「新聞販売店の会計と税務」

 

2020年(令和2年)12月16日(最終更新2024年9月20日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・はじめに

 

 わが国の新聞は、世界でもまれな戸別配達(戸配こはい)制度をとっている。すなわち、駅の売店やコンビニで売られる「即売」は少数であり、大多数の新聞は家庭や会社にまで届けられる。その配達を担当しているのが、新聞販売店である。

 

 新聞販売店は、かつて全国紙の新聞ごとに系列化されていたが、近年は販売部数の低下に伴い、複数の全国紙を扱う販売店が多くなっている。つまり、多くのの新聞販売店は、一番メインの全国紙を中心に、他のいくつかの全国紙・ブロック紙(複数の県にまたがる新聞)・県紙(1つの県だけの新聞)を取り扱っている。 地域によっては、その地域の全部の新聞を取り扱う「合売店(ごうばいてん)」も存在する。 

 新聞販売店の活動範囲は、行政区域や世帯数などを基準に、新聞社により決められている。そして、その区域で独占的に配達する権利を、新聞社より与えられている。原則として、担当区域が重複することはない。逆にいえば、その区域の販売店は、他の区域で活動することはできない。したがって、全国紙については、原則として、同一区域について、複数の販売店が配達するということはない。ただし、全国紙の一部と県紙については、同一区域において、複数の販売店が配達していることもある。

 

 近年、新聞の購読者数が減少しているため、売上高(※)が減少し、新聞販売店は厳しい経営環境にある。そのため、廃業する販売店もある。そのような場合には、近隣の販売店が経営を引き継ぐ。また、新聞社の主導で、小規模の新聞販売店が統合されることもある。

 ※:新聞販売店の売上高を、業界用語で「発証(はっしょう)」という。なお、回収できないもの(貸倒れ)を「廃証(はいしょう)」という。

 

 また、新聞は鮮度が大事であり、その日の朝刊・夕刊を限られた時間内に配達しなければならない(近年は、夕刊をやめて朝刊だけという新聞もある。)。そのため、新聞販売店は、一定数の従業員が必要であり、従業員の確保と管理が重要な課題となる。

 

 新聞販売店の店舗は新聞社が所有または賃借しており、販売店はその店舗を新聞社から賃借しているという関係が多い。店主の家族と従業員は、配達の関係で、店舗内か近くのマンション・アパート・寮に住んでいる。

 

 本稿は、さまざまな特徴を持つ新聞販売店の会計および税務を、仕訳を交えて論じたものである。なお、文中意見にわたる部分は私見である。

 

 

・代償金(営業権)

 

 新聞販売店を新たに開業する場合、廃業または他の店へ移る既存の販売店主に、「代償金(だいしょうきん)」を支払う。代償金とは、業界用語であるが、その区域で独占的に新聞を販売する権利(新聞販売権)の売買代金であると考えられる。会計的には、営業権(のれん)である。代償金の金額は、その時点の1か月分の新聞等の売上高(定価×購読者数)とするのが慣例である。 

 

 開業時には、代償金以外に、次のものを支払う。

② 開業時の新聞等の代金未収分(業界用語で「残証(ざんしょう)」という。)

③ 開業時以降の予約カード

④ 器具備品やバイクなど

 

 ②は、売掛金である。③は、カード料(拡張費)である(カード料については後述)。④は少額であり、大部分が消耗品費になると思われる。車両運搬具や器具備品等の固定資産となることは少ないであろう。

 

 仕訳(会計処理)は、次のようになると思われる。

(借)営業権   ×××  (貸)現金預金   ×××

     売掛金     ×××    

   拡張費     ×××

     消耗品費    ×××

 

 営業権は、税務上、個人は、耐用年数5年の定額法で減価償却計算していくことになる(所得税法施行令第120条の2第1項第四号)。

 税務上、法人の場合には、独立した資産として取引される慣習のある代償金のような営業権は、5年間(60か月)の定額法が強制されると考える(法人税法第62条の8第1項、法人税法施行令第123条の10第3項)。強制の意味は、たとえ、会計上、費用処理していなくても、税務上、別表四で減算して損金処理するということである(法人税法第62条の8第4項、第5項)。

