「その他有価証券の税効果会計と申告書の設例…全部純資産直入法と部分純資産直入法」
2021年(令和3年)8月2日(最終更新2022年4月13日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
・はじめに
「金融商品に関する会計基準」18項により、その他有価証券は時価をもって計上し、評価差額は洗い替え方式により、全部純資産直入法または部分純資産直入法によると規定されています(※)。また同じ18項により、純資産の部に計上される評価差額については、税効果会計を適用しなければならないと規定されています。
※中小企業については、その他有価証券の時価評価は強制されていません(「中小企業の会計に関する指針」「中小企業の会計に関する基本要領」)。
※全部純資産直入法:その他有価証券について、評価差額を全部純資産に計上する方法。
※部分純資産直入法:その他有価証券について、取得原価<時価のときの評価差額は純資産に計上し、取得原価>時価のときの評価差額は、損益計算書に費用(損失)として計上する方法。
本稿では、その他有価証券について、決算書と法人税申告書別表四・五(一)を使って、税効果会計を適用した場合と適用しなかった場合とを、設例で比較していきたいと思います。
・設例
次のような設例1~設例4を考えてみます。個別財務諸表を前提。金額の単位省略。
(設例1)
Ⅰ期において、その他有価証券800の時価500。損益計算書で評価損300を計上し、帳簿価額500。洗い替え方式。税務上は300損金不算入。
Ⅱ期において、この有価証券を400で売却し、戻入額300と売却損400計上。税務上、Ⅰ期の評価損300を認容。
Ⅰ期、Ⅱ期とも、税引前当期純利益は1,000(Ⅰ期は評価損300を、Ⅱ期は戻入額300と売却損400を、それぞれ計上後の額が1,000)。
法定実効税率は30%とする。
事業税の損金算入は無視する。
法人税等の中間納付はないものとする。
税効果会計は適用しない。
(設例2)
税効果会計を適用(部分純資産直入法)。
それ以外は(設例1)と同じ。
(設例3)
評価損300を純資産の部に計上。洗い替え方式。
評価損が損益計算書に計上されていないため、税引前当期純利益は、Ⅰ期は1,300、Ⅱ期は700。
税効果会計は適用しない。
それ以外は(設例1)と同じ。
(設例4)
評価損300を純資産の部に計上。洗い替え方式。
評価損が損益計算書に計上されていないため、税引前当期純利益は、Ⅰ期は1,300、Ⅱ期は700。
税効果会計を適用(全部純資産直入法)。
それ以外は(設例1)と同じ。
そして、設例1~設例4について、次の5つのものを見ていくことにします。
① 損益計算書の表示
② 貸借対照表の表示
③ 法人税申告書別表四の表示
④ 法人税申告書別表五(一)の表示
⑤ 評価差額、税効果会計の仕訳
・(設例1)Ⅰ期の表示(費用計上、税効果会計適用なし)
Ⅰ期損益計算書
投資有価証券評価損 300
税引前当期純利益 1,000 法人税等 390* 当期純利益 610
*:(1,000+300)×0.3 |
Ⅰ期貸借対照表 |
|
投資有価証券 500 |
未払法人税等 390 繰越利益剰余金 610 |
Ⅰ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
610 |
610 |
|
|
加算 |
法人税等 |
390 |
390 |
|
投資有価証券評価損否認 |
300 |
300 |
|
|
所得金額 |
1,300 |
1,300 |
|
Ⅰ期別表五(一) |
||||
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
否認投資有価証券評価損 |
|
|
300 |
300 |
繰越損益金 |
|
|
610 |
610 |
納税充当金 |
|
|
390 |
390 |
(借)投資有価証券評価損 300 (貸)投資有価証券 300
・(設例1)Ⅱ期の表示(費用計上、税効果会計適用なし)
Ⅱ期損益計算書
投資有価証券戻入額 300 投資有価証券売却損 400
税引前当期純利益 1,000 法人税等 210* 当期純利益 790
*:(1,000-300)×0.3 |
Ⅱ期貸借対照表 |
|
|
未払法人税等 210 繰越利益剰余金1,400 |
Ⅱ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
790 |
790 |
|
|
加算 |
法人税等 |
210 |
210 |
|
減算 |
投資有価証券評価損認容 |
300 |
300 |
|
所得金額 |
700 |
700 |
|
Ⅱ期別表五(一) |
||||
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
否認投資有価証券評価損 |
300 |
300 |
|
0 |
繰越損益金 |
610 |
610 |
1,400 |
1,400 |
