却率0.200=2,000,000円

×6年3月期

償却限度額:期首帳簿価額2,000,000円-備忘価額1円=1,999,999円

 

(設例2)

器具備品 取得価額10,000,000円

×1年4月1日取得(3月決算) 定率法 耐用年数5年 償却率0.400

改定償却率0.500 保証率0.10800

 

×2年3月期

定率法償却額:取得価額10,000,000円×償却率0.400=4,000,000円

償却保証額:取得価額10,000,000円×保証率0.10800=1,080,000円

償却限度額:4,000,000円

 この期は、定率法償却額4,000,000円と償却保証額1,080,000円とを比べて、定率法償却額の方が大きいので、定率法償却額4,000,000円が償却限度額となります(以下、×4年3月期まで同じ方式)。償却保証額1,080,000円は、毎期同額となります。

 

×3年3月期

定率法償却額:期首帳簿価額6,000,000円×償却率0.400=2,400,000円

償却保証額:1,080,000円

償却限度額:2,400,000円

 

×4年3月期

定率法償却額:期首帳簿価額3,600,000円×償却率0.400=1,440,000円

償却保証額:1,080,000円

償却限度額:1,440,000円

 

×5年3月期

定率法償却額:期首帳簿価額2,160,000円×償却率0.400=864,000円

償却保証額:1,080,000円

償却限度額:改定取得価額2,160,000円×改定償却率0.500=1,080,000円

 この期は、定率法償却額864,000円が償却保証額1,080,000円を下回るので、改定取得価額(×5年3月期の期首帳簿価額)2,160,000円に改定償却率0.500を乗じた額が償却限度額となります。

 

×6年3月期

 

償却限度額:改定取得価額2,160,000円×改定償却率0.500-備忘価額1円=1,079,999円

 改定取得価額(×5年3月期の期首帳簿価額)2,160,000円は変わりません。また、この期は最終年度なので、備忘価額1円を差し引きます。

 

(設例3)

器具備品 取得価額10,000,000円   旧定額法で償却可能限度額まで償却済

×1年4月1日の帳簿価額500,000円 (3月決算) 

 

×2年3月期~×6年3月期

償却限度額:(500,000円-1円)×12/60≒99,999円

 

×7年3月期 

償却限度額:期首帳簿価額5円-備忘価額1円=4円

 

 従来、旧定額法、旧定率法のいずれで計算していても、95%の償却可能限度額まで達した年度の翌事業年度からの処理は同じ方法となります。すなわち、備忘価額1円を差し引き5年間(60カ月)で均等償却します。

 この設例の減価償却費は、法人企業では、100,000円ではなく99,999円となります。法人税法上は、減価償却費の計算は、償却限度額以内で損金経理した金額を損金算入するというものなので、円未満の端数が出た場合には切り捨てます。切り上げると償却限度額を超えてしまうからです。ただし、実務的には、少額なので100,000円で計上しても問題ありません。

 

 なお、個人事業では、円未満の端数について規定がないので、納税者有利の原則から、通常、切り上げで処理します。この点は、法人企業と異なるところです。

 

×2年3月期~×5年3月期(個人)

償却限度額:(500,000円-1円)×12/60≒100,000円

 

×6年3月期(個人) 

償却限度額:期首帳簿価額100,000円-備忘価額1円=99,999円

 

 

※本稿は、次の拙稿をもとに、アップデートし加筆修正したものです。

寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第18回 減価償却』月刊スタッフアドバイザー 2010年(平成22年)9月号

 

 

※2012年(平成24年)の250%定率法から200%定率法への変更については、「200%定率法への減価償却税務改正」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。