「繰延資産の種類」

 

2020年(令和2年)2月1日(最終更新2021年7月14日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・株式交付費

 

 株式交付費(新株の発行または自己株式の処分に関する費用)は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理します。ただし、企業規模の拡大のためにする資金調達などの財務活動(組織再編の対価として株式を交付する場合を含みます。)に関する株式交付費については、繰延資産に計上することができます。この場合には、株式交付のときから3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければなりません。

 株式交付費とは、株式募集のための広告費、金融機関・証券会社の取扱手数料、目論見書・株券等の印刷費、変更登記の登録免許税、その他株式の交付等のために直接支出した費用をいいます。

 

 なお、繰延資産の性格から、繰延資産に該当する株式交付費は、企業規模の拡大のための資金調達などの財務活動に関する費用を前提としているため、株式の分割や株式無償割当てなどに関する費用は、繰延資産には該当せず、支出時に費用として処理することになります。また、この場合には、これらの費用を販売費及び一般管理費に計上することができます。

 

 現行の国際的な会計基準では、株式交付費は、資本取引に付随する費用として、資本から直接控除することとされています。企業会計基準委員会においても、国際的な会計基準との整合性の観点から、その方法について検討しました。しかし、以下の理由により、当面、これまでの会計処理を踏襲し、株式交付費は費用として処理(繰延資産に計上し償却する処理を含みます。)することとしました。

① 株式交付費は株主との資本取引に伴って発生したものであるが、その対価は株主に支払われたものではないこと。

② 株式交付費は社債発行費と同様、資金調達を行うために要した支出額であり、財務費用としての性格が強いと考えられること。

③ 資金調達の方法は会社の意思決定によるものであり、その結果として発生する費用もこれに依存することになります。したがって、資金調達に要する費用を会社の業績に反映させることが、投資家に有用な情報を提供することになると考えられること。

 

 また、企業会計基準委員会の報告書では、新株の発行と自己株式の処分に関する費用とを合わせて株式交付費とし、自己株式の処分に関する費用についても繰延資産に計上できることとしました。これまで、自己株式の処分に関する費用は、旧商法における新株発行費には該当しないため、繰延資産として会計処理することはできないと解されてきました。しかし、次の理由から、その考え方を変更しました。

① 会社法においては、新株の発行と自己株式の処分の募集手続は、募集株式の発行等として同一の手続によることとされたこと。

② 資金調達などの財務活動に要する費用としての性格は、新株の発行と自己株式の処分とで同じであること。

 

 

・社債発行費等

 

 社債発行費は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理します。ただし、社債発行費を繰延資産に計上することができます。この場合には、社債の償還までの期間にわたり、利息法により償却をしなければなりません。ただし、償却方法については、継続適用を条件として、定額法を採用することもできます。

 

 社債発行費の償却方法については、旧商法により、これまで3年以内の期間で均等額以上の償却が求められてきました。しかし、次の理由により、社債発行費は、社債の償還までの期間にわたり、利息法(または継続適用を条件として定額法)により償却することが合理的と考えられます。

① 社債発行者にとっては、社債利息やこれまでの社債発行差金に相当する額のみならず、社債発行費も含めて資金調達費と考えることができること。

② 国際的な会計基準における償却方法との整合性のため。

 

 社債発行費とは、社債募集のための広告費、金融機関・証券会社の取扱手数料、目論見書・社債券等の印刷費、社債の登記の登録免許税、その他社債発行のため直接支出した費用をいいます。

 

 また、新株予約権の発行に関する費用についても、資金調達などの財務活動(組織再編の対価として新株予約権を交付する場合を含みます。)に関するものについては、社債発行費と同様に会計処理することができます。ただし、繰延資産に計上した場合、新株予約権の発行のときから、3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければなりません。

 

 

・コラム「社債発行差金」

 

 会社計算規則では、払込みを受けた金額が債務額と異なる社債については、事業年度の末日における適正な価格を付すことができます。これを契機に、これまで繰延資産として取り扱われてきた社債発行差金は、国際的な会計基準と同様、社債金額から直接控除することとされました。すなわち、社債発行差金は、繰延資産には該当しないこととなりました。

 これは、資産は支出額により評価するのと同等に、負債は収入額で評価すべきであるという考え方によるものです。社債発行差金は、額面額で計上されている社債のマイナス項目と考えます。そして、社債発行差金償却は、償還期限に額面額を返済するので、割引額で記帳されている社債勘定を毎期増額(マイナス項目である社債発行差金を毎期減額)していく手続であると解釈します。

 社債発行差金の貸借対照表の表示を示すと、次のとおりです。

 

 

・創立費

 

 創立費は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理します。ただし、創立費を繰延資産に計上することができます。この場合には、会社の成立のときから5年以内の、その効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければなりません。

 会社法では、創立費を資本金または資本準備金から減額することが可能とされました。しかし、創立費は、株主との間の資本取引によって発生するものではないことから、企業会計基準委員会の報告書では、創立費を支出時に費用として処理(支出時に費用処理しない場合には、これまでと同様、繰延資産に計上)することとしました。

 

 創立費とは、次のようなものをいいます。

① 会社の負担に帰すべき設立費用

 たとえば、定款と諸規則作成のための費用、株式募集その他のための広告費、目論見書・株券等の印刷費、創立事務所の賃借料、設立事務に使用する使用人の給料、金融機関・証券会社の取扱手数料、創立総会に関する費用、その他会社設立事務に関する必要な費用。

② 発起人が受ける報酬で定款に記載して創立総会の承認を受けた金額

③ 設立登記の登録免許税

 なお、支出の効果が期待されなくなった場合には、末償却残高を一時的に償却しなければなりません。

 

 