納税充当金 |
390 |
390 |
210 |
210 |
(借)投資有価証券 300 (貸)投資有価証券戻入額 300
(借)現金預金 400 (貸)投資有価証券 800
投資有価証券売却損400
Ⅱ期では有価証券を売却したため、損金不算入で繰り越されてきた300が、減算(損金算入)されます。
税効果会計を適用しない場合には、損益計算書の税引前当期純利益は、Ⅰ期・Ⅱ期いずれも1,000なのに対して、法人税等の額はⅠ期は390、Ⅱ期は210となり、加算・減算があるため実効税率30%とはなりません。
ただし、繰越利益剰余金(=繰越損益金)Ⅱ期残高は、Ⅰ期610+Ⅱ期790=1,400で、これはⅠ期とⅡ期の当期純利益合計2,000×(1-税率0.3)となっています。
・(設例2)Ⅰ期の表示(費用計上、部分純資産直入法、税効果会計を適用)
Ⅰ期損益計算書
投資有価証券評価損 300
税引前当期純利益 1,000 法人税等 390 法人税等調整額 90* 300 当期純利益 700
*:300×0.3 |
Ⅰ期貸借対照表 |
|
投資有価証券 500 繰延税金資産 90 |
未払法人税等 390 繰越利益剰余金700 |
Ⅰ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
700 |
700 |
|
|
加算
|
法人税等 |
390 |
390 |
|
投資有価証券評価損否認 |
300 |
300 |
|
|
減算 |
法人税等調整額 |
90 |
90 |
|
所得金額 |
1,300 |
1,300 |
|
Ⅰ期別表五(一) |
|||||
区 分
|
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
||
減 |
増 |
||||
否認投資有価証券評価損 |
|
|
300 |
300 |
|
繰延税金資産 |
|
90 |
|
△90 |
|
繰越損益金 |
|
|
700 |
700 |
|
納税充当金 |
|
|
390 |
390 |
|
(借)投資有価証券評価損300 (貸)投資有価証券 300
税効果会計の仕訳は、次のようになります。
会計上の仕訳
(借)繰延税金資産 90 (貸)法人税等調整額 90
税務上の仕訳
仕訳なし
申告調整の仕訳
(借)法人税等調整額(利益積立金)90 (貸)繰延税金資産 90
会計上の仕訳は、有価証券評価損300がⅠ期においては税務上加算されており、将来減算され税額を減少させる税効果があるので、それを会計上、前払税金として認識しようという意味です。金額は、将来減算一時差異(有価証券評価損)の額300に、法定実効税率30%をかけます。会計上は、損益計算書の法人税等390は税引前当期純利益1,000に対して多過ぎるので、それを90減らすという意味があります。これにより、損益計算書の法人税等の純額は300となり、税引前当期純利益1,000に対して実効税率30%となります。
「税務上の仕訳」は、税効果会計に関する会計上の仕訳を、税務上なかったものと考えるという意味です。そのため、「申告調整の仕訳」では、「会計上の仕訳」の逆仕訳を行います(「会計上の仕訳」に「申告調整の仕訳」を加えて、「税務上の仕訳」になります。)。なお、「税務上の仕訳」と「申告調整の仕訳」は、このように考えるというものであり、実際に仕訳として行うわけではありません。
「申告調整の仕訳」の借方に法人税等調整額が計上されているので、所得の減少であり、別表四で減算されます。
また、「申告調整の仕訳」の借方に利益積立金が計上されているので、利益積立金の減少を意味します。
さて、貸借対照表に戻り、繰越利益剰余金が、設例1では610だったのに対し、設例2では繰延税金資産90の分だけ増加して700となっています。
・(設例2)Ⅱ期の表示(費用計上、部分純資産直入法、税効果会計を適用)
Ⅱ期損益計算書
投資有価証券戻入額 300 投資有価証券売却損 400
税引前当期純利益 1,000 法人税等 210 法人税等調整額 90 300 当期純利益 700 |
Ⅱ期貸借対照表 |
|
|
未払法人税等 210 繰越利益剰余金1,400 |
Ⅱ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
700 |
700 |
|
|
加算 |
法人税等 |
210 |
210 |
|
法人税等調整額 |
90 |
90 |
|
|
減算 |
投資有価証券評価損認容 |
300 |
300 |
|
所得金額 |
700 |
700 |
|
Ⅱ期別表五(一) |
||||
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌 期 首 利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
否認投資有価証券評価損 |
300 |
300 |
|
0 |
繰延税金資産 |
△90 |
|
90 |
0 |
繰越損益金 |
