「A4 1枚でわかる簿記①…簿記の手続」

 

2019年(令和元年)8月12日(最終更新2023年11月19日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・簿記の手続き

 

 企業などは、一定期間を区切って、活動結果を計算・集計し、外部に報告します。その一定期間(通常1年)のことを、事業年度(または会計年度会計期間)といいます。また、事業年度のはじめを期首、終わりを期末といいます。

 期末に残高のチェックを行い、その事業年度の金額を確定させ、帳簿を締め切ることを、決算といいます(月次決算を行う場合には、月初・月末ということばを用います。)。したがって、期末のことを、決算日ともいいます。

 簿記とは、帳簿記入の略称です。1事業年度の簿記の全体の手続きは、次の図のとおりです。すなわち、すべての取引を仕訳(※)し、それを総勘定元帳に転記し、その数字を集計して残高試算表を作ります。それらの数字から、貸借対照表と損益計算書(これらを、決算書財務諸表といいます。)を作成します。

 

※一般的な言葉では、「仕分け」ですが、簿記・会計では「仕訳」といいます。先人がそのような漢字を使って、そのまま踏襲されてきたのでしょう。特殊な漢字ですが、「仕訳」といえば、簿記・会計の用語だとわかるという利点があります。

 

 

 現在では、パソコンの会計ソフトが発達したため、仕訳をパソコンに入力すれば、総勘定元帳・残高試算表・貸借対照表・損益計算書を自動的に計算・集計してくれます。

 ですから、必要なのは、最初の仕訳だけです(仕訳も、自動仕訳してくれるソフトがありますが、まだ不完全で、人間が補足訂正する必要があります。)。したがって、実務上は、仕訳が大事ということになります。

  

・貸借対照表の説明

 

 まず、貸借対照表の説明からはじめます。貸借対照表とは、一定時点(決算日現在)の具体的な財産とその調達源泉を対照して示した表です。左側に具体的な財産を記載し、右側にその調達源泉を記載します。

 

(設例1)

 金融機関から借り入れた普通預金3,000千円と株主(社長)が出資した普通預金5,000千円で、会社経営を始めた。

 

 貸借対照表の左側には具体的な財産として普通預金8,000千円が、右側にはその調達源泉として金融機関からの借入金3,000千円と株主からの資本金5,000千円が記載されます。そして、左側の金額8,000千円は、右側の金額3,000千円+5,000千円と一致します。

 

(設例2)

 設例1の続きで、普通預金6,000千円で商品を仕入れて、それを7,000千円で売上げ、代金は普通預金で回収した。

 

 貸借対照表がどのように変化するかを見ていきます。まず、左側の具体的な財産ですが、1,000千円増えて9,000千円となります。一方、右側の財産の源泉は、長期借入金3,000千円と資本金5,000千円は変わりません。残り1,000千円の源泉は、6,000千円の商品を7,000千円で売ったことによる利益に由来するものです。この場合も、左側の金額9,000千円は、右側の金額3,000千円+5,000千円+1,000千円と一致します。

 

・損益計算書の説明

 

 さきほどの設例2では、貸借対照表に利益1,000千円が表示されました。しかし、貸借対照表では、利益1,000千円が普通預金という具体的な財産になっていることはわかっても、その原因がわかりません。その原因を示した表を損益計算書といいます。すなわち、損益計算書とは、利益の原因を示した表です。

 

 損益計算書は、右側に、利益の増加原因を、左側に、利益の減少原因と差額としての利益を記載します。

 設例2で損益計算書を作ると、右側には、利益の増加した原因である売上7,000千円を記載します。左側には、利益の減少した原因である仕入6,000千円を記載します。そして、金額の少ない左側に、差額1,000千円を利益として記載します。これで、左側の金額6,000千円+1,000千円は、右側の金額7,000千円と一致します。

 

・利益の表示場所は、左それとも右?

 

 利益1,000円は、貸借対照表では右側に表示されました。一方、損益計算書では左側に表示されています。利益は、左側の項目なのか、それとも右側の項目なのか、どちらと考えたらよいのでしょうか。

 

 結論からいうと、利益は右側の項目です。貸借対照表の右側に利益1,000千円を記載することによって、普通預金9,000千円のうち1,000千円の源泉は利益であることを示しています。

 損益計算書で考えても、売上7,000千円から仕入6,000千円を差し引いた部分が利益です。つまり、右側です。それを、貸借対照表の右側に移動させたと考えることができます。

 

 右側項目なのにもかかわらず、損益計算書で利益が左側に表示されるのはなぜでしょう。それは、左右(貸借)を合わせるため、金額の少ない左側に利益を記載するためです。本来、左側という理由ではなく、左右(貸借)を一致させるという計算技術的な理由からです。

  

 なお、損失の場合には、利益の場合と逆になり、左側の項目となります(損益計算書では右側に表示)。

 

 実務上は、簿記・会計に詳しくない方のことを考慮して、損益計算書は、左右ではなく、上下に示すことが一般的です(

左右に示す損益計算書を勘定式、上下に示す損益計算書を報告式といいます。)。

 

※本稿は、次の拙著を大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一著『事典 はじめてでもわかる簿記』中央経済社1997年 「第1章 簿記は仕訳から」

 

 

※仕訳から試算表・決算書を作る設例については、「決算書の作成方法の設例」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。