 

 営業権(のれん)は、会計上は、20年の定額法で償却することになっている(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」32)。ただし、中小企業会計要領では、固定資産は、税法の定める耐用年数で償却することを原則としている(中小要領8(5))。したがって、中小企業では、20年の償却は長いので、5年で償却することが多いであろう。

 

 

・信認金(取引保証金)

 

 「信認金(しんにんきん)」は、業界用語であるが、一般にいう取引保証金である。新聞販売店は、開業時、新聞社に信認金を支払わなければならない。その額は、おおむね、1か月分の新聞等仕入相当額である。

(借)差入保証金 ××× (貸)現金預金  ×××

 新聞社は、定期的に、販売店に対して、信認金の利息を支払う。具体的には、新聞等の仕入代金の支払いと相殺する。

 

 なお、この信認金は、一時払いでなく、その額に達するまで、毎月の支払いでもよいとされている。この場合には、毎月の新聞等の仕入代金の支払いと一緒に支払うことになる。

 

 

・法人成り

 

 新聞販売店を個人事業として営んでいたが、法人を設立して法人成りをするというケースが考えられる。この場合、先ほど述べた代償金の時価で引き継ぐ。法人成り時の開始仕訳は、他の債権・債務等とともに、営業権を受入れ、仕訳の貸借差額を、通常、貸方差額であろうから代表者に対する未払金とすればよい。金融機関からの借入金があれば、法人で引き継ぐのが通常であるから、たとえば、次のようになる。 

(借)現金預金  ××× (貸)社長未払金   ×××

     営業権   ×××     長期借入金     ×××

   売掛金       ×××     

   積立金     ×××

   差入保証金   ×××

     拡張費         ×××

     車両運搬具 ×××

   器具備品  ×××

   消耗品費    ×××

 

 売却する個人事業の仕訳は、上記のほぼ逆で、下記のようになる(譲渡所得と事業所得とを分ける。)。貸借差額を、法人に対する未収入金とする。譲渡所得の固定資産売却益の主なものは、営業権(代償金)の未償却残高と現在の時価との差額である。過去の代償金の償却が終了し、未償却残高が0であるならば、現在の代償金の時価がほぼそのまま売却益となる。車両や器具備品は、未償却残高をそのまま時価とみなすことが多いので、通常、売却益は生じない。

 消費税法上は、売却益ではなく、営業権などの有形無形固定資産の売却代が、課税売上となる(簡易課税では、第4種事業(その他の事業))。他に、拡張費相当分や消耗品費相当分(事業所得の雑収入)が、課税売上を構成する(簡易課税では、第4種事業(その他の事業)。

 

譲渡所得の仕訳

(借)未収入金    ×××  (貸) 営業権(※)   ×××

                 車両運搬具(※)×××

               器具備品(※)  ×××

               固定資産売却益  ×××

※:貸方の固定資産は、取得価額から減価償却累計額を差し引いた未償却残高の額である。

 

事業所得の仕訳

(借)未収入金    ×××  (貸) 現金預金     ×××

  長期借入金    ×××     売掛金        ×××     

               積立金      ×××

               差入保証金    ×××

               雑収入      ×××                           

 

 営業権の未償却残高を、法人が引き継ぐとき、引継価額を未償却残高の額とし、個人に譲渡所得課税が生じないようにすることも考えられる。ただし、営業権の譲渡は、譲渡所得(売却が取得後5年内か5年超かにより 、短期譲渡所得か長期譲渡所得)なので、税務上、個人が法人に時価の2分の1未満の価額で譲渡すると、時価で譲渡があったものとみなされる(所得税法第59条第1項第二号、所得税法施行令第169条)。