・開業費

 

 開業費は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理します。ただし、開業費を繰延資産に計上することができます。この場合には、開業のときから5年以内の、その効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければなりません。なお、「開業のとき」には、その営業の一部を開業したときも含むものとします。

 

 開業準備活動は通常の営業活動ではないため、開業準備のために要した費用は原則として、営業外費用として処理することとしました。ただし、その費用は、次の理由により、販売費及び一般管理費(支出時に費用処理する場合のほか、繰延資産に計上した場合の償却額を含みます。)として処理することもできます。

① 営業活動と密接であること

② 実務の便宜を考慮

 

 開業費とは、土地・建物等の賃借料、広告宣伝費、通信交通費、事務用消耗品費、支払利子、使用人の給料、保険料、電気・ガス・水道料等で、会社成立後営業開始時までに支出した開業準備のための費用をいいます。

 

 開業費の範囲については、開業までに支出した一切の費用を含むものとする考え方もあります。しかし、開業準備のために直接支出したとは認められない費用については、その効果が将来にわたって発現することが明確ではないものが含まれている可能性があります。そのため、開業費は、開業準備のために直接支出したものに限ることが適当です。

 なお、支出の効果が期待されなくなった場合には、末償却残高を一時的に償却しなければなりません。

 

 

・開発費

 

 開発費は、原則として、支出時に費用(売上原価または販売費及び一般管理費)として処理します。ただし、開発費を繰延資産に計上することができます。この場合には、支出のときまたは支出した事業年度から5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却しなければなりません。

 開発費の効果の及ぶ期間の判断にあたり、支出の原因となった新技術や資源の利用可能期間が限られている場合には、その期間内(ただし、最長で5年以内)に償却しなければならない点に留意する必要があります。

 

 開発費とは、次のような費用をいいます。ただし、経常費の性格をもつものは、含まれません。

① 新技術・新経営組織の採用

② 資源の開発

③ 市場の開拓

④ 生産能率の向上・生産計画の変更のための設備の大規模な配置換え

 

 なお、「研究開発費等に係る会計基準」の対象となる研究開発費については、発生時に費用として処理しなければなりません。上記①~④の開発費は、新技術の採用のうち研究開発目的のものを除いては、研究開発費に該当しません。

 

 また、支出の効果が期待されなくなった場合、たとえば、採用した新技術の利用の中止、新規開拓した市場からの撤退などの事実が生じた場合には、繰り延べた開発費の末償却残高を一時に償却しなければなりません。

 

 

・ コラム「研究開発費」

 

 1998年( 平成10年)、企業会計審議会から「研究開発費等に係る会計基準」が公表されました。これにより、研究開発費に関する会計処理が明確に定められました。

 

 まず、定義ですが、研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査および探求をいいます。開発とは、新しい製品等についての計画・設計をし、または既存の製品等を著しく改良するための計画・設計をし、研究の成果その他の知識を具体化することをいいます。また、研究開発費には、人件費・原材料費・減価償却費など研究開発のために使われたすべての費用が含まれます。

 

 研究開発費は、固定資産や繰延資産として計上しないで、発生時に費用として処理します。費用処理とは、一般管理費または製造減価の経費として計上することをいいます。製造経費ということは、結果的に、仕掛品や製品の原価を構成することになります。

 研究開発費を費用処理する理由は、次のとおりです。

① 研究開発費は、将来の収益を獲得できるか否か不明。

② 一定の要件を満たすものについて資産計上を強制する処理を採用する場合には、資産計上の要件を定める必要がある。しかし、実務上、客観的に判断可能な要件を規定することは困難。

③ 抽象的な要件のもとで資産計上を求めることとした場合、企業間の比較可能性が損なわれるおそれがある。

 

  繰延資産の任意計上が認められている開発費と、研究開発費との関係は、次の図のとおりです。すなわち、開発費と研究開発費とは、大部分が異なります。開発費の新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓などは、研究開発費には含まれません。新技術の採用のうち研究開発目的のものだけが、両者で重なります。旧商法の試験研究費(新製品・新技術の研究)は、研究開発費に含まれます。

 

 

・コラム「繰延資産のまとめ」

 

種類

償却費表示

償却方法

償却期間

株式交付費

営業外費用

定額法

3年以内

社債発行費等

営業外費用

利息法、定額法

社債償還期間内(新株予約権発行費は3年以内)

創立費

営業外費用

定額法

5年以内

開業費

営業外費用、販管費

定額法

5年以内

開発費

売上原価、販管費

定額法その他の合理的な方法

5年以内

*3年や5年に特に意味はありません。早期に償却しようという保守主義によるものです。


                                      

・コラム「臨時巨額の損失」

 

  企業会計原則では、注解15において、次の条件を満たす臨時巨額の損失については、費用としないで、資産として繰り述べることを認めています。

① 天災等により、固定資産または企業の営業活動に必須の手段たる資産の上に生じた損失であること。

② 損失が、次のような額をもって負担しえない程度に巨額であること。

  ②-1 当期純利益

  ②-2 繰越利益剰余金から当期の処分予定額を控除した金額

③ 特に法令をもって、損失の繰り述べが認められていること。

  繰り述べられた臨時巨額の損失は、すみやかに償却することが望まれます。償却費は、もともとが臨時的なものなので、特別損失に計上されることになります。

 

 この規定は、会計理論に基づくものではありません。偶発的な相当金額の損失が発生した場合でも、配当などを継続して行おうとする財務政策上の配慮によるものです。なお、特に法令をもって認められた場合という条件が付いているので、実際にこの規定が適用されることはまずないと考えられます。

 

 

 ※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第10章 繰延資産と繰延資産償却 2 繰延資産の種類」 

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。