「棚卸資産の数量把握方法」

 

2020年(令和2年)4月23日 (最終更新2021年8月19日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・継続記録法

 

 継続記録法は、棚卸資産の受け入れと払い出しの記録を、棚卸資産の種類別の台帳でそのつど行う方法です。したがって、払出数量を直接把握することができ、帳簿上の期末数量は差引計算で求められます。

(期首数量+当期受入数量)-当期払出数量=期末数量

 

 継続記録法の長所短所は、次のとおりです。

① 長所

①-1 継続記録法は、現在の在庫数量を台帳から常に把握することができます。

①-2 継続記録法は、実地棚卸を行うことにより、帳簿数量と実地棚卸数量との差異、すなわち棚卸減耗を把握することができます。したがって、棚卸資産管理上、望ましい方法です。

② 短所

②-1 継続記録法は、棚卸計算法に比べ、払出計算の事務手数がかかります。

 

 

・棚卸計算法(定期棚卸法)

 

 棚卸計算法(定期棚卸法)は、受け入れについては記録をするが、払い出しについては記録をせずに、期末に実地棚卸を行って実際の期末数量を把握する方法です。

 棚卸計算法の長所短所は、次のとおりです。

① 長所

①-1 棚卸計算法は、継続記録法に比べ事務の手数がはぶけます。

② 短所

②-1 期中においては、在庫数量が不明です。

②-2 帳簿数量が算出されないので、棚卸減耗を把握することができません。

 

 

・数量把握方法と金額計算方法との結びつき

 

① 継続記録法

 

 商品、製品などの売上原価および原材料などの払出原価は、継続記録法では単価に払出数量をかけて求められます。 

費用=単価×払出数量

 この単価計算の方法として、次のようなものがあります。

個別法

先入先出法

後入先出法

移動平均法

総平均法

 なお、先入先出法・後入先出法・総平均法における月別法・期別法は、継続記録法においても適応可能ですが、数量だけを払い出しのつど記録して、単価は1月または1期たってから事後的に記入するというのは現実的ではありません。

 したがって、継続記録法のもとでは、先入先出法と後入先出法についてはそのつど法、また、総平均法ではなく移動平均法、というのが自然です。

 

② 棚卸計算法(定期棚卸法)

 

 棚卸計算法においては、売上原価および原材料費の費用額は、次のように計算されます。

費用=期首棚卸金額+当期受入金額-期末棚卸金額

期末棚卸金額=単価×期末実地棚卸数量(ただし、売価還元法などの期末棚卸金額の計算はこれと異なります。)

 期末棚卸資産の評価額を決定するのに用いる単価の計算方法としては、次のものがあります。

個別法

先入先出法

後入先出法

総平均法

 すなわち、継続記録法と比べると、移動平均法だけが適用できません。移動平均法は、そのつどの受け入れ・払い出しの記録が必要なので、継続記録法とのみ結びつきます。

 また、先入先出法と後入先出法については、そのつど法は棚卸計算法のもとではそのつどの払い出しの記録がないので適用不可能であり、月別法と期別法だけが適用可能です。

 

 棚卸計算法では、以上のほかに、棚卸資産の期末の資産評価にのみ用いられる方法として、次のものがあります。これらの方法は、継続記録法においては適用不可能であり、棚卸計算法とのみ結びつきます。

最終仕入原価法

売価還元法

 

 以上、原価法の各種金額計算方法を、表でまとめると次のとおりです。

 

継続記録法

棚卸計算法

個別法

先入先出法

〇(※1)

〇(※3)

後入先出法

〇(※1)

〇(※3)

移動平均法

×

総平均法

〇(※2)

最終仕入原価法

×

売価還元法

×

 

 ※1:月別法・期別法は不自然

 ※2:不自然

 ※3:そのつど法は適用不可能

 

 

※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第8章 棚卸資産と売上原価 2 棚卸資産の数量の把握方法」

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。