 法人がもし時価より低い額で営業権を引き継いだときは、その差額は受増益となる。

(借)営業権  ×××  (貸)受増益   ×××

 法人がもし時価より高い額で営業権を引き継いだときは、その差額は役員賞与となる。

(借)役員賞与 ×××  (貸)営業権 ×××

 

 なお、法人成りは新聞社も了解しているが、形式的には、新聞社との契約はあくまで店主個人のままとなる。新しく、新聞社と法人との契約とはならない。

 新聞社のリスク管理のための次のような趣旨だと考えられる。

① 法人の有限責任ではなく店主個人の無限責任とする。

② 法人契約だと新聞社の知らないうちに経営者の交代があり得るので、それを避ける。

 

 

・ 売上と消費税

 

 新聞販売店の売上は、主に、次のものからなる。

① 新聞等の販売代金

 週2回以上発行(※)の新聞の定期購読は、軽減税率8%となる(スポーツ新聞・業界紙・英字新聞等も同様である。)。店頭等での新聞の販売は、標準税率10%となる。新聞社発行の雑誌(週刊誌・月刊誌)の定期購読は、標準税率10%である。

(※)1週間に2回以上発行とは、通常の発行予定が週2回以上ということなので、国民の祝日や新聞休刊日で週1回以下の発行となる週があっても、週2回以上に該当する。

② チラシ広告の折込手数料

 標準税率10%である。

③ 物品販売

 食料品が多いが、その場合軽減税率8%である。食料品以外の物品は、標準税率10%である。

④ 残紙売却収入

 標準税率10%である。

 

  さて、新聞販売店における消費税の簡易課税を考えてみる(なお、現在は、小規模な店舗の統合が進んだため、簡易課税の適用可能な売上5千万円以下の販売店は少なくなっていると思われる。)

 販売店の主たる売上は新聞の販売であるが、これは新聞社より仕入れたものを、そのままの形で売っている。もちろん、配達しやすいように、また各家庭等の郵便受けに投げ込みやすいように、折りたたむことはあるが、それは性質および形状を変更したというほどのことではない。したがって、簡易課税では、第2種事業(小売業)に該当する。

 新聞等の顧客が、家庭ではなく、会社等の事業者であった場合には、簡易課税において第1種事業(卸売業)に該当する。販売店にとっては、事業用の区分が可能であれば、みなし仕入率が高いので、有利である。

 

 新聞等の代金回収は、できるだけ、預金からの口座振替やカード払いを顧客に依頼している。その代金は、新聞販売店ではなく、いったん新聞社の預金口座に入金される。そして、販売店の新聞社への仕入代金等の支払いと相殺される(または、相殺ではなく、新聞社から販売店の預金口座に振り込まれる。)。ただし、従業員が各家庭等を回って現金で集めていることもまだ多い。

 

 新聞電子版は、電気通信利用役務の提供であり、標準税率10%となる。ただし、新聞電子版は、新聞社より送信されるものであり、新聞社の売上であり、新聞社の預金口座に入金される。販売店は、手数料を受け取ることになり、新聞社への毎月の仕入代金等の支払いと相殺される。

 なお、新聞電子版の集金を、紙の新聞の集金と一緒に、新聞販売店が担当することがあるが、その性格は預り金である。その場合、毎月、仕入代金等と一緒に新聞社へ集金額を支払う。

 

 新聞販売店の副次的な収入として、チラシ広告の折込手数料がある。新聞販売店は、その宅配の広告効果に期待して、近隣の商店等から新聞へのチラシの折込を依頼される。その手数料収入である。この収入は、簡易課税において第5種事業(サービス業)に該当する。

 

 近年、新聞販売店は、新聞の購読部数が減少しているため、新聞以外にも力を入れ始めている。たとえば、各地の名産品・産地直送品や防災用品などの販売である。販売店は、折込チラシにより営業を行い、売上計上し、代金回収を行う。商品は直接、新聞社(の関係会社)から顧客に発送され、販売店は新聞社に仕入代金を支払う。簡易課税においては、新聞等と同様、顧客が事業者以外ならば第2種事業(小売業)、事業者ならば第1種事業(卸売業)となる。

