「棚卸資産の評価方法と評価基準(低価法)」

 

2021年(令和3年)4月18日(最終更新2021年7月6日)

寺田 誠一 (公認会計士・税理士)

 

 

・棚卸資産の意義と取得価額

 

 棚卸資産とは、商品・製品・半製品・原材料・仕掛品などをいいます。事務用消耗品・作業用消耗品・包装材料・広告宣伝用印刷物なども棚卸資産ですが、これらは、通常、重要性の原則から、購入時に消耗品費などとして費用処理されます。

 

 棚卸資産の取得価額は、実務では、通常、税法に従っています。次のとおりです。

① 購入した棚卸資産

 購入代価に直接付随費用(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税など購入のために要した費用)と間接付随費用(その資産を消費・販売するため直接要した費用)を加えた額とします。

② 製造した棚卸資産

 製造原価(原材料費、労務費、経費)に間接付随費用を加えた額とします。

③ 上記以外の方法により取得をした棚卸資産

 取得のために通常要する価額に間接付随費用を加えた額とします。

 

 なお、間接付随費用のうち整理・選別・手入れなどに要した額が少額(税法では、購入代価・製造原価の3%以内)の場合には、重要性の原則から、取得価額に算入しないことができます。

 

・棚卸資産の評価方法

 

 棚卸資産の評価方法には、次のような種類があります。

① 個別法

 個々の実際の取得原価をもって評価する方法です。

② 先入先出法

 先に仕入れたものから先に払い出されていくと仮定する方法です。

③ 総平均法

 繰越高を含む一定期間の受入金額を数量で割って、平均単価を求める方法です。

④ 移動平均法

 受入れのつど平均単価を求める方法です。

⑤ 最終仕入原価法

 期末に最も近い仕入単価をもって、期末棚卸資産の金額を算出する方法です。

⑥ 売価還元法

 売価で実地棚卸を行い、それに原価率を乗じて、期末棚卸資産の金額を算出する方法です。

  

 後入先出法は、国際的な会計基準では認められていないので、わが国の会計基準でも認めないこととなりました。法人税法上も、それを受けて、後入先出法を選択することはできなくなりました。

後入先出法が認められなくなったのは、次のような理由からです。

① 棚卸資産の実際の物の流れを忠実に表現していないこと。

② 貸借対照表の棚卸資産の額が最近の価格水準から乖離してしまうこと。

③ 期末数量が期首数量を下回る場合には、期間損益計算から排除されてきた保有損益が当期の損益に計上されること。

 つまり、過去の価格水準の期首棚卸資産が、損益に算入されるということです。

 

(設例)

 期首残高  1,000個 @100円  

 当期受入  2,000個 @1,000円 

 期末残高   400個

 このとき、後入先出法による期末残高と当期払出高の金額はいくらになりますか。

 

 期末残高400個は@100×400=40,000円、当期払出高2,600個は@1,000円×2,000個+@100円×600個=2,060,000円となり、過去の@100円という低い価格が売上原価(または原材料費)に反映されます。保有利得が一挙に当期の利益に計上されるという結果になります。

 

④ 利益調整が可能なこと。

 後入先出法は最も新しく仕入れたものから払出されるという仮定なので、期末近くに時価が上昇している場合には、購入することにより、原価を高くすることができます。逆に、期末近くに時価が下落している場合には、購入することにより、原価を安くすることができます。

 

 なお、後入先出法の長所としては、購入から販売までの市況の変動による保有損益を期間損益から排除できることが挙げられます(上記③の場合を除く。)。

 

 期間損益の計算上著しい弊害がない場合や棚卸資産の額に重要性がない場合には、最終仕入原価法を用いることもできます。最終仕入原価法は、法人税法上の法定評価方法となっています。すなわち、企業が棚卸資産の評価方法を税務署に届け出なかった場合には、最終仕入原価法を採用したものとみなされます。簡便なので、中小企業では最終仕入原価法が多く用いられています。

 

  

・棚卸資産の評価基準

 

 棚卸資産の評価基準は、国際的な会計基準に合わせて低価法となりました。すなわち、前述の評価方法を選択して計算した取得原価で貸借対照表に計上しますが、期末における正味売却価額(正味実現可能価額)が取得原価よりも下落している場合には正味売却価額で計上します。

