「のれん(営業権)とソフトウェア」

 

2020年(令和2年)9月10日(最終更新2021年7月14日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・のれん(営業権)の意義

 

 無形固定資産の1つに、のれん(営業権)があります。のれん(営業権)とは、ある企業が同種の他の平均的な企業に比べて超過収益力を有する場合、その超過収益力の原因をいいます。たとえば、老舗やブランドの知名度、代々伝えられた秘伝の技などです。

 

・自己創設のれん

 

 のれんの計上は、企業外部から有償で取得した場合に限られます。いわゆる自己創設のれん(企業が独自に当社は超過収益力があるからといって営業権を計上すること。)の資産計上は認められません(自己創設のれんは貸借対照表能力なし。)。

 自己創設のれんの資産計上が認められない理由として、通常、次のことがあげられます。

① 自己創設のれんは、支出が生じないので、単なる推測に留まり、金額の確定が困難であり客観性を欠きます。

② 営業権は、企業という1つの組織体の内に存在しているものであるから、貸借対照表能力が認められるのは、買収や合併などのために企業を全体として評価する場合に限られます。

 

 

・償却不要説と償却必要説の根拠

 

  のれんには、償却不要説と償却必要説とがあります。それぞれの根拠は、次のとおりです。

① 償却不要説

 のれんは、減耗・損傷するものではなく、かえって企業が古くなればなるほどその価値が高まるという考えです。

② 償却必要説

②-1 自由競争の下では、超過収益力の長期的な維持は困難です。次第に、減少していくと考えるのが自然です。

②-2 仮に超過収益力が維持されているとしても、それはその後の自己創設のれんによると考えられます。したがって、当初の営業権を償却しないと、実質的に自己創設のれんの計上を認めることになってしまいます。

②-3 のれんのような具体的な実体のないものにつき、資産性を認めることは望ましくなく、また、資産性を認めても永続的な保証はないので、早期に償却することが、保守主義の思想に合致します。

 

 

・制度会計上ののれんの償却

 

 のれん(営業権)は、定額法、残存価額0で、償却します。会計基準は20年以内、税務は5年で償却します。償却費の表示区分は、販売費及び一般管理費です。

 

 

・コラム「無形固定資産の償却」

 

 電話加入権は時価で売却可能であり、また、借地権は、有形固定資産の土地と同様、減価しないと考えられるので、いずれも償却を行わない非償却資産とされます。

 その他の無形固定資産は償却資産であり、多くの場合、残存価額を0とした定額法が適用されます。償却期間は各資産により異なります。無形固定資産は、その性質上、残存価額が0とされるので、定率法を適用することはできません。償却費の表示区分は、販売費及び一般管理費です。

 なお、無形固定資産の場合、減価償却といわずに、単に償却という語を用いることもあります。

  無形固定資産は、取得原価から償却累計額を控除するという間接的な表示形式は採られていません。直接、償却控除後の金額を表示します。その理由としては、次のようなことが考えられます。

① 無形固定資産は、一般に、その取替更新を意図していないので、過去の取得原価を明示する意義が乏しいこと。

② 無形固定資産は、有形固定資産に比べて、金額及び科目の重要性が乏しいこと。

 

  

・ソフトウェアの会計処理

 

 1998年( 平成10年)の「研究開発費等に係る会計基準」において、ソフトウェアに関する会計処理が整備されました。

 ソフトウェアの制作費は、その制作目的により、将来の収益との対応関係が異なります。よって、ソフトウェアの制作費に関する会計基準は、取得形態(自社制作、外部購入別)別ではなく、制作目的別に設定されています。

 ソフトウェア制作費のうち、研究開発に該当する部分は、研究開発費として費用処理します。

 

 

・受注制作のソフトウェアの会計処理

 

 請負工事の会計処理に準じて処理します。すなわち、個別原価計算により集計されたソフトウェア制作費は、棚卸資産(仕掛品)となります。

 

 

・市場販売目的のソフトウェアの会計処理

 

 製品マスター(複写可能な完成品)の制作費は、研究開発に該当する部分を除き、無形固定資産に計上しなければなりません。ただし、バグ取りなど製品マスターの機能維持に要した費用は、資産計上しないで発生時に費用処理します。

 次の2つのものは、研究開発費に該当します。

① 最初に製品化された製品マスターの完成まで(研究開発終了前)の費用。

② 製品マスター・購入したソフトウェアに対する著しい改良に要した費用。

 

 

・自社利用のソフトウェアの会計処理

 

① サービス提供目的のソフトウェア

 その提供により、将来の収益獲得が確実であると認められる場合には、制作費を無形固定資産に計上しなければなりません。

② 社内利用のソフトウェア

 その利用により、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合には、取得に要した費用を無形固定資産に計上しなければなりません。不確実な場合には、費用処理します。

③ 機械装置等に組み込まれているソフトウェア

 その機械装置等に含めて処理します。

 

 

・無形固定資産計上の理由

 

  ソフトウェアを資産計上する場合には、無形固定資産の区分に計上します。その理由は、次のとおりです。

① 製品マスターは、それ自体が販売の対象物ではなく、機械装置等と同様にこれを利用(複写)して製品を完成させること。

② 製品マスターは、法的権利(著作物)を有していること。

③ 適正な原価計算により、取得原価を明確化できること。

 

 

・ソフトウェアの減価償却方法

 

 ソフトウェアの性格に応じて、見込販売数量に基づく償却方法その他合理的な方法(例えば、市場販売目的の場合の見込販売収益、社内利用の場合の定額法)により、償却します。

 ただし、毎期の償却額は、残存有効期間に基づく均等配分額を下回ってはなりません(たとえば5年の場合には1/5以上)。

 いずれの減価償却方法による場合にも、毎期、見込販売数量等も見直しを行い、減少が見込まれる販売数量に相当する取得原価は、費用または損失として処理する必要があります。

 

 

 ※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第9章 固定資産と減価償却 7 のれん 8 ソフトウェア」 

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。