「無償増減資等の申告書設例…資本と利益の振替・移動」

 

2021年(令和3年)10月13日(最終更新2022年4月22日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

(本稿で使用する略語)

計規:「会社計算規則」

基準:企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」

 

 

・資本と利益の区別の例外

 

 会社法・会計基準では、資本金・資本剰余金(払込資本)と利益剰余金(留保利益)とは、その性格が異なるので、区別することが求められます。上記の会社法上の「計数の変動(※)」を表した図のとおりです。資本金・資本剰余金は、株主が払い込んだ元本・もとでであり、利益剰余金はそれを用いて企業が獲得した利益を企業内に留保したものだからです。これは、「資本取引と損益取引の区分の原則(資本と利益の区別の原則)」といわれているものです。

※計数の変動:株主資本の内部における資本金、準備金、会社法上の剰余金の金額の移動をいいます。単なる数字の振替であり、現金預金などの資産の動きを伴いません。

 

 ただし、例外的に、会社法・会計基準では、資本金・資本剰余金と利益剰余金との間の振替(移動)を認めている場合があります。

 

 税務上は、資本金等と利益積立金を厳然として峻別するという考え方です。会計上、資本金・資本剰余金と利益剰余金との間の振替(移動)がおこなわれても、税務上はそれを無かったものとみなします。具体的には、別表五(一)で申告調整を加えてそれを表現します。

 

 本稿では、資本金・資本剰余金と利益剰余金との間の振替(移動)が行われた場合、法人税申告書別表五(一)ではどのように表示されるのかを見て行きます。

 別表五(一)は、「会計上の仕訳」に「申告調整の仕訳」を加えて、「税務上の仕訳」になるようにします。ところで、そのような資本金・資本剰余金と利益剰余金との間の振替(移動)の場合、「税務上の仕訳」は「仕訳なし」となります。したがって、「会計上の仕訳」を取り消すため、「税務上の仕訳」は、「会計上の仕訳」の逆仕訳を行うことになります。

 また、以下の設例で、「仕訳なし」でよいのですが、わかりやすくするため、借方と貸方に同じ科目を記載した場合があります。

 

 資本と利益の振替(移動)には、次のようなものがあります。

① 利益剰余金の資本金組入れ

② 利益剰余金がマイナスの場合、資本剰余金の取り崩し・資本金の取り崩し(無償減資)で補填すること

③ 有償減資の場合(会計上は資本金を取崩しても、税務上は、資本と利益を按分して取崩したと見なされる場合があります。)④ 資本剰余金がマイナスの場合、利益剰余金を取り崩して補填すること

 

 

 ・無償増資

 

 無償増資の場合、資本準備金・その他資本剰余金から資本金に組み入れることは、同じ払込資本の中の移動なので、会計上、問題ありません。しかし、利益準備金・その他利益剰余金から資本金に組み入れることは、資本と利益を混同するものであり、会計上、適切ではありません。

  

 この利益剰余金の資本金組入れは、旧商法では資本の拘束力を強めるということで認められていました。しかし、会社法になって、資本と利益の区別の観点から、禁止されました。会計上、望ましい変更でした。ところが、2009年(平成21年)の会社計算規則の改正で、再び可能となりました。資本金を増やす選択肢を多くしたいという実務界の要望があったためとされていますが、会計上妥当とはいえない改正でした。

 

(設例)

 無償増資8,000を実施した。内訳は、資本準備金より5,000、利益準備金より3,000であった。

 株主資本等変動計算書、 別表四、五(一)はどのようになりますか(動きのないものは省略)。金額の単位省略(以下、同じ)。

 

株主資本等変動計算書

 

株主資本

資本金

資本剰余金

利益剰余金

株主資本合計

資本準備金

利益準備金

当期変動額

 

 

 

 

 資本金組入れ

8,000

5,000

3,000

0

 

別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

利益準備金

××× 

 

3,000

××× 

資本金等

 

 

3,000

3,000 

 

別表五()

     

期首資本金等

当期の増減

翌期首資本金等

    減

     増

資本金

××× 

 

8,000

××× 

資本準備金

××× 

 

5,000

××× 

利益準備金

 

 

3,000

△3,000 

 

 会計上の仕訳

(借)資本準備金 5,000  (貸)資本金 8,000

   利益準備金  3,000   

税務上の仕訳

(借)資本金等  5,000  (貸)資本金等  5,000(仕訳なし)