 

 その他の収入として、残紙(予備紙)代がある。新聞社より仕入れた部数が顧客へ販売した部数より多いと、新聞が残る。その残紙を廃品業者等へ売却した代金である。この収入は少額であるが、簡易課税においては、廃品業者等が事業者なので、第1種事業(卸売業)に該当する(消費税基本通達13-2-8なお書)。

 

 なお、コンビニエンスストア・ホテル等に対して、その地域の新聞販売店が配達を担当することがある(配送専門の即売業者が担当することもある。)。この場合、販売店は、委託販売でコンビニ等に卸す。コンビニ等は定価で小売りをし、その販売代金のうちから手数料を差し引いた額を、販売店に支払う。販売店からみれば、卸売りなので利幅は少なくなるが、直接の購読者以外のある程度の販売部数が確保されることになる。ただし、売れ残りの危険負担がある。この即売ルートは、簡易課税では、顧客が事業者なので、第1種事業(卸売業)に該当する。定期購読ではないので、消費税は標準税率10%である。

 

 2019年(令和元年)10月からは、新聞販売店の大部分の売上は消費税軽減税率8%となった。

 原則課税(一般課税、本則課税)を前提とすれば、従前の売上・仕入ともに8%のときと比べると、月次で、売上に対する消費税は変わらないのに対し、仕入に対する消費税は2%分増加した。預かっている消費税は変わらないのに対し、支払っている消費税は増えたので、その分、差し引きの決算等で納付する消費税は減るという変化が生じたわけである。

 月次と決算等を通算すれば、従前と比べて、販売店の損得はなく、キャッシュフロー(資金繰り)だけの問題である(そもそも、理論的に、消費税は預り金をそのまま納付するだけである。)しかし、月次の支払いの方が先行するので、キャッシュフロー(資金繰り)は苦しくなったというのが、新聞販売店の実感であろう。

 

 新聞販売店が課税売上5千万円以下の事業規模である場合、消費税の簡易課税を適用するかは、次の要素を考慮する必要があると考える。

① 新聞販売店は人件費の比率がかなり高い。これは、簡易課税の方が有利な点である。

② 新聞販売店は売上の大部分が消費税8%であり、簡易課税を適用した場合には、みなし仕入率も8%が基準となる。一方、原則課税を適用した場合には、仕入控除税額の税率は10%である。これは、原則課税の方が有利な点である。

 

 

・ 仕入と奨励金補助金

 

 新聞社からの仕入代金の消費税は、標準税率10%である。新聞社からの仕入が、軽減税率8%になることはない。

 

 新聞販売店は、新聞社に注文して仕入れた新聞等の代金を、原則、毎月末にその月の分を支払わなければならない。当月仕入・当月支払なので、資金繰りが忙しい(そのため、新聞代の集金は当月中旬から開始する。)。紙が残ったからといって、新聞社に返品することはできず、販売店の負担となる。仕入単価は、仕入部数が増える程、割安となっていく。仕入以外の当月の支払いも、そのとき同時に行う。

 

 ここで特徴的なのは、奨励金・補助金である。新聞社は、販売奨励金・増紙奨励金・拡張補助金等種々の名目で、意欲のある販売店を応援している。ただし、これらは、現金預金で交付されるのではなく、仕入代金より差し引くという形態である。したがって、仕入の値引きと考えられる。消費税においても、新聞社よりの奨励金・補助金は、課税売上げではなく、課税仕入れのマイナスとなる(消費税基本通達12-1-2)。

 

 新聞社よりの請求書にもとづく仕入等の計上について、簡単な設例を本稿の最後に載せたので、そちらをご参照いただきたい。

 

 

・従業員給与

 

 新聞販売店は、配達・拡販・集金等のため、一定数の従業員が必要である。従業員は、主に、①専業、②パート、③奨学生の3種類に分かれる。 

 

