「軽減税率の仕訳、免税事業者、簡易課税、帳簿請求書等の記載事項、総額表示」
2020年(令和2年)7月25日(最終更新2024年8月10日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
・複数税率
2019年(令和元年)10月以降の消費税は、原則、標準税率10%となりました。そして、「食品」・「新聞」は、軽減税率8%となりました。
「食品」・「新聞」の売上がある場合、請求書・領収書などに、8%のものを区分して税込価格を明示しなければなりません。ただし、「食品」の売上があるのは飲食料の製造・販売などをしている企業に限られます(その場合、「食品」の仕入もあると思われます。)。「新聞」の売上があるのは、新聞販売店などに限られます。
「食品」・「新聞」の売上がない場合には、請求書・領収書などについては、今までと何も変えなくてかまいません。
一般の企業の場合、「食品」・「新聞」の軽減税率8%が現れるのは、支払側すなわち経費としてです。「食品」の勘定科目は、交際費・会議費・福利厚生費などが考えられます。具体的には、お中元・お歳暮・コーヒー豆・茶葉・お茶菓子などです。「新聞」の勘定科目は、新聞図書費・消耗品費・雑費などが考えられます。
なお、リースについては、2019年(令和元年)10月1日以降のものは、当然10%です。しかし、自動車・複写機などのリースで9月30日までに契約してリース開始したものは、通常、契約期間中、旧税率8%のままです。したがって、10月以降、企業が支払うリース料のなかには、8%のものがあると思われます。
結局、2019年(令和元年)10月以降は、①標準税率10%、②軽減税率8%、③旧税率8%という3とおりの税率があり得ます。複数税率が並存するということになります。パソコンの会計ソフトでは、10%が原則となっているので、勘定科目が軽減税率8%や旧税率8%であるときは、入力のとき税率の指示を変更する必要があります。
なお、軽減税率と旧税率は同じ8%ですが、消費税申告書においては区分して計算することになっています。8%の、国税としての消費税と地方消費税の内訳が異なるからです。軽減税率8%の内訳は、国税の消費税6.24%と地方消費税1.76%です。一方、旧税率8%の内訳は、国税の消費税6.3%と地方消費税1.7%です。そのようなことで、納税者側の事務負担を増やしていることは、感心しません。
・「食品」
「食品」には、飲料・食品添加物を含みます。「食品」とは、販売者が人の飲食用として販売した食品です。自販機、ネット販売、通信販売などでも、「食品」ならば軽減税率8%です。
通常必要な容器・包装代・保冷剤なども、無料で「食品」の代金のうちに含まれるならば、軽減税率8%です。容器・包装代が、別途、有料の場合には、標準税率10%です。
アルコール分1度以上の酒類は、標準税率10%です。アルコール分1未満のノンアルコールは、「食品」となり、軽減税率8%です。たとえば、みりんは、アルコール分1度以上なので、酒類となり、標準税率10%です。しかし、アルコール分1度未満のみりん風調味料は、「食品」となり、軽減税率8%です。アルコール分1度未満のノンアルコールビール・甘酒なども、軽減税率8%です。
医薬品・医薬部外品は、「食品」ではないので、標準税率10%です。栄養ドリンクには、医薬部外品に該当するものと、医薬部外品ではなく「食品」に該当するものの両方があります。
外食(食事の提供)は、飲食サービスという役務の提供であり、標準税率10%です。屋台・ショッピングセンターのフードコートなど、テーブル・いす・カウンターなどが設置されている場合には、外食扱いとなり、標準税率10%です。
コンビニ・ファーストフードなどのイートイン(店内飲食)は標準税率10%、テイクアウト(持ち帰り)は軽減税率8%です。
そば屋・ピザ店などの出前・宅配は、単に「食品」を届けるだけで外食ではないので、軽減税率8%です。
ケータリング(出張料理)は、配達だけなら軽減税率8%です。配達先で調理・加熱・配膳など何らかのサービスを行うと、標準税率10%です。
ウォーターサーバーのレンタル料は標準税率10%、水の販売は軽減税率8%です。サーバーのレンタル料は無料で、水の販売価格のうちに含まれる場合には、全体が軽減税率8%となります。
