「未収還付源泉所得税を未計上・計上の申告書設例」
2021年(令和3年)10月9日(最終更新2022年5月1日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
・源泉所得税(国税)
受取利息や受取配当金に課税される源泉所得税(国税)は法人税から控除することができます。それらを、税額控除と呼びます。たとえば、預金利息にかかる源泉所得税は利息額の15.315%(うち0.315%は復興特別所得税。)です。それら納付済みの源泉所得税は、法人税の前払いという性格です。したがって、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」には含まれますが、貸借対照表の未払法人税等には含まれません。
ただし、受取利息配当金に課税される源泉所得税のうちには、税額控除の適用を受けられない金額、すなわち法人税から差し引けない部分があります。これらは、営業外費用に記載します。受取配当金の元本である有価証券などを保有している場合、元本の所有期間に対応する部分のみが税額控除の対象となり、対応しない部分は税額控除の対象となりません(預金の受取利息は、すべて税額控除の対象となります。)。
なお、税額控除の対象とならない源泉所得税であっても、金額の重要性が乏しい場合には、「法人税、住民税及び事業税」に含めることができます。通常、税額控除の適用を受けない額は少額なので、この処理を適用することが多いと思われます。
また、利息や配当金の源泉所得税は全部合わせても一般に少額なので、税額控除が適用可能であっても、適用しない場合もあります。その場合には、源泉所得税は損金となります。
税額控除しない源泉所得税は、法人税等には計上しません。営業外費用となります。
(借)現金預金 4,990 (貸)受取利息 5,000
租税公課 10
受取利息や受取配当金を、源泉所得税を認識しない純額処理した場合には、損金処理したことになります。たとえば、上記の仕訳を、次のように、純額処理した場合には、益金である受取利息10と損金である租税公課10とを相殺(そうさい)したことになり、結果的に、損金扱いしたことになります。
(借)現金預金4,990 (貸)受取利息 4,990
・設例1(未収還付法人税等の計上を行わない場合)
さて、通常の場合には源泉所得税は法人税から控除すればよいのですが、損失の場合にはどのような処理になるのかを、以下、設例で見ていきたいと思います。
(設例1)
第1期の内容が、次のとおりであったとする。源泉所得税はすべて、税額控除の適用を受けるものとする。金額の単位省略(以下、同じ。)。
税引前当期純損失1,000
法人税等50(預金利息にかかる源泉所得税50)
当期純損失1,050 繰越利益剰余金△1,050
第1期分の法人税等の納付は0と仮定する(均等割は無視。)。第1期において、未収還付法人税等50の計上は行わず。
第2期の内容が、次のとおりであったとする。
税引前当期純損失1,000
法人税等還付税額50
当期純損失950
繰越利益剰余金△2,000(=第1期△1,050+第2期△950)
第2期分の法人税等の納付も0と仮定する(均等割は無視。)。
第1期と第2期の別表四と五(一)は、どのようになりますか。
設例1 第1期の別表四
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
△1,050 |
△1,050 |
|
|
加算 |
|
|
|
|
減算 |
|
|
|
|
加算 |
税額控除される所得税額 |
50 |
|
50 |
所得金額 |
△1,000 |
△1,050 |
50 |
設例1 第1期の別表五(一)
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
繰越損益金 |
|
|
△1,050 |
△1,050 |
納税充当金 |
|
|
|
|
未納法人税 |
△ |
△ |
△ |
△ |
未納道府県民税 |
△ |
△ |
△ |
△ |
未納市町村民税 |
△ |
△ |
△ |
△ |
合計額 |
|
|
△1,050 |
△1,050 |
預金利息の仕訳として、次の処理が行われています。
(借)現金預金 ××× (貸)受取利息 ×××
法人税等 50
したがって、損益計算書では費用計上されています。税務上、預金利息の源泉所得税は、所得計算の段階ではなく、税額計算の段階で控除できます。そこで、所得計算の段階では損金としないので、別表四で加算します。源泉所得税の加算は別表四では、減算欄の下部に記載されます。それは、加算欄と減算欄の仮計で寄附金の損金不算入の計算をするようになっており、源泉所得税の加算はその計算とは無関係だからです。