 従業員は、早朝配達する必要上、販売店かその近くに住んでいることが多い。それらの家賃の一部または全部を、販売店や新聞社が負担することがある。

 そこで、それらの家賃相当分が、専業従業員や奨学生に対する現物給与に該当しないかが問題となる。これについては、「給与所得を有する者でその職務の遂行上やむを得ない必要に基づき使用者から指定された場所に居住すべきものがその指定する場所に居住するために家屋の貸与を受けることによる利益(所得税法施行令第21条第四号)」は、非課税とするという扱いがある(所得税法第9条第1項第六号)。この規定の適用により、家賃相当分の経済的利益は、現物給与に該当せず非課税となると考えられる。

 

 奨学生とは、新聞配達をしながら、大学・短大・予備校・専門学校等に通っている者である。現在は、外国人が非常に多い。奨学生の多くは、新聞社(の関係会社)が全国で一括採用し、各販売店に必要人数を割り振っている。奨学生は、新聞社(の関係会社)より奨学金を支給され、また、学費の貸付制度もある。さて、奨学生の受け取る奨学金であるが、これも、非課税所得の例示の1つである「学費に充てるため給付される金品(所得税法第9条第1項第十四号)」に該当し、現物給与にはならず非課税と考えられる。なお、奨学生は、年末調整において、適用要件を満たせば勤労学生控除を受けられる。

 

 従業員は、洗剤・タオル・チケット等を持って担当区域の各家庭等を回り、自店の扱っている新聞を購読する勧誘を行うことがある。いわゆる拡張活動である。具体的には、3か月間・6か月間・1年等の購読申込カード(拡張カード)に、顧客のサイン等をもらってくるということである。

 従業員が購読申込カードを獲得したとき、店主はそれに対する数千円の手数料を支払う。この「カード料」は、給与の性格を有する。したがって、源泉徴収や年末調整の計算をするとき、給与にカード料を加えることになる。

 

 

・食費(まかない)

 

 次に、食費について考えてみる。現在ではほとんど無いと思われるが、かつては、専業従業員や奨学生は、販売店において朝食や夕食の提供を受けることがあった。その場合、毎月の給与から一定額を、食事代として天引きされることが多かった。

 さて、本来、日々の肉・魚・野菜等の代金よりも、給与から天引きされる一定額の方が少なければ、その差額は従業員に対する給与となる(所得税基本通達36-38)。しかし、その差額を正確に算出することは困難であるし、また、それほど大きな額になるとは思われない。

 よって、日々の材料代等の記帳は省略し、給与から天引きした一定額が実際にかかった額であるとみなしても、課税上弊害はないものと考える(所得税基本通達36-38の2の給与課税をしない要件、すなわち、差額が月額3,500円以内で、かつ、差額が材料費の50%以下を満たしていると考える。)。

 なお、通常の勤務時間外の残業に該当する場合には、給与課税の問題は生じない(所得税基本通達36-24)。

 

 以上、従業員給与について種々述べてきたが、まとめの意味で給与支払時の仕訳を示してみる。

 

(設例)

 月給200,000円、その月のカード料5,000円、源泉所得税4,000円、社会保険料(健康保険・厚生年金)18,000円、労働保険料(雇用保険)2,000円、住居の家賃25,000円、住居の立て替えた水道光熱費8,000円、食費の天引き額30,000円。

 

 (借)給   料205,000 (貸)源泉税預り金  4,000

                         社会保険預り金 18,000

             法定福利費     2,000(※1)

             雑 収 入   25,000(※2)

             立 替 金     8,000

                         現金預金      30,000(※3)

             現金預金       118,000

 

※1:労働保険料は、預り金を使用しないで、すべて法定福利費で処理する方法を選択したという前提。

※2:住宅家賃なので、消費税は非課税。

※3:食費代30,000円は、店主(または賄い担当者)に支払い、118,000円が従業員への支払いである。

 

 

・カード料(拡張費)

 

 各新聞の拡張活動を専門に行う「拡張団(セールスチーム)」という団体がある。よって、従業員ばかりでなく、このような外部の法人・組織・団体に拡張を依頼することもある。このような場合の支払うカード料(拡張費)は、外注費となろう。

