「一般原則1」
2020年(令和2年)9月3日(最終更新2021年9月27日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
・一般原則の種類
企業会計原則の構成は、一般原則・損益計算書原則・貸借対照表原則の3つに分かれています。一般原則は、損益計算書原則と貸借対照表原則に共通な諸原則を取り上げたものであるといわれています。
企業会計原則の一般原則は、真実性の原則・正規の簿記の原則・資本取引損益取引区分の原則・明瞭性の原則・継続性の原則・保守主義の原則・単一性の原則・重要性の原則の8つです。
・真実性の原則
真実性の原則は、他の一般原則と同列に扱われるべきものではないとされています。それは、他の一般原則および損益計算書原則・貸借対照表原則の上位に位置するものです。つまり、企業会計の全領域における包括的な原則です。
そのことをいいかえると、他の諸原則が守られているとき、財務諸表は真実(適正)だということができます。つまり、会計記録・会計処理・会計報告(表示)が他の諸原則に合致しているとき、真実性の原則が満たされているといえます。今日の財務諸表は、「記録と慣習と判断の総合的表現である。」といわれます。
公認会計士・監査法人の監査においては、「適正」という語が用いられますが、これは、真実性の原則にいう「真実」と同じ意味と解されています。真実性の原則に反して、意図的に架空利益を計上した決算を粉飾決算といい、逆に、意図的に利益を隠蔽(いんぺい)した決算を逆粉飾決算といいます。
① 絶対的真実
かつてのドイツ商法における真実性の原則は、決算日におけるすべての資産・負債を、客観的な時価により貸借対照表に計上することを要求していました。そして、そのような時価はただ1つしかないと考えられるので、絶対的真実と呼ばれていました。
② 相対的真実(パート1)
今日の企業会計では、1つの会計事実について、複数の一般に公正妥当と認められる会計処理が存在します。たとえば、棚卸資産の評価方法には先入先出法・移動平均法など、有形固定資産の減価償却方法には定額法・定率法など、いくつかの方法が認められています。そのうちのどの方法を採るかにより、財務諸表への記載額は異なってきます。それにもかかわらず、そのいずれも真実な、財務諸表として扱われます。その意味で、真実性の原則にいう真実は相対的真実といわれます。
③ 相対的真実(パート2)
また、今日の企業会計は、継続企業の公準により、事業年度(会計期間)を区切って決算が行われます。決算においては、適正な期間損益計算のため、見積計算が必要となります。たとえば、引当金の計上における金額の見積もりや、減価償却計算における耐用年数・残存価額の見積もりなどです。このように、今日の財務諸表の金額は、必ずしも確定的な数値ではなく、見積計算を行った結果の数値も記載されます。そのような意味でも、相対的真実といわれます。
・正規の簿記の原則
① 会計記録に関する原則
正規の簿記の原則は、第1に、一定の要件を備えた会計帳簿を作成しなければならないことを意味します。すなわち、会計記録に関する原則です。一定の要件として、通常挙げられるのは、次の3点です。
1 網羅性
会計帳簿には、すべての取引が正しく記録されなければなりません。
2 検証性
会計記録は、検証可能な客観的証拠に基づいて行われなければなりません。
3 秩序性
証拠書類から、仕訳帳(仕訳伝票)・総勘定元帳・補助簿・試算表を経て決算書(財務諸表)に至るそれらの書類相互間の結びつきが、一定の決まりに従った秩序的なものでなければなりません。
② 誘導法
正規の簿記の原則は、第2に、会計帳簿に基づいて、財務諸表を作成する(=誘導法)ということを意味します。すなわち、正規の簿記の原則によれば、会計帳簿とは無関係に、期末に、財産を実地調査して財務諸表を作成する(=棚卸法)ことは否定されます。
③ 会計処理に関する重要性の原則
正規の簿記の原則は、第3に、会計処理に関する重要性の原則を含みます。
・資本取引と損益取引の区分の原則(資本と利益の区別の原則)
この原則は、順番として、資本(純資産)を学習した後に学ぶことをお勧めします。その方がよく理解できると思います。
さて、資本剰余金とは、企業に拠出された元本・もとでのうち資本金とされなかった部分をいいます。利益剰余金(留保利益)とは、過去と当期の利益の累計額をいいます。
