「新しい収益認識会計基準」

 

2020年(令和2年)10月8日(最終更新2021年7月13日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・収益認識会計基準の概要…5つのステップ

 

 今まで、わが国には、収益認識に関する包括的な明文化された会計基準が、存在しませんでした。そこで、2018年(平成30年)「収益認識に関する会計基準」が公表されました。これにより、収益に関する会計処理については、上場企業などは、この新しい収益認識会計基準によることになります。

 この収益認識会計基準は、原則として、国際的な会計基準を全面的に取り入れたものです。ただし、わが国のこれまでの実務に配慮して、比較可能性をそこなわない範囲で、代替的な処理を追加しました。

 また、他の会計基準と同様、重要性が乏しい取引には、収益認識会計基準を適用しないことができます。

 

 一方、中小企業は、中小企業会計指針や中小企業会計要領によることが認められています。したがって、中小企業は、企業会計原則を中心としたわが国の伝統的な収益認識の会計処理によることが多いと思われます。

 

 従来の伝統的な収益認識は、フローからとらえていく収益・費用アプローチでしたが、収益認識会計基準は、「履行義務」というストックからとらえていく資産・負債アプローチです。また、収益認識会計基準では、従来の「実現」概念を使用していません。

 

 さて、収益認識会計基準の基本となる原則は、約束した財またはサービス(※1)の顧客への移転を、その財またはサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写(※2)するように、収益を認識することです。

 

※1:収益認識会計基準では、「財」と「サービス」という語が使われています。これは、従来、一般的だった「財貨」と「役務、用益」と同じ意味です。

※2:「対価の額で描写するように」とは、「対価の額で写し出すように」「対価の額を反映するように」「対価の額につれて」「対価の額に従って」というような意味です。

 

 この基本となる原則に従って、次の①~⑤の5つのステップにより、収益を認識します。従来は、同時・瞬間的に決まっていたことも多い収益の計上を、観念的に思考過程を5つのステップに分けたという点が特徴です。

 

① ステップ1:顧客との契約の識別(※)

※:「識別」とは、「見分けること」「わかること」「判断すること」「存在すること」というような意味です。

 

② ステップ2:契約における履行義務(※)の識別

収益の認識は、従来のような取引ごとではなく、履行義務ごととします。

※:履行義務とは、顧客との契約において、別個(または、一連の)の財またはサービスを顧客に移転する約束をいいます。

 

③ ステップ3:取引価格の算定(※)

※:従来は「測定」という語が使われていましたが、収益認識会計基準では「算定」という語が用いられています。

 

④ ステップ4:契約における履行義務に、取引価格を配分

 別個の財またはサービスの独立販売価格(※)の比率に基づいて、それぞれの履行義務に取引価格を配分します。

※:独立販売価格とは、財またはサービスを単独で販売したときの価格をいいます。

 

⑤ ステップ5:履行義務を充足したとき、または、充足するにつれて、収益を認識

 財またはサービスを、顧客に移転することにより、履行義務を充足したとき、または、充足するにつれて、収益を認識します。移転するのは、顧客がその財またはサービスに対する支配(※)を獲得したとき、または、獲得するにつれてです。

※:支配とは、その財またはサービスの使用を指図し、財またはサービスの便益のほとんどすべてを享受する能力をいいます。

 

 商品製品の販売の場合、支配が移転し、履行義務が充足したときの典型は、検収基準となります。代替処理として、商品製品の国内販売で、出荷から検収までの期間が通常の期間である場合には、出荷基準も認められます。

 

 

思考過程

内  容

収益認識の単位

ステップ1

契約の識別

ステップ2

履行義務の識別

収益の額の算定

ステップ3

取引価格の算定

ステップ4

履行義務に取引価格の配分

収益認識の時点

ステップ5

収益の認識

 

 

 

・取引価格

 

 取引価格からは、第三者のために回収する額を除きます。したがって、収益認識会計基準に従えば、消費税の会計処理は、税込経理方式は認められず、税抜経理方式によることになります。

 

 取引価格を算定する際には、次の①~④を考慮します。

① 変動対価

② 重要な金融要素

③ 現金以外の対価

④ 顧客に支払われる対価(キャッシュバック、クーポンなど)

