「棚卸資産(商品)評価損・過大過小の設例」
2021年(令和3年)4月18日(最終更新2024年8月10日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
・商品評価損の設例による表示
棚卸資産の代表的な存在である商品の評価損(簿価切下額)について、その表示場所を設例で考えてみます。
(設例)
売上19,000,000円 期首商品880,000円 仕入7,600,000円 期末商品850,000円(うち評価損110,000円)
損益計算書の表示を、3とおり示してください。
① 評価損を売上原価に算入(評価損明示せず)
② 評価損を売上原価の内訳項目に表示(評価損明示)
③ 評価損を特別損失に表示
① 評価損を売上原価に表示(評価損明示せず)
売上原価に計上する方法には、2とおりあります。1つは、評価損差引後の額を期末棚卸高に計上する方法です。この場合には注記を記載します。
仕訳は、次のとおりです。
(借)商 品 740,000 (貸)期末商品棚卸高 740,000
② 評価損を売上原価の内訳項目に表示(評価損明示)
売上原価に計上する他の方法は、売上原価の内訳科目とするものです。
仕訳は、次のとおりです。
(借)商 品 850,000 (貸)期末商品棚卸高 850,000
(借)商品評価損 110,000 (貸)商 品 110,000
③ 評価損を特別損失に表示
商品評価損を売上原価の内訳項目と特別損失に計上した場合には、最終的な利益は同じですが、売上総利益の段階で違いが生じます。すなわち、特別損失に計上する方が、売上総利益は多く表示されます。この設例では、売上総利益は、売上原価の内訳項目にする方法では11,260,000円、特別損失にする方法では11,370,000円となります。
商品評価損を売上原価の内訳項目や特別損失に計上した場合には、期末商品棚卸高の金額は850,000円です。一方、貸借対照表の商品の金額は740,000円なので、両者は一致せず差異が生じます。
・期末商品の過大過小と利益との関係
連続する×1期と×2期の損益計算書の一部が、次のとおりであったとします。×1期の期末商品棚卸高 1,300,000円が、当然のことですが、×2期では期首商品棚卸高1,300,000円となっています。
×1期で期末商品棚卸高1,300,000円を誤って、1,800,000円としたとします。すると、次のような流れでその差額500,000円だけ×1期の利益が過大になります。
期末商品棚卸高500,000円過大→売上原価500,000円過小→売上総利益500,000円過大
次は、×1期の期末商品棚卸高が過大の場合、×2期がどうなるかです。×1期の期末商品棚卸高が500,000円過大で1,800,000円と表示したとすると、×2期の期首商品棚卸高は1,800,000円となります。すると、次のような流れでその差額500,000円だけ×2期の利益が過小になります。
期首商品棚卸高500,000円過大→売上原価500,000円過大→売上総利益500,000円過小
正しい売上総利益は×1期が6,300,000円、×2期が7,100,000円なのに対し、×1期の商品在庫が500,000円過大だと、誤った売上総利益は×1期6,800,000円、×2期が6,600,000円となります。すなわち、×1期の利益は500,000円過大に、×2期の利益は500,000円過小になります。
なお、×1期と×2期の売上総利益を合計すると、次のとおり同じとなります。つまり、在庫を過大に誤ると、その期の利益は過大に表示されます。しかし、翌期の利益は同額過小という逆の効果が生じ、通算した利益は同じとなります。通算すれば同じといっても、期ごとの損益が大事ですから、正しく計上する必要があります。
正しい売上総利益:(×1期)6,300,000円+(×2期)7,100,000円=13,400,000円
誤った売上総利益:(×1期)6,800,000円+(×2期)6,600,000円=13,400,000円
在庫過大 ⇒ 利益過大 ⇒ 翌期利益過小
なお、事例は省略しますが、反対に、商品在庫を過小にすると、売上原価が過大になりその期の利益は過小になります。そして、翌期はその額だけ売上原価が過小になり翌期の利益は過大になります。
在庫過小 ⇒ 利益過小 ⇒ 翌期利益過大
在庫過大ならば利益過大、在庫過小ならば利益過小であり、在庫と利益は同じ動きと覚えておくとよいと思います。
意図的に架空在庫を計上して在庫を過大にすると、利益を過大にする粉飾決算です。逆に、故意に在庫を除外して在庫を過小にすると、利益を過小にして法人税等を過小にする脱税です。
在庫の過大による利益の過大、または在庫の過小による利益の過小は、前述のように、翌期またはそれ以降の期のどこかで、正しい在庫で計上したときに、逆の効果が生じ、通算した利益は同じとなります。逆の効果を生じさせないためには、翌期以降もずっと在庫の過大または在庫の過小を続けるしかありません。
・期首商品、期末商品の増減と利益との関係
中小企業では、棚卸計算法(定期棚卸法)を採っていることがあります。すなわち、実地棚卸を行うのは年1回決算のときだけです。その場合には、決算整理前においては、期末商品棚卸高は期首商品棚卸高と同じと仮定しています。次の表示のようにです(仕入高10,000,000円が、すなわち売上原価10,000,000円となっています。)。
したがって、決算で実地棚卸を行い、期末商品が期首商品の1,000,000円より多ければ、その額だけ売上原価は減って決算整理前の計算よりも利益は増え、逆に、期末商品が期首商品の1,000,000円より少なければ、その額だけ売上原価は増え利益は減ります。
期首商品<期末商品 ⇒ 売上原価 減少 ⇒ 決算前の利益<決算後の利益
期首商品>期末商品 ⇒ 売上原価 増加 ⇒ 決算前の利益>決算後の利益
この場合も、期首在庫と比べて期末在庫が多ければその差額だけ利益が増加し、期首在庫と比べて期末在庫が少なければその差額だけ利益が減少し、在庫と利益は同じ動きとなります。
※本稿は、次の拙稿を組み替え加筆修正したものです。
寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第13回 棚卸資産』月刊スタッフアドバイザー 2010年(平成22年)4月号
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。