「A4 1枚でわかる電子帳簿保存法の初歩」

 

2022年(令和4年)10月17日(最終更新2024年8月18日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・電子帳簿保存法の3つの内容

 

 現在、企業の経理事務関係では、インボイス(2023年10月1日からの取引)と電子帳簿保存法(2024年1月1日からの取引)の2つが、大きなトピックスです。電子帳簿保存法の内容は、下記のⅠ電子取引、Ⅱスキャナ保存、Ⅲデータ保存の3つに分かれますが、Ⅰ電子取引がまず一番重要となってきます。

 

Ⅰ 電子取引(強制…猶予措置あり)

 

 契約書・見積書・納品書・請求書・領収書などの書類が、紙ではなく電子取引で受け渡しされた場合には、電子データのまま保存しなければならないというものです。電子取引は、仕入先などから受領した書類だけでなく、自社がデータで発行した書類の控も対象です。

 つまり、電子取引のデータは、紙で出力したものを保存しておくだけではダメということです(電子データ保存の義務化)。原本は、紙ではなく、電子データであるという考えです。

 紙で出力した後、電子データを削除していた場合には、今後、削除しないでデータでも保存をお願いいたします。

 

  データ保存については、「検索要件」があります。①日付(取引年月日)(※1)、②取引金額(※2)、③取引先名の3つで検索できることが必要です。 

※1:日付は、和暦または西暦どちらかに統一。

※2:金額は、税込・税抜どちらも可。

 

 データ保存については、「改ざん防止要件」も必要です。次のいずれかの方法が要求されます。①が一番簡単で、次が②です。

① 「電子取引データの訂正削除の防止に関する事務処理規定」を作成・運用すること(国税庁ホームページに、書式のサンプルが掲載されています。)。

② データの訂正削除を行った場合にはその記録が残るシステム、または、訂正削除ができないシステムを利用すること。

③ 速やかに(2か月+おおむね7営業日以内)タイムスタンプを付すこと。

 

 以上の内容を満たすことは中小事業者にとってかなり困難ということで、令和5年度税制改正により、3つの猶予措置が設けられました。

① 改ざん防止要件を備えていれば、検索要件は次のとおり緩和。

 ①-1:出力した書面を、日付ごとまたは取引先ごとに整理(検索要件の代替)…対象者に制限なし

 ①-2:①-1の条件なし(検索要件は不要)…前々年度の売上5千万円以下の事業者

② システム対応やワークフローの整備が、資金繰りや人手不足等の相当の理由により間に合わなかった場合、検索要件・改ざん防止要件の両方が不要。…これらの要件なしで、電子データ保存が可能。

 

  

Ⅱ スキャナ保存(任意)

 

 取引先から契約書・見積書・納品書・請求書・領収書などの書類を、紙で受領した場合、スキャナ保存することにより、原本である紙を破棄してもよいとするものです。

 

 スキャナ保存は、①日付(取引年月日)(※1)、②取引金額(※2)、③取引先名の3つで検索できることが必要です(検索要件)。 

 

 また、スキャナ保存は、次のいずれかの方法によることが必要です(改ざん防止要件)。

① データの訂正削除を行った場合にはその記録が残るシステム、または、訂正削除ができないシステムを利用すること。

② 速やかに(2か月+おおむね7営業日以内)タイムスタンプを付すこと。

 

 スキャナ保存は、ペーパーレス化・デジタル化の一環です。中小事業者では、今すぐというものではなく、今後の課題ということでもよいと思います(経理担当者にとって、原本の紙を廃棄するというのは、なかなかハードルが高い、かなりの決意を要する作業です。)。

 

 

Ⅲ データ保存(任意)

 

 自社の決算書・申告書・総勘定元帳などや各種書類をデータとして作成し、その後、紙で出力して保存している場合、紙の保存を止めて、データのまま保存してもよいとするものです。

 

 これも、ペーパーレス化・デジタル化の一環です。中小事業者では、とりあえず、従来どおり、紙の方が見やすいものは紙による出力でもよいと思います。

 

 

・電子帳簿保存法への対処の仕方

 

 下記の2段階に分けて考えるのがよいと思います(もちろん、第1段階と第2段階とを同時に実施することも可能です。)

① 第1段階

 Ⅰ電子取引については、2024年(令和6年) 1月以降、データで保存が必要です。

② 第2段階

 経理実務ではデータと紙とが混在することになります。紙を次第に減らしていく場合に、Ⅱスキャナ保存とⅢデータ保存を考えることになります。

 

 保存のためのシステムが数多く登場し、電子インボイスの普及も進むと思われます。大企業は早急にデジタル化を進めると思われますが、中小事業者は慎重によく比較検討するのがよいと考えます。

 

 

※インボイスの簡単な説明については、「A4 1枚でわかるインボイスの初歩」参照。

※インボイスの詳しい説明については、「インボイスのステップ式解説と取引先対応」参照。

※振込手数料のインボイス対応については、「振込手数料の会計処理(仕訳)とインボイス対応」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。