「一般原則2と会計公準」

 

2020年(令和2年)9月3日(最終更新2021年7月13日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・継続性の原則

 

 継続性の原則は、いったん採用した会計処理(会計方針)を毎期継続して適用し、みだりに(=正当な理由なく)変更してはならないとするものです。

 

 継続性の原則が必要とされる理由、いいかえると、継続性の原則の目的は、次の2つです。

① 財務諸表の期間比較可能性の確保

 企業が選択した会計処理を毎期継続して適用しないときは、同一の会計事実について異なる利益額が算出されることになり、財務諸表の期間比較を困難にします。

② 利益操作の排除

 会計処理の恣意的な選択適用を認めるならば、利益操作が行われる可能性が生じます。

 

 さて、企業会計上、継続性が問題とされるのは、1つの会計事実について2つ以上の公正妥当な会計処理の選択適用が認められている場合です。たとえば、棚卸資産の評価方法には、先入先出法・移動平均法などが認められています。有形固定資産の減価償却方法には、定率法・定額法などが認められています。このように複数の会計処理が認められているのは、企業は業種・規模など多くの面において多様性があるためです。したがって、各企業に適した処理を選択させ、それを継続適用させようというわけです。

 

 いま、公正妥当な会計処理を○、そうでない会計処理を×で表すと、会計処理の変更は、次の4とおり考えられます。そのうち継続性が問題となるのは、①だけです。

〇→〇

継続性の変更

×→×

会計原則違反(継続性の変更ではない)

〇→×

会計原則違反(継続性の変更ではない)

×→〇

当然の変更

 

 継続性の原則の内容は、○→○への変更につき、正当な理由があれば認め(注記が必要)、正当な理由のないものは認めないということです。

・保守主義の原則(安全性の原則)

 

 保守主義とは、企業の不確実性・危険性に備えるため、利益を控えめに計上しようとする思想です。すなわち、収益の計上を遅らせ金額を少なめに計上し,または、費用の計上を早め金額を多めに計上しようというものです。

 また、保守主義は、表示についても適用されます。財政状態や経営成績を控えめに表示しようとするものです。

 

 しかし、保守主義が行き過ぎると真実性が失われます。したがって、企業会計原則は「適当に健全な会計処理」といい、また注解4では「過度に保守的な会計処理」を禁じています。

 

 具体的には、次のようなものが、保守主義の適用例といえます。

① 公正妥当な会計処理が複数認められているとき、その内で保守的な処理を選択すること。保守主義の適用例としてよく挙げられるのは、次のようなものです。

①-1 減価償却における定率法の適用

①-2 少額な固定資産の費用処理 

①-3 割賦販売における回収基準の適用

①-4 繰延資産としないで費用処理

② 見積計算にあたり、数種類の判断が可能な場合、その内で最も保守的な判断を採用すること。

 

 

・単一性の原則

 

 単一性の原則は、財務諸表の形式は異なっていても、その実質的内容は同一でなければならないという実質一元・形式多元の要請を述べてものです。すなわち、異なる形式の財務諸表であっても、科目の精粗に違いはあっても、その実質(当期純利益など)は同じでなければならないということを意味しています。

 単一性の原則は、異なる形式の財務諸表を作成する場合であっても、実質的内容は同一でなければならず、政策の配慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならないとするものであり、真実性の原則を換言したものにすぎません。当たり前の事をいっている原則であり、現在では一般原則の1つに掲げておく必要は乏しいものです。

 

 

・重要性の原則

 

 重要性の原則は、企業会計原則において、本文ではなく注解に規定されています。すなわち、会計処理に関する重要性の原則は正規の簿記の原則に、表示に関する重要性の原則は明瞭性の原則に、それぞれ付属するという構成を採っています。

   会計処理に関する重要性の原則 ⇒ 正規の簿記の原則

   表示に関する重要性の原則   ⇒ 明瞭性の原則

 しかし、重要性の原則は文字どおり重要なので、注解ではなく本文に、独立した一般原則の1つとして掲げることが望ましいと思われます。

 

 重要性の原則の内容は、次の2つです。明文で表されているのは②だけですが、当然①の内容も含んでいます。

① 重要な処理・表示

 重要な処理・表示は、本来の厳密な方法によらなければなりません。

② 重要でない処理・表示

 重要でない処理・表示は、本来の厳密な方法によらないで、他の簡便な方法によることが認められます。

 

