「収入印紙」

 

2020年(令和2年)1月4日(最終更新2021年6月10日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・収入印紙の意義

 

 領収書や契約書などには、収入印紙を貼ります。収入印紙は郵便局などで売っていますが、収入印紙を貼るということは印紙税という国の税金を納めることを意味します。印紙税は、文書を対象として課税されるものです。文書が作成される背後には経済取引があり、それに伴う経済的利益に課税するという考え方です。

 納税義務は課税文書の作成時に成立し、納税義務者は文書の作成者です。どのような文書にいくらの収入印紙を貼るかについては、実務上、「印紙税額一覧表」を見て判断します。

 

 印紙税の課税される文書は、印紙税法において限定列挙となっています。印紙税額一覧表の第1号から20号に掲げられている文書が課税となります。したがって、印紙税法に規定のない文書は非課税であり、収入印紙を貼る必要はありません。ただし、文書の名称ではなく、その記載されている内容によって課税か非課税かを判断します。

 この課税・非課税については、統一性がない点があります。たとえば、建物(店舗・事務所・住居)の賃貸借契約書は規定がないので、印紙税は非課税です(ただし、土地の賃貸借契約書は第1号文書となり、印紙税が課税されます。)。単発的な物品売買の契約書も非課税です。また、インターネット上で書類を作成しても、それは印紙税法上の文書ではないので、収入印紙は不要です。

 

 収入印紙を貼った後には消印をします。消印は、収入印紙が再利用されるのを防ぐ趣旨であり、文書と印紙にまたがって作成者が押印します。複数の者が共同して作成した文書については、そのうちの1人が消印してもかまいません。なお、収入印紙と消印は税法上の問題であり、これらが無くても契約書や領収書の効力に影響はなく、文書が無効となることはありません。

 

 印紙税は、課税文書に収入印紙を貼って納付するのが原則ですが、特例として、税務署長の承認を受け、金銭で納付することができます。この場合、文書には「印紙税申告納付につき税務署承認済」と表示されます。ただし、課税文書が次のいずれかに該当することが必要です。

① 毎月継続して作成されるもの

② 特定の日に多量に作成されるもの

 

 なお、収入印紙と似ているものに、収入証紙があります。収入証紙は、都道府県市町村の税金であり、手数料の納付などに用いられるものです。東京都では、証紙を2010年4月より廃止し、現金納付としました。証紙は、全国で、次第に廃止する方向にあるものと思われます。

 収入印紙と収入証紙は、相互に互換性がありません。つまり、国への納付に収入証紙を用いることはできませんし、都道府県市町村への納付に収入印紙を用いることもできません。

 

・領収書の収入印紙

 

 売上代金などの回収で現金や小切手・手形を受け取った場合には、領収書を相手に渡します。その領収書(レシートを含む)には、収入印紙を貼らなければなりません。印紙税法では、第17号文書「売上代金に係る金銭等の受取書」の印紙税ということになります。

 売上代金の領収書については、50,000円未満は非課税です。逆にいうと、50,000円以上は印紙税がかかるということです。ちょうど50,000円は、印紙税がかかります。

 

 売上代金のうちに消費税が含まれている場合、印紙税の基準となる領収書の記載金額は、消費税込みで見るのか、消費税抜きで見るのかという問題があります。消費税が明記、すなわち区分記載されている場合には、消費税抜きで見てよいことになっています。

 たとえば、次のような場合には、消費税が区分記載されているとして消費税抜きでみます。したがって、50,000円未満となり、印紙税は非課税です。

① 商品代金53,900円(ただし税抜金額49,000円)

② 商品代金53,900円(ただし税抜金額49,000円、消費税4,900円)

③ 商品代金53,900円(ただし消費税4,900円)

④ 商品代金49,000円、消費税4,900円、合計53,900円

 なお、次のような場合は、消費税が区分記載されていないとして、総額でみるので、印紙税は課税となります。

① 商品代金53,900円

② 商品代金53,900円(ただし消費税を含む。)

 

 

(設例)

 得意先A商会より仕入れて買掛金100,000円が生じたので、売掛金と相殺(そうさい)して領収書を交換した。

 

(借)買 掛  金 100,000 (貸) 売 掛  金 100,000

 たまたま得意先より仕入れて買掛金が生じた(または、仕入先へ販売して売掛金が生じた)場合には、代金はお互い支払わずに、売掛金と買掛金とを相殺すると思われます。相殺の場合には、お互いに領収書を交換しますが、相殺による旨を明示したものについては、金銭の授受がなく、印紙は不要となります。

 

 クレジットカードにより支払を受ける場合の領収書は、売上の時点では金銭の授受がありません。したがって、クレジットカードによる支払であることが明らかにされているものについては、売上時に領収書を発行しても金銭の受取書に該当せず、印紙を貼る必要はありません。

 

・営業に関しない受取書

 

