「資本金の意義・表示・増加(増資)」

 

2020年(令和2年)5月5日(最終更新2021年9月27日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・資本金の意義

 

 資本金とは、株主の払い込んだ額のうち会社法で定められた額をいいます。原則は、株主の実際の払込価額の総額となります。ただしその1/2以下の額は、資本金としないことができます。資本金としない場合には、資本準備金(株式払込剰余金)となります。

 旧商法では、最低資本金制度が採用されており、株式会社は、1,000万円以上、有限会社は300万円以上の資本金が必要とされていました。会社法では、起業を容易にするため、そのような制限を廃止しました。

 

 

・コラム「株式制度の改正」

 

 2001年(平成13年)の商法改正で単元株制度が創設され、会社法においても引き継がれました。これは、1単元の株式について、1個の株主総会議決権を与えるものです。1単元未満の株主には議決権がありません。1単元の株式数は1,000株以下とされます。

 

  また、同じ2001年(平成13年)の商法改正で、額面株式が廃止され、無額面株式に一本化されました。会社法においても同様に、無額面株式のみとなりました。株式の価値と額面額とは関係がないという理由によるものです。すでに発行されている額面株式の額面額は、無意味なものとなります。そのような株券は、株式数だけに意味があります。

 

 

・通常の新株発行における段階別の仕訳

 

  通常の新株発行は、次のような段階を経て、資本金が増加します。

① 申込期日

 (借)現金預金 ×××    (貸)新株式申込証拠金 ×××

② 払込期日

 (借)新株式申込証拠金 ×××   (貸)資 本 金 ×××

 

 新株の引受人が株主となるのは、払込期日です。よって、資本金の増加は、払込期日となります。決算日が払込期日ならば、決算日において資本金となります。決算日が払込期日よりも前で、決算日に新株式申込証拠金が存在した場合には、近日中に資本金となることが明らかなので、貸借対照表の株主資本の部において資本金の次に表示します。

 

 

 

・実質的増資と形式的増資

 

 資本金の増加、すなわち増資は、実質的増資と形式的増資とに分けられます。

実質的増資とは、資本金の増加とともに、それと同額の資産の増加(または負債の減少)を伴うものです。結果的に、資産から負債を差し引いた純資産の増加をもたらす増資です。

 形式的増資とは、資本金は増加するが、それと同額の資本金以外の資本剰余金・利益剰余金が減少して、結果的に純資産が変化しない(内訳構成が変化するだけの)増資です。なお、形式的増資は、会社法においては、計数の変動として整理されました。

 

 

・実質的増資

 

 実質的増資には、次の場合があります。

① 通常の新株発行

  通常の新株発行は、株主より現金預金が払い込まれ、資本金が増加するので、純資産の増加する実質的増資となります。株式の発行価額のうち、資本金に組み入れなかった部分は、資本準備金(株式払込剰余金)となります。

(借)現金預金×××   (貸)資  本  金 ×××

                                 資本準備金×××

 

② 吸収合併

  合併には、吸収合併と新設合併があります。吸収合併においては、合併会社は被合併会社の資産・負債を包括的に承継し、それに対して被合併会社の株主に合併会社の株式を交付するので、合併会社の資本金が増加します。すなわち、純資産も増加するので、実質的増資となります。

(借)諸 資 産×××    (貸)諸 負 債   ×××

                                 資 本 金    ×××

                                 資本準備金×××

③ 吸収分割

 会社分割には、吸収分割と新設分割があります。吸収分割においては、承継会社は分割会社より資産負債の一部を承継するので、承継会社の資本金が増加します。すなわち、純資産も増加するので、実質的増資となります。

(借)諸 資 産×××    (貸)諸 負 債   ×××

                                 資 本 金   ×××

                                 資本準備金×××

 

④ 株式交換

 株式交換は、100%子会社を作る手法です。既存の親会社が、子会社の株主より子会社株式をすべて取得し、代わりに親会社株式を交付します。したがって、親会社においては、資本金が増加します。純資産が増加するので、実質的増資となります。

 既存の親会社の処理は、次のようになります。

(借)子会社株式×××  (貸)資 本 金×××

                          資本準備金×××

 なお、株式交換は、親会社と子会社株主との取引です。したがって、子会社では、会計処理は必要ありません。

 

 

・コラム「株式移転」

 

 株式交換は、既存の会社間で100%の完全親子関係を作る手法です。これに対して、親会社を新設して、100%の完全親子関係を作る手法もあります。これを株式移転といいます。

 新設の親会社が、子会社の株主より子会社株式をすべて取得し、代わりに新設の親会社株式を交付します。

 新設の親会社の処理は、次のようになります(株式交換と同じ処理です。)。

(借)子会社株式×××  (貸)資 本 金   ×××

                                 資本準備金×××

  なお、株式移転も、新設の親会社と子会社株主との取引です。したがって、子会社では、会計処理は必要ありません。

 

 

・コラム「株式交付」

 

 2019年(令和元年)の会社法改正で、株式交付制度が創設されました。株式交付は、子会社関係を作る手法であり、株式交換と似ています。違いは、株式交付は、100%の関係でなくてよいという点です。つまり、少数株主の存在が認められるということです。親会社株式の交付を望まない株主からは、株式を取得する必要がありません。

 (借)子会社株式×××  (貸)資 本 金    ×××

                                  資本準備金×××

             現金預金 ×××

 

 

・コラム「新株予約権」

 

 2001年(平成13年)の商法改正で、新株予約権という概念が新たに設けられました。新株予約権とは、自社の株式を一定期間内にあらかじめ定められた価格で購入できる権利をいいます。

 新株予約権を発行した会社は、新株予約権を純資産の部の一番下に記載します。そして、権利行使された場合には、資本金と資本準備金に振替えます。

(借)現金預金  ×××  (貸)新株予約権 ×××

(借)新株予約権 ×××  (貸)資 本 金 ×××

  現金預金  ×××      資本準備金 ×××

 

 新株予約権の一種であるストック・オプションとは、取締役・従業員・第三者が、会社よりインセンティブとして付与された、将来においてあらかじめ定めた有利な価格をもって自社株を購入することができる権利をいいます。

(借)給   与 ×××  (貸)新株予約権 ×××

(借)新株予約権 ×××  (貸)資 本 金 ×××

  現金預金  ×××   資本準備金 ×××

 

 

・コラム「株式引受権」

 

 2019年(令和元年)の会社法改正で、株式引受権という概念が新たに設けられました。株式引受権とは、取締役などが、条件付きで会社より自社株の交付を受けることができる権利をいいます。ストック・オプションと同様のインセンティブ効果があります。

 株式引受権の新株予約権との相違は、まったく無償で交付される点です。

(借)給   与 ×××  (貸)株式引受権 ×××

(借)株式引受権 ×××  (貸)資 本 金 ×××

             資本準備金 ×××

 

 

※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第12章 資本(純資産) 2 資本金の意義と表示」 

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。