食品と食品以外で構成される一体資産(全体の価格のみで、内訳価格の表示がないもの)は、原則10%です。ただし、一体資産の価格10,000円以下で、食品の金額の割合2/3以上のものに限り、全体が軽減税率8%となります。たとえば、お中元・お歳暮用のジュースとビールのセットなどです。
・「新聞」
2019年(令和元年)10月より、①定期購読契約による②週2回以上発行の新聞は、軽減税率8%となりました。税率の8%は、従前と変わらないということになります。
軽減税率になるためには、①定期購読契約と②週2回以上発行という2つの条件をともに満たす必要があります。軽減税率8%のものは、請求書・領収書などに、税込価格を明示することが必要です。
定期購読が必要なので、駅やホテルの売店・コンビニなどでの販売は10%です。週2回以上発行が必要なので、週1回発行の新聞は10%です。ただし、週2回以上発行で、国民の祝日・新聞休刊日などで、たまたま週1回となっても、軽減税率となります。
スポーツ紙、業界紙、地方紙、政党機関紙、日本語以外の新聞なども、2つの条件を充たせば、軽減税率です。
新聞の電子版は10%です(紙の新聞とは、区分して請求されます。)。本や雑誌も、新聞ではないので、10%です。
新聞販売店は、新聞社から仕入れて、定期購読者に販売します。したがって、仕入(新聞社から見ると売上)は10%ですが、売上は8%です。そのため、毎月の資金繰りは支払いが従前より増えるためたいへんですが、決算時の国に支払う消費税は従前より減少します。
なお、軽減税率を採用することは、税収が減るし、納税者側の事務手数が増えるので、いかがなものかと思います。「食品」についての軽減税率は、人間が生きていく上に絶対必要だからという理由で、まだ納得するところもあります。しかし、情報の提供としては、インターネット・新聞電子版・テレビ・ラジオ・本・雑誌などもあるのに、なぜ紙の「新聞」だけ軽減税率とするのかは疑問です。
・仕訳入力
(設例)
次の各場合の仕訳は、どのようになりますか(会計ソフトでは、自動的に初期設定の消費税10%と記入されますが、それを訂正する必要はありますか。)。
① ドラッグストアで事務所備え置き用の薬10,000円を、現金で購入した。
② カフェ(喫茶店)で顧客と打ち合わせ(商談)をし、飲食代3,000円を現金で支払った。
③ スーパーマーケットで事務所備え置き用の茶葉と菓子5,000円を、現金で購入した。
④ 新聞販売店へ定期購読の新聞代8,000円を、現金で支払った。
⑤ 複写機のリース料20,000円を、普通預金より自動引き落としで支払った。このリース契約は消費税8%のとき締結したものであり、その後毎月の金額は変わっていない。賃借料処理を採っている。
①(借)福利厚生費 10,000 課仕入 (貸)現 金 10,000
医薬品は食品ではないので、10%のままです。
②(借)会議費 3,000 課仕入 (貸)現 金 3,000
外食は食品ではないので(会議費または交際費)、10%のままです。
③(借)会議費 5,000 軽8% (貸)現 金 5,000
食品の購入なので、会議費(または、消耗品費)5,000円は「課税仕入れ 軽減8%」とします。
④(借)新聞図書費 8,000 軽8% (貸)現 金 8,000
新聞図書費(または、消耗品費、雑費)8,000円は「課税仕入れ 軽減8%」とします。
⑤(借)リース料 20,000 旧8% (貸)普通預金 20,000
リース料(または、賃借料)20,000円は「課税仕入れ 旧8%」とします。「軽減8%」ではありませんので、ご注意ください。
・免税事業者の要件①…基準期間
消費税が課税される法人や個人を「課税事業者」といいます。課税事業者は、基準期間の課税売上高が1千万円超の場合です。一方、小規模な事業者は消費税の納税事務が煩雑ということで、消費税の計算・納付義務が免除となっています。基準期間の課税売上高が1千万円以下の場合には、消費税を納める義務がありません。これを、「免税事業者」といいます。毎事業年度、このチェックを行い、課税事業者か免税事業者かを判定することになります。
当事業年度の開始時点(期首)では、次のような理由から、課税事業者か免税事業者かが判明していることが必要です。
