「減価償却」

 

2020年(令和2年)9月5日(最終更新2022年1月1月30日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・減価償却の意義と目的

 

 減価償却とは、固定資産の使用または時の経過などによる価値の減少を認識するために、固定資産の減価を耐用年数の期間にわたり配分し費用化する手続をいいます。文字どおり、減価(価値の減少)により、償却(費用化)して行くということです。たとえば、100万円の車を購入し、それが5年間使用できるものならば、100万円を取得時の一時の費用としないで、5年間にわたり、たとえば20万円ずつ次第に費用にしていくのが、減価償却です。

 

 減価償却の目的は、適正な費用配分を行うことにより、毎期の損益計算を正しく行うことです。そのため、減価償却は所定の減価償却方法に従い、計画的・規則的に実施しなければなりません。利益に及ぼす影響を顧慮して減価償却費を任意に増減することは、正規の減価償却に反し、損益計算をゆがめることになるので、望ましくありません。

 

 

・減価償却の効果

 

 減価償却は、固定資産の流動化自己金融という財務的効果をもたらします。すなわち、収益は、通常、現金預金などの貨幣性資産の収入を伴うのに対し、減価償却費は、費用ではあるが支出を伴わないので、減価償却費に相当する貨幣性資産が企業内に留保される結果となります。

 

 

・減価の原因

 

  固定資産の減価の原因には、次の2つのものがあります。

① 物質的減価

 物質的減価とは、①-1使用または②-2時の経過による、固定資産の物理的な磨滅損耗を原因とする減価をいいます。

② 機能的減価

 機能的減価とは、物理的にはまだ使用に耐えるが、外的事情により、固定資産が陳腐化・不適応化したことを原因とする減価をいいます。

②-1 陳腐化

 陳腐化とは、新発明・新発見などにより、従来からの旧式の固定資産の継続的使用が経済的に割に合わなくなることをいいます。

②-2 不適応化

 不適応化とは、企業規模の変動・需要量の増減などで、従来からの固定資産の使用では十分に対処できなくなることをいいます。

 

 

・コラム「固定資産評価損(臨時損失)」

 

 災害・事故などの偶発的事情により、固定資産の実体が滅失した場合には、その滅失部分の金額だけ、固定資産の簿価を引き下げなければなりません。このような切り下げは、固定資産評価損です。損益計算書の区分は、臨時的な損失なので、原則として特別損失となります。

 

 

・減価償却の種類

 

  減価償却の種類には、正規の減価償却と税務上の特別償却があります。

① 正規の減価償却

 正規の減価償却とは、一定の計算方法により、毎期、計画的・規則的に行う減価償却をいいます。この減価償却費は、その資産の利用状況により、工場のものは製造原価、本社支店のものは販売費及び一般管理費とされます。

 しかし、投資用の建物や下請などへの賃貸固定資産の減価償却費は、受取賃貸料が営業外収益となるので、費用収益の対応表示上、営業外費用とするのが妥当です。

② 特別償却

 特別償却は、国の産業政策の一環として、特に指定した機械設備などにつき早期に減価償却を行うことを認め、設備の近代化等を図ろうとするものであり、租税特別措置法に規定されています。

 

 特別償却には、狭義の特別償却と割増償却の2種類があります。

① 狭義の特別償却

 狭義の特別償却とは、 初年度に取得原価の一定割合が特別償却費として認められるもの。

② 割増償却

 割増償却とは、 各年度に普通償却費の一定割合の割増の特別償却費が認められるもの。

 

 特別償却の会計処理には、税務上、直接減額方式・引当金(準備金)方式・積立金方式の3つが認められています。

① 直接減額方式

 直接減額方式とは、正規の減価償却と同様、固定資産の取得原価から特別償却費を控除して計上する方式です。

② 引当金(準備金)方式

 引当金(準備金)方式とは、直接、固定資産の減額を行わないで、特別償却準備金を設ける方式です。ただし、企業会計原則注解18の引当金に該当しないので、会計上、望ましくなく、通常用いられません。

③ 積立金方式

 積立金方式とは、任意積立金の一種である特別償却積立金を設け、利益(所得)に与える影響が直接減額方式と同じになるように、法人税申告書で調整する方式です。会計上は、費用の期間配分をゆがめないので、積立金方式が望ましいとされています。

 

 

・減価償却の計算要素

 

  減価償却の計算においては、取得原価・残存価額・耐用年数の3つの計算要素が必要です。

① 取得原価

② 残存価額

  残存価額とは、耐用年数到来時における処分可能予想額です。現在の税務上(実務上)は、0として計算します。ただし、税務上は、減価償却計算をしていって、最後に帳簿価額を1円だけ備忘価額として残します(つまり、100%償却はしません。)。

③ 耐用年数

 耐用年数は、各企業が、固定資産の物質的減価・機能的減価を考慮に入れて、その実情に応じて、自主的に決定すべきものです。これを個別的耐用年数といいます。

 しかし、税務上(実務上)は、原則として、課税の公平という観点から、平均的な数値を採って定められた「耐用年数省令」によります。これを、一般的耐用年数または法定耐用年数といいます。

 なお、耐用年数ではなく、利用度をもって、配分基準とすることもあります。

 

 

・コラム「減価償却の計算」

 

 減価償却の計算で円未満の端数が出た場合、通常、切り捨てで計算します。

 また、期中取得の場合には、減価償却費の月割り計算をします。すなわち、取得した月を含めた月数按分を行います。日割り計算を行うという会計慣行はないようです。

 期中売却除却の場合には、売除却の月まで減価償却費を月割りで計上するのが原則です。月次で1/12ずつ減価償却費を計上している会社は、この処理を採ることになります。ただし、減価償却費を決算でしか計上しない中小企業では、期首の減価償却累計額を取り崩すだけで、売除却した期の減価償却費は計上しないこともあります(その分は、売除却損益に含まれることになります。)。

 

 

・コラム「減価償却の仕訳方法」

 

 減価償却の仕訳には、間接法と直接法の2とおりの方法があります。

① 間接法

 間接法では、減価償却費を、固定資産の控除科目である減価償却累計額勘定に記入します。

② 直接法

 直接法では、減価償却費を、直接、固定資産勘定よりマイナスします。したがって、固定資産勘定の残高が、未償却残高を表すことになります。

 

間接法:(借)減価償却費 ××× (貸)減価償却累計額 ×××

 

直接法:(借)減価償却費 ××× (貸)固定資産 ×××

 

 売却したときの仕訳は、次のようになります。

間接法:(借)現金預金     ××× (貸)固定資産 ×××

       減価償却累計額 ×××

       固定資産売却損 ×××

 

直接法:(借)現金預金     ××× (貸)固定資産 ×××

       固定資産売却損 ×××

 

 

・減価償却の貸借対照表上の表示

 

 減価償却の貸借対照表上の表示方法には、貸倒引当金と同様、4とおりの方法が認められています。中小企業の実務においては、一般的に、④の一括注記方式が採られています・

① 科目別控除方式

② 一括控除方式

③ 科目別注記方式

④ 一括注記方式

 

 表示例を示してみます。

 

 

※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第9章 固定資産と減価償却 2 有形固定資産の減価償却」  

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。