 

 配達のみを行う「臨配団」という団体がある。このような場合に支払う配達料も、法人・組織・団体に支払う場合には、拡張団と同様、外注費となろう。

 

 一方、販売店が、拡張団や臨配団の個人に、直接支払う場合には、外注費か給与かという問題がある。これについては、その実態に応じ、総合的に判断することになる(消費税法基本通達1-1-1)。

 

 ここで、外注費であるカード料について少し詳しく考察してみる。カード料を支払時点で費用(損金)計上した場合、それに対応する収益(益金)はカードの予約期間の新聞売上であり、費用が先行して計上されることになる。これをどう考えるかである。

 まず、カード料の支払いを前払費用と考えられるかであるが、前払費用とは支払いは終わっているが役務の提供はまだ終わっていないものをいう(企業会計原則注解注5、所得税法施行令第7条第2項、法人税法施行令第14条第2項)。カード料の場合、役務の提供とは、拡張団等が顧客の購読申込カードを獲得してくることであると思われる。したがって、役務の提供は完了していると考えられるので、前払費用には該当しない。

 カード料は、申込カードの獲得という役務の提供は完了しているが、その支出の効果が将来に及ぶものであり、金額的には少額であるが理論的には繰延資産の性格を有するものと考える(企業会計原則注解注15)。税法上の繰延資産は、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものと定義されている(所得税法施行令7条第1項第四号、法人税法施行令14条第1項第九号)。また、支出額20万円未満のものは、繰延資産としないで一時の損金処理が認められている(所得税法施行令139条の2、法人税法施行令134条)。

 したがって、通常、最長でも1年のカード料は、税法上の繰延資産に該当しない。仮に、1年を超えるカードがあっても、カード料の金額的重要性は乏しい。よって、カード料は支払時の費用(損金)処理が認められると考える。

 

 

・拡張用品(販促物)

 

 拡張に成功した新規の購読者には、景品として、洗剤・タオル・チケット等を贈呈することが多い。これらの物品は、新聞販売店で購入するほか、新聞社が購入し新聞社よりの請求書において、新聞代の仕入と一緒に新聞社へ支払う場合もある。

 

 これらの物品購入費用が、税務上、交際費に該当しないかという問題がある(個人事業の交際費には限度額がないが、法人の交際費には、税務上、損金算入限度額がある(租税特別措置法第61条の4)。)。結論からいうと、交際費には該当しないと考えてよい。税務では、小売業者が商品の購入をした一般消費者に対し景品を交付する費用は、不特定多数の者に対する宣伝的効果を意図するもので、交際費には含まれないという取扱いをしているためである(租税特別措置法通達61の4(1)-9(4))。

 

 勘定科目は、拡張費・販売促進費・広告宣伝費等が妥当であろう。

 

 

・設例

 

 毎月、新聞社より、請求書が届くが、その仕訳を簡単な設例で示してみる。

 

(設例)

請求書 ×年×月  単位:円

 

① 新聞代等               2,500,000

 

② 控除額           (-1,000,000)

各種奨励金・補助金                      -540,000

集金代行              -300,000

新聞社社員購読料            -20,000

各種積立金戻し           -130,000

取引保証金利息            -5,000

電子版手数料             -4,000

送金手数料              -1,000

 

③ その他請求額          (900,000)

販売店家賃              200,000

取引保証金               43,000

拡張カード料                150,000

各種拡張用品                100,000

労働保険料                 10,000

各種積立金                   80,000

各種リース料                120,000

各種手数料                 30,000

各種会費                  50,000    

各種消耗品費                70,000

各種保険料                 40,000

電子版購読料                7,000

 

差引:当月請求額           2,400,000

 

仕訳は、次のようになる。

(借)仕 入 2,500,000    (貸)買掛金  2,400,000

   地代家賃 200,000        仕入値引  540,000(※1)