① 課税事業者は、取引ごとに、課税・非課税の区別や消費税率の違い(10%・8%)を意識して記帳しなければなりません。免税事業者は、そのような違いを考慮する必要はありません。
② 課税事業者は税抜経理方式と税込経理方式とを選択できますが、免税事業者は税込経理方式が強制されます。
基準期間とは、前々事業年度をいいます。前事業年度ではないのは、次のような理由によります。前期が基準では、前期の決算がまとまるのは当期に入って1~2か月経ってからなので、当期の開始時点で、前期が課税事業者なのか免税事業者なのかが明らかになっていない場合があるからです。
個人事業開業や法人設立の第1期と第2期には、前々年度が存在しません。したがって、基準期間の課税売上高が0円となり、従前、無条件に免税事業者となり消費税を納める義務がありませんでした。
・免税事業者の要件①…特定期間
2013年(平成25年)1月1日以後開始の事業年度からは、消費税改正により、前々事業年度の課税売上高が1千万円以下であっても、特定期間の課税売上高(または6か月間の給与支払額)が1千万円を超える場合には、免税事業者とならず課税事業者となります。特定期間とは、個人事業者は前年1月1日~6月30日の期間、法人は原則として前事業年度開始の日から6か月間をいいます。急成長している事業者が2事業年度も免税事業者でいる必要はないという理由です。
この取り扱いにより、新規個人事業や新設法人の場合、第1期は従前どおり無条件に免税事業者ですが、第2期は課税事業者となる可能性が出てきました。第1期の前半6か月間の課税売上高(または給与支払額)が1千万円以下の場合には第2期は免税事業者となりますが、1千万円超の場合には第2期は課税事業者となります。
その場合でも、前年度前半が基準なので、当年度の開始時点では課税事業者か免税事業者かは明らかになっています。
6か月間の給与支払額は、役員・従業員(パートやアルバイトも含む。)の給料や賞与です。源泉所得税の課税対象となる部分なので、通勤定期代は含まれません。また、支払ベースなので、未払いの給与は含まれません。
6か月間の課税売上高が1千万円を超えていても、6か月間の給与支払額が1千万円以下であるならば、免税事業者となることができます。通常、課税売上高よりも給与の金額が少ないので、給与支払額で判定した方が有利です。なお、売上も給与もあくまで6か月間(個人事業は1月~6月)で見るのであり、2倍して年換算するのではありません。
まとめると、ある年度が免税事業者となるためには、①だけでなく、さらに②の条件が必要となります。両方の条件を満たしたときに、免税事業者となります。どちらか一方しか満たさないときや両方満たさないときは、課税事業者となります。
① 前々事業年度の課税売上高≦1千万円
② 前事業年度の前半6か月間(個人事業は1月~6月)の課税売上高(または給与支払額)≦1千万円
・新設法人の設例
(設例)
新設法人であるL社の第1期前半6か月間の課税売上高10,500,000円、給与支払額6,500,000円であったとき、第2期は免税事業者となれますか。
L社の第2期は、前々事業年度は存在しないので、前記①の条件は満たします。前事業年度(第1期)前半6か月間の課税売上高は1千万円を超えていますが、給与支払額が1千万円以下なので、前記②の条件も満たします。①と②の条件をともに満たすので、第2期は免税事業者となることができます。
・法人、法人成りの留意点
基準期間が1年でない法人は、原則、課税売上高×12/基準期間の月数(月数の端数は1か月に切り上げ)により、基準期間の課税売上高を年換算します。一方、基準期間が1年でない個人事業者は、課税売上高を年換算する必要はありません。そのままの金額です。
資本金1千万円以上の新設法人の第1期と第2期は、免税事業者とはならず課税事業者となります。課税売上高1千万円以下であっても、そのような資本金の企業は、納税義務を免除する必要はないと考えたからです。
法人成りとは、個人事業者が法人になることです。たとえば、「日本商事 代表 山田 太郎」が、「株式会社 日本商事」となります。そして、通常、個人事業者が、「代表取締役社長 山田 太郎」となります。
