「簡易課税」

 

2020年(令和2年)7月26日(最終更新2021年8月19日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・簡易課税の要件

 

 仕入税額控除のためには、課税と非課税・課税対象外(不課税)の区分をしたり、帳簿・請求書等の記載に留意しなければなりません。中小企業にとっては事務の負担になるので、仕入税額控除の別法として、簡易課税制度が設けられています。簡易課税は、原則課税(一般課税、本則課税)との選択適用が認められています。

 

 簡易課税にも、免税事業者と同様、益税(えきぜい)という問題があります。原則課税よりも簡易課税が有利な場合、簡易課税を選択することにより、事業者の手もとに預かった消費税の一部が残ります。したがって、簡易課税を選択できる事業者の範囲は、次第に狭まっています。現在、簡易課税を選ぶことができるは、基準期間(前々年度)の課税売上高(税抜き)5千万円以下の事業者です。

 簡易課税を選択する場合には、その課税期間の開始する前日までに、簡易課税制度選択届出書を税務署に提出する必要があります。また、いったん選択した簡易課税は、2年間以上継続した後でなければ、その適用をやめ原則課税に戻ることができません。

 

・事業区分とみなし仕入率

 

 簡易課税は、仕入税額控除の計算を、実際の課税仕入れに基づくのではなく、課税売上げをもとにした「みなし仕入率」で行うものです。したがって、課税売上げのみから消費税を計算することができます。

 課税売上げにかかる消費税額-課税仕入れにかかる消費税額(課税売上げにみなし仕入率を乗じて算出)=納付額

みなし仕入率は、次のように、事業の種類によって異なります。

  

1

2

3

4

5

6

90

80

70

60

50

60

 

 第1種(卸売業)と第2種(小売業等)は、いずれも、「他の者から購入した商品をその性質・形状を変更しないで販売する事業」をいいます。

 第1種と第2種の区別は、第1種は事業者に対して販売するものであるのに対し、第2種は消費者に対して販売するものです。第1種とするためには、請求書控・領収書控などで、相手が事業者(企業や個人事業者など)であることを明らかにしておく必要があります。

 第3種(製造業等)は農林漁業・製造業・建設業などをいいます。第5種(サービス業等)は、情報通信業・運輸業・金融業・保険業・サ-ビス業などをいいます。第6種は、不動産業です。第4種(その他)は第1・2・3・5・6種に該当しないその他の事業をいいます。飲食業などです。

 自社で使用していた自動車などの事業用固定資産の売却も第4種となります。製造業・建設業などのうち、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」も第4種となります。材料の支給を受けて、加工や組み立てを行う場合です。

 

・複数事業

 

 事業の種類は、企業単位や事業単位ではなく、取引ごとにみます。個々の取引について、それぞれ第何種に該当するかを判断します。

 簡易課税を適用している事業者でも、通常、第1種から第6種までの複数の事業の種類が存在しています。そのような場合には、原則として、課税売上げを事業の種類(業務内容)ごとに分けて、それぞれの事業のみなし仕入率を適用します。

 

 ただし、課税売上げが業種ごとに区分されていることを前提に、次の2つの特例計算が認められています。結果的に、事業者は、簡易課税でも、事業の種類ごとの原則計算と、特例計算2つ、計3つの計算方法のうちから選択することができます。

① 1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上の場合

 全体に、その事業のみなし仕入率を適用することができます。

② 2種類の事業の課税売上高が全体の75%以上の場合

 全体に、その2種類のみなし仕入れ率の平均を適用することができます。

 

 複数事業の具体的な事例を挙げてみます。

① ガソリンスタンド

 ガソリン・タイヤ・オイル交換などの売上は、第1種または第2種です(タイヤ交換やオイル交換の手数料が無料の場合)。洗車・ワックスがけ・車内清掃・整備点検などの売上は、サ-ビス業に分類されるので、第5種となります。タイヤ交換・オイル交換の手数料を別途徴収している場合には、それも第5種となります。

② ケーキ屋

 喫茶店を併設しているケ-キ屋が、自家製造したケ-キを店内で販売した場合には、飲食業なので第4種となります。しかし、自家製造ケ-キを店頭で持ち帰り用に販売した場合には、製造業で第3種となります。

 

