「仕訳の手順」

 

2019年(令和元年)8月29日(最終更新2021年7月11日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

 現在行われているパソコン会計では、会計上の取引を、借方(左側)と貸方(右側)の2つに分けて記帳する仕訳が、一番のポイントになります。そこで、以下、仕訳を行うときの手順をまとめておきます。

 

① 勘定科目の選定

 取引を2つに分解して考え、増減している勘定科目を、2つ見つけます。複雑な取引になると、3つ以上の勘定科目が必要になることもあります。

 

② 勘定科目の帰属の検討

 それらの勘定科目が、資産・負債・資本・収益・費用の5グループのいずれに該当するかを考えます。

 

③ 仕訳のルールに従い記入

 増加ならば本来の場所に記入し、減少ならば本来の場所の反対側に記入します。

 

④ 貸借の金額の確認

 借方(左側)と貸方(右側)の金額が、一致していることを確かめます。

 

 

・勘定科目の選定

 

 仕訳のルールを覚えて、実際に仕訳を行うとき難しいのは、取引の中から勘定科目を2つ見つけることです。

 

 そこで、どのようにして、勘定科目を見つけるかですが、まず、具体的で一番見つけやすいのは、現金や預金です。現金・預金の動きがあるかに注目して、増加していれば本来の場所である借方(左側)、減少していれば本来の場所の反対側である貸方(右側)に、それぞれ記入します。

 

 たとえば、普通預金をおろして現金としたという取引は、現金が増加しているので借方(左側)、普通預金が減少しているので貸方(右側)に記入します。したがった、次のようになります。

(借)現  金 ××× (貸)普通預金 ×××

 

 逆に、現金を普通預金に入金したという取引は、普通預金が増加しているので借方(左側)、現金が減少しているので貸方(右側)に記入します。したがった、次のようになります。

(借)普通預金 ××× (貸)現  金 ×××

 

  現金・預金の次は、債権・債務の動きがないかに注目します。債権とは、売掛金・貸付金などです。これらは、資産なので、増加は借方(左側)、減少は貸方(右側)に、それぞれ記入します。債務とは、買掛金・借入金などです。これらは、負債なので、増加は貸方(右側)、減少は借方(左側)に、それぞれ記入します。

 

 2つの勘定科目のうち、1つに現金・預金や債権・債務が記入されると、もう1つの勘定科目は、損益計算書の収益・費用であることが多くなります。売上・仕入やたくさんの経費の勘定科目は、抽象的なので、わかりにくいと思います。これは、経験を積んで、少しずつ覚えていけばよいでしょう。

 

 たとえば、売掛金や買掛金の計上は、次のようなパターンとなります。

(借)売掛金 ×××  (貸)売 上 ×××

(借)仕 入 ×××  (貸)買掛金 ×××

 

 取引の中で数が一番多いのは、経費の支払いだと思われます。経費は費用に属するので、増加したとき借方(左側)です。したがって、経費の仕訳は、次のようなパターンが多くなります。

(借)○○費 ××× (貸)現  金 ×××

(借)○○費 ××× (貸)普通預金 ×××

(借)○○費 ××× (貸)未払金  ×××

 

 

・仕訳伝票の記入

 

 仕訳とは、具体的には、日々の取引を、仕訳伝票に記入することをいいます。

 会計のソフトを使うと、パソコンの画面で仕訳伝票の形式が現れます。ですから、手書きの仕訳伝票を作って、それを見ながらパソコンに入力していきます。

 

 もっと速いのは、手書きの仕訳伝票を作らないで、領収書や請求書などの証拠書類から、直接、パソコンの画面の仕訳伝票に入力していく方法です。そして、領収書などは、分類しないで、日付順にどんどん綴って行くと、事務の合理化になります。

 

 さて、仕訳伝票には、振替伝票・入金伝票・出金伝票の3種類があります。入金伝票は、現金を受け取ったときに用います。仕訳で示すと、次のような場合です。

(借)現    金 ×××  (貸)〇〇〇 ×××

 出金伝票は、現金を支払ったときに用います。

(借)〇〇〇 ×××  (貸)現    金 ×××

 入金伝票は、借方がいつも現金なので、借方を省略して貸方だけを記入したものです。一方、出金伝票は、貸方がいつも現金なので、貸方を省略して借方だけを記入したものです。

 なお、現金の入出金でも、複雑な取引があります。借方と貸方の勘定科目が1つずつの単一仕訳ではなく、複数出てくる複合仕訳の場合です。このような場合には、入金伝票や出金伝票では記入できず、振替伝票を使います。ですから、統一化を図るため、入金伝票や出金伝票は使わずに、すべて振替伝票で仕訳を行っている会社もあります。なお、伝票の摘要欄には、取引先名と取引内容を記入します。

 

                振替伝票

 年  月  日

勘定科目

金 額

勘定科目

金 額

摘  要

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合 計

 

合 計

 

 


 

入金伝票

 年  月  日

勘定科目

金 額

摘   要

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合 計

 

 

 

 

出金伝票

 年  月  日

勘定科目

金 額

摘   要

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合 計

 

 

 

 

 また、パソコンの画面では、仕訳帳(仕訳日記帳)からも入力できます。さらに、現金出納帳や預金出納長の画面からも入力できます。パソコンの会計ソフトでは、仕訳伝票だけでなく、いろいろな入力方法が可能です。

 

 

・簿記上の「取引」

 

 仕訳を行う必要のある簿記上(会計上、経理上)の「取引」は、日常用語でいう「取引」と、大部分は共通ですが、少しくい違う点があります。

 

 簿記上の取引とは、資産・負債・資本・収益・費用の増減が生ずる取引をいいます。たとえば、取引先と商品の注文や契約をした段階は、一般的には取引が成立したといえるでしょうが、商品の移動や代金の授受がない限り、簿記上の取引とはならないことが多く、仕訳は不要となります。

 

 逆に、日常用語では取引といわないのに、簿記上の取引となるものもあります。盗難や災害で資産が損失をこうむった場合は、一般的には取引といいません。しかし、簿記では、資産が減少したので、仕訳を行います。

 

 

 ※本稿は、次の拙著・拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一著 『新人経理マン・経理ウーマンのための初級経理レッスン』税務研究会出版局1999年 「レッスン1-5 仕訳の手順」

寺田誠一稿『聞くに聞けない会社経理のキホン 第1回 経理課の役割と簿記の基本』月刊スタッフアドバイザー 2004年10月号

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。