源泉所得税は、法人税の計算上は法人税の前払いとして扱われ、法人税より控除されます。しかし、あくまで所得税であり、法人税ではないので、利益積立金ではないという扱いになっています(利益積立金を構成する税金は、法人税、法人道府県民税、法人市町村民税に限定されています。)。したがって、源泉所得税は、別表四では、社外流出欄に記入されます。
設例1 第2期の別表四
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
△950 |
△950 |
|
|
加算 |
|
|
|
|
減算 |
所得税還付金額 |
50 |
|
50 |
所得金額 |
△1,000 |
△950 |
△50 |
設例1 第2期の別表五(一)
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
繰越損益金 |
△1,050 |
△1,050 |
△2,000 |
△2,000 |
納税充当金 |
|
|
|
|
未納法人税 |
△ |
△ |
△ |
△ |
未納道府県民税 |
△ |
△ |
△ |
△ |
未納市町村民税 |
△ |
△ |
△ |
△ |
合計額 |
△1,050 |
△1,050 |
△2,000 |
△2,000 |
第2期においては、次の仕訳が行われます。
(借)現金預金 50 (貸)法人税等還付税額 50
したがって、源泉所得税の還付額は、当期純利益(当期純損失)の内に含まれています。しかし、益金にはならないので、別表四で還付額50を減算します。源泉所得税の還付は、利益積立金を構成しないので、別表五(一) とは対応せず、別表四では社外流出欄に記入されます。
実務上、この別表四の減算処理は、留保ではないので別表五とのチェックがなく、記入もれとなることがあるので、ご注意ください。
実務上、別表四の所得金額・留保△950=別表五(一)増△2,000-減△1,050というチェックを行います。網掛けの部分です。
・設例2(未収還付法人税等の計上を行う場合)
(設例2)(設例1との相違点のみ記載)
第1期において、未収還付法人税等50の計上を行う。したがって、第1期の内容は次のようになる。
税引前当期純損失1,000
当期純損失1,000 繰越利益剰余金△1,000
第2期の内容は、次のようになる。
税引前当期純損失1,000
当期純損失1,000
繰越利益剰余金△2,000(=第1期△1,000+第2期△1,000)
第1期と第2期の別表四と五(一)は、どのようになりますか。
設例2 第1期の別表四
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
△1,000 |
△1,000 |
|
|
加算 |
|
|
|
|
減算 |
仮払税金認定損 |
50 |
50 |
|
加算 |
税額控除される所得税額 |
50 |
|
50 |
所得金額 |
△1,000 |
△1,050 |
50 |
設例2 第1期の別表五(一)
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
仮払税金 |
|
|
△50 |
△50 |
繰越損益金 |
|
|
△1,000 |
△1,000 |
納税充当金 |
|
|
|
|
未納法人税 |
△ |
△ |
|
|
未納道府県民税 |
△ |
△ |
△ |
△ |
未納市町村民税 |
△ |
△ |
△ |
△ |
合計額 |
|
△ |
△1,050 |
△1,050 |
法人税等に計上されている源泉所得税50は、還付されるので、未収還付法人税等に振り替えます。したがって、設例2では、第1期において、預金利息の仕訳以外に、次のような未収の仕訳を行います。
(借)未収還付法人税等 50 (貸)法人税等 50
別表四で源泉所得税50は、設例1と同じように加算・社外流出欄に計上されます。ところが、設例2では未収還付法人税等に計上しているため、損金にはなっていません。そこで、加算50を打ち消すため、同額を減算欄に記入します(別表五(一) と対応するため留保欄。)。
会計上の未収還付法人税等(税務上の仮払税金)50は、マイナスの利益積立金の発生なので、別表五(一) 増に△50で記入されます(減に、△なしで50記入でもかまいません。)。
設例2 第2期の別表四
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
△1,000 |
△1,000 |
|
|
加算 |
仮払税金消却不算入額 |