610 |
610 |
1,400 |
1,400 |
納税充当金 |
390 |
390 |
210 |
210 |
(借)投資有価証券 300 (貸)投資有価証券戻入額 300
(借)現金預金 400 (貸)投資有価証券 800
投資有価証券売却損400
税効果会計の仕訳は、次のとおりです。
会計上の仕訳
(借)法人税等調整額 90 (貸)繰延税金資産 90
税務上の仕訳
仕訳なし
申告調整の仕訳
(借)繰延税金資産 90 (貸)法人税等調整額(利益積立金)90
第2期の税効果会計に関する「会計上の仕訳」についても、税務上はなかったことにします。そのため、「申告調整の仕訳」では、会計上の仕訳の逆仕訳を行います。
「申告調整の仕訳」の貸方に法人税等調整額が計上されているので、所得の増加であり、別表四で加算します。
「申告調整の仕訳」の貸方に利益積立金が計上されているので、利益積立金を増加させます。
Ⅱ期の税額は減算があるため210と少なくなっています。そのため、会計上の法人税等が少ない額となっているので、「会計上の仕訳」により、前払税金(繰延税金資産)を取り崩して、法人税等を増額します。その結果、損益計算書の法人税等と法人税等調整額を加えた額は300となり、税引前当期純利益1,000に対して30%となります。
さて、繰越利益剰余金(=繰越損益金)Ⅱ期残高は、Ⅰ期700+Ⅱ期700=1,400となります。1,400は、設例1と同額です。
・(設例3)Ⅰ期の表示(純資産計上、税効果会計適用なし)
Ⅰ期損益計算書 税引前当期純利益 1,300 法人税等 390* 当期純利益 910
*:1,300×0.3 |
Ⅰ期貸借対照表 |
|
投資有価証券 500 |
未払法人税等 390 繰越利益剰余金 910 その他有価証券評価差額金△300 |
Ⅰ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
910 |
910 |
|
|
加算 |
法人税等 |
390 |
390 |
|
所得金額 |
1,300 |
1,300 |
|
|
Ⅰ期別表五(一) |
||||
区 分
|
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
投資有価証券 |
|
|
300 |
300 |
その他有価証券評価差額金 |
|
300 |
|
△300 |
繰越損益金 |
|
|
910 |
910 |
納税充当金 |
|
|
390 |
390 |
仕訳は、次のとおりです。
会計上の仕訳
(借)その他有価証券評価差額金300 (貸)投資有価証券 300
税務上の仕訳
仕訳なし
申告調整の仕訳
(借)投資有価証券 300 (貸)利益積立金 300
(借)利益積立金 300 (貸)その他有価証券評価差額金300
設例3では、評価損を損益計算書に計上しないので、別表四の申告調整は必要ありません。
「会計上の仕訳」のその他有価証券評価差額金は借方300なので、純資産の部でマイナス300として表示されます。税務上は、その他有価証券の評価差額を認識しないので、「税務上の仕訳」は必要ありません。そのため、会計上の仕訳の逆仕訳を、申告調整の仕訳として行います。別表五(一) の記載を考えて、申告調整の仕訳は、相手科目を利益積立金とした単一仕訳で表します。
もう少し詳しくいうと、税務では、その他有価証券評価差額金は利益積立金でも資本金等でもないと考えています。したがって、税務上は、負債ということになります。
会計上の仕訳を分解すると、次のようになります。
(借)利益積立金 300 (貸)投資有価証券 300
(借)その他有価証券評価差額金300 (貸)利益積立金 300
税務では、この仕訳の解釈として、投資有価証券の評価損として利益積立金を300減少させ、一方、その他有価証券評価差額金という負債を減少させて利益積立金を300増加させたと考えることができます。税務上は、これらの仕訳をなかったこととするため、「申告調整の仕訳」でこの逆仕訳を行うことになります。
もう一度仕訳に戻ると、税務上は、「会計上の仕訳」を、その他有価証券評価差額金という負債と投資有価証券という資産をともに300ずつ減らした仕訳とみます。利益積立金も資本金等も変動はないので、別表五(一) におけるプラスマイナス同額の記載はなくてよいとも考えられます。しかし、税務上は、投資有価証券300を減額していないということを明示するため、別表五(一) を上記のように記載する方がよいと思われます。
・(設例3)Ⅱ期の表示(純資産計上、税効果会計適用なし)
Ⅱ期損益計算書
投資有価証券売却損 400
税引前当期純利益 700 法人税等 210* 当期純利益 490
*:700×0.3 |
Ⅱ期貸借対照表 |
|
|
未払法人税等 210 繰越利益剰余金1,400 |
Ⅱ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
490 |
490 |
|
|
加算 |
法人税等 |
210 |