   差入保証金 43,000(※2)  売掛金   300,000

   拡張費  150,000(※3)  売掛金      20,000

   拡張費  100,000     積立金  130,000(※6)

   法定福利費 10,000(※4)   雑収入       5,000(※7)

   積立金   80,000(※5)   受取手数料 4,000(※8)

   賃借料  120,000     雑収入     1,000(※10)

   支払手数料  30,000

   諸会費    50,000

   消耗品費   70,000

   保険料    40,000

   売 上      7,000(※9)

 

 

※1:奨励金・補助金は仕入のマイナスなので、それに対応する消費税も課税仕入れのマイナスとなる。

※2:新聞社へ支払う取引保証金(信認金)を、毎月、支払った場合である。

※3:拡張団へのカード料の支払いを、直接団へ支払うのではなく、新聞社を通して行う場合もある。

※4:労働保険を新聞社が代行していることがある。ここでは、預り金を使わないで、全部、法定福利費で処理する方法を前提。

※5:販売店は、新聞社に対して、消費税積立金、賞与積立金等の各種の積立てを行っているが、通常、1年以内に入金になるので、流動資産である。

※6: 新聞社は、各種の積立金を、該当する時期において、仕入代金等との相殺という形で販売店に戻す。

※7:取引保証金(信認金)の利息なので、消費税は非課税売上げとなる。

※8:電子版は新聞社の管轄であり、新聞社の入金(売上)となる。販売店には、新聞社から仕入代金等との相殺という形で手数料が支払われる。

※9:電子版の代金の入金事務を販売店が行っている場合がある。回収した代金を新聞社に支払うので、売上のマイナスとなる(販売店でいったん売上(発証高)に計上済という前提)。

※10:買掛金を新聞社に支払うときの振込手数料を、新聞社が負担してくれる。

 

 

 

・補遺(参考設例)

 

 2019年(令和元年)10月より、消費税率が従前の8%から、標準税率10%、軽減税率(食料品、新聞)8%に変更になった。これを受けて、売上と仕入について、消費税が8%から10%に変更になると、どのような影響があるのかを、設例で示してみる。設例の内容は次のとおりとする。

    

 

売  上

仕  入

設例1

8

8

設例2

10

10

設例3

10

8

設例4

8

10

 

 (設例1)・・・売上:旧8%、仕入:旧8%のケース

 

 課税売上(本体価格、税抜価格)50,000千円、課税仕入(本体価格、税抜価格)35,000千円 消費税:旧8%

 

 

①課税売上

②課税仕入

①-②

税抜価格

50,000

35,000

利益15,000

消費税

(8)4,000

(8)2,800

納付1,200

税込価格

54,000

37,800

16,200

 

  税抜経理方式で、消費税納付までの仕訳(消費税は別記)を示すと、どのようになりますか(仕入税額控除は全額控除)。千円単位で記入し、勘定科目は、現金・売上・仕入を使用のこと。設例2以下も同じ。

 

(借)現   金 54,000 (貸)売   上 50,000

                仮受消費税   4,000

 

(借)仕   入 35,000 (貸)現   金 37,800

  仮払消費税   2,800

 

(借)仮受消費税  4,000 (貸)仮払消費税  2,800

               未払消費税   1,200

 

(借)未払消費税  1,200 (貸)現   金  1,200

 

  

(設例2)・・・売上:標準10%、仕入:標準10%のケース

 

 課税売上(本体価格、税抜価格)50,000千円、課税仕入(本体価格、税抜価格)35,000千円 消費税:標準10%

 

 

①課税売上

②課税仕入

①-②

税抜価格

50,000

35,000

利益15,000

消費税

(10)5,000

(10)3,500

納付1,500

税込価格

55,000

38,500

16,500

 

(借)現   金 55,000 (貸)売   上 50,000

               仮受消費税      5,000

 

(借)仕   入 35,000 (貸)現   金 38,500

   仮払消費税   3,500

 

(借)仮受消費税  5,000 (貸)仮払消費税  3,500

               未払消費税   1,500

 

