会計上の「利益」と税務上の「所得」の違い

 

2021年(令和3年)8月26日(最終更新2021年8月29日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・「利益」と「所得」の差異 4項目

 

 簿記や会計では、利益は次の式で表されます。

収益-費用=利益

 

 それに対して、税務では、益金から損金を差し引いて所得を算出し、所得に対して課税されます(所得が課税標準です。)。法人税は、課税の公平を重視するため、損金の一部については客観的画一的な基準(損金算入限度額)を設けています。

益金-損金=所得

 

 収益と益金、費用と損金とは、大部分は同じですが、少し違いがあります。その違いには、次の4種類のものがあります。

① 益金不算入:収益ではあるが、益金とならないもの

② 益金算入  :収益ではないが、益金となるもの

③ 損金不算入:費用ではあるが、損金とならないもの

④ 損金算入  :費用ではないが、損金となるもの

 

 利益と所得との差異4項目ですが、実際には、加算となる損金不算入項目(具体的には、法人税・住民税、未払事業税、未払事業所税、税法限度額を超えた役員給与・交際費・寄附金・減価償却費・引当金繰入額など)が大部分で、他の3項目はごく少数です。したがって、通常、決算書の当期純利益よりも税務上の所得金額の方が大きくなります。決算書は赤字(当期純損失)であっても、税務上は黒字(所得)となり、法人税等を支払うという場合もあり得ます。

 

 

・「所得」の算出方法

 

 法人税では、試算表や総勘定元帳などから改めて益金・損金を集計するのではありません。収益と益金、費用と損金は大部分が同じなので、株主総会で承認された損益計算書の税引後の当期純利益をもとに計算します。当期純利益からスタートして、収益と益金、費用と損金とのくい違いを加減して、所得金額を求めます。

 

 当期純利益を基準に考えると、益金算入と損金不算入は当期純利益にプラス(加算)し、益金不算入と損金算入は当期純利益からマイナス(減算)します。その結果、所得金額が算出されます。実際には、この計算は、次のような形式の法人税申告書別表四で行います。

 

当期純利益 +加算項目(益金算入、損金不算入)― 減算項目(益金不算入、損金算入) = 所得金額

 

 

  益金から損金を差し引いた所得金額がマイナスのときは、欠損金額といいます。この税務上の欠損金は10年間繰越しが可能です(帳簿をきちんとつけ法定期限内に申告する青色申告が前提)。たとえば、×××1年3月期で生じた欠損金は、××11年3月期までの10年間に生じた毎期の所得から順次差し引くことができます(中小企業には制限がありませんが、大企業には毎期の所得の50%までという差引金額の制限があります。)。この点は、事業年度ごとの計算を行う法人税の例外です。

 

 

※本稿は、次の拙稿・拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第10回 法人税等』月刊スタッフアドバイザー 2010年(平成22年)1月号

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第1回 「会計」と「税務」の多重構造を理解する!』月刊スタッフアドバイザー 2011年(平成23年)8月号

寺田誠一著『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年(平成18年) 第4章 税効果会計と決算書

 

 

※法人税、法人住民税、法人事業税など各種の税金については、「法人税等、事業所税、固定資産税、不動産取得税等の税務と表示」参照。

※損益計算書の「法人税等」と貸借対照表の「未払法人税等」の関係について詳しくは、「「法人税等」と「未払法人税等」の計上手順と設例」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。