210 |
|
所得金額 |
700 |
700 |
|
|
次のように、第1期の仕訳の逆仕訳を行います。
会計上の仕訳
(借)投資有価証券 300 (貸)その他有価証券評価差額金 300
税務上の仕訳
仕訳なし
申告調整の仕訳
(借)利益積立金 300 (貸)投資有価証券 300
(借)その他有価証券評価差額金 300 (貸)利益積立金 300
有価証券売却の仕訳は、次のとおりです。
(借)現金預金 400 (貸)投資有価証券 800
投資有価証券売却損 400
洗い替え処理をして投資有価証券の帳簿価額を800に戻しているため、売却価額400と取得価額800との差額で売却損は400となります。もし、売却しないで第2期の期末においてもこの有価証券を保有している場合には、改めて、第2期末の時価に基づく評価差額を貸借対照表に計上することになります。
税引前当期純利益は、設例1で戻入額300と売却損400を計上後の額が1,000であり、設例3では戻入額300がないので税引前当期純利益は700となります。
税引前当期純利益700に対して、法人税等210であり、税率30%となっています。
繰越利益剰余金(=繰越損益金)Ⅱ期残高は、Ⅰ期910+Ⅱ期490=1,400となります。
・(設例4)Ⅰ期の表示(純資産計上、全部純資産直入法、税効果会計を適用)
Ⅰ期損益計算書 税引前当期純利益 1,300 法人税等 390* 当期純利益 910
*:1,300×0.3 |
Ⅰ期貸借対照表 |
|
投資有価証券 500 繰延税金資産 90 |
未払法人税等 390 繰越利益剰余金 910 その他有価証券評価差額金△210 |
Ⅰ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
910 |
910 |
|
|
加算 |
法人税等 |
390 |
390 |
|
所得金額 |
1,300 |
1,300 |
|
|
Ⅰ期別表五(一) |
||||
区 分
|
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
投資有価証券 |
|
|
300 |
300 |
その他有価証券評価差額金 |
|
210 |
|
△210 |
繰延税金資産 |
|
90 |
|
△90 |
繰越損益金 |
|
|
910 |
910 |
納税充当金 |
|
|
390 |
390 |
仕訳は、次のとおりです。
会計上の仕訳
(借)その他有価証券評価差額金210 (貸)投資有価証券300
繰延税金資産 90
税務上の仕訳
仕訳なし
申告調整の仕訳
(借)投資有価証券 300 (貸)利益積立金 300
(借)利益積立金 210 (貸)その他有価証券評価差額金 210
(借)利益積立金 90 (貸)繰延税金資産 90
税務上は、「会計上の仕訳」をなかったことにするため、「会計上の仕訳」の逆仕訳を、相手科目を利益積立金として、単一仕訳で行います。すると、上記のような「申告調整の仕訳」が完成します。
「申告調整の仕訳」で貸方に利益積立金300があるので、別表五(一)Ⅰにおいて利益積立金の増加300(項目は投資有価証券)を認識します。一方、「申告調整の仕訳」の借方に利益積立金210と90があるので、別表五(一)において利益積立金の減少210(項目はその他有価証券評価差額金)と90(項目は繰延税金資産)を認識します。
・(設例4)Ⅱ期の表示(純資産計上、全部純資産直入法、税効果会計を適用)
Ⅱ期損益計算書
投資有価証券売却損 400
税引前当期純利益 700 法人税等 210* 当期純利益 490
*:700×0.3 |
Ⅱ期貸借対照表 |
|
|
未払法人税等 210 繰越利益剰余金1,400 |
Ⅱ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
490 |
490 |
|
|
加算 |
法人税等 |
210 |
210 |
|
所得金額 |
700 |
700 |
|
|
Ⅱ期別表五(一) |
||||
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
投資有価証券 |
300 |
300 |
|
0 |
その他有価証券評価差額金 |
△210 |
|
210 |
0 |
繰延税金資産 |
△90 |
|
90 |
0 |
繰越損益金 |
910 |
910 |
1,400 |
1,400 |
納税充当金 |
390 |
390 |
210 |
210 |
第Ⅱ期は、第1期の洗い替え処理(逆仕訳)を、次のように行います。
会計上の仕訳
(借)投資有価証券 300 (貸)その他有価証券評価差額金210
繰延税金資産 90
税務上の仕訳
仕訳なし
申告調整の仕訳
(借)利益積立金 300 (貸)投資有価証券 300
(借)その他有価証券評価差額金210 (貸)利益積立金 210
(借)繰延税金資産 90 (貸)利益積立金 90