個人事業者が法人成りした場合には、個人事業と法人とは実質的には同一であっても、法律的には別個の存在です。したがって、法人となった後の第1期と第2期には、前々年度が存在しません。したがって、従前、法人成りしたときの第1期と第2期は、無条件に免税事業者となりました(現在は、前述のように、特定期間の縛りがあります。)。
法人成りの場合、個人事業で使っていた資産を法人で引き継ぐことがあります(通常、簿価で)。その場合の売却収入は、個人事業の課税売上高となります。
・免税事業者のその他留意点
基準期間において免税事業者であった場合、基準期間の課税売上高は、税込みの金額でみます。正確には、免税事業者の場合、消費税の納税義務がないので、受け取った消費税は、消費税ではなく売上の増額と考えます。また、支払った消費税は、消費税ではなく、仕入や経費の増額と考えます。
免税事業者は、消費税を区分経理する必要がないので、経理処理としては税込経理方式を採らなければなりません。
免税事業者は、原則として、その事業年度の開始前に、課税事業者選択届出書を税務署に提出することにより、課税事業者となることもできます。課税売上げより課税仕入れの方が大きく、国から消費税の還付を受ける場合には、課税事業者であることが必要です。なお、課税事業者を選択した場合には、2年間は免税事業者に戻ることができません。
免税事業者も顧客から消費税を受け取っていますから、それを国へ納めなくてよいということになると、免税事業者はもうかってしまいます。益税(えきぜい)という問題です。この益税の問題があるので、2004年(平成16年)4月1日以後開始事業年度より、免税事業者の範囲が当初の3千万円以下から1千万円以下に縮小されました。
ただし、免税事業者も、課税仕入れにかかる消費税を支払っていますし、また、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いた利益には法人税(個人事業者であれば所得税)が課税されます。したがって、益税といっても、通常は、それほど大きな額にはならないと思われます。
・簡易課税の要件
仕入税額控除のためには、課税と非課税・課税対象外(不課税)の区分をしたり、帳簿・請求書等の記載に留意しなければなりません。中小企業にとっては事務の負担になるので、仕入税額控除の別法として、簡易課税制度が設けられています。簡易課税は、原則課税(一般課税、本則課税)との選択適用が認められています。
簡易課税にも、免税事業者と同様、益税(えきぜい)という問題があります。原則課税よりも簡易課税が有利な場合、簡易課税を選択することにより、事業者の手もとに預かった消費税の一部が残ります。したがって、簡易課税を選択できる事業者の範囲は、次第に狭まっています。現在、簡易課税を選ぶことができるは、基準期間(前々年度)の課税売上高(税抜き)5千万円以下の事業者です。
簡易課税を選択する場合には、その課税期間の開始する前日までに、簡易課税制度選択届出書を税務署に提出する必要があります。また、いったん選択した簡易課税は、2年間以上継続した後でなければ、その適用をやめ原則課税に戻ることができません。
・簡易課税の事業区分とみなし仕入率
簡易課税は、仕入税額控除の計算を、実際の課税仕入れに基づくのではなく、課税売上げをもとにした「みなし仕入率」で行うものです。したがって、課税売上げのみから消費税を計算することができます。
課税売上げにかかる消費税額-課税仕入れにかかる消費税額(課税売上げにみなし仕入率を乗じて算出)=納付額
みなし仕入率は、次のように、事業の種類によって異なります。
第1種 |
第2種 |
第3種 |
第4種 |
第5種 |
第6種 |
90% |
80% |
70% |
60% |
50% |
60% |
第1種(卸売業)と第2種(小売業等)は、いずれも、「他の者から購入した商品をその性質・形状を変更しないで販売する事業」をいいます。
第1種と第2種の区別は、第1種は事業者に対して販売するものであるのに対し、第2種は消費者に対して販売するものです。第1種とするためには、請求書控・領収書控などで、相手が事業者(企業や個人事業者など)であることを明らかにしておく必要があります。
第3種(製造業等)は農林漁業・製造業・建設業などをいいます。第5種(サービス業等)は、情報通信業・運輸業・金融業・保険業・サ-ビス業などをいいます。第6種は、不動産業です。第4種(その他)は第1・2・3・5・6種に該当しないその他の事業をいいます。飲食業などです。
