「配当、増資、計数の変動の申告書設例…資本と利益の区別」
2021年(令和3年)10月1日(最終更新2022年4月22日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
(本稿で使用する略語)
計規:「会社計算規則」
基準:企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」
・はじめに
資本金・資本剰余金(払込資本)と利益剰余金(留保利益)とは、その性格が異なるので、区別することが求められます。資本金・資本剰余金は、株主が払い込んだ元本・もとでであり、利益剰余金はそれを用いて企業が獲得した利益を企業内に留保したものだからです。これは、「資本取引と損益取引の区分の原則(資本と利益の区別の原則)」といわれているものです。
上記は、会社法上の「計数の変動」を表した図です。会社法・会計基準では、原則として、資本金・資本剰余金と利益剰余金との間の振替(移動)は禁止されています。
税務上も、資本金等と利益積立金は峻別されています。
本稿では、配当・増資・計数の変動について、資本と利益の区別に従った取引が、法人税申告書ではどのように表示されるのかを見て行きます。「会計上の仕訳」と「税務上の仕訳」とが一致するので、「申告調整の仕訳」は不要となります(※)。通常、「会計上の仕訳」と「申告調整の仕訳」が別表五(一)に表現されます。しかし、今回は、「申告調整の仕訳」がないので、「会計上の仕訳」だけが、別表五(一)に表わされます。また、以下の設例で、「仕訳なし」でよいのですが、わかりやすくするため、借方と貸方に同じ科目を記載した場合があります。
※:「会計上の仕訳」に「申告調整の仕訳」を加えて、「税務上の仕訳」になるようにします。
・剰余金の配当
会社は、期中期末いつでも剰余金の配当を行うことができます(会社法453)。ただし、会社の純資産額が300万円を下回る場合には、剰余金の配当を行うことができません(会社法458)。配当時には、その1/10を利益準備金として積み立てる必要があります(会社法445④)。ただし、利益準備金と資本準備金とを合わせて資本金の1/4に達している場合には、利益準備金の積立ては不要です(計規22)。
会社法では、その他資本剰余金からの配当も可能となっています。その場合も、配当額の1/10の積立てが必要ですが、その積立ては資本準備金となります(計規22)。
(設例)
×1年3月期における利益準備金500、繰越利益剰余金4,500。
×1年5月に、繰越利益剰余金からの配当金1,000の支払いと、利益準備金への積立て100を行った。配当金は、源泉所得税200を差し引き。
×2年3月期における当期純利益2,000。
金額の単位省略(以下、同じ。)。
株主資本等変動計算書(×2年3月期)
|
株主資本 |
|||
|
利益剰余金 |
株主資本合計 |
||
利益準備金 |
その他利益剰余金 |
|||
繰越利益剰余金 |
||||
当期首残高 |
|
500 |
4,500 |
|
当期変動額 |
|
|
|
|
剰余金の配当 |
|
100 |
△1,100 |
△1,000 |
当期純利益 |
|
|
2,000 |
2,000 |
当期変動額合計 |
|
100 |
900 |
|
当期末残高 |
|
600 |
5,400 |
|
別表四(×2年3月期)
区 分 |
総 額 |
処 分 |
|
留 保 |
社外流出 |
||
当期利益 |
2,000 |
1,000 |
配当1,000 |
別表五(一)Ⅰ(×2年3月期)
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
利益準備金 |
500 |
|
100 |
600 |
繰越損益金 |
4,500 |
4,500 |
5,400 |
5,400 |
会計上の仕訳
(借)繰越利益剰余金 1,100 (貸)現金預金 800
預り金 200
利益準備金 100
税務上の仕訳
(借)利益積立金 1,100 (貸)現金預金 800
預り金 200
利益積立金 100
申告調整の仕訳
仕訳なし
×2年3月期の繰越利益剰余金を考えたとき、期首は4,500、期中に配当金の支払いで1,000、利益準備金の積立てで100減少し、一方、当期純利益で2,000増加しています。したがって、次の計算により、期末の繰越利益剰余金は5,400となります。
4,500-1,000-100+2,000=5,400