資本取引と損益取引の区分(区別)、または、資本と利益の区別という場合、下記の2とおりの意味が考えられます。通常は①だと思いますが、適正な期間損益計算という観点からは②となります。違いは、利益剰余金の増減のうち当期純利益に影響しない取引です。配当金の支払いや積立金の設定です。これを広義の資本取引という場合もあります。①ではこれを損益取引に含めるのに対し、②では資本取引に含めます。
なお、「中小企業会計指針」では、資本剰余金を「資本取引から生じた剰余金」と定義しているので、①の考え方を採っています。
① 資本取引:資本金・資本剰余金の増減を生ずる取引
損益取引:利益剰余金の増減を生ずる取引
② 資本取引:資本金・資本剰余金・利益剰余金(当期純利益に影響する取引を除きます。)の増減を生ずる取引
損益取引:当期純利益に影響する取引
次に、資本と利益の区別が必要な理由は、次のとおりです。
① 適正な開示
資本と利益が混同されると、当期の利益が過大または過小に表示され、企業の財政状態および経営成績が適正に示されないことになり、利害関係者の判断を誤らしめることになります。
② 財務的健全性
特に、資本を利益として処理した場合には、資本が配当・税金などとして社外に流出してしまい、つまり資本の食いつぶしが生じ、企業の財務的健全性が損なわれる結果になります。
(設例)
次の各取引は、資本取引ですか、それとも損益取引ですか。
① 新株発行により、資本金と株式払込剰余金が生じた。
(借)現金預金 ××× (貸)資 本 金 ×××
株式払込剰余金 ×××
② 株式交付費を支払った。
(借)株式交付費 ××× (貸)現金預金 ×××
③ 減資を行い、欠損を填補(てんぽ)した。
(借)資 本 金 ××× (貸)繰越利益剰余金 ×××
④ 利益準備金を取り崩し、欠損を填補(てんぽ)した。
(借)利益準備金 ××× (貸)繰越利益剰余金 ×××
⑤ 株主総会により、配当を決議した。
(借)繰越利益剰余金 ××× (貸)未払配当金 ×××
⑥ 株主総会の決議により、別途積立金を設けた。
(借)繰越利益剰余金 ××× (貸)別途積立金 ×××
⑦ 株主総会の決議により、繰越利益の資本金への繰入れを行った。
(借)繰越利益剰余金 ××× (貸)資 本 金 ×××
⑧ 機械を現金預金で購入した。
(借)機械装置 ××× (貸)現金預金 ×××
⑨ 金融機関より長期の借入れを行った。
(借)現金預金 ××× (貸)長期借入金 ×××
⑩ 買掛金を、手形の振り出しにより支払った。
(借)買 掛 金 ××× (貸)支払手形 ×××
①:資本金と資本剰余金が増加しているので、資本取引です。
②:借方の株式交付費を当期の期間費用とするならば、当期純利益に影響を与えるので損益取引となります。一方、繰延資産とするならば、株式交付費という資産と現金預金という資産の交換取引であり、当期純利益に影響ないので、損益取引とはなりません。資本金・資本剰余金に関係がないので、資本取引でもありません。結局、繰延資産とした場合には、資本取引でも損益取引でもないということになります。
③:資本金が減少しているので、資本取引です。
④:利益剰余金(留保利益)の内部における計数の変動です。資本金・資本剰余金および当期純利益に無関係なので、広義の資本取引となります。
⑤:利益剰余金(留保利益)の減少を生じ、資本金・資本剰余金および当期純利益に無関係なので、広義の資本取引となります。
⑥:利益剰余金(留保利益)の内部における計数の変動です。資本金・資本剰余金および当期純利益に無関係なので、広義の資本取引となります。
⑦:資本金が増加しているので、資本取引となります。
⑧:機械装置という資産と現金預金という資産との交換取引であり、資本取引でも損益取引でもありません。
⑨:現金預金という資産と借入金という負債との間の取引であり、資本取引でも損益取引でもありません。
⑩:買掛金という負債と支払手形という負債との間の交換取引であり、資本取引でも損益取引でもありません。
・明瞭性の原則
明瞭性の原則は、企業の利害関係者に対し、必要な会計事実を財務諸表によって明瞭に開示すべきことを定める原則です。それにより、利害関係者のその企業に関する的確な判断を可能にしようとするものです。