 ただし、法人税法では、原価法と低価法の選択適用が認められています。また、「中小企業会計指針」では、時価の下落に金額的重要性がある場合には低価法を適用するとなっています。いいかえれば、時価を調べることは煩雑なので、中小企業は通常の場合には原価法でよいということです。「中小企業会計要領」では、棚卸資産の評価基準は、無条件に、原価法または低価法の選択適用が認められています。したがって、中小企業では、原価法が採られることになると思われます。

 

  正味売却価額とは、売価から見積追加製造原価(商品の場合には、見積仕入)と見積販売直接経費を控除したものをいいます。なお、正味売却価額は、従前、正味実現可能価額という用語で呼ばれていたものです。

 

正味売却価額=売価-見積追加製造原価-見積販売直接経費

 

 売価とは、購買市場と売却市場とが区別された場合における、売却市場の時価をいいます。購買市場とは、その資産を購入する場合に企業が参加する市場をいいます。売却市場とは、その資産を売却する場合に企業が参加する市場をいいます。

 売却市場において市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を売価とします。これには、期末前後での販売実績に基づく価額を用いる場合や、契約により取り決められた一定の売価を用いる場合を含みます。

 

  実務上、収益性が低下していないことが明らかであり、事務負担をかけて収益性の低下の判断を行うまでもないと認められる場合には、正味売却価額を見積る必要はないと考えられます。

 本来、正味売却価額は、将来販売時点の見込みであるため、期末時点の正味売却価額が突発的な要因により、異常な水準となっているときには、期末時点の正味売却価額を用いることは不適切です。そのような場合には、期末における正味売却価額を用いるとしても、期末時点の売価ではなく、期末付近の合理的な期間の平均的な売価に基づく正味売却価額によることが適当です。

 

     

 ・低価法の根拠

 

 取得原価基準は、将来の収益を生み出すという意味において有用な原価、すなわち、回収可能な原価だけを繰り越そうとする考え方であるとみることもできます。また、金融商品会計基準や減損会計基準において、収益性が低下した場合には回収可能な額まで帳簿価額を切り下げる会計処理が広く行われています。

 

 収益性が低下した場合における簿価切下げは、取得原価基準の下で回収可能性を反映させるように、過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないために行われる会計処理です。棚卸資産の収益性が当初の予想よりも低下した場合において、回収可能な額まで帳簿価額を切り下げることにより、財務諸表利用者に的確な情報を提供することができるものと考えられます。

 

 それぞれの資産の会計処理は、基本的に、投資の性質に対応して定められていると考えられます。したがって、収益性の低下の有無についても、投資が回収される形態に応じて判断することが妥当です。棚卸資産の場合には、固定資産のように使用を通じて、また、債権のように契約を通じて、投下資金の回収を図ることは想定されておらず、通常、販売によってのみ資金の回収を図る点に特徴があります。このような投資の回収形態の特徴を考えると、評価時点における資金回収額を示す棚卸資産の正味売却価額が、その帳簿価額を下回っているときには、収益性が低下していると考え、帳簿価額の切下げを行うことが適当です。

  

・洗替え法と切放し法

 

 前期に計上した簿価切下額の戻し入れに関しては、当期に戻し入れを行う方法(洗替え法)と戻し入れを行わない方法(切放し法)のいずれかの方法を、棚卸資産の種類ごとに選択できます。また、売価の下落要因を区分把握できる場合には、物理的劣化・経済的劣化・市場の需給変化の要因ごとに選択適用できます。ただし、いったん採用した方法は、原則として、継続して適用しなければなりません。

 

 固定資産の減損処理においては損失発生の可能性の高さを要件とします。それに対して、棚卸資産における収益性の低下は、期末における正味売却価額が帳簿価額を下回っているかどうかによって判断します。よって、簿価切下額の戻入れを行う洗替え法の方が、戻入れを行わない切放し法に比べて、正味売却価額の回復という事実を考慮するため、収益性の低下に着目した簿価切下げの考え方と整合的であるという考え方があります。