50 |
50 |
|
減算 |
所得税還付金額 |
50 |
|
50 |
所得金額 |
△1,000 |
△950 |
△50 |
設例2 第2期の別表五(一)
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
仮払税金 |
△50 |
△50 |
|
|
繰越損益金 |
△1,000 |
△1,000 |
△2,000 |
△2,000 |
納税充当金 |
|
|
|
|
未納法人税 |
△ |
△ |
|
|
未納道府県民税 |
△ |
△ |
△ |
△ |
未納市町村民税 |
△ |
△ |
△ |
△ |
合計額 |
|
△1,050 |
△2,000 |
△2,000 |
第2期においては、次の仕訳が行われます。
(借)現金預金 50 (貸)未収還付法人税等 50
別表四で源泉所得税50は、設例1と同じように減算・社外流出欄に記入されます。ところが、設例2では未収還付法人税等の入金のため、益金にはなっていません。そこで、減算を打ち消すため、同額を加算欄に記入します。(別表五(一) と対応するため留保欄)。
別表五(一) では、マイナスの利益積立金である仮払税金(会計上の未収還付法人税等)△50が消滅(解消)したので、減に△50記入され0となります(増に、△なしで50記入でもかまいません。)。
実務上、別表四の所得金額・留保△950=別表五(一)増△2,000-減△1,050というチェックを行います。網掛けの部分です。
・まとめ
|
|
当期純利益 =当期利益 |
所得金額 |
法人税等還付税額 =未収還付法人税等 =仮払税金 |
繰越利益剰余金期末残 =繰越損益金期末残 |
利益積立金期末残 |
設例1 |
1期 |
△1,050 |
△1,000 |
0 |
△1,050 |
△1,050 |
2期 |
△950 |
△1,000 |
0 |
△2,000 |
△2,000 |
|
設例2 |
1期 |
△1,000 |
△1,000 |
50 |
△1,000 |
△1,050 |
2期 |
△1,000 |
△1,000 |
0 |
△2,000 |
△2,000 |
最後に、設例1と設例2をまとめてみます。会計上の当期純利益は、第1期と第2期を合計すれば同じとなります。
設例1:第1期△1,050+第2期△950=△2,000
設例2:第1期△1,000+第2期△1,000=△2,000
一方、税務上の金額ですが、設例1と設例2いずれも、別表四の最下部の所得金額の総額欄・留保欄・社外流出欄は、それぞれ、第1期は△1,000、△1,050、50、第2期は△1,000、△950、△50で、みな同じ額となっています。
次に、別表五(一)ですが、第1期の仮払税金と繰越損益金の期末残高の合計は、次のように、どの方法でも△1,050で一致しています。税務上は、これらを、いずれも利益積立金と見ているからです(正確には、仮払税金はマイナスの利益積立金。)。
設例1:仮払税金0+繰越損益金△1,050=△1,050
設例2:仮払税金△50+繰越損益金△1,000=△1,050
第2期の法人税等は0と仮定しているので、設例1と設例2いずれも、第2期末の繰越利益剰余金は、同じく△2,000となります。したがって、第2期の別表五(一)の繰越損益金の期末残高も、どの方法であっても△2,000となります。
別表五(一)の最下部の右端の利益積立金の期末残高ですが、第1期は△1,050、第2期は△2,000で、設例1と設例2いずれも変わりません。
以上まとめると、還付源泉所得税の未収を計上するか否かは、会計上の問題です。それによって、公平を重視する税務の金額が異なることはありません。税務上の所得金額・利益積立金額・税額は、還付源泉所得税の未収計上をするか否かという会計処理の違いによっては左右されないということです。税務の論理が、しっかり貫かれていると思います。
※本稿は、次の拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。
寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第3回 「源泉所得税と利子割」の精密描写』月刊スタッフアドバイザー 2011年(平成23年)10月号
※未払法人税等(納税充当金)の計上については、「未払法人税等を未計上・計上・概算計上の申告書設例」参照。
※未収還付法人税等(仮払税金)の計上については、「未収還付法人税等を未計上・計上・概算計上の申告書設例」参照。
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。