申告調整の仕訳

(借)資本金等  3,000  (貸)利益積立金 3,000

 

   税務上は、利益剰余金の資本金組入れはなかったものとされます。そのため、「会計上の仕訳」を取り消すための逆仕訳を、「申告調整の仕訳」として行います。

 別表五(一) Ⅰの利益準備金△3,000と、別表五(一) Ⅱの資本金8,000、資本準備金5,000は、それぞれ「会計上の仕訳」を表現したものです。

 一方、別表五(一) Ⅰの資本金等3,000と別表五(一) Ⅱの利益準備金△3,000は、「申告調整の仕訳」を表現したものです。「申告調整の仕訳」で、貸方に利益積立金3,000が計上されているので、利益積立金の増加であり、別表五(一) Ⅰでは貸方に3,000記入します。同じく、「申告調整の仕訳」で、借方に資本金等3,000が計上されているので、資本金等の減少であり、別表五(一) Ⅱでは「増」欄に△3,000記入します。

 

 区分欄の名称は、別表五(一)Ⅰでは「資本金等」、別表五(一) Ⅱでは「利益積立金」とすることが多いようです。これは、「申告調整の仕訳」の相手勘定科目を用いたものですが、他の名称でもかまいません。

 

 結局、別表五(一) Ⅰでは「増」欄で△3,000と3,000で合わせると0、別表五(一) Ⅱでは「増」欄で8,000と△5,000と△3,000で合わせると0となり、「税務上の仕訳」の「仕訳なし」を表しています。

 

 「申告調整の仕訳」の内容を表している別表五(一) Ⅰの残高3,000と別表五(一) Ⅱの残高△3,000は、永久に残ります。

 

 

・利益剰余金マイナス残高の補填

 

 繰越利益剰余金がマイナス残高(繰越利益剰余金勘定の借方に残高)となったときは、将来の利益でそのマイナスを消していくのが本来の姿です。ただし、マイナス残高が大きく将来の利益で簡単に消せないような場合などには、株主資本の各項目を取り崩すことも認められます。

 取り崩し順序は、次のようになります。

① 任意積立金

② 利益準備金

③ その他資本剰余金

④ 資本準備金

⑤ 資本金

 

 ①の任意積立金や②の利益準備金の取り崩しは何の問題もありません。どちらも、留保利益を源泉とする剰余金だからです。税務上も申告調整不要です。

(借)〇〇積立金 ××× (貸)繰越利益剰余金 ×××

(借)利益準備金 ××× (貸)繰越利益剰余金 ×××

 

 資本と利益の区別の原則から、資本剰余金から利益剰余金への振替は、原則として認められません。ただし、会計基準では、利益剰余金がマイナス残高のとき(繰越利益剰余金と任意積立金と利益準備金とを合計して、マイナスになるとき)、そのマイナスをその他資本剰余金で補填することは、資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたらないとしています(基準61)。

 

 会計基準の説明は、次のとおりです。すなわち、もともと払込資本と留保利益の区分が問題になるのは、同じ時点で両者がプラスの値の場合です。マイナス残高になった利益剰余金を、将来の利益を待たずにその他資本剰余金で補うのは、払込資本に生じた毀損を事実として認識するものであり、払込資本と留保利益の区分の問題にはあたらないとしています(基準61)。私見では、むしろストレートに、資本と利益の区別の原則の例外として認められているという説明の方がよいと思います。

 なお、補填の対象となる利益剰余金は、年度決算時のマイナス残高に限られます。期中に生じた利益剰余金のマイナス残高をその都度資本剰余金で補填することは、年度決算単位で見た場合、資本と利益の混同になることがあるからです(基準61)。

  

 税務上は、資本と利益とを峻別しますので、このような場合であっても資本金等と利益積立金には変化がないとします。会計上、利益剰余金のマイナスを消去するため資本金・資本剰余金を取崩す場合であっても、税務上の資本金等は減少しません。そのため、「税務上の仕訳」は無しとなるので、申告調整が必要となります。申告調整の仕訳は、会計上の仕訳の逆仕訳を行います。そうすれば、税務上の仕訳は無しとなります。

 

(設例)

 繰越利益剰余金の残高がマイナス100となったので(任意積立金は0)、その他資本剰余金を取崩して補填。

  