・簡易課税の問題点

 

① みなし仕入率を実態に近づけようということで、消費税導入当初は第1種と第2種の2つの事業区分だったものが、現在は6区分になりました。事業区分は複雑なので、区分を増やすと事務の手数がかかり、簡易課税の趣旨に反し、難しいところです。

 

② 原則課税と簡易課税のどちらを選択するか、また、簡易課税でも複数事業の場合どの方法を選択するかについては、実務的には、どれが有利か(納税額が少ないか)で決められていることが多いようです。納税事務の簡素化という趣旨とは合致していません。

 

 

 

・簡易課税の有利不利(消費税の概算の計算方法)

 

 税抜経理方式のときは、仮受消費税等と仮払消費税等の差額で消費税の額がわかります。税込経理方式のとき、概算で簡単に消費税の額を求める方法があります。

 毎年の商品在庫に大きな変動がなければ、当期純利益に対象外・非課税仕入れ(人件費・税金・保険料・減価償却費・支払利息など)を加えた合計額の10/110で、おおよその消費税額が算出できます。税込経理方式の試算表から、概算の消費税を簡単に把握するときなどに使えます。税抜経理方式を採っていても、会計ソフトの計算が正しいかのチェックに使えます。

 

 同じ方法で、税込経理の試算表などから、消費税の原則課税と簡易課税のどちらが有利か見分けることができます。たとえば、第2種事業(小売業)を例にとると、簡易課税の計算は、ごく簡単にいうと、次のようになります(すべて標準税率10%と仮定)。

   納付税額=課税売上げ×10/110-課税売上げ×みなし仕入れ率80%×10/110

       =課税売上げ×20%×10/110

 したがって、概算では、課税売上げの20%の方が、当期純利益に税金(租税公課、法人税等)・人件費・保険料・減価償却費・支払利息などを加えた合計額よりも小さければ、簡易課税の方が有利です(納税額が少額)。逆に、課税売上げの20%の方がそれらそれらよりも大きければ、原則課税の方が有利です。

 

(設例)

 第2種事業(小売業)の企業の損益計算書(10%税込)が次のとおりであった場合、消費税の原則課税と簡易課税どちらが有利ですか。

  売上    55,000,000

  仕入    40,000,000

  給与      9,600,000

  法定福利費 1,100,000

  保険料    300,000

  減価償却費  200,000

  支払利息   100,000

  租税公課   400,000

  法人税等   500,000

  その他経費  800,000

  利益      1,000,000

 

 概算の原則課税の計算は、次のとおりです。

利益1,000,000+法人税500,000+租税公課400,000+支払利息100,000+減価償却費200,000+保険料300,000+法定福利費1,100,000+給与9,600,000=13,2000,000円…利益と対象外・非課税仕入の合計

13,2000,000×10/110=1,200,000円…原則課税の消費税額(概算) 

 概算の簡易課税の計算は、次のとおりです。

55,000,000×0.2=11,000,000円…課税売上の20%

11,000,000×10/110=1,000,000円…簡易課税の消費税額(概算)

 課税売上の20%11,000,000円の方が、利益と対象外・非課税仕入の合計13,200,000円がよりも小さいので、簡易課税の方が有利となります。

 

 ・消費税が還付になる場合

 

 消費税が納税ではなく還付になる場合が、次の2つあります。

① 多額の設備投資をし、課税仕入れの方が課税売上げよりも大きくなる場合。

② 輸出の場合

 

 免税事業者も、高額の固定資産の取得が予想される年度は、課税事業者を選択した方が有利な場合があります。免税事業者のままでは、還付は受けられないからです。

 また、簡易課税の場合、みなし仕入率は90%以下なので、簡易課税では消費税の還付ということはあり得ません。したがって、多額の設備投資が予定されている場合も、簡易課税の選択は慎重にすべきです。

 

 他の1つは、輸出の場合です。課税売上げのうちの輸出取引については、税率が0%とされています。これを輸出免税といいます(小規模の免税事業者の「免税」とは意味が異なります。)。輸出の場合、課税売上げに消費税はかからないので、輸出した商品の課税仕入れにかかる消費税が還付となるわけです。

 輸出の場合も、免税事業者と簡易課税においては、還付はあり得ません。

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。