自社で使用していた自動車などの事業用固定資産の売却も第4種となります。製造業・建設業などのうち、「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」も第4種となります。材料の支給を受けて、加工や組み立てを行う場合です。
・簡易課税の複数事業
事業の種類は、企業単位や事業単位ではなく、取引ごとにみます。個々の取引について、それぞれ第何種に該当するかを判断します。
簡易課税を適用している事業者でも、通常、第1種から第6種までの複数の事業の種類が存在しています。そのような場合には、原則として、課税売上げを事業の種類(業務内容)ごとに分けて、それぞれの事業のみなし仕入率を適用します。
ただし、課税売上げが業種ごとに区分されていることを前提に、次の2つの特例計算が認められています。結果的に、事業者は、簡易課税でも、事業の種類ごとの原則計算と、特例計算2つ、計3つの計算方法のうちから選択することができます。
① 1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上の場合
全体に、その事業のみなし仕入率を適用することができます。
② 2種類の事業の課税売上高が全体の75%以上の場合
全体に、その2種類のみなし仕入れ率の平均を適用することができます。
複数事業の具体的な事例を挙げてみます。
① ガソリンスタンド
ガソリン・タイヤ・オイル交換などの売上は、第1種または第2種です(タイヤ交換やオイル交換の手数料が無料の場合)。洗車・ワックスがけ・車内清掃・整備点検などの売上は、サ-ビス業に分類されるので、第5種となります。タイヤ交換・オイル交換の手数料を別途徴収している場合には、それも第5種となります。
② ケーキ屋
喫茶店を併設しているケ-キ屋が、自家製造したケ-キを店内で販売した場合には、飲食業なので第4種となります。しかし、自家製造ケ-キを店頭で持ち帰り用に販売した場合には、製造業で第3種となります。
・簡易課税の問題点
① みなし仕入率を実態に近づけようということで、消費税導入当初は第1種と第2種の2つの事業区分だったものが、現在は6区分になりました。事業区分は複雑なので、区分を増やすと事務の手数がかかり、簡易課税の趣旨に反し、難しいところです。
② 原則課税と簡易課税のどちらを選択するか、また、簡易課税でも複数事業の場合どの方法を選択するかについては、実務的には、どれが有利か(納税額が少ないか)で決められていることが多いようです。納税事務の簡素化という趣旨とは合致していません。
・簡易課税の有利不利(消費税の概算の計算方法)
税抜経理方式のときは、仮受消費税等と仮払消費税等の差額で消費税の額がわかります。税込経理方式のとき、概算で簡単に消費税の額を求める方法があります。
毎年の商品在庫に大きな変動がなければ、当期純利益に対象外・非課税仕入れ(人件費・税金・保険料・減価償却費・支払利息など)を加えた合計額の10/110で、おおよその消費税額が算出できます。税込経理方式の試算表から、概算の消費税を簡単に把握するときなどに使えます。税抜経理方式を採っていても、会計ソフトの計算が正しいかのチェックに使えます。
同じ方法で、税込経理の試算表などから、消費税の原則課税と簡易課税のどちらが有利か見分けることができます。たとえば、第2種事業(小売業)を例にとると、簡易課税の計算は、ごく簡単にいうと、次のようになります(すべて標準税率10%と仮定)。
納付税額=課税売上げ×10/110-課税売上げ×みなし仕入れ率80%×10/110
=課税売上げ×20%×10/110
したがって、概算では、課税売上げの20%の方が、当期純利益に税金(租税公課、法人税等)・人件費・保険料・減価償却費・支払利息などを加えた合計額よりも小さければ、簡易課税の方が有利です(納税額が少額)。逆に、課税売上げの20%の方がそれらそれらよりも大きければ、原則課税の方が有利です。
(設例)
第2種事業(小売業)の企業の損益計算書(10%税込)が次のとおりであった場合、消費税の原則課税と簡易課税どちらが有利ですか。
売上 55,000,000
仕入 40,000,000
給与 9,600,000
法定福利費 1,100,000