 株主資本等変動計算書

 

株主資本

 

資本剰余金

利益剰余金

株主資本合計

その他資本剰余金

その他利益剰余金

繰越利益剰余金

 

 

 

 

 

当期変動額

 

 

 

 

その他資本剰余金取崩し

 

100

100

0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別表五() 

      

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

資本金等

 

 

△100

△100 

繰越損益金

 

 

100

 

  

別表五() 

      

期首資本金等

当期の増減

翌期首資本金等

    減

     増

その他資本剰余金

 

 

△100

 

利益積立金

 

 

100

100

 

 

 

 

 

  

  会計上の仕訳

(借)その他資本剰余金 100 (貸)繰越利益剰余金 100

税務上の仕訳

仕訳なし

申告調整の仕訳

(借)利益積立金 100 (貸)資本金等 100

 

 会計上、繰越利益剰余金のマイナス残高を消すため(マイナス残高は繰越利益剰余金勘定の借方に計上されているため)、その他資本剰余金を取崩して、繰越利益剰余金を貸方に計上します。

 

 一方、税務上は、資本と利益間の振替(移動)はなかったものとみなします。つまり、「税務上の仕訳」は無しなので、「会計上の仕訳」の逆仕訳を申告調整の仕訳とします。すなわち、「会計上の仕訳」と「申告調整の仕訳」とを合わせると、「仕訳なし」となるようにします。「会計上の仕訳」の貸方に繰越利益剰余金100が計上されているので、「申告調整の仕訳」では借方に利益積立金100を計上します。 

 

 「会計上の仕訳」の貸方に繰越利益剰余金100が計上されているので、繰越利益剰余金の増加であり、別表五(一) Ⅰの繰越損益金の行で「増」欄に100計上します。一方、申告調整の仕訳の借方に利益積立金100が計上されているので、利益積立金の減少であり、別表五(一) Ⅰでは「増」欄に△100計上します。

  

 「申告調整の仕訳」の内容を表している別表五(一) Ⅰの残高△100と別表五(一) Ⅱの残高100は、永久に残ります。

 

 

・無償減資

 

 利益剰余金のマイナス残高が大きく、資本金まで取り崩す場合も考えられます。

 

 

(設例)

 無償減資5,000を行い、繰越利益剰余金のマイナス残高5,000を補填した。なお、任意積立金、利益準備金、その他資本剰余金、資本準備金は0である。

 

株主資本等変動計算書

 

株主資本

 資本金

資本剰余金

利益剰余金

株主資本合計

その他資本剰余金

その他利益剰余金

繰越利益剰余金

 

 

 

 

 

当期変動額

 

 

 

 

資本金減少

△5,000 

5,000

 

 

その他資本剰余金取崩し 

 

 △5,000 

5,000 

 

 

 

 

 

 

 

別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

資本金等

 

 

5,000

5,000

繰越損益金

5,000

 

5,000

0

 

別表五()

     

期首資本金等

当期の増減

翌期首資本金等

    減

     増

資本金

×××

 

5,000

×××

その他資本剰余金

 

5,000

5,000

0

利益積立金

 

 

5,000

5,000

  

 会計上の仕訳

(借)資 本 金    5,000  (貸)その他資本剰余金 5,000

(借)その他資本剰余金 5,000  (貸)繰越利益剰余金    5,000

税務上の仕訳

仕訳なし

申告調整の仕訳

(借)利益積立金  5,000  (貸)資本金等  5,000

 

 会計基準によれば、資本金や資本準備金の取崩しによって生ずる剰余金は、その他資本剰余金となります(基準20)。この段階で、いったん、貸方にその他資本剰余金が計上されます。その後、繰越利益剰余金のマイナス残高を消すため(マイナス残高は繰越利益剰余金勘定の借方に計上されているため)、その他資本剰余金を取崩して借方に計上し、繰越利益剰余金を貸方に計上します。

 

 会計上の仕訳の借方に資本金5,000が計上されているので、資本金の減少であり、別表五(一) Ⅱの資本金の行で「増」欄に△5,000記入します。会計上の仕訳で、借方と貸方にその他資本剰余金5,000が計上されているので、別表五(一) Ⅱのその他資本剰余金の行で「減」と「増」欄にそれぞれ5,000記入します。会計上の仕訳の貸方に繰越利益剰余金5,000が計上されているので、繰越利益剰余金の増加であり、別表五(一) Ⅰの繰越損益金の行で「増」欄に5,000記入します。