「申告調整の仕訳」で借方に利益積立金300があるので、別表五(一)において利益積立金の減少300を認識します。一方、申告調整の仕訳の貸方に利益積立金210と90があるので、別表五(一)において利益積立金の増加210と90を認識します。
有価証券の売却の仕訳は、次のとおりです。
(借)現金預金 400 (貸)投資有価証券 800
投資有価証券売却損400
洗い替え処理をして投資有価証券の帳簿価額を800に戻しているため、売却損は100ではなく400となり、その結果、税引前当期純利益は1,000ではなく700となります。税引前当期純利益700に対して、法人税等210であり、税率30%となっています。
設例3と設例4は、評価差額を貸借対照表に持っていくので、損益計算書・別表四はまったく同じになります。設例3と設例4とで異なるのは、貸借対照表と別表五(一)です。設例3では、評価差額金300が記載されていますが、設例4では評価差額金210と繰延税金資産90に分かれたと考えることができます。
さて、評価差額を純資産の部に計上し洗い替え処理した場合には、税効果会計を適用してもしなくても(つまり、設例3でも設例4でも)、損益計算書と別表四は同じになります。したがって、評価差額に税効果会計を適用する必要があるのか疑問となります。
この点は、次のように考えればよいと思います。洗い替え処理をしても税効果会計を適用するのは、貸借対照表の表示をより適正なものにしようという思考からです。
設例に即して言うと、将来この有価証券を売却して300の売却損が出る場合には、300が税務上損金となるので、実効税率30%とすると、90の減税効果があります。したがって、純資産の減少は300ではなく、税効果を考えると、差額の210とみることができます。表面的には、評価差損すなわち純資産の減少は300だが、将来の税効果を考えて純資産の減少は210とするものです。
逆に、評価差益の場合には、評価差額全額ではなく、将来の売却益に対する納税額を差し引いた額だけ、純資産の増加があったとみるわけです。
これが、「その他有価証券になぜ税効果会計が適用されるのか。」「その他有価証券の評価差額を純資産の部に計上した場合(全部純資産直入法)には、損益計算に関係しないので、加算減算は生ぜず税務上の課税所得は変わらない。それなのに、なぜ税効果を認識するのか。」という問いに対する答えとなります。
・設例1~設例4のまとめ
|
|
当期純利益 =当期利益 |
法人税等 =未払法人税等 =納税充当金 |
繰越利益剰余金期末残 =繰越損益金期末残 |
別表四の所得金額 |
設例1 |
Ⅰ期 |
610 |
390 |
610 |
1,300 |
Ⅱ期 |
790 |
210 |
1,400 |
700 |
|
設例2 |
Ⅰ期 |
700 |
390 |
700 |
1,300 |
Ⅱ期 |
700 |
210 |
1,400 |
700 |
|
設例3 |
Ⅰ期 |
910 |
390 |
910 |
1,300 |
Ⅱ期 |
490 |
210 |
1,400 |
700 |
|
設例4 |
Ⅰ期 |
910 |
390 |
910 |
1,300 |
Ⅱ期 |
490 |
210 |
1,400 |
700 |
まず、損益計算書から見ていきます。税引前当期純利益と法人税等との関係は、設例1では30%になっていません。設例2では、税効果会計を適用しているので、30%となっています。
貸借対照表は、売却が終了したⅡ期は、設例1~設例4まですべて同じとなります。すなわち、Ⅱ期の繰越利益剰余金(=税務上の繰越損益金)1,400は、設例1~設例4まですべて同じとなります。
税務は、設例1~設例4まで、Ⅰ期の所得は1,300、税額(法人税等=未払法人税等=納税充当金)は390、Ⅱ期の所得は700、税額(法人税等=未払法人税等=納税充当金)は210で、みな同一金額となっています。
税務上は、全部純資産直入法でも部分純資産直入法でも、また、税効果会計を適用してもしなくても、すべて同じ結果となります。税務は、公平性を保つため、会計処理に左右されないということです。税務の論理が、しっかり貫かれていると思います。
※本稿は、次の拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。
寺田誠一稿『その他有価証券評価差額になぜ税効果会計が適用されるのか』週刊経営財務2001年(平成13年)2月19日号
寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第5回 「税効果会計」の理路整然 パート2』月刊スタッフアドバイザー 2011年(平成23年)12月号
※法定実効税率の式の導き方については、「法定実効税率の式の算出方法(求め方)」参照。
※将来減算一時差異の設例については、「将来減算一時差異の税効果会計と申告書設例」参照。
※将来加算一時差異の設例については、「圧縮記帳の税効果会計と申告書設例」参照。
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。