 

 

 対価のうちに、固定対価以外に変動対価(※1)が含まれている場合には、最頻値(※2)または期待値(※3)のいずれかの方法のうち、より適切に予測できる方法を用いて、見積りを行います。

※1:変動対価とは、顧客と約束した対価のうち、変動する可能性のある部分をいいます。具体的には、値引き・リベート・返金・インセンティブ・業績に基づく割増金・ペナルティー・返品権付き販売などです。

※2:最頻値(さいひんち)とは、生じ得ると考えられるなかで、もっとも可能性の高い単一の額をいいます。

※3:期待値とは、生じ得ると考えられる対価の額を、確率で加重平均した額をいいます。

 

 変動対価のうち、計上された収益の著しい減額が生じない可能性が高い部分に限り、取引価格に含めます。

 

 契約に重要な金融要素が含まれる場合には、金利相当分の影響を調整(加減)します。収益は、財またはサービスが顧客に移転した時点での(または、移転するにつれての)現金販売価格で認識します。

 

 

・設例

 

(設例)

 ×1年期首、顧客に、製品と2年間の保守サービスを、同時に、540,000円で契約し現金販売した。独立して販売した場合の価格は、製品400,000円、保守サービス200,000円である。この場合、収益認識会計基準の5つのステップを示してください。

 

① ステップ1

 顧客との契約は、製品の販売契約と保守サービス契約であると識別します。

② ステップ2

 製品販売と保守サービス提供のそれぞれを、履行義務として識別します。

③ ステップ3

 取引価格を540,000円と算定します。

④ ステップ4

 取引価格540,000円を、製品販売360,000円、保守サービス提供180,000円に配分します。

 配分の計算は、次のとおりです。

540,000円×(400,000円/600,000円)=360,000円

540,000円×(200,000円/600,000円)=180,000円

⑤ ステップ5

 製品への配分額360,000円は、履行義務を充足した×1年期首に収益認識します。保守サービスへの配分額180,000円は、履行義務を充足するにつれて、×1年期首から×2年期末までの2年間にわたり収益認識します。

×1年期首の仕訳は、次のとおりです。

(借)現 金 360,000 (貸) 売 上 360,000

(借)現 金 180,000 (貸) 前受金 180,000

 

・コラム「製品保証」

 

 製品保証が、合意された仕様に従っているという保証のみである場合には、企業会計原則注解18の引当金として処理されます。製品保証が、それに加え、顧客に追加的なサービス(保証サービス)を提供する場合には、製品の販売とは別個の履行義務となります。そして、取引価格の一部が配分され、追加的なサービスの提供時に、収益が認識されます。

 

(設例)

 顧客に製品1,000,000円(独立販売価格930,000円)を販売。内容は、次のとおりである。収益認識会計基準に従った仕訳は、どうなりますか。

① 製品の操作方法についての無償サポート… 独立販売価格70,000円

② 1年間、初期不良に対応する製品保証…将来の費用見積り50,000円

 

(借)売掛金 1,000,000  (貸)売  上 930,000

                  契約負債   70,000

(借)製品保証引当金繰入額 50,000 (貸)製品保証引当金 50,000

 

・コラム「原価回収基準」

 

 工事契約など、一定の期間にわたり充足される履行義務については、その進捗度を見積り、その進捗度に基づいて収益を一定の期間にわたり認識します。

 進捗度は、各決算日に見直します。そして、進捗度の見積りを変更する場合は、会計上の見積りの変更となります。

履行義務充足の進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ、一定の期間にわたり充足される履行義務について、収益を認識します。

 進捗度を合理的に見積ることができないが、履行義務を充足する際に発生費用を回収できると認められる場合には、同額を収益に計上する原価回収基準により処理します。原価回収基準は、収益認識会計基準により、初めて登場した方法です。

 

(設例)

 工事契約において、進捗度は不明だが、当期に発生した工事原価は5,000,000円。原価回収基準による仕訳はどうなりますか。

 

(借)工事未収入金 5,000,000 (貸)工事収益 5,000,000

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。