 

 申告調整の仕訳の借方に利益積立金5,000が計上されているので、利益積立金の減少であり、別表五(一) Ⅰの資本金等の行で「増」欄に△5,000記入します。申告調整の仕訳の貸方に資本金等5,000が計上されているので、資本金等の増加であり、別表五(一) Ⅱの利益積立金の行で「増」欄に5,000記入します。

  

  まとめると、別表五(一)Ⅰの繰越損益金と別表五(一)Ⅱのその他資本剰余金は、会計上の仕訳を表しています。別表五(一)Ⅰの資本金等と別表五(一)Ⅱの利益積立金は、申告調整の仕訳を表しています。

 

 「申告調整の仕訳」の内容を表している別表五(一) Ⅰの残高△5,000と別表五(一) Ⅱの残高5,000は、永久に残ります。

 

 

・有償減資

 

 会社法は、旧商法と異なり、減資(資本金の減少)と財産の払戻し(剰余金の配当)とを切離し、分離して考えています。会社法では、資本金の減少は単なる計数の変動として扱います。そのため、有償減資(純資産の減少する実質上の減資)を行うには、現行の会社法では、資本金の減少と剰余金の配当という2段階の手続が必要となります。

 

 税務上、剰余金の配当については、その原資に従って、配当または資本の払戻しと考えます。その他利益剰余金からの配当については、全額、利益積立金の減少とみます(したがって、株主側は受取配当金)。

 その他資本剰余金からの配当については、税務上、資本金等の額に対応する部分は資本の払戻しとし、それを超える部分は利益積立金の減少とみます(したがって、株主側にみなし配当課税)。減少させる利益積立金の額は、次のような按分計算によります。株主側では、資本金等の額からの払戻額が譲渡対価となり、帳簿価額との差額を譲渡損益とします。

減資資本金額=資本金等の額×(減少資本剰余金/簿価純資産価額)

減少利益積立金=払戻額-減資資本金額

 

(設例)

 事業規模を縮小するため有償減資4,000を行った。税務上は、資本金等が2,500、利益積立金が1,500。配当額の1/10の準備金積立ては省略。みなし配当の源泉徴収も省略

 

株主資本等変動計算書

 

株主資本

資本金

資本剰余金

 

株主資本合計

その他資本剰余金

 

当期変動額

 

 

 

 

 資本金の減少

4,000

4,000

 

0

剰余金の配当

 

4,000

 

 

 

別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

 

 

 

加算

みなし配当

1,500

 

配当1,500

減算

資本金減少

1,500

1,500

 

所得金額

 

 

 

 

別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

資本積立金

 

 

1,500

1,500

 

別表五()

     

期首資本金等

当期の増減

翌期首資本金等

    減

     増

資本金

×××

 

4,000

×××

その他資本剰余金

 

4,000

4,000

0

利益積立金

 

 

1,500

1,500

 

会計上の仕訳

(借)資  本  金   4,000 (貸)その他資本剰余金 4,000 

(借)その他資本剰余金  4,000 (貸)現金預金     4,000

税務上の仕訳

(借)資本金等   2,500  (貸)現金預金 4,000

  利益積立金  1,500

申告調整の仕訳

(借)利益積立金  1,500 (貸)資本金等 1,500

 

 会社は資本金を減少させるだけのつもりでも、税務上は比例按分すると考えるので、利益積立金からの配当とみなす部分が出てきてしまいます。 

 

「会計上の仕訳」の借方は資本金4,000であるのに対して、「税務上の仕訳」の借方は資本金等2,500と利益積立金1,500となります。したがって、「会計上の仕訳」を「税務上の仕訳」に転換するための「申告調整の仕訳」は、借方で1,500を資本金等から利益積立金に振り替える仕訳となります。

 「税務上の仕訳」で借方に利益積立金1,500が計上されているので、利益積立金1,500の減少となり、別表五(一) Ⅰでは「増」欄に△1,500記入します。それと対応させるため、別表四では減算・留保欄に1,500記入します。ところが、配当は損金にはならないので、所得は変わらないはずです。そこで、減算を取り消すため、同額加算します。その加算は、利益積立金に影響しないようにするため、社外流出欄に記入します。

