「低価法」

 

2020年(令和2年)4月23日(最終更新2021年7月13日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・正味売却価額

 

 棚卸資産は取得原価をもって評価しますが、期末における正味売却価額が取得原価より下落している場合には、正味売却価額をもって評価します。すなわち、低価法を適用します(中小企業においては、原価法も可)。

 正味売却価額とは、売価から見積追加製造原価と見積販売直接経費を控除したものをいいます。なお、正味売却価額は、従前、正味実現可能価額という用語で呼ばれていたものです。

 

 低価法が原則的評価基準となったのは、次のような理由からです。棚卸資産は、販売によって資金の回収を図ります。このような投資の回収形態の特徴を踏まえると、評価時点における資金回収額を示す棚卸資産の正味売却価額が、その帳簿価額を下回っているときには収益性が低下していると考え、将来に損失を繰り延べないため帳簿価額の切下げを行うことが妥当であると考えられるからです。

 

 正味売却価額(正味実現可能価額)は、次のように表されます。

正味売却価額=売価(※)-見積追加製造原価-見積販売直接経費

※売価:購買市場と売却市場とが区別される場合における売却市場の時価

 なお、売却市場において市場価格が観察できないときは、合理的に算定された価額を売価とします。

 

  製造業の原材料のように、再調達原価の方が把握しやすい場合には、次の2つの条件のもとに、再調達原価(最終仕入原価を含む。)によることができます。

再調達原価=購買市場の時価+付随費用(※)

※付随費用は、重要性から、含めないことができます。

① 正味売却価額が再調達原価に歩調を合わせて動くと想定されること

 この2つは当然比例した動きをするでしょうから、通常、この条件は満たすと考えられます。

② 継続適用

 

  低価法には、洗替え法と切放し法とがあります。洗替え法は、前期に計上した簿価切下額を当期に戻入れる方法です。切放し法は、前期に計上した簿価切下額の戻入れを行わない方法です。

 洗替え法と切放し法は、棚卸資産の種類ごとに選択適用できます。ただし、継続適用が必要です。

 また、売価の下落要因を区分把握できる場合には、物理的劣化・経済的劣化・市場の需給変化の要因ごとに、洗替え法と切放し法を選択適用できます。

 

 

 

・棚卸資産の評価損の表示

 

 棚卸資産の収益性の低下による簿価切下額(品質低下評価損、陳腐化評価損、低価法評価損)は、販売活動を行う上で不可避的に発生したものであるため、売上高に対応する売上原価とします。

 ただし、原材料の品質低下など棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められるときには、製造原価とします。そのような場合であっても、重要性が乏しい場合には、売上原価に一括計上することができます。

 また、収益性の低下に基づく簿価切下額が臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには、特別損失に計上します。臨時の事象とは、①重要な事業部門の廃止、②災害損失の発生などをいいます。なお、この場合には、洗替え法を適用していても、簿価切下額の戻し入れを行うことはできません。

 

 洗替え法を採用し、前期に計上した簿価切下額を当期に戻し入れる場合には、当期の簿価切下額を計上する損益区分と同じ区分に計上します。

 

 

   簿価切下額の種類

  表示

②、③以外のもの

売上原価

棚卸資産の製造に関連して発生するもの

製造原価

臨時の事象に起因し、かつ、多額であるもの

特別損失

 

 

※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第8章 棚卸資産と売上原価 4 低価法」

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。