 一方、収益性の低下に基づき過大な帳簿価額を切り下げ、将来に損失を繰り延べないために行われる会計処理において、いったん費用処理した金額を、正味売却価額が回復したからといって戻し入れることは適切ではないという考え方もあります(固定資産の減損処理において、戻し入れるのが適切でないと考えられるのと同様。)。

 

 実務上、収益性低下の要因を物理的な劣化や経済的な劣化による場合とそれ以外の場合に区別できる企業においては、前者の要因による売価が反騰することは通常考えられないことから、前者については切放し法、後者については洗替え法による処理が適切という考え方もあります。しかし、洗替え法を採用した場合であっても、正味売却価額の回復がなければ、戻入額と同額以上の簿価切下額が期末に計上されるため、損益に与える影響は切放し法による場合と変わりません。このため、要因別に区別できるときには、簿価切下げの要因ごとに選択できるものとしています。

 また、これまで洗替え法と切放し法の両方が認められてきたことから、洗替え法と切放し法のいずれが実務上簡便であるかに関しては、企業により異なります。これらの理由により、洗替え法と切放し法のいずれによることもできるものとなっています。

  

 ・低価法の留意点

 

 営業循環過程からはずれた滞留または処分見込などの棚卸資産について、合理的に算定された価額によることが困難な場合には、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて、その状況に応じ、次のような方法により収益性の低下の事実を適切に反映するよう処理します。

①  帳簿価額を処分見込価額(ゼロまたは備忘価額を含みます。)まで切り下げる方法。

② 一定の回転期間を超える場合、規則的に帳簿価額を切り下げる方法。

 

 製造業における原材料のように、再調達原価の方が把握しやすく、正味売却価額が再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として再調達原価(最終仕入原価を含みます。)によることができます。

 再調達原価とは、購買市場と売却市場とが区別される場合における購買市場の時価に購入に付随する費用を加算したものをいいます。ただし、重要性が乏しい場合には、付随費用は含めないことができます。

 

 収益性の低下の判断と簿価切下げは、原則として、個別品目ごとに行います。ただし、複数の棚卸資産をひとくくりとした単位で行う方が投資の成果を適切に示すと判断されるときには、継続適用を条件として、その方法によります。たとえば、次のような場合です。

① 補完的な関係にある複数商品の売買を行っている企業において、いずれか一方の売買だけでは正常な水準を超えるような収益は見込めないが、双方の売買では正常な水準を超える収益が見込めるような場合

② 同じ製品に使われる材料・仕掛品・製品を1グループとして扱う場合

 

 売価還元平均原価法を採用している場合においても、期末における正味売却価額が帳簿価額よりも下落している場合には、正味売却価額をもって評価します。

 前述の売価還元低価法は、値下額等が売価合計額に適切に反映されている場合には、収益性の低下に基づく簿価切下額を反映したものとみなすことができます。

 

・棚卸資産の評価損の表示

 

 棚卸資産の収益性の低下による簿価切下額は、販売活動を行う上で不可避的に発生したものであるため、売上高に対応する売上原価とします。

 ただし、原材料の品質低下など棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められるときには、製造原価とします。そのような場合であっても、重要性が乏しい場合には、売上原価に一括計上することができます。

 なお、簿価切下額が販売促進に起因する場合(たとえば、見本品として使用する場合)には、販売費として処理することができます。

 また、収益性の低下に基づく簿価切下額が臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには、特別損失に計上します。臨時の事象とは、重要な事業部門の廃止、災害損失の発生などをいいます。なお、この場合には、洗替え法を適用していても、簿価切下額の戻し入れを行うことはできません。

  

 洗替え法を採用し、前期に計上した簿価切下額を当期に戻し入れる場合には、当期の簿価切下額を計上する損益区分と同じ区分に計上します。 

  

 

   簿価切下額の種類

  表示

②、③以外のもの

売上原価

棚卸資産の製造に関連して発生するもの

製造原価

臨時の事象に起因し、かつ、多額であるもの

特別損失

 

   *販売促進に起因する場合(たとえば、見本品として使用)には、販売費も可。

 

 

 

※本稿は、次の拙稿を組み替えて加筆修正したものです。

寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第13回 棚卸資産』月刊スタッフアドバイザー 2010年4月号

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。