株主、債権者、取引先、顧客、国・地方公共団体など企業をめぐる利害関係者は、通常の場合、企業の内部的な資料は入手できないので、財務諸表を通じて必要な情報を入手するしかありません。したがって、財務諸表が明瞭であり、利害関係者の判断を誤らせないことが重要です。
この原則は表示(報告)に関する原則ですが、その内容から考えると、適正開示の原則とか公開性の原則と呼ぶ方が妥当でしょう。
明瞭性の原則は広範囲に及びますが、主なものは次のとおりです。
① 区分
損益計算書は、営業利益、経常利益、当期純利益などを表示する区分式損益計算書を採用しています。
貸借対照表は、資産、負債、純資産の3区分に分けます。さらに、資産は流動資産、固定資産、繰延資産に、負債は流動負債、固定負債に、それぞれ区分します。
② 配列
貸借対照表における資産と負債の配列は、原則として、流動性配列法によっています。
③ 総額主義
損益計算書における収益と費用は、原則として、相殺しないで、総額で表示します。貸借対照表においても、資産と負債・純資産とを、原則として、相殺しないで、総額で表示します。
④ 重要性の原則
科目や金額の重要性の高いものは、本来の厳密な表示により独立科目で表示されます。しかし、科目や金額の重要性の乏しいものは、利害関係者の判断を誤らせないと考えられるので、財務諸表の概観性を保って見やすくするため、他の科目に含めて表示することも認められます
⑤ 注記
重要な会計方針、重要な後発事象、その他重要事項は、注記を記載しなければなりません。
会計方針とは、企業が損益計算書と貸借対照表の作成にあたり、経営成績と財政状態を正しく示すために採用した会計処理をいいます。
2つ以上の方法がある場合、いずれの方法を採用するかにより、財務諸表の金額が異なってきます。したがって、財務諸表の利用者が的確な判断をするための前提条件として、どの方法を採用したかを開示することが必要となります。代替的な方法が認められていない場合には、その方法を採用するしかないので、会計方針の注記は省略することができます。
会計方針の具体例としては、次のようなものが挙げられます。
1 有価証券の評価基準・評価方法
評価基準とは原価、時価などであり、評価方法とは移動平均法、総平均法などです。
2 棚卸資産の評価基準・評価方法
評価基準とは原価、低価などであり、評価方法とは先入先出法、移動平均法などです。
3 固定資産の評価方法
定率法、定額法などです。
4 繰延資産の処理方法
繰延資産につき、資産計上しているか、一時の費用として処理しているかということです。資産計上している場合には、何年間でどのような方法で償却していくかということも含みます。
5 外貨建資産・負債の円貨への換算基準
取得時・発生時レート、決算時レート、予約レートなどです。
6 引当金の計上基準
7 費用・収益の計上基準
後発事象とは、決算日後に生じた事象で、次期以後の財政状態・経営成績に影響を及ぼすものをいいます。
財務諸表作成日までに生じた重要な後発事象は、注記しなければなりません。将来の財政状態・経営成績を理解するための補足情報として有用だからです。
重要な後発事象の例としては、次のようなものがあります。
1 火災・出水等による重大な損害の発生
2 多額の増資・減資、多額の社債発行・繰上償還
3 合併、重要な営業譲渡・譲受
4 重要な係争事件の発生・解決
5 主要な取引先の倒産
その他重要事項の注記の例としては、次のようなものがあります。
1 受取手形割引額、受取手形裏書譲渡額
2 保証債務
3 債務の担保に供している資産
4 発行済株式1株当たり当期純利益
5 発行済株式1株当たり純資産額
重要な会計方針に関する注記は、損益計算書と貸借対照表の次に、一括記載します。重要な後発事象・その他重要事項の注記は、損益計算書と貸借対照表の欄外に記載する脚注が原則ですが、重要な会計方針の次に一括記載することもできます。
※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。
寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第5章 企業会計の基本理念 1 一般原則」
寺田誠一著 『財務諸表論頻出問題演習 第4版』中央経済社2000年 「1章 会計学総論および一般原則」
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。