×2年3月期の別表四の当期利益・社外流出配当欄には、×1年4月から×2年3月までの配当金支払額1,000が記載されます。そして、留保欄には、当期純利益2,000から配当金1,000を差し引いた1,000が記入されます。
別表五(一)Ⅰの繰越損益金の期首利益積立金4,500と翌期首利益積立金5,400は、株主資本等変動計算書の繰越利益剰余金の当期首残高4,500と当期末残高5,400と、それぞれ一致します。別表五(一)Ⅰでは、繰越損益金の当期増加は900円ですが、他に利益準備金が100増加しているので、別表四の留保欄と一致します。
・有償増資(実質的増資)
(設例)
新株発行による増資2,000を実施し、資本金1,0000、資本準備金1,000とした。
株主資本等変動計算書
|
株主資本 |
|||
資本金 |
資本剰余金 |
|
株主資本合計 |
|
資本準備金 |
|
|||
当期変動額 |
|
|
|
|
新株の発行 |
1,000 |
1,000 |
|
2,000 |
別表五(一)Ⅱ
区 分 |
期首資本金等 |
当期の増減 |
翌期首資本金等 |
|
減 |
増 |
|||
資本金 |
|
|
1,000 |
|
資本準備金 |
|
|
1,000 |
|
会計上の仕訳
(借)現金預金 2,000 (貸)資 本 金 1,000
資本準備金 1,000
税務上の仕訳
(借)現金預金 2,000 (貸)資本金等 2,000
申告調整の仕訳
仕訳なし
・資本準備金の資本金組入れ(「はじめに」の図の①)
資本準備金を資本金に組入れることができます(会社法448)。
(設例)
資本準備金100を資本金に組入れ。
株主資本等変動計算書
|
株主資本 |
|||
資本金 |
資本剰余金 |
|
株主資本合計 |
|
資本準備金 |
|
|||
|
|
|
|
|
当期変動額 |
|
|
|
|
資本金組入れ |
100 |
△100 |
|
0 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
別表五(一)Ⅱ
区 分 |
期首資本金等 |
当期の増減 |
翌期首資本金等 |
|
減 |
増 |
|||
資本金 |
|
|
100 |
|
資本準備金 |
|
100 |
|
|
会計上の仕訳
(借)資本準備金 100 (貸)資 本 金 100
税務上の仕訳
(借)資本金等 100 (貸)資本金等100
申告調整の仕訳
仕訳なし
・資本金の取崩し(資本準備金組入れ)(「はじめに」の図の②)
資本金を取崩して、資本準備金とすることができます(会社法447)。ただし、資本と利益の区別の原則から、資本金を取崩して、利益準備金とすることはできません(計規26①一、基準20)。
(設例)
資本金200を取崩して、資本準備金とした。
株主資本等変動計算書
|
株主資本 |
|||
資本金 |
資本剰余金 |
|
株主資本合計 |
|
資本準備金 |
|
|||
|
|
|
|
|
当期変動額 |
|
|
|
|
資本準備金取崩し |
△200 |
200 |
|
0 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
別表五(一)Ⅱ
区 分 |
期首資本金等 |
当期の増減 |
翌期首資本金等 |
|
減 |
増 |
|||
資本金 |
|
200 |
|
|
資本準備金 |
|
|
200 |
|
会計上の仕訳
(借)資 本 金 200 (貸)資本準備金 200
税務上の仕訳
(借)資本金等 200 (貸)資本金等 200
申告調整の仕訳
仕訳なし
・資本剰余金の資本金組入れ(「はじめに」の図の③)
その他資本剰余金を資本金に組入れることができます(会社法450)。
なお、会社成立後の資本金の取崩しについて制限は設けられていないため、資本金0円までの取崩しも可能と解されています(ただし、任意積立金・準備金が存在すれば、先に任意積立金・準備金を取崩すべきです。)。
(設例)
その他資本剰余金300を資本金に組入れ。
株主資本等変動計算書
|
株主資本 |
|||
資本金 |
資本剰余金 |
|
株主資本合計 |
|
その他資本剰余金 |
|
|||
|
|
|
|
|
当期変動額 |
|
|
|
|
資本金組入れ |
300 |
△300 |
|
0 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
別表五(一)Ⅱ
区 分 |
期首資本金等 |
当期の増減 |
翌期首資本金等 |
|
減 |
増 |
|||
資本金 |
|
|
300 |
|
その他資本剰余金 |
|
300 |
|
|
会計上の仕訳