保険料 300,000
減価償却費 200,000
支払利息 100,000
租税公課 400,000
法人税等 500,000
その他経費 1,800,000
利益 1,000,000
概算の原則課税の計算は、次のとおりです。
利益1,000,000+法人税500,000+租税公課400,000+支払利息100,000+減価償却費200,000+保険料300,000+法定福利費1,100,000+給与9,600,000=13,2000,000円…利益と対象外・非課税仕入の合計
13,2000,000×10/110=1,200,000円…原則課税の消費税額(概算)
概算の簡易課税の計算は、次のとおりです。
55,000,000×0.2=11,000,000円…課税売上の20%
11,000,000×10/110=1,000,000円…簡易課税の消費税額(概算)
課税売上の20%11,000,000円の方が、利益と対象外・非課税仕入の合計13,200,000円がよりも小さいので、簡易課税の方が有利となります。
・消費税が還付になる場合
消費税が納税ではなく還付になる場合が、次の2つあります。
① 多額の設備投資をし、課税仕入れの方が課税売上げよりも大きくなる場合。
② 輸出の場合
免税事業者も、高額の固定資産の取得が予想される年度は、課税事業者を選択した方が有利な場合があります。免税事業者のままでは、還付は受けられないからです。
また、簡易課税の場合、みなし仕入率は90%以下なので、簡易課税では消費税の還付ということはあり得ません。したがって、多額の設備投資が予定されている場合も、簡易課税の選択は慎重にすべきです。
他の1つは、輸出の場合です。課税売上げのうちの輸出取引については、税率が0%とされています。これを輸出免税といいます(小規模の免税事業者の「免税」とは意味が異なります。)。輸出の場合、課税売上げに消費税はかからないので、輸出した商品の課税仕入れにかかる消費税が還付となるわけです。
輸出の場合も、免税事業者と簡易課税においては、還付はあり得ません。
・帳簿・請求書等の記載事項
消費税の計算では、課税売上げにかかる消費税額から課税仕入れにかかる消費税額を控除することができます。ただし、そのためには、条件があります。それは、自社作成の「帳簿」と取引先作成の「請求書等」を保存しておくことです。
「帳簿」とは、自社で作成した仕訳伝票・総勘定元帳・補助簿などをいいます。「請求書等」とは、取引の相手方が作成した請求書・領収書・納品書などをいいます。通常、企業の経理の部署に保存されている書類です。
なお、1回の取引金額が3万円(税込み)未満の場合には、「請求書等」はなくとも「帳簿」の保存のみでよいことになっています(ただし、それは消費税法の話で、法人税法ではやはり請求書等の保存が必要です。)。3万円以上の場合でも、請求書等の交付を受けなかったことにやむを得ない理由があるときは、帳簿にその理由と取引先の住所を記載すれば、帳簿の保存だけでよいことになっています。
帳簿には、次の4つの事項を記載することが必要です。
帳簿の記載要件
① 取引先名
② 取引年月日
③ 取引内容
④ 取引金額(消費税率の異なるごとに区分)
請求書等には、以上の4つのほか、もう1つ、表題部のあて先に自社の名前が記入されていることが必要です。
請求書等の記載要件
① 取引先名
② 取引年月日
③ 取引内容
④ 取引金額(消費税率の異なるごとに区分)
⑤ あて名
つまり、商慣習でよく使われる「上様(うえさま)」ではだめで、「○○様」と自社の名前が書いてなくてはだめということです。
ただし、小売業・飲食業・タクシ-業・駐車場業など不特定多数を相手にする事業者が発行する請求書等は、あて名を省略できることになっています。つまり、そのような事業者から受け取った領収書などは、自社のあて名がなくても仕入税額控除できるということです。
小売店で買い物をして、レジから打出されたレシ-トをもらった場合、あて名は書いてありませんが、それでもよいということです。その場合、自社の名前を言って、改めて自社あての領収書を発行してもらう必要はないということです。