 重要性の種類は、違う観点から、2つに分けられます。

① 科目の重要性と金額の重要性

①-1 科目の重要性(質的重要性)

 不適切な名称で処理・表示したのでは財務諸表の利用者の判断を誤らせるおそれのある科目や、利益操作が行われやすい科目は、その内容を示す明瞭な科目で表示しなければなりません。たとえば、仮払金・仮受金、役員・関係会社に対する債権債務などです。

①-2 金額の重要性(量的重要性)

 金額の大きい場合には本来の厳密な処理・表示によらなければならないが、金額の小さい場合には他の簡便な処理・表示によることができます。

 なお、科目の重要性と金額の重要性とでは、金額の重要性の方が優先すると考えられます。重要な科目であっても金額が小さい場合には、簡便な方法によっても、利害関係者の判断を誤らせないと考えられるからです。

 

② 会計処理に関する重要性と表示に関する重要性

②-1 会計処理に関する重要性

 取引を仕訳する会計処理における、科目および金額の重要性です。

②-2 表示に関する重要性

財務諸表の表示における、科目および金額の重要性です。

 なお、会計処理に関する重要性と表示に関する重要性とでは、表示に関する重要性の方が優先すると考えられます。会計処理において厳密な方法が採られても、財務諸表において重要性が乏しければ要約して表示されることがあるからです。

 

 さて、注解1では、金額に関する重要性の原則の例示として、次の5つを挙げています。それらのうち、①~④は会計処理に関する重要性の原則の適用例であり、⑤は表示に関する重要性の原則の適用例です。また、注解12と13で、金額の重要性に関する表示の例⑥⑦を挙げています。

 なお、①~④の結果、簿外資産・簿外負債が生じますが、重要性の原則(正規の簿記の原則)の適用の結果生じたものは、貸借対照表の記載外に置くことができます。

 

① 消耗品等の費用処理

 消耗品、消耗工具、その他の貯蔵品などのうち、重要性の乏しいものについては、その買入時または払出時に、資産計上しないで、費用処理する方法を採用することができます。

 

② 経過勘定の未計上

 前払費用・未収収益・未払費用・前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができます。すなわち、前払費用については費用のまま、前受収益については収益のままとしておき、未収収益と未払費用については計上しないということです。

 

③ 引当金の未計上

 引当金のうち、重要性の乏しいものについては、これを計上しないことができます。

 

④ 付随費用の取得原価不算入

 棚卸資産の取得原価に含められる引取費用、関税、買入事務費、移管費、保管費などの付随費用のうち、重要性の乏しいものについては、取得原価に算入しないことができます(その場合、商品では販売費及び一般管理費に計上、原材料では製造原価に計上。)。なお、棚卸資産だけでなく、有価証券や固定資産についても同様です。

 

⑤ 分割返済債権債務の簡便表示

 分割返済の定めのある長期の債権または債務のうち、期限が1年以内に到来するもので重要性の乏しいものについては、流動資産または流動負債としないで、固定資産または固定負債として表示することができます。

 

⑥ 特別損益項目の簡便表示

 特別損益に属する項目であっても、金額の小さなものは、営業外損益に表示することができます。

 

⑦ 法人税等追徴税額・法人税等還付税額の簡便表示

 法人税等追徴税額と法人税等還付税額は、当期の負担に属する法人税等を表す科目「法人税、住民税及び事業税」とは区別するのが原則です。ただし、重要性が乏しい場合には、「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示することができます。

 

 

 

・コラム「会計公準」

 

 企業会計原則に規定はありませんが、企業会計が成り立つための基礎的前提会計公準といいます。会計公準は、現実の企業会計の中から経験的・帰納的に導き出されたものです。

 会計公準の内容については、さまざまな見解があります。もっとも一般的なのは、企業実体の公準継続企業の公準貨幣的測定の公準の3つです。それら3つの公準の形式的な意味と実質的な意味は、次の表のとおりです。

 

会計公準

形式的意味

実質的意味

企業実体の公準

企業実体が、会計単位となる。

企業は、出資者から独立した存在である。

継続企業の公準

一定期間を区切って、会計計算を行う。

企業は、継続的・永久的に存続する。

貨幣的測定の公準

貨幣額(金額)により、会計計算を行う。

貨幣価値は、安定している。

 

 

 ※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第5章 企業会計の基本理念 1 一般原則」

寺田誠一著 『財務諸表論頻出問題演習 第4版』中央経済社2000年 「1章 会計学総論および一般原則」

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。