(借)その他資本剰余金 300 (貸)資 本 金 300
税務上の仕訳
(借)資本金等 300 (貸)資本金等 300
申告調整の仕訳
仕訳なし
・資本金の取崩し(その他資本剰余金組入れ)(「はじめに」の図の④)
資本金を取崩して、その他資本剰余金とすることができます(会社法447)。ただし、資本と利益の区別の原則から、資本金を取崩して、その他利益剰余金とすることはできません(計規27①一、基準20,59)。
(設例)
資本金400を取崩して、その他資本剰余金とした。
株主資本等変動計算書
|
株主資本 |
|||
資本金 |
資本剰余金 |
|
株主資本合計 |
|
その他資本剰余金 |
|
|||
|
|
|
|
|
当期変動額 |
|
|
|
|
資本金取崩し |
△400 |
400 |
|
0 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
別表五(一)Ⅱ
区 分 |
期首資本金等 |
当期の増減 |
翌期首資本金等 |
|
減 |
増 |
|||
資本金 |
|
400 |
|
|
その他資本剰余金 |
|
|
400 |
|
会計上の仕訳
(借)資 本 金 400 (貸)その他資本剰余金 400
税務上の仕訳
(借)資本金等 400 (貸)資本金等 400
申告調整の仕訳
仕訳なし
・資本準備金の取崩し(その他資本剰余金組入れ)(「はじめに」の図の⑤)
資本準備金を取崩して、その他資本剰余金とすることができます(会社法448)。また、利益準備金を取崩して、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)とすることもできます(会社法448)。ただし、資本と利益の区別の原則から、資本準備金を取崩してその他利益剰余金とすること、利益準備金を取崩してその他資本剰余金とすることはできません(計規27①二、計規29①一、基準20,21,59,63)。
なお、会社成立後の準備金の取崩しについて制限は設けられていないため、準備金0円までの取崩しも可能と解されています(ただし、任意積立金が存在すれば、先に任意積立金を取崩すべきです。)。
(設例)
資本準備金500を取崩して、その他資本剰余金とした。
株主資本等変動計算書
|
株主資本 |
|||
|
資本剰余金 |
株主資本合計 |
||
資本準備金 |
その他資本剰余金 |
|||
|
|
|
|
|
当期変動額 |
|
|
|
|
資本準備金取崩し |
|
△500 |
500 |
0 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
別表五(一)Ⅱ
区 分 |
期首資本金等 |
当期の増減 |
翌期首資本金等 |
|
減 |
増 |
|||
資本準備金 |
|
500 |
|
|
その他資本剰余金 |
|
|
500 |
|
会計上の仕訳
(借)資本準備金 500 (貸)その他資本剰余金 500
税務上の仕訳
(借)資本金等 500 (貸)資本金等 500
申告調整の仕訳
仕訳なし
・利益準備金の取崩し(その他利益剰余金組入れ)(「はじめに」の図の⑤)
(設例)
利益準備金600を取崩して、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)とした。
株主資本等変動計算書
|
株主資本 |
|||
|
利益剰余金 |
株主資本合計 |
||
利益準備金 |
その他利益剰余金 |
|||
繰越利益剰余金 |
||||
|
|
|
|
|
当期変動額 |
|
|
|
|
利益準備金取崩し |
|
△600 |
600 |
0 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
別表五(一)Ⅰ
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
利益準備金 |
|
600 |
|
|
繰越損益金 |
|
|
600 |
|
会計上の仕訳
(借)利益準備金 600 (貸)繰越利益剰余金 600
税務上の仕訳
(借)利益積立金 600 (貸)利益積立金 600
申告調整の仕訳
仕訳なし
・その他資本剰余金の資本準備金組入れ(「はじめに」の図の⑥)
その他資本剰余金を資本準備金に組入れることができます(会社法451)。また、その他利益剰余金を利益準備金に組入れることもできます(会社法451)。ただし、資本と利益の区別の原則から、その他資本剰余金から利益準備金への組入れ、その他利益剰余金から資本準備金への組入れはできません(計規26①二、計規28①、基準62)。