(借)未払消費税  1,500 (貸)現   金  1,500

 

 設例2は、設例1と比べると、税込みの売上も仕入も、消費税が旧税率8%から標準税率10%に、2%増加している。それにより、税込価格は、売上も仕入も増えるが、それは、納付する消費税が増えただけであり、利益15,000千円は、設例1と変わらない。

 

 

(設例3)・・・売上:標準10%、仕入:軽減8%のケース

 

 課税売上(本体価格、税抜価格)50,000千円、課税仕入(本体価格、税抜価格)35,000千円 消費税:課税売上は標準10%、課税仕入は軽減8%

 

 

①課税売上

②課税仕入

①-②

税抜価格

50,000

35,000

利益15,000

消費税

(10)5,000

(8)2,800

納付2,200

税込価格

55,000

37,800

17,200

 

(借)現   金 55,000 (貸)売   上 50,000

                仮受消費税    5,000

 

(借)仕   入 35,000 (貸)現   金 37,800

  仮払消費税  2,800

 

(借)仮受消費税  5,000 (貸)仮払消費税  2,800

               未払消費税     2,200

 

(借)未払消費税  2,200 (貸)現   金  2,200

 

 設例3は、設例1(旧8%)と比べると、消費税が、課税売上だけ旧税率8%から標準税率10%に増加したものである。すると、税込価格が、課税売上だけ増えて課税仕入は変わらないので、設例1に比べて、日常のキャッシュフロー(資金繰り)は楽になる。しかし、その増えた消費税は納付することになるので、納付時にはその分のキャッシュを用意しておかなければならない。

 

 具体的に、設例3の課税売上の税込価格は、設例1と比べて、54,000千円から55,000千円に1,000千円増加している。その分、設例3の消費税納付額は、設例1と比べて、1,200千円から2,200千円に1,000千円増加している。

 設例3の利益15,000千円は、設例1と変わらない。

 仕入が軽減8%で、売上が標準10%になる設例3のようなケースは、飲食店(外食産業)などである。

 

 

(設例4)・・・売上:軽減8%、仕入:標準10%のケース

 

 課税売上(本体価格、税抜価格)50,000千円、課税仕入(本体価格、税抜価格)35,000千円 消費税:課税売上は軽減8%、課税仕入は標準10%

 

 

①課税売上

②課税仕入

①-②

税抜価格

50,000

35,000

利益15,000

消費税

(8)4,000

(10)3,500

納付500

税込価格

54,000

38,500

15,500

 

(借)現   金 54,000 (貸)売   上 50,000

               仮受消費税  4,000

 

(借)仕   入 35,000 (貸)現   金 38,500

  仮払消費税     3,500

 

(借)仮受消費税  4,000 (貸)仮払消費税  3,500

               未払消費税       500

 

(借)未払消費税   500  (貸)現   金    500

 

 設例4は、設例1(旧8%)と比べると、消費税が、課税仕入だけ旧税率8%から標準税率10%に増加したものである。すると、税込価格が、課税仕入だけ増えて課税売上は変わらないので、設例1に比べて、日常のキャッシュフロー(資金繰り)は苦しくなる。しかし、消費税納付時の支払額は、その分減少するということになる。

 

 具体的に、設例4の課税仕入の税込価格は、設例1と比べて、37,800千円から38,500千円に700千円増加している。一方、設例4の消費税納付額は、設例1と比べて、1,200千円から500千円に700千円減少している。通算すれば、結局、プラスマイナス0である。

 設例4の利益15,000千円は、設例1と変わらない。

 仕入が標準10%で、売上が軽減8%になる設例4のようなケースは、新聞販売店などである。

 

  

※本稿は、次の拙稿を、時代の変化や消費税の改正を折りこみ、全面的に書き替えたものである。

寺田誠一稿『新聞販売店の経理と税務』週刊経営財務1997年(平成9年)9月8日号

 

 

※労働保険の仕訳(会計処理)については、「労働保険の税務と会計処理(仕訳)」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。