「剰余金の配当等と分配可能額の設例」

 

2020年(令和2年)5月5日(最終更新2021年9月12日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・剰余金の配当等

 

 会社法では、株主に対する剰余金の配当は、期中いつでも何度でも行うことができます。 また、剰余金の配当と自己株式の有償取得とを合わせて剰余金の配当等(または、剰余金の分配)といいます。これらは、いずれも株主に対して剰余金を払い戻す行為である点は共通なので、会社法ではこれらを統一化して債権者保護のための財源規制をしています。

 

 会社の純資産額が300万円を下回る場合には、剰余金の配当等を行うことができません。配当等を行うことにより純資産額が300万円を下回るような結果になる配当等も行うことができません。この純資産額300万円は、かつて有限会社の最低資本金が300万円だったので、その代わりに設けられた基準です。

 また、剰余金の配当等を行う場合は、「分配可能額」の範囲内であることが必要です。

 

 

・分配可能額

 

 剰余金の配当等は、定時株主総会だけでなく、臨時株主総会により、期中いつでも可能です。そのため、剰余金の配当等の分配可能額は、決算日(期末)ではなく、分配時(配当等の効力発生日)を基準とします。すなわち、分配時までの剰余金の増減を考慮します。

 

 分配可能額は、次のような3段階の計算となっています。なお、ここでいう剰余金は、当然のことながら、「会社法上の剰余金」です。

第1段階:決算日の剰余金を求めます。

決算日の剰余金=その他資本剰余金+その他利益剰余金

 

第2段階:分配時の剰余金を求めます。

分配時の剰余金=決算日の剰余金+(A)

(A)は、決算日後から分配時までの剰余金の増減を加減したものです。

(A)=自己株式処分差益-自己株式処分差損+資本金・準備金の減少差益-自己株式の消却額-配当額-会社計算規則150条の規定額(剰余金から資本金・準備金への組入額など)

 

第3段階:分配可能額を求めます。

分配可能額=分配時の剰余金-(B)

(B)は、自己株式を分配可能額から除くためのものと、その他のものから成ります。

(B)=自己株式の帳簿価額+自己株式処分額+会社計算規則158条の規定額(のれんや繰延資産がある場合などの取り扱い)

 

 

・分配可能額の設例1

 

(資料1) 決算日の貸借対照表

(資料2) 決算日以後分配時までの取引

① その他資本剰余金のうち20を資本準備金に組み入れた。

(借)その他資本剰余金 20 (貸)資本準備金 20

② その他利益剰余金から現金配当を100行い、利益準備金10を積み立てた。

(借)その他利益剰余金 110 (貸)現金預金  100

                    利益準備金  10

 

(分配可能額)

決算日の剰余金:その他資本剰余金130+その他利益剰余金200=330

分配時の剰余金:330-資本準備金組入れ20-配当金100-利益準備金組入れ10=200

分配可能額:200-自己株式100=100

 

 

 

・分配可能額の設例2

 

(資料1) 決算日の貸借対照表

(資料2) 決算日以後分配時までの取引

 自己株式30を40で処分した。

(借)現金預金 40  (貸)自 己 株 式 30

                自己株式処分差益10

 

(分配可能額) 

決算日の剰余金:その他資本剰余金130+その他利益剰余金200=330

分配時の剰余金:330+自己株式処分差益10=340

分配可能額:340-自己株式70-自己株式処分額40=230

 

 この場合、決算日の分配可能額は、その他資本剰余金130+その他利益剰余金200-自己株式100=230なので、自己株式の処分取引があっても、分配可能額は変わりません。すなわち、期中における自己株式処分差損益は、剰余金の額には反映させるが、分配可能額には反映させないということになります。これは、自己株式を高く処分して、分配可能額を増やすということを防ぐためです。

 

 

※本稿は、次の拙著・拙稿を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第12章 資本(純資産) 6 剰余金の配当等と財源規制」 

寺田誠一稿『仕訳・図表・事例で理解する純資産の部の会計と税務』月刊スタッフアドバイザー 2006年(平成18年)10月号

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。