 「会計上の仕訳」で借方に資本金4,000が計上されているので、資本金4,000の減少であり、別表五(一) Ⅱに記入します。また、「申告調整の仕訳」で貸方に資本金等1,500が計上されているので、資本金等1,500の増加であり、別表五(一) Ⅱに記入します。

 

 「申告調整の仕訳」の内容を表している別表五(一) Ⅰの残高△1,500と別表五(一) Ⅱの残高1,500は、永久に残ります。

 

 株主側は、受取配当が1,500となります。また、株式の帳簿価額が2,200であったならば、2,500-2,200=300の譲渡益となります。株式の帳簿価額が2,900であったならば、2,900-2,500=400の譲渡損となります。

 

 

・その他資本剰余金マイナス残高の補填

 

 自己株式の処分差損・消却額が生じた場合に、その他資本剰余金がマイナスになることがあり得ます。会計基準では、次のように説明しています。その他資本剰余金は、その残高を超えた自己株式処分差損・消却額が生じた場合、マイナス残高になります。資本剰余金は、株主からの払込資本のうち資本金に含まれないものを表すため、本来、マイナス残高の資本剰余金という概念はありません。したがって、資本剰余金の残高がマイナスになる場合には、利益剰余金(繰越利益剰余金)で補填するほかはないと考えられます(基準40)。

 マイナス残高の補填は、期末で行います。その都度行わない理由は、次のとおりです(基準12、42)。

① その他資本剰余金の増減は、期中に反復的に起こりうること。

② その都度補填を行うと、その他資本剰余金の額の増加と減少の発生の順番が異なる場合に結果が異なること。

 

 

(設例)

 その他資本剰余金の残高がマイナス200となったので、期末に繰越利益剰余金200を取崩して補填。

  

株主資本等変動計算書

 

株主資本

 

資本剰余金

利益剰余金

株主資本合計

その他資本剰余金

その他利益剰余金

繰越利益剰余金

 

 

 

 

 

当期変動額

 

 

 

 

利益剰余金取崩し

 

200

△200

0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別表五() 

      

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

資本金等

 

 

200

200 

繰越損益金

 

 

△200

 

 

 別表五() 

      

期首資本金等

当期の増減

翌期首資本金等

    減

     増

その他資本剰余金

 

 

200

 

利益積立金

 

 

△200

△200

 

 

 

 

 

  

 会計上の仕訳

(借)繰越利益剰余金 200 (貸)その他資本剰余金 200

税務上の仕訳

仕訳なし

申告調整の仕訳

(借)資本金等 200 (貸)利益積立金 200

 

 会計上の仕訳の借方に繰越利益剰余金200が計上されているので、繰越利益剰余金の減少であり、別表五(一) Ⅰの繰越利益剰余金の行で「増」欄に△200記入します。会計上の仕訳の貸方にその他資本剰余金200が計上されているので、その他資本剰余金の増加であり、別表五(一) Ⅱのその他資本剰余金の行で「増」欄に200記入します。

 

 申告調整の仕訳の借方に資本金等200が計上されているので、資本金等の減少であり、別表五(一) Ⅱの利益積立金の行で「増」欄に△200記入します。申告調整の仕訳の貸方に利益積立金200が計上されているので、利益積立金の増加であり、別表五(一) Ⅰの資本金等の行で「増」欄に200記入します。

 

 「申告調整の仕訳」の内容を表している別表五(一) Ⅰの残高200と別表五(一) Ⅱの残高△200は、永久に残ります。

 

 

※本稿は、次の拙稿をもとに、大幅に組み替え加筆修正したものです。

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第12回 「資本金・資本剰余金・利益剰余金」の疑問点パート2』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)7月号

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第11回 「資本金・資本剰余金・利益剰余金」の疑問点』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)6月号

寺田誠一稿『仕訳・図表・事例で理解する純資産の部の会計と税務』月刊スタッフアドバイザー 2006年(平成18年)10月号

 

 

※参考文献

太田達也著『純資産の部完全解説』税務研究会出版局

齋藤雅俊著『純資産の部の変動 税務実務ハンドブック』税研情報センター

齋藤雅俊著『住民税均等割額判定基準の改正と実務対応』税研情報センター

 

 

※資本と利益が区別され、申告調整が不要な場合の例は、「配当、増資、計数の変動の申告書設例」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。