「固定資産の取得価額と資本的支出」

 

2020年(令和2年)9月5日(最終更新2021年7月13日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・購入の場合

 

 購入の場合には、購入代価に引取費用などの付随費用を加えて取得価額とします。重要性の原則など正当な理由がある場合には、付随費用の全部または一部を加算しないことができます。

 仕入値引・仕入割戻は、購入代価から控除します。仕入割引は、金利の性格を有しているので、通常、購入代価から控除しないで、営業外収益とします。

 

・自家建設による場合

 

 固定資産を自社で製作・建設した場合(これを自家建設といいます。)、適正な原価計算基準に従って、製造原価を計算し、これに基づいて取得価額を算出します。

 自家建設に必要な資金を借入金で調達した場合、その支払利息の取り扱いが問題になります。一般には、借入金の利息(金利)は、期間費用とするのが会計慣行です。

 しかし、自家建設の場合、次の2つの条件を満たすものについては、例外的に、支払利息を固定資産の取得価額に算入することが認められています。これは、固定資産の利用から生ずる収益が上がらないうちに費用のみが計上されることは、収益と費用が対応しなくなるということから認められた、例外的な規定です。

① 借入金がその建設工事に対してのみ利用されたことが明らかであること。

② 建設工事が完了し稼動するまでの期間に限ること。

 

・現物出資による場合

 

 現物出資として受け入れた固定資産については、出資者に対して交付された株式の発行価額をもって取得価額とします。なお、通常は、受け入れた資産の時価を見積もって発行価額を決めるので、両者の価額は等しいことになります。

 

・交換による場合

 

 自己所有の固定資産と交換に固定資産を取得した場合には、譲渡資産の適正な簿価をもって、取得価額とします。適正な簿価とは、減価償却の過不足があった場合には、それを正しく修正した後の簿価という意味です。この考え方は、譲渡資産と受入資産に連続性がある等価交換を前提としており、交換損益の認識を避けるという趣旨です。

 

 なお、自己所有の有価証券と固定資産とを交換した場合には、有価証券の時価または適正な簿価をもって取得価額とするとされています。時価を採る考え方は、譲渡資産と受入資産の連続性を考えず、有価証券をいったん売却し、その売却代金をもって固定資産を購入したと仮定するものです。適正な簿価を採る考え方は、さきほどと同じ、譲渡資産と受入資産の連続性を前提とするものです。通常は、資産の種類が異なるので、連続性はないと考えられます。

 

・贈与による場合

 

 贈与その他無償(著しい低廉譲受も含みます。)で取得した固定資産については、公正な評価額(時価)をもって、取得価額とします。

 ゼロで評価しないで、時価を採る根拠は、次のとおりです。

① 時価を付し資産に加えることにより、総資本利益率が適正に算出されます。

② 時価を付すことにより、その後の減価償却計算が可能となり、適正な期間損益計算に役立ちます。

 

・コラム「固定資産に関する用語」

 

 固定資産という語は、次の3とおりの意味に用いられます。流動資産と対比して用いる①の意味が、もっとも一般的でしょう。

① 有形固定資産+無形固定資産+投資その他の資産

② 有形固定資産+無形固定資産

③ 有形固定資産

 

 取得価額から減価償却累計額を控除した額を帳簿価額または簿価といいます。未償却残高ともいいます。

取得価額-減価償却累計額=帳簿価額(簿価)

取得価額-減価償却累計額=未償却残高

 

・固定資産に関する支出

 

 固定資産の取得後、修理・改良など、その固定資産に関する支出が生ずる場合があります。その支出を固定資産の原価に加えるか否かにより、次のように分けられます。

 

① 資本的支出

  資本的支出とは、固定資産の原価に加えられる支出をいいます。資本的支出とされるのは、その資産の価値を増加させる支出、または、その資産の耐用年数を延長させる支出です。

② 収益的支出

  収益的支出とは、固定資産の原価を構成せずに、費用(修繕費)として処理される支出です。販売費及び一般管理費に計上されるときは、期間費用となります。収益的支出であっても、製造原価とされるときは、棚卸資産となります。

 

 

※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第9章 固定資産と減価償却 1 有形固定資産の取得原価」 

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。