(設例)
その他資本剰余金700を資本準備金に組入れた。
株主資本等変動計算書
|
株主資本 |
|||
|
資本剰余金 |
株主資本合計 |
||
資本準備金 |
その他資本剰余金 |
|||
|
|
|
|
|
当期変動額 |
|
|
|
|
剰余金の資本準備金組入れ |
|
700 |
△700 |
0 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
別表五(一)Ⅱ
区 分 |
期首資本金等 |
当期の増減 |
翌期首資本金等 |
|
減 |
増 |
|||
資本準備金 |
|
|
700 |
|
その他資本剰余金 |
|
700 |
|
|
会計上の仕訳
(借)その他資本剰余金 700 (貸)資本準備金 700
税務上の仕訳
(借)資本金等 700 (貸)資本金等 700
申告調整の仕訳
仕訳なし
・その他利益剰余金の利益準備金組入れ(「はじめに」の図の⑥)
(設例)
その他利益剰余金のうちの繰越利益剰余金800を利益準備金に組入れた。
株主資本等変動計算書
|
株主資本 |
|||
|
利益剰余金 |
株主資本合計 |
||
利益準備金 |
その他利益剰余金 |
|||
繰越利益剰余金 |
||||
|
|
|
|
|
当期変動額 |
|
|
|
|
剰余金の利益準備金組入れ |
|
800 |
△800 |
0 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
別表五(一)Ⅰ
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
利益準備金 |
|
|
800 |
|
繰越損益金 |
|
800 |
|
|
会計上の仕訳
(借)繰越利益剰余金 800 (貸)利益準備金 800
税務上の仕訳
(借)利益積立金 800 (貸)利益積立金 800
申告調整の仕訳
仕訳なし
・準備金、剰余金内部における移動(「はじめに」の図の⑦)
その他利益剰余金の内部における繰越利益剰余金と任意積立金の各項目との間の移動(振替え)も、計数の変動として、株主総会の決議によりいつでも可能です(会社法452)。各種の積立金の計上や、逆に積立金を取崩して繰越利益剰余金に戻すこともできます。
なお、資本準備金と利益準備金との間の移動(振替え)はできません。また、その他資本剰余金とその他利益剰余金との間の移動(振替え)もできません。資本と利益の区別の原則の適用です(基準19~21、60~63)。
(設例)
繰越利益剰余金より900を別途積立金に積み立てた。
株主資本等変動計算書
|
株主資本 |
|||
|
利益剰余金 |
株主資本合計 |
||
その他利益剰余金 |
||||
別途積立金 |
繰越利益剰余金 |
|||
|
|
|
|
|
当期変動額 |
|
|
|
|
別途積立金の積立 |
|
900 |
△900 |
0 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
別表五(一)Ⅰ
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
別途積立金 |
|
|
900 |
|
繰越損益金 |
|
900 |
|
|
会計上の仕訳
(借)繰越利益剰余金 900 (貸)別途積立金 900
税務上の仕訳
(借)利益積立金 900 (貸)利益積立金 900
申告調整の仕訳
仕訳なし
※本稿は、次の拙稿をもとに、大幅に組み替え加筆修正したものです。
寺田誠一稿『仕訳・図表・事例で理解する純資産の部の会計と税務』月刊スタッフアドバイザー 2006年(平成18年)10月号
寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第11回 「資本金・資本剰余金・利益剰余金」の疑問点』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)6月号
寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第12回 「資本金・資本剰余金・利益剰余金」の疑問点パート2』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)7月号
※資本と利益が混同され、申告調整が必要な場合の例は、「無償増減資等の申告書設例」参照。
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。