 「売上代金に係る金銭等の受取書」にあっては、「営業に関しないもの」は非課税とされています。「営業」とは、一般に、営利を目的として同種の行為を反復継続して行うことをいいます。株式会社など営利法人の行為は、営業になります。

 公益社団法人・公益財団法人の行為は、営業になりません。したがって、それらの法人に入金があって作成する領収書は、収益事業に該当するものであっても、営業に関しないものとして非課税となります。

 

 協同組合など会社以外の法人の行為が営業に該当するかは、次のとおりです。営業に該当すればこれらの法人の作成する領収書には印紙を貼り、該当しなければ印紙を貼る必要はないことになります。

① 法令の規定や定款の定めにより、利益の配当や剰余金の分配をすることができることとなっている法人(弁護士法人、監査法人、税理士法人など)は、営業に該当します。

② 法令の規定や定款の定めにより、利益の配当や剰余金の分配をすることができないこととなっている法人(公益社団法人、公益財団法人、一般社団法人、一般財団法人、NPO法人、学校法人、社会福祉法人、医療法人など)は、営業に該当しません。したがって、それらの法人に入金があって作成する領収書は、収益事業に該当するものであっても、営業に関しないものとして非課税となります。

 

 町内会や同窓会など人格のない社団(法人格のない任意団体)の行為は、次のとおりです。

① 公益および会員相互間の親睦などの非営利事業を目的として設立されている場合には、営業に該当しません。この形態が多いと思われます。

② その他の人格のない社団が作成する領収書で、収益事業に関して作成するものは、営業に該当します。

 

 個人の場合、「商人」としての行為は営業になり、事業を離れた私的日常生活に関するものは営業になりません。したがって、個人が私的な財産を譲渡したときなどに作成する領収書は、営業に関しないものとして非課税となります。

 

 医師・歯科医師・弁護士・公認会計士・税理士・司法書士・社会保険労務士などの自由職業人の行為は、一般に営業に当たらないとされています。よって、その業務上作成する領収書は、営業に関しないものとして非課税となります。

 

 なお、この「営業に関しないもの」の取り扱いは、あくまで領収書についてであり、後述の手形や契約書には、適用はありません。

 

・手形の収入印紙

 

 小切手には収入印紙が不要ですが、手形には振出人が収入印紙を貼る必要があります。印紙税法では、第3号文書となります。手形の場合には100,000円未満が非課税となっています。

 実務的には、手形の印紙も、領収書と同じように、消費税を除いたところで見てよいのかという問題があります。手形の場合、手形用紙に貼る印紙は、あくまで手形の金額を基準とします。したがって、消費税込みの金額で手形を振り出した場合には、消費税を除いた額ではなく消費税込みの額で見ます。この点は、領収書と異なるところです。

 たとえば、手形には金額1,100,000円、領収書には代金1,000,000円、消費税100,000円と記載されていた場合、手形の作成者が手形に貼る印紙は100万円を超えるので400円、手形の受取人が領収書に貼る印紙は100万円以下なので200円ということになります。

 

・請負の契約書の収入印紙

 

 各種の契約書にも印紙を貼ります。契約書のうちもっとも一般的なものは、請負に関する契約書です。印紙税法では、第2号文書となります。請負とは、当事者の一方がある仕事の完成を約束し、相手方がこれに報酬を払うことを約束することによって成立する契約をいいます。請負の目的物には、建物建築、車両製作、機械修理などのような有形のもののほか、演奏、出演、講演、清掃などのような無形のものも含まれます。

 請負とは、仕事の完成に対して報酬を支払うという関係が必要です。したがって、仕事の完成の有無にかかわらず報酬が支払われるものは請負ではありません(委任となります。)。また、報酬が支払われない無償のものも、請負ではなく委任となります。委任の場合には、印紙は不要です。

 

・還付と罰金

 

 収入印紙を過大に貼った場合や印紙税がかからない文書に誤って収入印紙を貼った場合には、印紙税額の還付を受けることができます。具体的には、過誤納となっている文書と印鑑を持って税務署に行き手続をすることにより、振り込みで還付されます。

 

 課税文書の作成者が印紙を貼らなかった場合には、印紙税の3倍(収入印紙を貼っていないことを自主的に申し出た場合には1.1倍)の過怠税が作成者に課せられます。印紙税がかかることを知らなかった場合や収入印紙を貼り忘れた場合であっても同じです。消印がない場合には、その収入印紙と同額の過怠税がかかります。

 懈怠税は、通常、税務調査のとき印紙が貼っていない文書が発見され生じるのですが、自主申し出という形にしてもらえ1.1倍で済むことが多いようです。

 

 金額の異なる収入印紙を誤って買ってしまった場合には、郵便局で他の金額の収入印紙と交換することができます。交換しようとする収入印紙1枚につき5円の手数料がかかります。収入印紙を現金と交換することはできません。

 

 

※本稿は、次の拙稿を加筆修正したものです。

寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第4回 収入印紙』月刊スタッフアドバイザー 2009年(平成21年)7月号

 

 

※領収書の記載などについては、「領収書」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。