小売店で領収書をもらう場合、もう1つ商慣習で摘要欄に「品代(しなだい)」と書かれている場合があります。品代では、取引内容が明らかでなく、本来は、仕入税額控除ができません(ただし、3万円未満の場合には、帳簿に取引内容の記載があればできます)。小売業などでも、領収書の取引内容は省略できません。
帳簿には前述のように4つの事項を書く必要がありますが、それは1つの「帳簿」で全部記載しなければならないということではありません。仕訳伝票・総勘定元帳などが、全体として、4つの要件を満たしていればよいということです。
たとえば、取引内容は、総勘定元帳に記載がなくても、仕訳伝票に記載があればよいというようなことです。請求書等も同じです。請求書・領収書・納品書などが、総合的に5つの要件をクリアしていればよいわけです。たとえば、取引内容が請求書に記載されていなくても、納品書に記載があればOKです。
ところで、帳簿と請求書等には①から④まで同じ内容が記載されるので、帳簿の方は一部省略してもよいかという問題があります。帳簿には日付と金額は書くでしょうから、具体的には取引先名と取引内容です。
ところが、その省略は認められないという取り扱いになっています。1997年(平成9年)の消費税法改正で、仕入税額控除の信頼性を高めるため、「帳簿又は請求書等」から「帳簿及び請求書等」に改正になりました。次のように、帳簿(伝票)には、取引先名と取引内容を記載しなければなりません。なお、取引内容は、一般的な総称で記載することができます(つまり、「ノ-ト、ボ-ルペン」という記載までは必要なく、「文房具代」という記載でよいということです。)。
この「帳簿及び請求書等」は、問題があると思います。ムダや重複はできるだけ避けて、効率的な仕事をしようとするのが実務です。企業が、請求書等に書いてあるのだから、帳簿には取引先名と取引内容のどちらか一方だけの記載で経営管理上はよいと判断したならば、税務もそれを尊重すべきだと思います。
税務調査の現場では、両方の記載がなくとも、それほど問題視しないことが多いと思われます。ただし、もし、裁判などで争う場合には、法令どおり、両方の記載がないと仕入税額控除は認められないということになります。
軽減税率導入に伴い、請求書等の取引内容は、標準税率対象分と軽減税率対象分とに分けて記載することが必要となりました。そして、取引金額も、標準税率対象分と軽減税率対象分とのそれぞれの合計金額が必要です。
・総額表示の義務
総額表示の義務は、値札などに消費税を含んだ商品の総額を表示することにより、消費者がいくら支払えばよいかを購入前に明らかにするものです。したがって、製造・卸の段階、つまり事業者間取引は、総額表示義務の対象となりません。
また、総額表示の義務は、値札・店内掲示・チラシ・カタログなどであらかじめ表示する場合を対象とします。したがって、取引成立後に作成される領収書や請求書などにおける表示については、対象になりません。
総額表示の具体的な方法については、いろいろな方法があり得ます。次のような表示方法は、いずれも総額表示と認められます。
① 55,000円
② 55,000円(税込)
③ 55,000円(税抜価格50,000円)
④ 55,000円(うち消費税5,000円)
⑤ 55,000円(税抜価格50,000円、消費税5,000円)
なお、次のような表示は、税込価格が明示されないので、総額表示には該当しません。
① 50,000円(税抜)
② 50,000円+消費税
③ 税抜価格50,000円(消費税5,000円)
なお、軽減税率導入により複数税率となったことに伴い、事業者の事務手数に配慮して、2021年(令和3年)3月31日までは、総額表示ではなく外税表示も認められていました。つまり、スーパー・コンビニなどで、値札は税抜価格で表示し、レジの段階で消費税を加算する方式です。ただし、2021年(令和3年)4月1日からは、原則どおり、総額表示が必要となります。
※本稿は、次の拙稿を大幅に加筆修正し、新たな原稿を加えたものです。
寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第14回 「消費税改正」の重点解説』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)9月号
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。